真・綾子†無双   作:はるたか㌠

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お待たせしました。
移転前後を通して久々の投稿となります。


十四.新たなる事実

 その日は、朝から何かが起こりそうな予感がしていた。

 賊の蜂起とかあまり物騒な事でなけりゃいいがなぁ。

 首を傾げるあたしを、菖蒲(あやめ)(徐盛)と皐月(さつき)(丁奉)が怪訝な顔で見ている。

 う~ん、何だろ?

 純連(孫静)さんのところにでも行ってみるか……何か話が聞けるかも知れないし。

 あの人は厳しい面もあるけど、やっぱ一番話しかけやすい気がする。

 ここ長沙の実質ナンバーツーなんだけど、偉ぶりもしなけりゃ上から目線で話すような事もしない。

 この世界にいる限り、あたしはあの人には頭が上がりそうにもないよホント。

 

「綾子、いる?」

 

 玄関で声がした。

 蒼(魯粛)みたいだけど、何だろ?

 

「どうしたんだ、わざわざ?」

「あ、いたいた。ちょっと見て欲しい書物があるの」

「書物? なら伯言(陸遜)にでも見て貰った方が良くね?」

 

 陸遜は軍師としてマジ有能だった。

 冥琳のように才気煥発、というタイプじゃない。

 口調も雰囲気ものんびりしているし、パッと見はダブルメロン装備の眼鏡お嬢様という感じだ。

 けど、その頭脳は流石と言わざるを得ない。

 知識も豊富だし、当然ながら兵法にも精通していた。

 それでいて冥琳とは違った視点から提言が出来るのだから、香蓮(孫堅)さんの評価が悪い筈もなく。

 人柄も相まって、長沙にもすんなり溶け込んでいた。

 そんな彼女の趣味は、読書らしい。

 らしい、ってのは本人から直接聞いた訳じゃなくて噂話レベルだから。

 別にあたしは陸遜と仲が悪いって訳じゃないんだが、何故か読書中のところにはみんなが近づけさせようとしない。

 理由はわからないけど、全員が真顔で止めようとするので振り切る訳にもいかない。

 で、書物というから蒼にも振ってみた訳だが。

 ……案の定、静かに頭を振るだけ。

 

「伯言に見せるかどうかは置いといて。これなんだけど」

 

 と、蒼は一冊の本を差し出した。

 ……って本?

 紙がまだまだ貴重品なこの時代に、本の体裁をしているだけでも驚きなんだろうけど。

 これ、どう見てもこの時代の本じゃねーし。

 まず、表紙に書かれている文字が漢字じゃなくて何と英語。

 しかも、ご丁寧に絵つき。

 ネットでも散々話題になったエ○ン先生、あたしも授業で使っていたから見間違えようがない。

 

「蒼、これを何処で?」

「行商人がね、珍しい書があるから買わないかって持ってきたのよ」

「その行商人はまだいるのか?」

「ううん、次の街に行くからってもう出ていったけど」

 

 しまったな、入手元を確かめたかったのに。

 あたしがここにいる事自体イレギュラーなんだけど、流石にこれまで異世界転生してきたとかそりゃビビるわ。

 一応、パラパラとページをめくってみた。

 間違いなく、某出版社が出している英語の教科書だ。

 他のページにもエレ○先生が出て来るし。

 しかも、見慣れない字で所々に書き込みがしてある。

 

「どうやら綾子には読めるみたいね」

「一応な。でも、あたしの国の言葉じゃなく、外国語だけど」

「外国? 天竺とか大秦って事?」

 

 首を傾げる蒼。

 天竺はインドだろうけど大秦……なんだっけ?

