IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界-   作:陽夜

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第三十六話

 

 

 

『千冬さん』

 

 

 やめろ。

 

 

『ねえ、千冬さん』

 

 

 やめてくれ。

 

 

『どうしてこっちを見てくれないの?』

 

 

 やめろやめろやめろ。

 

 

『ねぇ……貴女が傷ツけタのニ、目ヲ背けルの?』

 

 

 もうやめてくれ、龍也。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!!はぁっ、はぁっ、はぁっ…………夢、か」

 

 

 

 

 夜中、寝ていた千冬は夢に魘され目が覚めた。

 

 

 あの後、篠ノ之束に連絡を取った千冬は事情を説明した。

 千冬としてはてっきりラウラに危害を加えるのではないかと危惧していたが、そんな様子は一切なく、束曰く『私がそんなことしても、りゅーくんは喜ばないから』とのこと。

 親友が大人の人間に成長したのを実感した。

 

 

 後日、龍也のお見舞いと一緒にダークネスを回収するためにこっそり来ると言っていた。

 今回ばかりは、千冬も黙認の上だ。

 

 

「……ああ、くそっ」

 

 

 千冬も人間だ。ブリュンヒルデなどと呼ばれていても結局は女性、内心に不安を抱くこともある。

 しかし、それが普通のケースならの話だ。

 

 

「(私を恨んでいるか、龍也)」

 

 

 一度目、あの日の夜も助けることができず、今回も間に合わなかった。

 

 

 怖いのだ千冬は。彼に恨みを持たれることが。

 

 

「何がブリュンヒルデだ。結局、教え子一人守れないで……」

 

 

 責任感の強い部分が裏目に出てしまう。

 どんなに辛くてもそれを隠し、周りには悟られることないように生きてきた。

 

 

 そんな生き方しか知らないのだ、千冬は。

 

 

 

 

「誰か、教えてくれ。私はどうすればいい」

 

 

 

 

 闇に呟いた言葉に、返答を返す者はいない。

 暗闇の中千冬は、再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって、学年別トーナメントの申し込み用紙?」

 

 

「うん!お願いします!」

「織斑君一緒に組んでー」

「ちょっと、抜け駆けは禁止よ!」

 

 

「あはは……えっと」

 

 

 朝の教室、生徒達は席に座った一夏を取り囲む。

 今度行われる学年別トーナメント、二人一組のペアでの出場ということもあり女子生徒達は数少ない男子とのコンビを待ち望んでいた。

 

 

「あれ、そういえば橘君とデュノア君は?」

「まだ来てないねー」

「織斑君知ってる?」

 

 

「あいつらは、その」

 

 

「一夏」

 

 

「ん?あ……シャルル」

 

 

「あっ、デュノア君!」

「タイミングがいい〜!あのね、今度の学年別トーナメントで……って、ちょ、ちょっと!?」

 

 

 シャルルは話しかけてきた生徒二人を無視し、一夏の前へ立つ。

 

 

「……シャルル?」

 

 

「一夏。僕と組んで」

 

 

 机の上に置かれたのは先ほどまで女子生徒達が持っていたのと同じ紙。

 

 

「これって……」

 

 

「僕の目的を果たすためには、一夏と組むのが最善だと思ったから」

 

 

「目的?どういうことだ」

 

 

「良いの?ダメなの?」

 

 

「……………………」

 

 

 こちらの質問に答えず押しの強いシャルルに、少し考える一夏。

 

 

「……わかった。俺と組もう、シャルル」

 

 

「名前書いて。後で僕が出しに行くから」

 

 

「ああ。……よし、っと。これでいいな」

 

 

 空いている欄に自分の名前を書き込むと、シャルルはすぐに用紙を奪い去るように持って席へ戻ってしまう。

 

 

「えっ、あっ、ちょっ、二人とも……」

「男子で組んじゃうんだ……」

 

 

「あー、ごめんな?シャルルもまだ来て日が浅いしペアは男子の方が気が楽だろうからさ」

 

 

「まぁ、一理あるけど……」

「というかさ、デュノア君なんか様子おかしくなかった?」

「うんうん、随分暗いというかなんか、ねぇ」

 

 

「……少しゆっくりさせてあげてくれ。あいつも疲れてるんだ」

 

 

「んーそっか。それなら仕方ないか」

「デュノア君、眉間にしわ寄った顔も素敵だな〜」

 

 

 先日までと様子が違うシャルルに懸念を抱いていると、話を終えた女子生徒とは別から一夏に声がかかる。

 

 

「ねぇ、おりむ〜」

 

 

「のほほんさん?」

 

 

「りゅ〜くん、大丈夫かなぁ」

 

 

 元気のない様子の本音。

 それもそのはず、相川清香や鷹月静寐から聞いたのだろう。龍也の状態を。

 

 

「大丈夫だよ、あいつはすぐに怪我なんて治して戻ってくるさ。そういう奴だろ?龍也は」

 

 

「……うんっ、そうだね。私とりんちゃんでりゅ〜くんを待っててあげないとね〜」

 

