――こころぴょんぴょ……
「ん……今日もいい朝です」
カーテンの隙間から差し込む光に気づくと同時に眩しさを感じつつ、
自室で鳴り響く聞き慣れた携帯のアラームを止めながら小さく欠伸をする。
引き寄せた携帯が記している時間もちゃんといつも通りです。
体をゆっくり起こすと、最初に目に止まった物は壁に掛けている学校の制服だった。
まだ夏休み中なので、お洗濯に出した制服に袖を通すのは、もう少し後ですね。
最近はマヤさんもメグさんも家に遊びに来てくれるから、学校にいる時とあまり変わらない気もしますが。
まずは朝の歯磨きをしないと。
自分の部屋のドアを開け向かいの洗面所へ入ってみるも、予想通り先客はいない。
少しだけ聞き耳を立ててみても上の階からは物音も聴こえませんし、やっぱりまだぐっすり寝ているんでしょうね。
歯を磨き終わったら、顔を水で濡らしてふわふわでお日様のいい匂いがするタオルでしっかり拭き取る。
鏡で自分の表情を見て、ちゃんと目を覚ましたのを確認したところで、一度自分の部屋に戻る。
脱いだ寝巻を丁寧に畳んで、クローゼットを開いて、少しだけ洋服とにらめっこ。
今日の気分はこんなところでしょうか?
お気に入りの青を基調としたワンピースを選び、髪型は×の髪留めを付けてから、両端を少しだけゴムでまとめたツーサイドアップに。
さて…私の準備は終わったけど……ココアさんの部屋からは物音は聞こえてきませんね。
本当にしょうがないココアさんです。そろそろ起こしてあげないと。
絶対に起きてくれる方法はありますが、あれは最終手段ですし、何か他にいい方法はないかな?
――自分の手元にある携帯が目に付くと同時に、ちょっとした悪戯心が湧き上がってきてしまった。
「そうですね……たまには少し趣向を凝らしてみた方が、ココアさんもすぐに起きてくれるかもしれません」
え~とココアさんは……ありました。
登録してある短縮ダイヤルからココアさんの番号を選択して、すぐに発信。
何度もコール音が鳴り響くだけで、なかなか出てくれそうな気配がない。
天井の方にも少しだけ聞き耳を立ててみても、相変わらず物音一つしないし、すごく静かです。
「……むー。ココアさんのことだから、電話が鳴ったらすぐに飛び起きて確認してくれると思ったんですが……」
そういえば普段はメールばかりしてますし、あまり電話で話すことはなかったですね。
右耳に当てた携帯のコール音を聞きながら、ゆっくり移動を開始する。
ついにココアさんの部屋の前まで来てしまいましたが……ダメですね。これは。
諦めて耳元から携帯を離そうとした瞬間――
『ち、チノちゃん!! もしもし大丈夫!? なにかあったの!?』
――電話をしたこっちがビックリするくらい慌てている様な声のココアさんが出てくれた。
「い、いえ……すみません、ちょっといつもと違った方法で、ココアさんに起きて頂こうかと思って……」
『な~んだ。びっくりしちゃったよ。でもチノちゃん、わざわざ私を心配して電話してくれたんだよね。ありがとうっ!!』
「え!? いえ、だっていつも――」
いつも私が起こさないと全然起きてくれないじゃないですか。そう言い終わる前に――
『えへへ。ありがとうチノちゃん。でも今日はちゃんと起きれたから、お母さんやお姉ちゃんと一緒にパン作りもやってるよ!』
ココアさんのその言葉で私はとんでもない勘違いをしていたことに気づいてしまった。
――そう。今、ココアさんはモカさんがいる、実家に帰省中だったことを、すっかり忘れてしまっていたのだった。
「!? あ、えっと……その……」
ダメだ。恥ずかしくて言葉が出てきません。自分でもわかるくらい顔も真っ赤になってしまっています。
何か言わないとココアさんにバレてからかわれてしまう。
何か言い訳に使えそうなものはないかと周囲を見渡してみても、何も思いつかない……うぅ……どうしよう……
「あはは。私の方がお姉ちゃんなのに、いつも心配してくれてありがとね。チノちゃんっ」
「そ、そうですよ。あまりモカさんや、ココアさんのお母さんに迷惑をかけちゃダメですからね」
うぅ…ついココアさんが勘違いしてくれたおかげで誤魔化せましたけど、少しだけ申し訳ない気がしてしまいます。
『でもチノちゃんから電話もらえるなんて思ってなかったから、すっごく嬉しかったなぁ……!! も、もしかして!! 私に会えないのが寂しくて電話してきてくれたとかっ!?』
「それはないです。ただココアさんが寝坊してないか心配しただけですので」
うん。これは本心なので間違いなくそう言い切れます。
いつも通り、この家のココアさんの部屋で、まだぐっすり寝ていると思っていたくらいですから――とは口が裂けても言えないですが。
『うぅ……そんなはっきり言わなくても……ちょっとくらいはお姉ちゃんを喜ばせてくれてたっていいんじゃないかなぁ…でも、チノちゃんの声が聴けて今日も一日元気に頑張れるよっ!」
「…わ、私もココアさんの声が――」
『あぁ、ごめんね! お母さんとお姉ちゃんが呼んでるからもう行くねっ。またいつでも電話してくれていいからね!! 今日も夜にメールするからね~!!』
一方的に切られてしまいました。
きっと忙しいのに電話に気づいた途端、慌てて取りに来てくれたんでしょうね。
まったく……私もココアさんの声が聴けて嬉しかったです。って伝えたかったのに……
「お姉ちゃんのバカ……」
自分でも気づかずに無意識にそんな言葉が出てしまっていた。
さて、なんにせよこれでココアさんを起こすという、朝の最初の仕事は終わりましたが……
「うぅ……うっかり勘違いしていたのは私ですが、すごく恥ずかしいです……」
ずっとココアさんの携帯に電話を掛けていたのに、せめて部屋の前まで来ても何の音が聞こえない時点で気づくべきでした……
いないとわかっていても、手が勝手にドアを開けてしまっていた。
やっぱりココアさんがいないことを確認していると、机の上にちょこんと座っているウサギのぬいぐるみ(リゼさん命名:ワイルドギース)と目が合った気がする。
部屋の主がいないせいか、少しだけ心細そうにしているように感じられた。
「あとで迎えに来てあげますので、もうちょっとだけココアさんの部屋をちゃんと見守っててくださいね」
ワイルドギースに一声かけてから、そっとドアを締める。
ココアさんがいないだけで、こんなに静かに感じてしまうなんて。
――今までこんなことなかったのに、どうしちゃったんだろう?
いえいえ、朝からこんな気分じゃダメですね。気持ちを入れ替えないと。
両手を胸の前でぎゅっと握って、しっかりと気合を込めて気持ちを引き締める。
「よし、これで大丈夫です。早く朝ごはんを食べに行かないと」
少しだけぽっかりと空いてしまったような心の穴を誤魔化すように呟くと、食卓へと向かっていった。
ココアシックのチノがココア不在の時もいつもの癖でココアの部屋にお越しに来るというシチュエーションが書きたかったのが原点です。
そんなことを考えていた時に、劇場版の告知でしかも微妙に時系列が被ったことで変なテンションになってしまった結果、見切り発車という暴挙に。
別作品にも手を出しているため、あらすじに書いている通り不定期更新となってしまうかと思いますが、お付き合い頂けましたら幸いです。