真・綾子†無双   作:はるたか㌠

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二・江東の小覇王

「では、今日はごゆっくりお休み下さいね」

「ありがとう、純蓮(孫静)さん」

「いいえ。お休みなさい」

 

 案内された部屋は、質素そのものだった。

 当たり前だけどテレビも照明もなく、あるのはベッドと机に椅子、燭台、後は窓ぐらい。

 いろいろあって疲れているのは確かだけど、気持ちが昂ぶってすぐには眠れそうにもない。

 かと言って、勝手に城の中を見て回ったりしたら怒られそうだし。

 携帯ゲーム機もないから、時間を潰す方法もない。

 さて、どうすっかねぇ。

 ……とりあえず、横になるか。

 幸いというか、時間は有り余っている。

 これからあたしは一体、どうなるんだろ?

 純蓮さんや文台さんさん達が壮大なドッキリでも仕掛けているのならともかく、どう考えてもこれは現実。

 けど、どうしてこうなったか。

 切欠があるとすれば、あのキモい筋肉達磨に蹴りを入れた事だろうな。

 今にして思えば、ブレステが不調になったのも、これの予兆だったのかも。

 それはそれであり得ない事だけど、まだわからない事だらけだ。

 そもそも、あたしの格好といい装備といい、全く説明がつかない。

 薙刀だって部屋にはあったけど手にしていた訳じゃない。

 弓道衣や弓に至っては、家から離れた学校の部室にあるものだし。

 ご都合主義のゲームとかラノベとかは見るけど、あのクチかこれ?

 ま、電磁砲撃てたり召喚獣呼び出したりは出来ないだけ、まだ現実的かな……比較的だけどさ。

 確かに、あたしは日々に物足りなさを感じた事はある。

 得意の薙刀だけじゃなく、苦手だった弓道もかなり上達できた。

 その他に剣道、柔道、空手……武術なら何でもござれだったし、それぞれに他人に指導出来るぐらいのレベルには達している。

 ただ、それぞれに上達してしまうと、今度は相手に困ってもいた。

 そりゃ、プロやらオリンピックを目指すなら、あたしのレベルなんざまだまだだろう。

 そうは言いながらも、もっと上のレベルの連中とやり合いたいって願望があるのは確かだ。

 だから、この世界に連れてこられた……いくら何でも乱暴か。

 あ~、止めだ止め。

 ごちゃごちゃ考えるのはあたしの性に合わん。

 ふぁぁ、何だか眠くなってきた。

 とりあえず……寝るか。

 

 

 

「にゃ~」

 

 ん?

 鳴き声で、目が覚めた。

 窓から差し込む光があるから、まだ夕方ぐらいなんだろ。

 その窓のところで、ブチ模様の子猫が鳴いていた。

 あたしが近づいても、逃げる素振りを見せない。

 

「よ~し、チチチチチ」

 

 可愛いモノには眼がないあたし、猫ももちろん大好きだったりする。

 手を伸ばすと、子猫はすり寄ってきた。

 

「ゴロゴロ」

 

 喉を撫でると、気持ちよさそうに眼を閉じた。

 あ~、何だか至福だわ。

 思い切って抱いても、全く抵抗する様子がない。

 もしかしたら、飼い猫なのかもな。

 ……あれ、何か視線を感じるな。

 けど、この部屋にはあたしとこの猫しかいない筈。

 気配は……窓の外か。

 そんな場所から覗くような奴はいないと思うけど、でも気のせいじゃなさそうだ。

 

「よ~しよし」

「うにゃ~」

 

 そっと猫を床に下ろし、すかさず立てかけてあった薙刀に手を伸ばす。

 よし、そのまま動くなよ……。

 

「誰だっ!」

「はうぁっ?」

 

 窓の外に向けて薙刀を突き出すと、そんな叫びが聞こえた。

 

「あ、あわわわわっ!」

「おっと」

 

 落ちそうになっていたので、思わずその手を掴んだ。

 

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 部屋に引き上げてみると、そこにいたのは忍者だった。

 ……いや、ちょっと違うか。

 腰まである見事な黒髪ストレート、小柄な体つき、あと背負った日本刀。

 ……やっぱ、忍者かな?

