真・綾子†無双   作:はるたか㌠

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十一・大乱闘

「はいはいはいっ!」

「うげっ!」

 

 星の槍が繰り出される度に、また一人賊が討ち取られる。

 

「死ねやっ!」

「おっと!」

「ぎゃっ!」

 

 あたしも、薙刀を振るって敵を倒した。

 他人の命を奪う事に慣れたくはないが、そんな事を考えている間もないぐらいウジャウジャと賊は出てくる。

 

「菖蒲(徐盛)、皐月(丁奉)。無事か?」

「は、はい! お姉様」

「だ、大丈夫っス!」

 

 二人は返事こそしているが、余裕がないのが丸わかりだ。

 手助けしてやりたいのは山々なんだが、あたしも結構きつい。

 とにかく、賊の数が多過ぎ。

 斬っても斬ってもキリがないっつーか、どっからこんなに湧いたんだよ。

 責任者出て来い、いや割とマジで。

 

「禀、風! なんかいい打開策ないのか?」

「そうですね……。些か陳腐な策であれば一つ」

「ぐー」

 

 風はほっとこう、つかこの乱戦の中寝たフリとかどういう度胸してんだか。

 しかも、自分の身はちゃんと守っているんだから……ま、考えるだけ無駄か。

 

「教えてくれ!」

 

 

 

 何とか賊どもを降伏させ、戦闘終了。

 陳腐な策ってのはその通りで、兵の一部を割いて派手に銅鑼を鳴らしたり喊声を上げさせただけ。

 それでも効果はあったらしく、援軍と勘違いした賊どもは勝手に混乱した。

 明命が目敏く賊の親玉を見つけて討ち取ると、総崩れになった。

 

「敵が烏合の衆だからこそ使える策ですね。自慢にもなりませんが」

 

 禀にしてみればそうなんだろうが、実際に兵を自在に動かしてみせるあたりは流石としか言えん。

 あ、実際に指揮を執ったのはあたしな。

 直接禀や風に任せたなんて真似したら話がややこしくなるし、当人達にも迷惑になるし。

 お陰で幸い戦死は少ないみたいだけど、怪我人だらけだ。

 

「唯(程普)、大丈夫?」

「大した事はありません。かすり傷です」

 

 乱戦の最中、唯さんは流れ矢を肩に受けちまった。

 当人は強がってるけど、利き腕だからあれじゃ戦闘続行は無理だろうな。

 

「ちょっと診せて下さい」

「綾子? あ、ああ」

 

 しゃしゃり出たあたしに孫権は不機嫌そうだけど、今は唯さんの傷を診る方が先。

 簡単に陣幕っぽい物を用意させて目隠しに。

 矢そのものは抜けたらしく、血に染まった鏃を見る限り体内に残っている感じもない。

 

「痛みます?」

「あ、ああ……少しな」

 

 とりあえず、止血するのが先決だな。

 

「綾子お姉さま、取ってきました!」

「お、サンキュー」

「さんきゅー?」

「あ、いや。ありがとうって事」

 

 いかんいかん、また横文字を使ってしまった。

 訝しげな明命に笑いかけて、あたしはそれを受け取った。

 

「綾子。それは?」

「ヨモギの葉っぱです」

 

 傷口を押さえながら、ヨモギを当てて上から布を巻き付ける。

 本当は包帯が良いんだけど、そんな気の利いたモンある訳がねーし。

 

「これで良し。あとは血が止まるの待つだけです」

「美綴。いい加減な手当だったら承知しないぞ!」

 

 孫権があたしを睨み付ける。

 

「失敬だな。これ、ちゃんとした漢方療法だぜ?」

「お前に医術の心得があるとは聞いていないが?」

「医者って言われちゃうと確かにそうだけど。これはアウトド……野外での知識だからさ」

「蓮華様。綾子が私に妙な真似をする筈がありません、信じましょう」

「……フン」

 

 う~ん、何でここまで嫌われるかねぇ。

 

「それにしても手際が良いですな、綾子殿は」

「確かに、見よう見まねとも思えないですねー」

 

 孫権以外からは、妙に感心されてしまったらしい。

 

「ああ、運動部だから応急手当の心得ぐらいはあるさ。これでも一応部長だったし」

 

 そういや、この世界に医者っているんだっけ?

