瓦解都市   作:匿名

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笑う顔‐2

 

 仮面、宝石、鮮やかな衣。

 二人切りの舞踏会。あの、遊郭の上。欲の煙の渦巻く舞台ではなく、此処は。私を連れ去った……金で買った。彼の屋敷の一室。

 磨き抜かれた床。時計の針音。白と黒のタイルの上。彼の心音。それは、そう。私の持たない心臓の鼓動。弱弱しくも力強く、彼の身体、指の先まで。温もりを運ぶ、送り出す臓の音。

 あいも変わらず。互い、互いに、仮面の下。隠した瞳から。しかし、微かに。覗かせた瞳……必要の無い宝石の瞳から。柔らかな瞳を。彼の顔をそっと見上げて、その、ステップに私の足を合わせ、踏み込み、踊り、踊り。

 柔らかな手。舞踏室で何十、もしかすると、何百と触れた。私のそれよりずっと柔らかな……しかし。硬く、傷だらけの。他の男達のそれよりずっと、ずっと使い古された……

 

 声が聞こえる。彼の声だ。それは、私の……鼓膜なんてない。ただ、この無機質の肌の上を伝い。転がり、拾うだけ。あの時と同じ言葉。何度となく掛けられた。私の笑みを笑う言葉。誰も気付きはしなかった、私の笑みを笑う、笑う――

 

 そして。崩れ落ちる、生きた人型。金属板と歯車の形作る、私の身体よりも重い……有機質の癖に。生物の癖に、私より重い、その身体を支え。近くの椅子へと運び行く。

 

 もう、長くはないのだろう。もう、共に。踊っていられる時間は、残されてはいないのだろう、と。咳き込む彼の背を摩り、効くのかも怪しい薬を飲ませながら。彼の身体を。冷たい、この身で抱き締めて。

 

 身体が。悪いのならば寝ていれば良い。取替えの利かない。私のように、金では買えない。大事な大事なその体を、金庫の奥底にでも押し込むように。自身の部屋、寝台の上。横たえ、眠り、掛け替えの無い? 命とやらを、その一生を。長引かせれば良いだろう、と。

 

 長引かせて欲しいのに、と。例え、寝た切り。黒を失くした白いシーツ。足音の一つさえも響かずとも。その手を握って。傍らに。

 

 

 私は。

 

 

 人形なんかと共に。大金を溝へと放って踊り続けた男の背を。大きな身体を。温めることさえ出来ない。私は。今。何故、彼の側に。何も出来ない私は、何のために――――

 

 

 言葉を、聞く。普段のそれとは、真逆の言葉。私の顔を見て、笑う、笑う、彼の顔。

 あの時笑った。私に見せた。彼の顔。今の私は、きっと、きっと……

 

 

 手を、取られる。咳き込みながらも。ふらつきながらも立ち上がる。それは、あの時のように強引で。私の全てを奪い、自分の物とした。あの時のように。あの時から、まだ。私は、この男。彼の考えなど、分かりもせずに、只、只。

 

 

 舞踏は続く。未だ、未だ。あの時取られた手を。引かれた手を。

 いつまでも、いつまでも。離すことなく。

 

 

 

 

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