ご注文はココ・・・チノちゃんです!!   作:gajun

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真の常連客は気づかずにそこにいるものだった

 お店の入り口の掛け札を『CLOSE』から『OPEN』に変えてどれくらい時間が経ったでしょうか?

 向きを掛け直す時についでにちらっとお店の周りの人通りも確認しました。決して少ないわけでは無さそうなのに……

 

「お客さん……なかなか来てくれませんね」

「まだ開けたばっかりだし、気長に待つしかないだろ」

 時刻はお昼過ぎ。午後のひと時の休憩にはまだ少し早いといったところでしょうか?

 でも人気のあるお店なら、お店を開けてすぐにお客さんが来てくれそうな気がします。

 たとえこちらの準備が万端でも肝心のお客さんが来ないのでは仕方ない。

 そんなのはわかっているけど、それでもどこかもどかしさを感じてしまう。

 私がいつまでもそわそわしている様子に見かねてリゼさんが口を開く。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。最近は少しずつ常連客だって増えてきてんだしさ」

「それはそうですが……」

「私と会った頃は不愛想だったけど、もっとどっしりと構えてたぞ」

「不愛想はお互い様です」

「ますますナマイキになったな。ココアの影響か?」

 思わず反射的に返してしまったら、頭をぐりぐりと強めに撫でられた。少し痛い。

 

 少しだけ初めてリゼさんがラビットハウスのバイトとして来た時の頃の話をしていると、不意にドアベルがからんと音を立てた。

 すぐにお客さんという単語が頭の中を駆け回り、開いたドアの方へ向きながら挨拶をする。

 

「いらっしゃいませー」「いらっしゃいませー」

 隣にいたリゼさんと合わせたわけでもないのに、ほぼ同じタイミングで挨拶をしながら相手を確認する――最近よく来てくれるようになった常連さんでした。

 年はリゼさんよりも少し上くらいでしょうか?

 ショートカットがとても爽やかな感じがして、私たちを見るなりすぐに笑顔を向けてくれたすごく優しそうなお姉さんです。

 リゼさんが気を利かせて接客に向かおうとしてくれましたが、今日最初のお客さんなので私が行きます。と言うと、それじゃ任せるとカウンターでお水の準備を始めてくれている。

 

「こんにちは。今日はココアちゃんいないんだね」

「はい。夏休みなのでご実家の方に戻られてます。――どうぞ、こちらのお席へ」

 テーブル席に案内したところで、すぐにカプチーノを注文されたので、お水を持って来てくれたリゼさんと入れ替わりながらコーヒーの製作に取り掛かる。

 ちらりと視線を二人に向けるととても楽しそうに話しているように見える。会話が弾んでいるようです。

 私ももっとお客さんとたくさんお話しできるようにならないといけませんね。……すごく苦手ですが。

 あれ? なんだかリゼさんが恥ずかしそうにしてますが、急に真っ赤になって慌てて両手を振りながら何かを否定しているようにも見えますが何かあったんでしょうか?

 

 おっと。コーヒーの方にもちゃんと集中しないと。せっかくお客さんにお出しするんだから、丁寧に煎れないと。

 

 ティッピーに軽く頭を叩かれ指摘されてしまったことを反省しつつ、仕上げに取り掛かる。

 ちょうど完成したところで、どうやらリゼさんも解放されたのか、照れたような困り顔で一枚の紙切れを手に戻ってきた。

 

「いやー。困ったよ。あの人が自分の店のファッションモデルをしてくれないか? って名刺まで渡してきてさ……」

「前にもしたことありますし、やってみてらいいんじゃないんですか?」

 嬉しそうに表情が緩み切っちゃってますし、満更でもなさそう。

 

「え!? ち、チノまで何言ってんだよ!? わ、私は別にそんなじゃ…………い、いや、でもせっかく声を掛けてくれたのに、ここで無碍に断るのも……ど、どうしたらいいだろう?」