 

「何やってたんだ、あんな場所で」

「は、はい。……その」

 

 忍者風の女の子は、チラチラと子猫を見る。

 

「もしかして、目当ては猫か?」

「……そうなんです。お猫様を追っているうちに、こちらの部屋に入ったので」

「お猫様ねぇ。そんなに猫が好きなら、抱っこしたら?」

「はうぁっ? よ、宜しいのですか?」

「いや、後は猫に聞いてみな」

「で、では……失礼します」

 

 女の子は妙に居住まいを正し、子猫に向かって一礼する。

 

「お猫様。では、少しだけ失礼致します」

「にゃあ」

 

 そして、女の子が手を伸ばした途端。

 逃れるように、あたしの懐に飛び込んできた。

 

「はぅぅ……」

「変だな、あたしにはこんなに懐いてるってのに」

「うう、何故かいつもこうなんです」

 

 涙目の女の子。

 う~ん、少し可哀想だな。

 

「明命。あなた何やってるのよ?」

「はうぁっ? 雪蓮様?」

 

 また、窓から誰か入ってきたぞ。

 この城はそういう仕来りでもあんのか?

 今度の女の子は、文台さんさんみたいに褐色の肌に、やっぱり見事な胸。

 つーか、文台さんさんに似てるな。

 強いて言うなら、もっと奔放なイメージだけど。

 

「あら? あなたが母様と叔母様が連れてきた人?」

「母様?」

「ええ。叔母様を助けてくれたんでしょ? 凄腕だって聞いてるわ」

 

 え~と、文台さんさんの娘って事か。

 となると……。

 

「アンタは、孫策、いや孫伯符?」

「そうよ」

 

 まさか、つい最近までゲームで操作していた人物が眼の前に現れるとはね。

 

「でも、よくわたしの事知っていたわね?」

「そりゃ、孫文台さんの長女だろ? 有名だしさ」

「ふ~ん。ねぇ、あなたの名前も聞かせてよ」

 

 いけね、自己紹介してなかったな。

 

「あたしは、美綴綾子。姓が美綴で名が綾子。字とか真名はない」

「変わった名前なのね。明命、あなたも名乗りなさい」

「あ、し、失礼しました。私は周幼平です!」

「ええっ!」

 

 思わず声を上げてしまった。

 だって周泰っていや、髭がむさいおっさんというイメージが。

 ……でも、あれって某ゲームメーカーのせいか。

 

「あら、明命の事も知っているみたいね?」

「まぁ、知っているというか……。初対面だけどさ」

 

 途端に、周泰はパッと飛び退いた。

 

「雪蓮様。お下がり下さい!」

 

 そして、背中の刀に手をかけた。

 

「待ちなさいよ。猫に気を取られていたあなたを斬るつもりなら、とっくにやられていたわよ?」

「うう、ご覧になっていたのですね」

「ま、一部始終だけどね。それに明命、いくらあなたの腕でも勝てる相手かしら?」

「そ、それは……」

 

 落ち込む周泰。

 

「なら、証明して見せましょうか。ねぇ、ちょっと付き合って貰えない?」

 

 そう言って、孫策はウインクした。

 

 

 

 そのまま、城の中庭みたいな場所に連れてこられた。

 勿論、サッカーゴールも陸上のハードルもないけどな。

 

「此所は?」

「調練場よ。今日はもう、兵の訓練は終わったから誰もいないけどね」

 

 孫策の言う通り、グラウンドは凸凹だった。

 トンボもローラーもなさそうだし、均すのにも限界があるんだろうけど。

 

「なぁ、そんさ……じゃない、伯符」

「何?」

「地面さ、もっと綺麗に均さないと危なくねーか?」

「ああ、これ? でも、調練が終わったら総出で平らにはしてるのよ?」

「どうやって?」

「え~と……。土を運んで、穴を埋めているんだけど。気に入らない?」

「そうじゃないけど、危ないよやっぱ。あのさ、これぐらいの板と、使わなくなった槍の柄、あと小刀と(にわか)を貸してくれるか?」

「ええ、そのぐらいだったら。明命、用意してくれる?」

「はっ!」

 

 周泰が……消えた?

