真・綾子†無双   作:はるたか㌠

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十二・拠点フェーズその一

 香蓮(孫堅)さん達の奮戦もあり、蜂起した湖賊は各個撃破された。

 区星も祭さんと蒼(魯粛)が奇襲をかけ、散々に打ち破ったようだ。

 残念ながら区星は取り逃がしたみたいだけど、これで当面は引き籠もるしかなさそうだって。

 で、あたしはまた長沙城で自身の勉強と部隊の鍛錬の日々へ戻った。

 

「綾子、調子はどう?」

 

 純蓮(孫静)さんが、激務の合間を縫っては様子を見に来てくれる。

 大規模な戦闘の後なので、やる事がいつも以上に山積しているらしい。

 いつもは政務を純蓮さんに丸投げ気味の香蓮さんも、流石に逃げられずに書類の山に埋もれているしな。

 

「すいません、お忙しいのに」

「いいのよ。息抜きにもなるしね」

 

 あたしよりも年上なのに、このタフさはどっから来るのかね。

 戦闘には不向きだけど、ある意味香蓮さんよりも逞しい気がする。

 

「まぁ、何とかやってます」

「ちょっと見せてみて」

 

 あたしもサボる訳にゃいかないので、書き取りはなるべくこなしているつもりだ。

 今なら、漢文のテスト出されてもそんじょそこらの奴には負けないかも。

 

「だいぶ覚えてきたわね。後は応用かしら?」

「そうですか?」

「ええ。もう少し、基礎練習を続けてからだけどね」

 

 ま、予想はしていたけどさ。

 

「アネキ。入るっスよ」

 

 皐月(丁奉)の声がした。

 

「ありゃ。お邪魔っスか?」

「いいえ、私は様子を見に来ただけだから。あら?」

 

 おや、皐月が何やら皿を手にしているけど。

 

「アネキに教わった料理、作ってみたんスよ。味見して貰おうと思ったっス」

「あら、綾子が考えた料理?」

「いえ、あたしはただ作り方を知っているだけで。皐月が作ってみたいってんで、レシピを」

「れしぴ、ですかー。で、どんな意味ですかー?」

 

 ぬうっと風が現れた。

 うん、もういい加減に慣れて驚かなくなったな。

 

「またメモか?」

「ですねー。お姉さんの言葉は大変興味深いのですよ」

「ったく。ま、いいけど……レシピってのは、この場合は料理の作り方って意味だな」

「なるほどー。おおっ、話の腰を折ってしまったようで申し訳ないですー」

 

 全然済まなさそうじゃないんだが、純蓮さんも皐月もただ苦笑するばかり。

 当の本人はそんな空気を察しているのかいないのか、熱心に竹簡に書き込んでいる。

 

「でもアネキ、この料理塩の量多すぎないっスか?」

「そうかな? あたしの知ってる限りじゃそんなモンだけど」

「塩も高いんスよ? それに、これじゃ塩辛い気がするんスよね」

 

 どうも納得がいってないらしいな。

 

「とりあえず、試食させて貰うぜ」

「はい、お願いするっス」

 

 皐月の奴、緊張してるな。

 別に失敗したっていいと思うんだけどな、初めて作るんだし。

 あたしは箸を受け取り、それを千切って一口大にする。

 

「へえ、いい匂いね」

「何とも食欲をそそりますねー」

 

 口に運んでみたが、生っぽさもないし上々かも。

 

「うん、いける」

「本当っスか? 良かったぁ」

 

 嬉しそうな皐月。

 

「純蓮さん達も食べてみますか?」

「そうね。じゃあ、ちょっとだけ」

「風も是非是非ー」

 

 あたしが箸を渡すと、二人は興味津々と言った風情で食べ始めた。

 

「あら、香ばしいわね」

「なかなか味わい深いのですよ。お姉さん、ちなみにこれは何と言う料理なのでしょうー?」

「鶏肉の燻製さ」

「燻製?」

 

 聞いた事がないのか、二人とも首を傾げている。

 

「別に鶏肉じゃなくても、魚とか卵でもいいんだけど。食材を燻す調理法さ、アウ……野外で遊ぶ時なんかに何度か作った事があってさ」

 

 本当は醤油とかあるといいんだけど、何故かこの世界にはないんだよな。

 豆板醤とか辣油とかはあるってのに、訳わからん。

 醤油とか味噌の製法がわかりゃいいんだけど、流石に知らないし。

 

「皐月も食ってみろよ」

「それじゃ、いただくっス。……お、こりゃいけるっス!」

「お姉様。……あ、良い香り」

 

 菖蒲(徐盛)が、匂いにつられたのか入ってきた。

 

「菖蒲もどうだ?」

「宜しければいただきます。あ、そうじゃなくってお客様です」

「客? あたしにか?」

「はい」

 

 珍しいな、あたしに客だなんて。

 

「御免!」

 

 のそっと入ってきたのは、張昭のじーさん。

 あたし、何かしたっけ?