 でも、この時代の人間にイギリス連邦とかアメリカ合衆国なんて言っても通じる訳ねーし。

 説明が思いつかないので、あたしは話を逸らす事にした。

 

「蒼、他にはないのか?」

「何冊かあるわよ。うちに置いてあるわ」

「おし、見せてくれ。時間あるか?」

「え、ええ」

 

 飛び出そうとしたあたしの袖を、何かが引っ張った。

 振り向くと、膨れっ面をした風がそこにいた。

 その後ろには、稟もいる。

 

「むー、こんな興味深いものを見るのに風を置いてきぼりにするとはお姉さんもつれないのです」

「私も気になりますね。ご同行させていただいても?」

 

 別に仲間外れにするつもりもないんだけど……。

 まぁ、軍師にしてみりゃ未知の本ってだけで知的好奇心を抑えられる筈もないのかも。

 意地悪する訳じゃないし、別にいてもいいかな。

 それに、複数で見た方が何かヒントになるかも知れないし。

 

「じゃ、行くか。菖蒲と皐月は留守を頼む。星は……」

「星ちゃんなら、朝から何処かへ出かけてしまったようですねー」

「……あっそ。まぁいいや、行こうぜ」

 

 

 

 で、蒼の屋敷に到着。

 そういや、こっちに来てから誰かの家に行くって初めてかな?

 規模的にはあたしの家よりも大きい、流石は金持ち。

 

「これで全部ね。入れていた鞄も珍しかったんだけど、行商人が自分で使いたいからって売って貰えなかったのよ」

「カバン? どんな感じの奴だった?」

「ええと……」

 

 蒼は少し考えてから、木の枝で地面に絵を描き始めた。

 記憶を辿りながらだから、無論写真みたいには行かないだろうけど。

 

「確か、丈夫な肩紐がついていたわね。あと、口を閉じている革をめくるとベリッと音がしていたわ」

 

 もしかしなくてもショルダーバッグです、本当にありがとうございます。

 あと、音はマジックテープだろう。

 勿論、そんなオーパーツはこの時代にはない。

 いや、あってたまるか。

 そう思いながら、他の本を確かめてみる。

 物理に倫理、情報もある。

 うん、見事にこの時代じゃ役に立たないかもしくは理解不能な奴ばっかだこれ。

 逆に言えば、チートをやろうにも意味がないのでそれはそれでいいのかな?

 変に農業とか歴史とかあったらいろいろと面倒だしな。

 あたしに説明しろとか解説しろって言われても無理だし!

 ……で。

 ○レン先生の教科書はともかく、それ以外はあたしが使っていたのとは違っていた。

 もし、こいつらだけがこの世界にやって来たのなら妙な話だけど……それはないな。

 少なくとも、教科書は野ざらしになっていた気配もないし痛みも少ない。

 

「綾子殿、この記号はどのような意味が?」

「お姉さんお姉さん、このこんぴゅーたーという絡繰はお持ちなのですか?」

「……悪い、あたしに聞くだけ無駄だと思ってくれ。それよりも蒼、その行商人だが何処に向かった?」

「確か……零陵郡に向かうとか言っていたわ」

「隣の郡ですね。南側に隣接しています」

 

 地図を思い浮かべるまでもなく、即答する稟。

 流石天然チート。

 ともあれ、そいつにはいろいろ聞きたい事がある。

 

「ちょっと香蓮さんに会ってくる。蒼、これはまた改めて見せて欲しい」

「え、ええ」

 

 

 

「何だ藪から棒に」

 

 執務中のところに、アポもなく押しかけたのだ。

 香蓮さんの機嫌がいい筈もない。

 が、あたしはとにかく気が急いていた。

 

「ですから、その行商人にどうしても質したい事があるんです」

「お前なぁ……。少し立場ってものを考えろ」

 

 そう言って、溜息をつく香蓮さん。

 

「綾子は俺が雇っている武官だぜ? そんな身分の奴が、ノコノコと他郡に足を踏み入れてみろ。大騒ぎになるぜ?」

「なら、あたし一人で行きます! 個人として」

「だから、それが通るかどうか、許しを得ないと無理だって言ってるだろうが」

「それ、香蓮さんの許可じゃダメなんですか?」

「おいおい、俺はただの郡太守だぜ? 俺の権限で何か出来るのは長沙郡の中だけ、外は無理だ」

 

 香蓮さんも困っている。

 恩人相手に、あまり駄々をこねる訳にもいかない。

 けど……なぁ。

 