 へぇ、格好だけじゃなくて本当に忍者みたいだな。

 

「じゃ、その間準備でもしましょ」

「準備って?」

「決まってるじゃない。此所、調練場って言ったじゃない」

「それは聞いたけどさ」

 

 あたしに答える前に、孫策は一振りの剣を差し出した。

 

「何これ?」

「見てわかるでしょ。剣よ」

「そうじゃなくってさ。どうして、剣なんて寄越すんだよ?」

「言ったでしょ、あなたの実力を証明して貰うって」

 

 あたし、一言も賛成とは答えてないぞ。

 つーか、相手は?

 

「なぁ、あたしに、あの娘とやり合えって言うのか?」

「え? 違うわよ、明命じゃあなたに敵う訳ないもの」

 

 そうかねぇ。

 見た目もそうだけど、あの俊敏そうな身のこなしはあたしにはないし……第一、あの周泰だぜ?

 純蓮さんを襲っていたような賊ならともかく、歴とした武将相手にあたしが通用する訳がない。

 

「それとも、わたしが相手じゃ物足りないとでも?」

「へ? 今、何っつった?」

「だから、わたしと仕合しましょうって言ったのよ。あ、それ模擬剣だから死ぬ事はないわよ?」

「そういう問題じゃない!」

「ぶー、じゃあ何が不満なのよ?」

 

 あらら、膨れてるよこの人。

 なんか、いろいろとフリーダムな性格みたいだな。

 

「いや、だから伯符と仕合なんて無理だってば!」

「そんな事、やってみなきゃわからないじゃない? ねぇ?」

 

 イイ笑顔を見せる孫策。

 そりゃまぁ、強い相手とやり合うのは確かにあたしの願望ではあるけど。

 ……でも、実在した英雄とあたしじゃ、やる前から勝負なんて見えてるって。

 

「お待たせしました!」

 

 周泰が、あたしが言った物全てを手に戻ってきた。

 

 

 

「さて、じゃそろそろ始めましょう。明命、あなたが審判役をお願いね」

「御意です」

 

 トンボを作って見せたのはいいけど、膠じゃ乾くまでに時間がかかるのですぐには使えない事に後から気づいた。

 そもそも、あたしの頭で即席トンボを作ろうなんて考えても無駄だったかも。

 ちゃんとした職人に、メカニズムと図案を見せて作って貰えば別だろうけど……ま、機会があればそうしよう。

 やる気満々の孫策を前に、あたしは結局剣を持たされる羽目に。

 ……しゃーない、胸を借りるつもりでやってみるとしますか。

 これが真剣勝負なら全力で願い下げだけど、あくまで調練だしな、うん。

 借りた剣を両手で持ち、何度か素振りをしてみる。

 模擬とは言え、竹刀などとは違ってずっしりと重い。

 日本刀なら何度か扱った事もあるけど、両刃剣はまた勝手が違うなぁ。

 戦い方が違うから、当たり前だけどさ。

 

「あら? もしかして双手剣の方が良かった?」

 

 あたしの素振りを見ていた孫策が、首を傾げた。

 

「え?」

「だって、さっきから両手で扱ってるじゃない?」

「ああ、あたしの国では剣の持ち方ってーとこれなんだ。そっか、これ片手で扱うのか」

 

 どうも違和感が払拭できないと思ったら、そりゃそうだわ。

 となると、利き腕よりも。

 

「左手遣いなのね?」

「まぁな。さ、もういいぜ?」

 

 所詮は素振り、これですっかり慣れるなんて無理に決まってる。

 なら、実践あるのみさ。

 

「では、両者前へどうぞ!」

 

 孫策は……右手か。

 有利とか不利とかはないだろう、例えあったとしてもあたしが勝てる相手じゃないもんな。

 おし、行きますか。

 一礼し、剣を構えた。

 いきなり、孫策が跳んだ。

 咄嗟に、剣を立てる。

 ガン、と金属同士がぶつかり合って火花が散る。

 うう、手が痺れるぜ。

 

「はあっ、たぁっ!」

 

 流石は孫策、一撃一撃が速いだけじゃなく、重い。

 

「クッ!」

 

 何とか、動体視力が追いついているけど……受け止めるのがやっとだ。

 

「ほらほらほらっ! 受けてばかりじゃわたしには勝てないわよっ!」

「む、無茶言うな!」

「じゃあ、これならどう?」

「!」

 

 脇腹に蹴りかっ!

