瓦解都市   作:匿名

20 / 26
時空を超えて

 踊る、踊る。

 水の溜まった地面の上で。雨水に濡れた紙面の上で。滲んだ活字のその上で。跳ねに跳ね、刎ねに刎ね。端から見れば狂ったように。彼奴は頭がおかしくなったのだ、と。言われたところで、私の頭が転がることも無ければ、何か。不都合が生じるわけでも無く。そんな言葉を知らぬとは言わぬ。しかし、その言葉を真に受け、心を病むほどの純粋さなどは、素直さなどは、当の昔に、何処かに捨てた。捨てた場所は、もう。忘れた場所は、やはり。どれだけ頭の中をかき回し、引き摺り回し、振り乱したところで。

 思い出せはしない。この私の、賢しき頭脳。知識を持って禁忌を踏み越え、その向こう側を垣間見て。全て、全てを知ったつもりでいるこの私にさえ思い出せない。それが、また。可笑しくって堪らない。

 

 ばら撒かれた新聞記事。落ちる雨粒。回る景色。滲んだインクが映し出すのは、人類の希望、人々の夢。今にそれは、今まで抑制され続けてきた欲望を刺激し、膨れ上がらせ。最後には、取り返しのつかないほどに捻じ曲がり、歪に歪んだ歪のような、何処までも純粋な、何処までも腐りきった願望を叶えるための手段となる。そんな未来が瞳に映り、私は。

 

 心の底から。腹の底から。胎の底から笑いに笑う。道徳、倫理、思想も全て、全てが無に帰すのだ。それは、画面の向こうに映る電子の世界のそれと変わらず。何処までも自由な、何処までもリアルな玩具を与えられた、人類は。きっと、きっと。

 

 壊してしまう。壊したところで、代わりなんて幾らでもある。堕落は止まらず、後は、転がり落ちるのみ。境界なんてあったものではない。どちらも現実なのだ、今までの、空想の世界に身を浸して悦んでいたのとは訳が違う。

 

 壊れるのだ。全てが。向こう側も、こちら側も。彼岸も此岸も。ならば、私は。

 

 夢見た世界を。これだけ歪んだ心でも尚、渇望して止まなかった。幼心に求めた世界を作り出そう。

 

 思う、思う。幻想の蔓延る世界を。この世界では失われた、彼等の存在。夢幻、虚構の存在。そんな彼等が跋扈出来る、そんな御伽の世界を創り出せる――あらゆる可能性。無数の分岐。平行の世界。その中に埋もれながらも輝き続ける、私の理想を叶える素質を素質を持った世界を、探しに旅立つ事が出来る。

 

 笑う、笑う。彼の旅客機は。欲塗れの人々を――私を。何処か、何処かへ。この、沸き上がる願いを叶えることの出来る地へと連れ出してくれる。この、私の抱いた夢を叶えてくれる。

 

 

 彼の鳥は。白い、白い。皮肉のように真っ白な鳥は、真っ黒な。欲望の群れを乗せて。時空を超えて飛び立つだろう。

 

 

 雨は笑い続ける。空に舞う号外を。白い白いその鳥を。私を。この地に、縫い付けんと。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。