 

 少しは気が晴れたのか、多少笑顔を取り戻し席へと戻る。もうSHRまで時間がないからだろう。

 

 

「(龍也、お前を心配してる人はたくさんいるんだ。早く戻ってこいよ)」

 

 

 今も病室のベッドの上であろう親友に、心の中でメッセージを送る。

 

 

 そしてチャイムが鳴り、千冬と山田先生が入室した。

 

 

「全員座れ、朝のSHRを始める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんっ……ふわぁぁぁ……あぁ、ねみぃ……」

 

 

 目を覚ます龍也。

 

 

「朝から寝ぼけてんじゃないわよ」

 

 

「んぇっ?…………鈴!?ッ、いてててて……」

 

 

「お怪我をなさっているのですから、飛び起きては身体に毒ですわよ」

 

 

「セシリア、も……いたた……どうして、っていうかここは……」

 

 

「学内の病人用ベッドのとこよ。あたし達全員怪我人だから放り込まれたわけ」

 

 

「もう平気ですのに……大袈裟なんですから」

 

 

「だって一回寝てみたかったんだもん。気持ちいいじゃないこの布団!」

 

 

「……まぁ、否定はしませんけど」

 

 

「……布団抱えてモフるなんて、意外と可愛いとこあるんだなセシリア」

 

 

「な、ななななっ!?」「ちょ、ちょっと龍也!!」「あ、いや、わ、悪いっ!つい、な?」

 

 

 怪我の具合は深刻に見えるが、一晩様子を見た学校の保健医が問題なかろうと判断した為、部屋を移された。

 龍也は男だ、頑丈な身体もしているし治療が効いたのだろう。

 

 

 とは言っても頭には包帯を巻いていて、病人服の中の身体は白くグルグル巻きにされているし、龍也本人は激痛を感じているが。

 

 

「……って、こんな話してる場合じゃない。早速だけど、あの後どうなったんだ?」

 

 

「一夏とデュノアが来たわよ。その後に千冬さんも突入したわね」

 

 

「デュノアさんが龍也さんを運んでくださったのですよ」

 

 

「そっか、シャルが……」

 

 

「随分と落ち込んでたわよ。あんたがズタボロな姿見てね」

 

 

 他人事のように言うが、隣のベッドの少女は気付いていた。

 

 

「鈴さんだって、夜一人で泣いていたではありませんか」

 

 

「わ、わぁぁぁぁぁ!あ、あんた起きてたの!?」

 

 

「ええ。小さくすすり泣く声が聞こえたので」

 

 

「鈴、お前……」

 

 

「っ、何よ!別にいいじゃない。あたしだって心配だったんだから……」

 

 

 ふんっ、と顔を赤くしながらそっぽを向く鈴に龍也とセシリアは苦笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍也の意識もしっかりと覚醒してきたところで本題へ入る。

 

 

「……ボーデヴィッヒは、一夏に嫉妬してるんだ」

 

 

「え?」

 

 

「最後に斬られる前に、あいつが言ってた。自分が教官に、千冬さんに認められるためには一夏の存在が邪魔だって」

 

 

「……何よそれ」

 

 

「織斑先生が仰っていましたが、ボーデヴィッヒさんはドイツ軍のIS部隊所属のようです。そこで力を付ける経緯に、織斑先生が深く関わっていたと昨日言っていましたわ」

 

 

 この話を知らない龍也に、セシリアが説明する。

 しかし、龍也は束から既に千冬が教官を勤めたことを聞いていたので知っている。

 

 

「ボーデヴィッヒの中では千冬さんの存在が大きくて、肉親に恨みを持ってしまうほどなんだろう。

 そして、俺達はラウラ・ボーデヴィッヒという人間を知らなさすぎる。もしかしたら、何か特別な理由があるのかもしれない」

 

 

「そうは言ってもどうするのよ?つい最近知り合った人間の詳しい過去を、あたし達がほいほい知れるわけないでしょ」

 

 

「どうしましょうか……」

 

 

「……………いや、一つだけ方法がある」

 

 

「「え?」」

 

 

「ドイツ軍のIS部隊、そこの人間に聞けばわかるかもしれない」

 

 

「ですが、連絡を取る手段がありませんわ。

 それに、軍内の個人情報を簡単に喋る事もないはずです」

 

 

「なら千冬さんに聞けばいいんじゃない?」

 

 

「いや、千冬さんには頼れない。あの人にこれ以上心労と迷惑をかけるのはダメだ」

 

 

「じゃあどうするのよ」「そうですわ」

 

 

「んー、どうすっかなぁ……」

 

 

 現状は進まない。停滞してしまったその時、

 

 

 

 

 

 

『ふっふっふっ、話は聞かせてもらったよっ!』

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 バタンッ!と扉が大きな音を立てて開く。

 そして入ってきた人物はーー

 

 

「やあやあ、久しぶりだねぇ。元気にしてたかい少年よ」

 

 

「た、束さん!?」「ええっ!?」

 

 