「行かせてあげなさいよ、姉さん」

 

 と、そこに救いの神が。

 

「純連。お前、また綾子を甘やかす気か?」

「違うわよ。でも、こんなに必死に頼んでいるんですもの」

「だがな。綾子が浪人ならばともかく、もう俺の麾下だって事は周知の事実なんだぞ?」

「ええ。だったら、コソコソしないで公用を任せればいいのよ」

「公用だと?」

「そうよ。先日討伐した湖族だけど、一部が零陵郡や桂陽郡に逃げ込んだようね?」

「ああ。……まさか、その討伐をさせる気か?」

「いいえ、いきなりじゃ大義名分がないわよ。その許しを、向こうの郡太守に貰う必要があるわ」

「……つまり、俺の書状を届けさせるって訳か」

「ええ。使者ならば、堂々と入れるし咎め立てされる事もないわ」

「簡単に言うがな。綾子は武官だ、使者には向かん」

 

 と、純連さんがニコリと笑った。

 

「じゃあ、文官ならいいのね?」

「は?」

「純連、何を言ってる?」

 

 思わず、マヌケな声を出してしまった。

 香蓮さんも頭の上にクエスチョンマークが浮かびそうな顔をしている。

 

「綾子は偏りがあるとはいえ、一定の教養を備えているわ。官吏として働いて貰うのも悪くないわ」

「あ、あたしには無理ですって!」

「あら? じゃあいいの、使者になれなくても」

「そ、それは……」

 

 純連さんは相変わらずニコニコしている。

 あたしの横に、選択肢がはいかイエスしかないウィンドウでも出ているような気分だぜ。

 

「全く、最初からそのつもりだったな?」

「うん? 言ってる意味がわからないわよ、姉さん」

「ハァ……。どうするかは綾子、お前が決めろ。俺はどっちでもいい」

 

 そう言いながら、香蓮さんは席を立った。

 

「純連。ちょっと息抜きに鍛錬だ、いいな?」

「はいはい、でも四刻(一時間)ぐらいにしてね?」

「うるさい、八刻(二時間)だ!」

 

 そのまま、香蓮さんはズンズンと部屋を出ていった。

 そして、残ったのはあたしと純連さん二人だけに。

 

「怠けても結局自分に返っちゃうんだけどなぁ。姉さん、いくつになっても学習しないわね本当」

「てか純連さん。あれ、本気ですか?」

「あれって?」

「官吏って役人でしょ? あたしが頭よりも身体が先に動くって知ってる筈なのに」

「別に役人だからって終日机に向かっている必要なんてないわよ? いいじゃない、戦っても一流な官吏がいたって」

 

 ダメだ、この人を言い負かすなんざあたしにゃ無理だ。

 このままだとなし崩し的に役人にされちまう。

 って、こんな事してる場合じゃないんだってば。

 あたしは頭を抱えて転がりたい気分だった。

 ……と。

 目の前にスッと封をされた手紙が差し出された。

 

「……え?」

「だから、零陵郡の太守にこれを渡して来て。長沙郡の使者としてね」

「……へ? まさか、もう準備してあったんですか……?」

「当然でしょ。それに、急ぐんじゃなかったの?」

 

 そ、そうだった。

 

「わかりました、じゃあ行ってきます!」

「待ちなさい」

 

 飛び出そうとしたあたしを、純連さんが引き止めた。

 

「まだ何か?」

「あのねぇ、使者として派遣するって意味わかってる?」

「え? ですから、この手紙を届ければいいんですよね?」

「そうじゃなくって。綾子、その格好で行くつもりなの?」

 

 呆れ返ってあたしを見る純連さん。

 一応、城に出仕する時の格好……だよなこれ?

 あ、旅支度ぐらいしろって意味か?