 肘で何とかガード!

 

「止めたっ?」

 

 へぇ、別に武器だけじゃなくてもいいのか。

 なら、あたしだって!

 剣を受け止め、そのまま孫策に突進する。

 

「えっ?」

「おりゃ!」

 

 そのまま、シャ○ザクみたいに肩からぶつかった。

 

「させるかっ!」

 

 バックステップで躱す孫策。

 よし、引っかかったな。

 

「せいっ!」

「な!」

 

 あたしは、手にした剣を投げ付ける。

 得物をいきなり手放すとは思わなかったのだろう、流石に孫策は驚いている。

 体勢を崩した状態で、強引に剣を叩き落とそうとする。

 いや、実際には剣を見事に叩き落とした。

 ……けど、あたしの本命はそっちじゃない。

 

「いけぇぇぇっ!」

 

 もう一度、孫策に向かってあたしは突進。

 

「二度も同じ手は……キャッ!」

 

 孫策がバランスを崩し、蹌踉めいた。

 そのまま、アメフトみたいにタックルをかました。

 

「ええっ?」

「もらった!」

 

 そう、これで抑え込んで柔道の寝技に持ち込む。

 ……つもりだったけど。

 

「ガッ?」

 

 後頭部に痛みを感じた瞬間、あたしは意識が遠くなった。

 な、何が……?

 

 

 

 気がつくと、そこは見知らぬ天井だった。

 うん、言ってみたかっただけだが、事実そうだったし。

 

「……あ、気がついた?」

 

 孫策と周泰が、あたしの顔を覗き込んでいた。

 

「……ここは?」

「わたしの部屋よ」

 

 この状況から言って、あたしはベッドに寝かされているらしい。

 つーか、後頭部がズキズキする。

 

「ごめんなさいね。つい、本気になっちゃって」

「……本気?」

「ええ。あなたが突っ込んできた時に、嫌な予感がしたの」

「…………」

「それで、後頭部に肘を入れちゃったの。……痛かった?」

 

 ああ、やっと思い出した。

 

「そりゃ。な」

「本当にごめん。あなたが強かったから、調練だって事忘れちゃってね」

「……いや、いいって。しかし流石は孫策、じゃない伯符だな」

 

 と、孫策はジッとあたしの顔を見た。

 

「わたしの真名は、雪蓮よ」

「はうあっ? し、雪蓮さま?」

 

 周泰があたふたしてる。

 

「いーじゃない。拳で語り合った仲ですもの」

「……それって、もしかして?」

「ええ。真名を許すわ、だからあなたの事も綾子、って呼んでいい?」

 

 真名ってそんな軽いモンじゃない……よな?

 だから、周泰があんなにオロオロしてるんだろうし。

 

「で、ですが雪蓮さま。香蓮さまのお許しもなく、宜しいのですか?」

「大丈夫よ、母様ならわかってくれるわ。それより明命、あなたはどうするの?」

「わ、私ですか?」

「ええ。無論、強制はしないけどね」

 

 周泰はモジモジと、上目遣いにあたしを見る。

 ……やべ、可愛いじゃんかこの娘。

 

「……で、では。私の事も、明命とお呼び下さい」

「い、いや別にいいよ。あたしは真名を預かるだけの資格があるかどうかも」

「いいえ。雪蓮さまがお預けになるのであれば、私も信じたいと思います」

 

 いいのかね、それで。

 とは言え、突っぱねたらなんかあたしが悪者みたいだし。

 

「わかった、二人とも確かに預かった」

「ありがとうございます、綾子さま!」

「え?……いや、出来ればそのさ、もうちょっと違う呼び方してくれないかね?」

 

 むず痒くて仕方がない。

 あたしは「様」呼ばわりされる程、高尚な人間じゃないしさ。

 

「……で、では。綾子お姉さま、とお呼びします」

「へ?」

 

 なんか、それは違う意味でヤバくありませんか?

 

「あら、いいわねそれ。うん」

 

 って、雪蓮は勝手に納得してるし。

 

「そうですよね。では、今後はそうお呼びします!」

 

 明命は明命で嬉しそうだし。

 ……まぁいいや、呼ばれ方でいちいち気にしてちゃ身が保たないし。

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