「なっ、し、篠ノ之博士!?」

 

 

 

 

「ちーちゃん《親友》にこれ以上苦労はかけさせないよ。ここからは私の出番だね」

 

 

 

 

『天災』は唯一無二の親友の為に、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、初めまして!わたくし、セシリア・オルコットと申しますわ!」

 

 

「ああ、君がセシリアちゃんかぁ。

 んーじゃあせっちゃん!よろしくねー」

 

 

「せ、せっちゃん?」

 

 

「お、お久しぶりです篠ノ之博士」

 

 

「うんうん、鈴ちゃんもりゅーくんがここに来た日以来だねぇ」

 

 

 突如現れた天災に驚く二人。

 軽く萎縮しながらも挨拶を交わす。

 

 

「二人とも気遣いすぎだろ。俺もいるんだしもっと楽にしろよ」

 

 

「ふふっ、りゅーくんのお友達だから束さんも出血大サービスで心を開いちゃうよー」

 

 

「そうは言ったって緊張するもんはするのよ」

「本当、その通りですわ……」

 

 

「まぁ、こんなんでも天才で天災だからなぁ……」

 

 

「ちょっとりゅーくん?こんなんでもってどういうことかなぁ……?」

 

 

 バチンッ

 

 

「いっ、いでぇぇぇぇぇ!!!せ、背中を叩くんじゃ「んー?」ぐぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

「し、篠ノ之博士!龍也の顔が凄いことになってますから、その辺にしておいた方が……」

 

 

「博士なんて他人行儀な呼び方はやめておくれよ二人とも。気軽に束さんって呼んでいいんだよ」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

「うぐっ……身体、動かさなきゃ、痛みも我慢できるのに……」

 

 

「りゅーくんはやっぱり傷の治りが早いねぇ。ちーちゃんから聞いた感じじゃ1日で治ると思えなかったけど」

 

 

 怪我人の龍也をバチンバチン叩くあたり遠慮の無さが伺える。それも信頼関係があるからなのだろうか。

 

 

「そ、それで、しの……束さんがいらしたのは?」

 

 

「りゅーくんのお見舞いに来たんだけど、なにやらお困りのようだからねぇ。私が手伝ってあげるよ」

 

 

「いいんですか?」

 

 

「おうよ、束さんに任せなさい!」

 

 

 胸を張って答える束。

 何度目かわからないが、揺れる胸を見て目を背ける龍也。

 だが今回はそんな龍也を見て睨む鈴もいるオマケ付きだ。

 

 

「あ、その前にダークネスは貰ってくね。装甲もボロボロらしいから修理しておかないと」

 

 

「すいません……俺が不甲斐ないばっかりに」

 

 

「……もうっ、いいんだよそんなこと気にしなくて」

 

 

「わっ、ちょ、束さん!?」

 

 

 束に寄せられ、抱きしめながら頭を撫でられる。

 

 

「りゅーくんが無事なら、それだけで私は十分だから」

 

 

「束さん……」

 

 

 優しい声で、優しい目をしているであろう束にこのままでもいいか、と思った龍也。

 しかし、ここにはもう二人いることを忘れてはいけない。

 

 

「(くぅぅ、胸なのか!?結局は母性なのか!?)」

「(こ、これは、わたくしの想像が当たっていたのでは!?)」

 

 

 状況はどうあれ、やはり天災は場をかき乱していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、IS部隊の人間の連絡先が欲しいってことでいいんだね?」

 

 

「あ、出来ればそれなりに階級が高い人がいいです。例えば副隊長とか」

 

 

「おっけー、それくらい束さんにかかればお茶の子さいさいだよ」

 

 

「本当に、ありがとうございます束さん」

 

 

「ううん。じゃあまたねりゅーくん、せっちゃんに鈴ちゃんも。後で連絡するからねー」

 

 

「はい」

 

 

 ドアを開け外で出ようとしたのだが、何かを思い出したように立ち止まる。

 

 

「あ、そうだ。最近箒ちゃんはどうかな?」

 

 

「箒ですか?特に変わった様子はありませんけど……」

 

 

「そっか。あの子は色々と一人で溜め込んじゃう子だから、見てあげてね。

 ……私が一緒にいてあげられたらよかったんだけど」

 

 

 篠ノ之束がISを発明したことにより、箒は転校続きを余儀なくされた。

 束は家族と、妹と向き合わなかったことを後悔しているのだ。

 

 

「大丈夫ですよ。俺達、箒の友達ですから」

 

 

「ええ、箒さんは大事なお友達ですもの」

 

 

「あいつがうじうじしてたら引っ叩いてやりますよ」

 

 

「みんな……うん、お願いね」

 

 

 今度こそ部屋を出ていく。

 

 

「お優しい方ですのね、束さん」

 

 

「不器用なだけなんだよ、あの人は」

 




千冬さんの精神的苦痛が凄いことになってますが後ほど必ず救済します。
それと、千冬を介さずラウラのことを知る流れにしました。



あのオタク被れ軍人が早々に登場するかも……?
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