 確か、華佗とかそうだった筈だけど。

 病気とか怪我とか、大変だよなそう考えると。

 

「綾子、すまんな。礼を言うよ」

「いえ、このぐらいお安い御用です」

「そうか」

 

 唯さん、微かに顔を(しか)めてるな。

 暫くは動かさない方がいいな、これは。

 

「明命、逃げた賊の行方はわかったか?」

「はい、唯さま。この先に別の湖賊がいるらしく、合流を目指しているようです」

「厄介だな。そのままではその賊と戦うのに此方が不利だ」

 

 と、黙っていた孫権が意を決したように顔を上げた。

 

「唯。あなたは暫く休息が必要ね。追撃の指揮は私が執るわ」

「蓮華様。危険です」

「いや、放置しておく訳にもいかないわ」

「しかし」

 

 うん、唯さんが心配するのも尤もだ。

 孫権は雪蓮みたいな先陣を切るタイプじゃない。

 それに、腕の方もそこまで立つとも思えないしな。

 

「ちょっと待てよ仲謀。兵も無事な連中は少ないんだ、無茶な追撃をすればこっちの被害だってデカいぜ?」

「ではみすみす見逃せと言うのか?」

「そうじゃなくってさ。唯さんとか負傷兵の負担にならないよう、ゆっくり進軍して欲しいんだ」

「どういう事だ?」

「あたしに考えがある。明命を貸して貰いたいんだが」

「…………」

 

 孫権は、手を顎に当てて思案している。

 

「蓮華さま、綾子お姉さまと一緒にやらせて下さい」

「私も賛成です、蓮華様」

「……二人がそこまで言うならわかったわ。けど美綴、失敗すればどうなるかはわかっているな?」

「ああ」

 

 いきなり打ち首ってのはないけど、一兵卒に降格ぐらいは覚悟しておかないとな。

 

「ならば任せる」

「ありがとう。菖蒲と皐月は残って仲謀と唯さんの警護を頼む」

「お姉様!」

「アネキ、一体何をするつもりスか?」

「いいから指示に従え。星、ついてきてくれるな?」

「はっ。何やら、面白そうな予感がしますな」

 

 ったく、嬉しそうだなオイ。

 

 

 

 数時間後。

 あたしと星、明命の三人連れは賊の群れを確認出来る丘に来ていた。

 もう辺りは暗くなり始めていて、

 

「しかし大胆ですな、主は」

「大胆というか、無茶ですよ綾子お姉さま」

「そうか?」

 

 星はニヤニヤしているが、明命はどこか呆れ顔だ。

 

「嫌ならここで見ていてもいいんだぜ?」

「私は御免被りますな。第一、主と共にあらねば気が済みませぬ」

「あうあう、お怒りですか?」

「いや、別に怒っちゃいないがさ。それより、打ち合わせ通りにな?」

「御意。お任せあれ」

「わ、わかりました。もう、やるしかありませんね」

 

 そして、一斉に立ち上がった。

 衣装はいつものじゃなく、倒した賊から剥ぎ取った奴だ。

 あちこち血に染まっていたり、破れていたりして気持ち悪いったらありゃしない。

 まぁ、この場合は却って好都合だけどさ。

 

「しかし、賊の装束を使って敵に紛れ込むとは」

「どう考えてもあのまま追撃するのは無理だったし、唯さんがあの状態じゃ無理はさせられないだろ?」

「ふむ、考えられての策ではありますな」

「あのな。あたしを何だと思ってるんだよ星」

「いえいえ、素直に感心しておりますぞ」

 

 どーだか。

 

「それより明命。お前が頼りだからな」

「は、はぁ……」

「何だ。まだ不安か?」

「私一人だけならともかく、綾子お姉さまと星さまがいらっしゃいますから。万が一私が失敗したら大変な事になりますし」

「そん時はそん時。だから、思い切ってやればいいさ」

 

 だが、明命はまだ躊躇いがあるみたいだな。

 あたしは手を伸ばし、明命の頭をぐりぐりと撫でた。

 

「はうあっ?」

「何か知らんけど、こうすると落ち着くんだろ?」

「……はぁぁ、安らぎます」

 

 う~ん、やっぱりだな。

 あたしの手、ヒーリング効果でもあんのかね?