 

「あら、剛(張昭)じゃない。どうしたの?」

「い、いや……。その」

 

 珍しく言いにくそうにしてるんだが、そんなにヤバい事か?

 ん、チラチラと皿の方を気にしてるな。

 

「子布さん。もしかして、これが気になりますか?」

「な、何を戯けた事を!」

 

 ムキになって怒鳴るって事は、図星だなこりゃ。

 

「純蓮さん。子布さんって、もしかして」

「うふふ、お見通しみたいね。そう、剛ってこの長沙では一番の美食家よ」

「純蓮殿!」

「この匂いには誘われても仕方ありませんねー」

「うぐぐ」

「まあまあ、子布さん。折角ですから、どうぞ」

 

 あたしは新しい箸を菖蒲に持ってこさせて、張昭のじーさんに差し出した。

 

「食べないの、剛? とっても美味しいわよ」

「し、仕方ありませぬの。純蓮殿がそこまで仰せならば、やむを得ませぬな」

 

 張昭のじーさんは箸を取り、燻製を千切って口へ。

 

「……む。むむ、おい美綴!」

「何ですか?」

「この料理、お前が考えたと申すのじゃな?」

「いや、考えたんじゃなく作り方を知ってたってだけですけどね」

「なんと! し、しかしこのような風味が」

 

 何やら、一人で唸ってる。

 

「……一つだけ尋ねる。他にも、このような未知の料理を知っているのじゃな?」

「ま、まあ、未知っていやそうなりますかね。あたしも全部は知らないですけど」

「よし、ならば一通り用意してみせよ。ワシが試して進ぜる」

「あらあら、そんな事言って剛が食べたいだけじゃないの?」

「じ、純蓮殿! 何を仰せか! ワシはただ、香蓮殿の耳に入る前にですな」

「はいはい、姉さんには私から伝えるわよ。で、どうだった?」

「……悪くありませぬな。うむ、悪くはないですがな」

 

 素直じゃないねぇ、全く。

 

「美綴!」

「あ、はい」

「他にも何品かワシに試させよ。無論、必要な材料は申せ」

「え?」

「そ、それから。特別に、ワシの真名を許す!」

 

 何じゃそりゃ。

 あたしの事、明らかに蔑んでなかったか?

 

「うふふ、やっと剛も言えたわね。綾子の事、前から認めたくて仕方なかったのよね」

「な、何を仰せか! ワシはですな、この燻製とやらに敬意を表して」

 

 何か、可愛いところあるなこのじーさん。

 ともあれ、受け入れてくれたのならそれに越した事はないし。

 

「わかりましたよ、剛さん。あたしの事も、綾子で構いませんから」

「うむ、わかったぞ美綴」

 

 やれやれ。

 流れで、菖蒲や皐月、風まで真名交換となった。

 ……しかし、風達はどうすんのかね。

 

 

 

 その夜。

 あたしが記憶を元に作ったり作らせたメニューが食卓に並んだ。

 

「主。このピーマンの肉詰めはなかなかですな」

「このころっけという揚げ物もいいですね」

 

 星や禀にも好評だったし、皐月と菖蒲は心底感激してるっぽい。

 風も頷きながら食べているし。

 遠坂や衛宮みたいな料理上手じゃないので、殆どは皐月にレシピを教えて作らせたけどな。

 どういう訳だかわからんが、あたしは大量に作らないと味が良くならないんだよなぁ。

 材料が揃うかどうかわからんけど、出来たらカレーでも作ってみるかね。

 ……この時代に何でピーマンとかジャガイモとかが普通に手に入るのか、それは今更考えない方がいいだろうな。

 

「これで酒があれば言う事はありませぬな」

「っても、あたしは呑めないし」

「ほう。主にも弱点がおありとが意外ですな」

 

 目を丸くする星。

 

「いや、少なくともあたしの世界じゃ飲酒自体この歳じゃ違法なんだよ」

「ふむ、では呑まれた事がないと仰せなのですな?」

「そういう事」

「それはいけませぬぞ、主。物は試しです」

 

 そう言って、あたしの前に杯が置かれた。

 

「いや、だから」

「それとも、私の酒では召し上がれませぬかな?」

 

 未成年の飲酒は身体に悪影響があるって言われてるけどなぁ。

 特ににあたしみたいな体育会系だと……卒業したら呑むんだろうけどさ。

 こっそりワインとかシャンペンぐらいなら口にした事もあるし。

 うん、ちょっとだけ試してみるか。

 

「なら、一杯だけな」

「流石は主。ささ」

 

 星がすかさず杯を満たす。

 濁り酒っつーか、どぶろくかな?

