瓦解都市   作:匿名

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無人航空機白鳥号

 

 

 

 白い白い翼。鉄の翼。全身に受けた光は、眩しく。地上では見られぬ青の世界の中。一羽の鳥は、光り輝き空を行く。汚染された空気の渦巻く街を遥か下方に見下ろして。空を駆ける。滑るように、流れるように。

 

 昔々の旅客機は、既に、乗客などは乗せてはおらず。所々が錆びつき、燃料すらも残ってなどいない癖に飛び続ける一機の飛行機。名は、何と言ったか。真白く塗装された身体には、何か、文字が書かれていた痕跡だけが見受けられ。しかし、肝心の文字は、既に読み取ることさえ出来ず。唯々、名前も知れぬ一羽の鳥は、汚れた街の上空、何処に向かうかさえも知れぬままに、飛び続けるのみで。

 安直な。何処までも単純に、見たままに。名を付けるとするならば、白い鳥。羽ばたくことも無く、汚れた世界も知らず。只管に滑空し続けるだけのそれを、無垢なそれを。鳥と名付けていいものかは、知りもせず。しかし、青い空。雲の上。日の下。青と白の狭間に揺れる唯一の人工物は、既に、人間の手の届くものなどでは無く。人の手を離れ、自由気ままに、揺蕩う大気に乗って遊ぶ。彼女を呼ぶ言葉は、名は。やはり、鳥という一文字が、余りにも似合って。

 

 無機質の影は、地上からは目視することなど出来ず。それほどにこの街の空は、穢れ。何処までも澄み切った、天蓋までも見通せるような空なんてものは、御伽話の中の世界。青い青い、瘴気を晴らした後の水晶の輝きも、星を覆った、黒い影の打ち払われた後のような清々しさもそこには無く。重たい雲は、灰色の煙は。今にも、空と共に落ちてくるのではと思わせる程に、厚く、暗い影を地上に落とし続け。そんな雲の上を滑る鉄の鳥は、空の穢れなど知らぬとばかりに。悠々と、凛々と。彼女のみが知る、澄み切った青い空を飛び続ける。

 

 操縦席には、誰も居はしない。只、控えめに見ても生き物とは呼べぬ白い残骸が腰掛けるのみ。残骸の傍に置かれた、糸が切れ、汚れ。ぼろぼろになるまで読み込まれたこの機体のマニュアルに目を通したならば、或いは。この鳥の名が、何というのかも分かったかも知れない。しかし、今。ここでこの本を開いてしまうのは、あまりにも無粋に思えて。

 名も知らぬ鳥は、潔白な鳥は。この街の空が汚れる前に飛び立ち、汚れを知らぬままに飛び続けて来たのだろう。また、飛び続けるのだろう。

 崩れ、剥がれ。傷つきながらも飛び続ける一羽の鳥は。その影を。小高い丘の上に、映しながら。

 

 雲の切れ間。竜の住まう巣穴も無ければ、天然磁石で浮くという城も無い。幽界への門も、天を貫く柱も無い。何一つとして、形有るものの存在しない、その世界を。

 彼女は。無人の鳥は。

 一羽。青い、青い空を飛び続けた。

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