瓦解都市 作:匿名
回る歯車、二本のアーム。響く駆動音、大地を揺るがすエンジン音。止めることなく動かす六本足は、使う機会などあるのかも知れないキャタピラを備え、吐き出す煙は汚れた灰色。化け物面した鉄の化け物は、しかし、無機物らしい澄ました顔で。目の前に立ちはだかる岩を。塞がる壁を。崖を国を地を星を。その、巨大な掘削機。カッターヘッドを以て、打ち破り。否、ぶち破りと言った方がそれらしい程に強引に。何の迷いも、影もなく。恐れなど知らぬとばかりに強固な壁に突撃を繰り返しては、砕き。削り。打ち貫き断ち割き裂き穿ち。跳ねた小岩も建材も。宙を舞って逃げ惑う欠片さえも捕らえ、粉にし、また、進む。
操縦席に腰掛けるのは、誰か。誰でもない。そこには、彼の鳥と同じ。ただ、一つの白い骸が転がるのみ。それが一体誰なのか。何が目的なのかなどは、今更。誰が知ろうものか。
残された、鉄の塊。乗り手に先立たれた彼は。
それは。物質に留まらず。肉を持たない非物質。物理的には存在し得ない精神的なそれであっても。打ち砕き、切り裂き。断ち切り、打ち抜き。霊体、幻想、結界の類。それ等全てを、岩々と同じく。打ち破っては突き進み。
走りに走り。駆けに駆け。六本の足は忙しなく。大地に足跡、空に排煙。騒々しく駆け回っては、立ち塞がる壁を。神秘のベールを。壊し、暴き――そうやって。穢れた、汚れ切った世界しか知らぬ彼は。理想の世界を探し、求め続け。
そして、壊してきた。悪意は無い。あったのは、まだ見ぬ希望を。この街には無い幻想を求める、好奇心と、知らぬはずの故郷を思う、懐郷の念……或いは、乗せた白骨の抱いた。
皮肉にも、と、言えば憐れみの一つも浮かび出し。しかし、彼の行為は破壊者のそれ。残された幻想、辛うじて守られてきたあの国の幻影を踏み躙っては蹂躙し。それは、恋い焦がれ。抑圧を押しのけ、欲望に染まり。愛情故にと宣いながら強姦へ至る様にも似て。唯、一つだけ異なるのは。彼に、物を語る口など無いということのみ。
街の外。地下。遺跡を、崩れ落ちた社を。探し、崩し、結界を破り。秘めた輝きに身を浸しては、汚し。また、求める楽園を探す、彼は。
踏み躙った理想の欠片。砕け散った石材と、古びた木片に、崩した国の面影を乗せて、知らぬ間に、踏み潰し。
また。新たな希望を求めて、その。禁足の大地を、穿った。