 

「星、ちょっといいか?」

「如何なされた、主?」

「うん、ちょっと」

 

 もう片手で、星の頭を撫でてみる。

 

「どうだ?」

「どう、と仰せられましても。別段、何もございませぬぞ」

 

 年下か、あるいはあたしより小さい娘限定なのかねこれ。

 菖蒲と皐月には効果あったけど、今度シャオにでも試してみるか。

 

「それより主、明命。もう敵陣は間近ですぞ」

 

 おっと、集中集中。

 明命の頭からも手を放す。

 

「あうう、名残惜しいです」

「無事に帰れたらまたしてやるから。それより、いいな?」

「はいっ!」

 

 お、良い返事だ。

 そして、へとへとになりながら辿り着いたと言わんばかりの雰囲気で徐々に近づいていく。

 程なく、向こうが気づいた。

 

「誰だ!」

 

 見張り役なのだろう、蛮刀を手に近寄ってきた。

 

「すまん、孫文台の軍にやられた。な、仲間は来てないか?」

 

 明命が、弱々しく答える。

 声色を使っているので、若い男のようにも聞こえるのが凄い。

 捕まえた賊から聞き出したボスの名前を伝えると、見張りの男は頷いた。

 

「いや。お頭に知らせて来る、ここで待ってろ!」

 

 ちなみに、あたし達が蹴散らした賊の残党が辿り着いていない事は確認済みだ。

 途中で追いついた連中は皆、その都度始末したからな。

 容赦ないって言えばそれまでだけど、見逃せばあたしの作戦が台無しになる。

 それに、追い詰められて何をしでかすかわからないし。

 

「第一段階、成功ですな」

「まだわからん。油断は禁物だぞ?」

「心得ておりますよ、主」

 

 他の連中に聞こえないように、あたしと星はひそひそ声で話す。

 衣装だけじゃなく、顔も適度に汚した上に頭に布を巻いている。

 明命はアップにするしかなかったが、あたしと星はショートヘアーなのが幸いだった。

 女の賊がいればいいんだが、倒した奴を調べたらことごとく男だった。

 なので、バレないよう芝居を打ってる訳だが。

 暫くして、親玉らしき奴がやって来た。

 手下が、松明であたしらを照らす。

 

「おい! 野郎が殺られたってのは本当か!」

「へ、へい。あっしらは逃げ出すのがやっとで」

「孫文台め……」

 

 親玉は歯がみする。

 

「おい、テメエら。他に知らせる事はねぇのか?」

「い、いえ。それだけでさぁ」

「そうか。ご苦労だったな、ゆっくり休みな」

 

 そう言って、親玉は手下共に合図を送る。

 やれやれ、どうにか無事に潜り込めそうだ。

 ……って、なんで剣を抜いてるんだこいつら?

 

「お、お頭? 何の真似で?」

「言っただろ、ゆっくり休めって。……永遠にな!」

 

 そして、あたしらは取り囲まれた。

 

「そ、そんな!」

「怪我人は足手まといなだけだ。あばよ」

 

 クソ、計算違いだったか。

 まさか、仲間を始末しようって……まぁ、仲間じゃないのかこの場合。

 

「しゃーない。星、明命」

「応!」

「はいっ!」

 

 隠し持っていた短剣を取り出し、一斉に親玉に打ちかかった。

 

「な、何っ?」

「死ねっ!」

 

 奴の頸動脈を一閃。

 派手に血を噴きながら、親玉は倒れた。

 

「ひ、ひいっ!」

「か、頭!」

「この野郎! よくもお頭を!」

 

 手下共が、いきり立って襲ってきた。

 ガキンと金属同士がぶつかり合い、火花が散る。

 チッ、短剣じゃ不利だぜ。

 明命は身軽に敵を倒しているが、星もあたし同様に慣れない短剣で苦労しているようだ。

 薙刀は無理でも、せめて槍でもありゃな。

 そんな事を思っているうちに、

 

「し、しまった!」

 

 短剣がポッキリ折れちまった。

 最早役立たずのそれを投げ付けたが、弾かれちまう。

 賊の剣があたしに迫る。

 

「死ね!」

「嫌だねっ!」

 

 思わず、両手で賊の剣を挟み込んだ。

 

「な、何だと?」

 

 真剣白刃取り、出来ちまったぜ。

 呆然として隙だらけの賊。

 