 香りもあるけど、これがいいのか悪いのかはわからん。

 あたしは杯を取り、口に含んでみた。

 

「ブッ!」

「キャッ!」

「アネキ、汚いっス」

 

 思わず噴き出してしまったあたしに、菖蒲と皐月は驚いたらしい。

 

「お口に合いませぬか?」

「いや、そうじゃなくって。これ、薄くね?」

 

 例えて言うなら、米のとぎ汁みたいな感じ。

 確かにアルコール分はありそうだけど、初詣の時に飲む甘酒ともまた違うし。

 それに、やたらと酸っぱいけど腐ってないよな?

 

「はて。禀、風、どう思う?」

「私は、至って普通の酒かと思いますけど」

「風も同意ですねー」

 

 色合いから見て日本酒もどきかな、と思ったけど……まるで別物だなこりゃ。

 雑味もあるし、酔っ払うには相当呑まないとダメっぽい。

 張飛とかガブガブ呑んでいる描写あったけど、ありゃ酒自体が薄いから出来た事かな?

 

「主の国では、どのような酒があるのですかな?」

「えっと。ビールに焼酎、日本酒、ワイン、ウイスキー、ブランデーとか。国や地域によって種類もいろいろあるらしいけど、あたしはそこまで詳しくないからな」

 

 風はまたメモを取ってるけど、一体どうしたいのかね?

 飲んでみたいって言われても、流石に酒なんて造れないぜ?

 

「美味なのでしょうな、さぞや」

「う~ん、どうなんだろ?」

「国に戻られる事があっても、その際はお供しますぞ。酒だけではござらぬ、主と共にあると決めた以上はそれを貫きたいのです」

「そ、そうか」

 

 趙雲なんて連れて帰ったらどうなっちまうやら。

 その時は、藤村先生あたりと勝負して貰ったら面白いかも知れないけどさ。

 ま、そもそも帰れるのかどうかもわからんがね。

 

「お姉様、私もお忘れになっては困りますよ」

「そうっスよ。アネキには一生ついていくって決めてるんスから」

「おい、しがみつくなって」

 

 慕われて悪い気はしないけど、あたしはそっちの気はないんだからな。

 どーせなら素敵なナイトでも現れてくれりゃいいが、この世界じゃそんな雰囲気もなさそうだしねぇ。

 

 

 

「あら、盛り上がってるわねー」

「酒の肴があるなら、儂らを呼ばんか馬鹿者」

 

 雪蓮と祭さんのお出ましか。

 

「二人とも、どっから嗅ぎつけたんですか一体」

「ぶー。人を犬みたいに言わないでよね」

 

 膨れる雪蓮。

 

「なに、剛の奴が妙に機嫌が良かったのでな。綾子が異国の料理を振る舞っているというではないか」

「……で、酒持参でやって来たって事ですか」

「そうじゃ。呉の酒はひと味違うぞ」

 

 そう言って、祭さんはドンと大きな壺を置いた。

 ちょっと変わった壺だけど、酒専用なのかな?

 

「ほう、呉の酒ですか?」

「この長沙ではなかなか手に入らぬがの。どうやら、綾子もいける口のようじゃな」

 

 祭さん、目敏くあたしの手元にある杯を見つけたらしい。

 

「いや、これは星が勧めてくれたので試しにと」

「なら、儂の酒も受けて貰えるのじゃな」

 

 断りにくい言い方するな、全く。

 

「わかりましたよ、折角ですから」

「ね、ね。綾子、料理もいただいちゃっていい?」

「ああ。これ以上拗ねられても困るしな」

「うー、何だか綾子、冥琳みたい」

 

 失礼な、あたしはあんなに冷酷じゃないぞ。

 壺の蓋が開けられ、ふわっと酒の香りが漂う。

 注がれたそれは、やっぱり白濁している。

 とりあえず一口。

 ……お、こっちはかなり酒っぽい。

 甘酒みたいだけど、よりアルコールらしさを感じる。

 口当たりもいいし、美味いかも。

 

「雪蓮、これは米の酒か?」

「あら、良くわかったわね。その通りよ」

「なんと。米の酒があるとは話には聞いておりましたが……これは美味ですぞ」

 

 星の奴、心底美味そうに呑んでるな。

 

「そうじゃろう。お主らが普段呑んでいる粟の酒とは比較にならん筈じゃ」

「ただ、長沙で買うとどうしても高いのよね。孫家の悲願、早く達成したいわね」

 

 そう言いながら、雪蓮はあたしの杯に酒を注いだ。

 

