第四次聖杯戦争、正史において最も最悪の結末にてしめくくられた聖杯戦争である。
しかし、どんなに些細なことであれ正史と違いがあれば世界など大きく変わり得る。
暗い部屋の中、老人は宝石を眺め並行世界を観測する。
「ほう、この世界ではアレがサーヴァントとして呼ばれたか!」
「ここでは他の世界とは聊か異なる道を辿るようだな…」
冬木市、間桐邸の地下、おぞましき蟲蔵ではサーヴァント召喚の儀式が行われていた。顔を歪めながら詠唱を続ける白髪の青年―間桐雁夜はおよそ魔術師らしい魔術師とは言い難い。
そもそも彼に間桐の魔術を継ぐ気など毛頭なかった。そんな彼が蟲に体を蝕まれてまでこの聖杯戦争に参加することを決めたのは、一重に彼が愛した女性の娘、遠坂桜―現在では間桐桜を救うためである。
彼が聖杯を獲ればその娘はくれてやる、非道の魔術師間桐臓硯はそうのたまった。なればこそ彼は戦うことを選ぶ。すでに自身の肉体は長く持たない。命の一つくれてやる、だから彼女を救ってくれ、彼は万感の思いを込めて詠唱を続ける。
一節唱えるごとに刻印虫は彼の身体を喰らい命を削る。だが彼に
「――――告げるっ!
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者っ…」
彼の魔術回路は人並みだが、魔術鍛錬を経ていない彼がまっとうな手段で聖杯戦争を勝ち抜くことは不可能、故に彼は諸刃の一節を詠唱を挟む。――最も、間桐臓硯は彼の勝利を期してその手段をとったわけではない。彼が苦しむ様を無聊の慰めとしようと考えただけである。
「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。
汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。」
それは呼び出す英霊に狂気を付加する一節。莫大な魔力消費を代償とし、呼び出す英霊のステータスを向上させる諸刃の剣。だが―――
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
エーテルの風が吹き荒れる。
間桐雁夜は立ち続けるのがやっとだった。だが、鉄の意志でその意識を保つ。逆巻く暴風が止み、目を開けばそこには果たして一人の人影があった。成功だ!雁夜は心の中で歓喜の声を上げた。それほど大きな体には見えないが、巨大な何かを片手に持っているのが見える。
「サーヴァント、シールダー。その声に応え参上しました。」
青年の声で言葉が紡がれる。
「うん、分かりきっているけど一応聞かせてください。
――貴方が俺のマスターですか?」