「今だ!」

 

 がら空きのボディ目がけ、蹴りを入れた。

 

「ぐへっ!」

 

 そのまま吹き飛ぶ賊。

 

「主!」

「綾子お姉さま、ご無事ですか!」

 

 他の賊を片付けた二人が、あたしに駆け寄ってくる。

 

「な、何とかな」

「驚きましたぞ、主」

「そうですよ。まさか、剣を素手で受け止めるなんて」

「アハハ、偶々だよ」

 

 あんな真似、もう一度やれって言われてもやれる自信ないし。

 

「どうしたっ?」

「お頭、何の騒ぎですかい?」

 

 おっと、他の手下共が騒ぎを聞きつけてやって来たか。

 

「星、とりあえずこれを使え」

 

 倒した賊の一人が持っていた槍を、星に手渡す。

 

「私の龍牙には遠く及ばぬ得物ですが、致し方ありませぬな」

「我慢しろ。明命は、敵陣のあちこちに火を放ってくれ。この暗さだ、動き回れば見つからないだろ」

「は、はい。綾子お姉さまは?」

「あたしにはコレがあるさ」

 

 そう言って、右手を握って掲げてみせた。

 

「無茶です!」

「そうですぞ、主。せめて、こやつらの剣でも」

「いや、見るからになまくらっぽいし。それなら、慣れてない剣よりもいいからさ」

 

 そうこうしている間に、賊共が集まってきた。

 

「明命、いいから行け! 時間がない!」

「はい!」

 

 連中は親玉の異変に気づき、あたしと星に向かってきた。

 

「テメエら!」

「殺せ! ぶっ殺せ!」

 

 さて、第二ラウンド開始と行きますか。

 

「星。やれるな?」

「愚問ですぞ、主!」

 空手道場師範代の腕前、見せてやらぁ。

 

 

 

 そして。

 明命の放火で敵が混乱に陥った頃、蓮華率いる本隊が到着。

 数の上では賊の方が優勢だったけど、こうなればもう勢いの差が出た。

 親玉を討ち果たした事が知れ渡ると、連中は次々に武器を捨て始めた。

 なお、あたしは久々の格闘でつい力が入ってしまい。

 少なくない賊を骨折に打撲のオンパレードにしちまった。

 

「全く、無茶にも程があるぞ」

「そうですよ、お姉様」

「ま、アネキらしいっスけどね。にしても、やり過ぎっスよ」

 

 あたし達を迎えてくれた唯さん達、完全に呆れ返っていた。

 

「揃ってそれはないでしょ。賊はちゃんと討伐したんだし」

「……ま、それはそれとしてだ。蓮華様」

「あ、ああ」

 

 不機嫌さは消えて、代わりにどこか気まずそうな孫権。

 

「み、美綴。無謀としか言えないけど、よ、よくやったな」

「あら? てっきり怒られるのとばかり思った」

「……怒る前に呆れたからな。それに、結果はちゃんと出した事は認めねばなるまい? ゴホン」

 

 孫権は咳払いをしてから、あたしを正面から見据えた。

 

「お前を、いや綾子を認めるわ。私の真名も許します」

「え? じゃあ」

「ええ、蓮華と呼んで頂戴。改めて宜しくね、綾子」

 

 お、結構イイ笑顔するじゃん。

 

「なら、握手だ」

「握手?」

「そう。片手を出して」

「え、ええ」

 

 戸惑いながら差し出された片手を、あたしはしっかりと握り上下に振った。

 

「これが握手。仲直りっつーか、これから宜しくみたいな」

「……そうね。ごめんなさいね、今まで冷たく当たってばかりで」

「いいさ」

 

 後で唯さんに聞いてみたら、蓮華は元々あたしと親しくしたくはなっていたらしい。

 ただ、きっかけがないのと素直になれないので結果トゲトゲしかったようだ。

 いわゆるツンデレって奴なのかね、蓮華は。

 

 

 

 ちなみに。

 無茶しまくったあたしは無罪放免とはいかなかった。

 

「純蓮(孫静)さん、もうあたしダメ……」

「あらあら、まだ半分も片付いてないじゃない。ほら、筆を動かしなさい」

 

 書簡の山を片付ける手伝いを、三日三晩させられるハメになった。

 頭が爆発するか死にそ……ぐは。

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