「おい、もういいって」

「いーからいーから。美味しいでしょ?」

「いや、確かに美味いけどさ。そういう問題じゃなくってな」

「主。勧められた酒を断るのはあまりに失礼ですぞ」

「そうじゃ。滅多に呑めぬ代物なのじゃぞ?」

 

 くそ、酔っ払い相手じゃ分が悪い。

 

「はいはい。それじゃいただきますよ」

 

 自棄気味に、あたしは杯を傾けた。

 さっきの酸っぱいだけの酒と違い、こっちは少々キツい。

 身体が火照ってきたし、頭もクラクラする。

 って、おい。

 

「菖蒲、皐月!」

「はい?」

「なんスか、アネキ?」

 

 何でお前ら普通に呑んでるんだよ!

 

「美味しいですね、雪蓮様」

「そりゃそーよ。わかってるじゃない?」

「久々っスねぇ、こんな酒は」

 

 ……もしかして、おかしいのはあたしの方なのか?

 いやいやいや、どう見ても二人はあたしより年下だし。

 

「綾子殿。もしやこれに似た酒をご存じなのですか?」

 

 賑やかな面子の中で空気だった禀、しっかりと杯は重ねていた。

 

「どうしてそう思う?」

「表情ですよ。最初の酒はあからさまに未知だったようですが」

「ですねー。それに噴き出してませんし」

「……知ってるっつーか。これに近い酒は確かにあったな」

「え? なら綾子造ってよ」

「うむ。そうとなれば話が変わってくるの」

「ちょい待てお前ら!」

 

 抗議も空しく、話がどんどん妙な方向に進んでいく。

 

「知ってるのと造れるのは同じじゃねぇ!」

「大丈夫じゃ。綾子には才がある、のう策殿?」

「うんうん、綾子なら出来るわよ。そうすれば、こうして母様の目を盗んで持ち出さなくて済むし……あ」

「え?」

 

 雪蓮の爆弾発言に、一同フリーズ。

 星は慌てて杯を置くし、菖蒲と皐月は顔が真っ青だ。

 

「祭さん。まさかあなたまで?」

「い、いや、知らんぞ儂は。策殿が良い酒があるからと」

「あーっ、ずるいわよ祭。あなただって、一壺ぐらいわからないからって言ったじゃない」

「……要は、二人とも共犯って事ですか」

 

 これ、香蓮さんに知られたら大変じゃないのか?

 そう思った刹那、背筋がぞくっとした。

 

「雪蓮。今すぐ戻して来い!」

「え? あはは、大丈夫だって」

「何が大丈夫なんだよ!」

 

 香蓮さん、勘が鋭いんだからすぐにバレるって。

 気が気ではなく、あたしは酒壺を取り上げた。

 

「今からでも返してくる! 祭さん、これは一体何処にあったんですか?」

「それはじゃな」

 

 と祭さんが言いかけた時、とてつもないオーラが迫ってくるのを感じた。

 

「ま、まさか」

「ごめん、わたし急用を思い出しちゃったから」

「策殿! 年寄りを見捨てていくつもりか!」

「ちょっと放して祭!」

 

 あ~あ、仲間割れ始めちゃったし。

 そして……大魔神降臨。

 

「雪蓮、祭。これは何の真似だ?」

「え? あ、か、母様じゃない」

「い、いや、これはの」

「私とて味わいたいのを我慢していたというのに……。覚悟はいいだろうな?」

 

 ブリザードが吹き荒れてる。

 間違いなく、この部屋の気温が三十度は下がってるぞ絶対。

 

「綾子。まさかとは思うが、これがどんな酒か知っての上か?」

「違います! 雪蓮がいい酒だからって」

「ぶー、綾子。わたしを裏切る気?」

「裏切るも表返るもねーよ!」

「これはな、勅使や客人を迎えた時の為に取っておいたものだ。値も張って当然だが」

 

 そう言うと、香蓮さんは雪蓮と祭さんの襟首を掴んだ。

 

「話なら、城で聞いてやる。朝までじっくりとな!」

「いたたた、母様痛いって!」

「堅殿! 年寄りをいたぶるでない!」

 

 当然だけど、そんな二人に手を貸そうとする奴などいない。

 つーか、今の香蓮さんに逆らうのはマジで死ねる。

「勇敢なる二人に、敬礼っ!」

 引きずられていく二人に、何となく。

 何が何だかわからないだろうけど、菖蒲たちもあたしに倣う。

 

「この薄情者ーっ!」

 

 雪蓮の絶叫が、夜の街に木霊した。

 ……いや、卑怯って言われてもね。

 

 

 

 翌日、厳重な監視付きで机に向かわされる二人を城内で見かけた。

 うん、触らぬ神に祟りなしだな。

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