瓦解都市 作:匿名
繁華街の、更に奥。更に深み、裏通り。若者達はネオンに照らされ。赤やら、青やら、緑やらと色を変える彼らの顔には、目の前に広がる華美な世界への興奮と、場違いな、自分達の知らぬ、勝手も分からぬ異郷の地へと迷い込んだ者にも似た、不安と怯えの色が滲み。右へ、左へ、上へと忙しなく動き回る彼らの瞳もまた、周りへと存分に注意を払っているように見せるも、端から見れば、何も知らずに興味と、その場限りの高揚から飛び込んだ――まるで、鴨にしか見えぬ姿を晒していて。彼らの目は、目先、明るく輝く、見て呉れだけの美しさにさえ騙されるほどに、澄み過ぎていた。
子どものまま。飛び込んでしまったのだ。この、夜の世界へ。伝え聞いただけの言葉を信じ。何の知識も持たず、自身らの背丈も知らないまま。この、装飾華美なハリボテの裏、這いずり回る悪徳の目を引き、伸ばす腕々に気付かず、引き返す機会など、疾うの昔に失くしたまま、少年達は。極悪人の面を必死で作る少年達は、歩み、歩み、深みへ嵌り。嵌り。
ぼんやりと浮かんだネオンの群は、正しく、獲物を誘う誘蛾灯か、疑似餌。進めば、進むほど。奥へと行けば、行くほど。口を開いた魔物の舌の上を進むと同じ。
繁華街はまだ、人の住む世界であった。しかし、一つ角を曲がれば。直様覗く、この街の顔。泥酔した男も、艶やかな女も。驕り高ぶった公安でさえ、決して近付きはせぬ泥沼の底。
気付けば、もう。少年達の一番後ろ、怯え怯え歩みを進めた彼は消え。気付いた所で彼らは、逃げ帰ったのだ、と。彼奴には勇気が足りぬのだと、せせら笑って、更に深みへ。
そうして。汚い外装、手頃な店だと――所詮子どもの掻き集めた金でも支払える――安上がりな店だと思い込んで、一軒の店へと、足を踏み入れて。出された料理に使われた肉が、何の肉かも知らぬまま。
食べたのだ。その味に魅了され。店主の笑う顔は他でもない、彼らへ向けた嗤いであることにさえ気付くことなどなく。何も知らずに、こんなにも美味いものがこの世にあるのかと、肉の一切れ、スープの一滴さえ残すことなく呑み込んだ。彼等を嗤っているのだと。気付ける筈など、無かったのだ。
運ばれた料理は。店からしてみれば、賄いのそれより安価な。食材だけは、比較的高価で、新鮮な一品。しかしそれも、これから入る食材の数を。それ等の生む利益を考えれば、零に等しく。
複数の足音が近付く。迷い込んだ、食材を捉える、解体屋の歩み。閉まる扉。掛かる鍵。着々と進む、彼等を捉える下準備。哀れな少年達が皿の上のそれを、綺麗に呑み下す頃には、もう。逃げる機会は既に、失われた後。
店主は、明かす。愉快そうに、楽しそうに。釣り上がる口角、細めた目。開いた口から溢れるのは、腹を満たした。美味に舌鼓を打ち、その場限りの幸福に浸る彼等を突き落とす言葉。
お前達が食べた物は、と。