「ゆっくり考えたらいいと思いますよ」

 リゼさんのことだから絶対引き受けるだろうな。と内心で溜め息を吐きながら確信しつつ、煎れたカプチーノをお届けする。

 

「お待たせしました。カプチーノです。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう。――うん、チノちゃんが淹れてくれるコーヒーは香りも味もとても優しい感じがして、ホッとするわ」

「あ、ありがとうございますっ。そう言って頂けてすごく嬉しいです!」

 自分が淹れたコーヒーが褒められる。この瞬間が何よりも一番嬉しいとおじいちゃんが言っていたことがよくわかる。

 

「せっかく来てくれたお姉ちゃんが一人いなくなっちゃって寂しいよね」

「こ、ココアさんもリゼさんも姉ではないですよ!?」

「うふふ。前に雑誌で三姉妹喫茶って紹介されてたからついね。これからもコーヒーを飲ませてもらいに来るからがんばってね」

「はい!! またのご来店お待ちしてますっ」

 最後まで手を振りながら柔らかな笑顔を向けてくれるお姉さんを見送ったところでホッと一息。

 これからも、もっともっと色んなコーヒーを美味しく淹れられるようにがんばろう。

 そうすればお客さんも増えてくれるはず………………接客はまだまだ苦手ですが……特に笑顔。

 

「優しそうな人が常連になってくれて良かったな」

「はい。笑顔がとても素敵な大人な女性ですね」

 誰にでも優しそうな柔らかくて安心できるような笑顔。

 ココアさんの賑やか過ぎる感じや、シャロさんの営業スマイルみたいに強い輝きを放つものとは違う感じでした。

 色んな笑顔がありますが、どれもこれもまだまだ私には難しそうです……

 

「そういうチノだって、最近はよく笑うようになったよな。さっきだってすごく良い顔してたぞ」

「え!? そ、そうでしょうか? 別に普段と変わらなかったと思いますが……」

 リゼさんからの予想外の一言に驚きつつ、さっきまでのお姉さんとのやり取りを思い返す。

 コーヒーが美味しいと言ってもらえたり、また飲みに来てくれると言ってもらえてすごく嬉しかったですが……私の方はいつもと変わらない気がします。

 

「自覚なしか。ま、それでも普段から、さっきみたいな感じで過ごしてれば自然と笑顔になってる時も増えるんじゃないのか?」

「そう言われましても、よくわかりませんよ」

 とはいえ、お客さんを迎えるのに笑顔は大切……

 今までにも何度かこっそり練習したことはありますが、やっぱりココアさんやシャロさんたちみたいにはできませんでした。

 

「ココアが戻って来たら一緒に笑顔の練習でもしてみたらどうだ? あいつなら乗り気で一緒に付き合ってくれると思うぞ」

「私の笑顔はココアさんにはまだ早いです」

 私が即答すると、何が面白かったのかリゼさんが吹き出すように笑い出した。

 普段は立ち振る舞いが凛としているのに、不意に見せる笑顔が女の子らしくかわいいのは、少しズルいし羨ましい。

 

「そろそろ付き合いだって長いんだし、いい加減恥ずかしがるなって」

「べ、別に恥ずかしがってるわけでは――」

 最近は気づいたらみんなの前でも、一緒になって笑ってしまっていることがありますけど、見せるために笑うのはなんか違う気がします。

 決して無理に笑おうとして変な顔になってしまっていたらどうしようとか、そんな顔見られたら絶対にからかわれる。なんてことは思ってないです。本当です。

 

 

「ラビットハウスさんは静かでとても心落ち着く場所ですが、最近は少女たちの賑やかな雰囲気も加わって、新しいアイデアが生まれそうなとてもいい刺激を感じますね」

 

『青山さんっ!?』

 まるで最初からそこにいたかのように、テーブル席の一つに青山さんが座ってくつろいでいた。

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