瓦解都市   作:匿名

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超時空旅客機白鳥号

 夢を乗せた機体が、空を行く。

 それは、時空を超え。世界を超え。ありとあらゆる柵を、束縛を振り払って飛ぶ夢の飛行機。

 人々の夢見た未来都市。人々の愛した過去の母国。自身の理想を、盛り込めるだけ盛り込んだ次世代を映す幻を。懐古主義者達の愛して止まない古びた街並み、崩れ去った楼閣を。その分厚く、透き通った硝子窓に映し出しながら飛ぶ道楽の極み、エゴの塊。空飛ぶ鉄塊は、この世の科学を集めに集め。夢と希望、身勝手な偶像を追い求めた人々は、その宝船に乗って行く。

 一言で言うならば、タイムマシン。空間を捻り、時を繋ぎ。人々の行きたい国へと、時代へと、世界へとその身を強引に割り込ませる自分勝手な装置であった。

 タイムパラドックス。過去への介入、未来の改変。しかしそれは、現代にはなんら影響を及ぼすようなことは無く。ただ、別の。介入した歴史が。改変した歴史が生じ、新たな平行世界を生むのみ。そこに、彼らが元いた世界への影響は何一つとして存在せず。唯、彼らの行いが。新たな世界をその、張りぼての希望を積み込んだ旅へと乗り出す度に、無尽蔵に、身勝手に作り出しては放り、後のことは知らぬとばかりに捨て去るのみ。

 過去の改変を楽しみ。その先の未来を楽しみ。弄られる側の人々の意思など、彼らは、知ろうともせず。

 

 この機体が生まれた当初は。決して触れず、眺めるだけ。純粋な探究心と、まだ見ぬ世界、『今』見れぬ世界を夢見る人々を乗せた、文字通り希望の飛行機であった。私の行為は、夢を運ぶ仕事なのだと信じていた。しかし、今は。実際に、自分達の世界に影響を与えることが無いと分かってからは。下卑た欲望を乗せるだけの、どうしようもない船となってしまって。それを動かす私も、最早。語るまでも無く。

 

 希望に溢れていた。乗り込む人々の顔は。そういう世界を望んだのだ、当たり前だ。

 好き勝手に遊ばれた人々の顔は。理不尽に対する哀しみも、棚から落ちた幸運も。全てを表現しきるだけの言葉など。私は、知らない。ただ、弄る側の人々にとって、そこは。自由に遊べる箱庭でしかなかったのだけは、理解できる。

 

 傍らに置いた、ぼろぼろになるまで読み返したこの機体のマニュアルを撫ぜる。それこそ、糸が切れるまで。手汗が染み、汚れ。この説明書を傍らに置かずとも、既にこの機体の運用に問題が生じることさえない。それほどに読み返し、憶え、この機体を飛ばし続けてきた。

 人々の欲望を満たすため。そうして手に入る金を掴むため。結局は、私の私利私欲。数々の世界を乱し、荒らし、塗り替えては捨て置きた。その償いをすることなど、最早、叶わず。狂ったように望みを吐き出し続けた人々は、私は、今日もまたこの夢を乗せたと銘打った超時空旅客機(がらくた)に乗って、世界を穢す。

 

 しかし。もう、そんな日々も終わり。良心の呵責からも。時空を超えた怨念からも逃れることが出来るのだ。

 微かに震える手で以って、読み潰したマニュアルを開く。そこに書かれているのは、禁忌。絶対に侵してはならないルール。踏み外したら戻れない。しかし、今は。

 目的地が、踏み外した先にあるのならば。これほどに簡単なことは無い。踏み越えるには、そう。慣れに慣れ、繰り返し続けた手順から、外れるだけ。

 

 操縦輪を、出鱈目に回す。力いっぱい。限界まで回し、回し、回し。機体は傾き、傾き、傾き。ついに逆さとなった飛行機は、背を大海に向けたまま、落ちる、落ちる、落ちる。

 背後から聞こえる、叫び声。怒号。鳴き声。下衆の声。私のそれによく似た。この世界から捨て去らねばならぬ者達の声。消さねばならない。この機体と共に。

 この機体は。超時空旅客機『白鳥号』は。この、世界に別れを告げ。

 最後の時空旅行に向けて。世界を、超えた。

 

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