 

「すいません、家に戻って準備してきます」

「……やっぱりわかってないわね。誰かいる?」

「お呼びでしょうか、幼台(孫静)様?」

 

 女官長風の人がやって来た。

 

 

 

 ……で。

 

「良くお似合いですぞ、主。……プッ、クックック」

「おい、笑いが堪えきれてないぞ」

「な、何を仰せか。笑ってなぞおりませぬぞ」

 

 星……顔を不自然に引きつらせてちゃ説得力ねーぞ。

 みろ、他の連中を。

 ちゃんと全員自制……あ、顔を背けて吹き出してる奴発見。

 

「だから言ったんだよ、あたしには似合わないって」

「そのような事はありませぬぞ。もっと自信を持ちなされ」

「あー、はいはい。もう怒る気もないから笑いたきゃ笑え」

 

 あたしはあのまま城内で着替えさせられる事に。

 それは別にいいんだが……使者として赴くなら文官らしい格好をしろと言うのが純連さん。

 動きやすい服装じゃなく、寧ろ重たい着物を着る羽目に。

 その上、間に合わせとはいえ冠まで被らされた。

 そして、とどめが持たされた笏。

 ……これ、どこのお公家さんですか一体。

 しまいにゃお歯黒に引眉しておじゃるを語尾につけるぞ!

 あ、でも前にマキジが当時のお公家さんはおじゃるなんて言ってねぇって何故か激怒してたな。

 とにかく、あたしは礼装という事で祭りで輿に乗せられるような格好で出かける羽目になっていた。

 流石に輿じゃなく、馬上だけど。

 で、使者が一人で向かうなんてあり得ないので警護役として星と兵士十名が同行。

 星が選ばれたのは、腕もあるが何よりあたしの麾下というだけで特に任務もなくヒマだろうから……という割と酷い理由だったりする。

 こうやって大概失礼な奴だけれど、機転も利くから護衛という意味では適任とも言えた。

 

「しかし主。服装はさておき、礼法などご存知なので?」

「さておくな。あと、礼法なんて知らんよ」

 

 とりあえず、最初に香蓮さんにやったみたいなのでいいんだろうか。

 膝をつくのは何か違うし……上座から離れた場所に座るのはありゃ日本だし。

 まぁ、何とかなるだろ。

 今回はただのメッセンジャーだし。

 

「……ん?」

「如何なされました、主?」

「あそこに、何か……。人が倒れてるぞ!」

「何ですと!」

 

 あたしの声に、星らは視線を向けた。

 

「良く見えませぬが……」

「急ぐぞ!」

 

 格好が格好だけに、馬を全力疾走させるのはちと厳しい。

 もどかしいけど、無理のない範囲で走らせるしかない。

 

 

 

「これは……」

「賊に襲われたか」

 

 そこには、数人が倒れていた。

 血の匂いが漂っている。

 

「主、危険ですぞ! おい、息があるかどうか確かめろ!」

 

 駆け寄ろうとしたあたしを、星が引き止めた。

 兵士達が近寄り、一人ひとりを見ていく。

 

「この者はまだ息が!」

「わかった。念の為、周囲も確認してくれ!」

 

 あたしは、生存者のところに立った。

 

「おい、しっかりしろ!」

「……うう」

 

 血まみれの男が、呻いた。

 

「誰にやられた! 山賊か、湖族か?」

「……さ、さんぞ……く」

「わかった。今手当をするからな!」

「も、もう何も……見えない」

「しっかりするんだ!」

「主、これは!」

 

 星が、周囲を指差した。

 彼らの荷物なのか、いろいろなものが散乱している。

 その中に、見覚えのある本が。

 剣で斬られたのかボロボロになっていたけど……数学の本か。

 という事は……。

 

「お前達、先日長沙に立ち寄った行商人だな?」

 

 小さく頷く男。

 

「これをどこで手に入れた!」

「……ち」

「ち?」

「……んり……ぐぼっ」

 

 血を吐き、男は横を向いた。

 

「主!」

「……ダメだ、息を引き取った」

 

 まずは、こいつらを葬ってやらないとな。

 それから、一旦長沙に戻ろう。

 

「ちんり……とか言ったな」

「はい。恐らくですが、陳留の事かと」

 

 陳留……。

 鍵は、そこにあるらしいな。

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