綾子†無双   作:はるたか㌠

1 / 20
スタイルを現在書いているものと揃えました。
その為、以前公開していたものに若干修正が入っています。




「うし、ログアウト、っと」

 

 カチッとマウスをクリックし、画面を閉じる。

 そして、大きく伸びをする。

 ゲーム好きのあたしが、今ハマっているのが、三国志を舞台としたオンラインゲー。

 ちょっと前まで名ばかりのブラウザ三国志ゲーもやっていたけど、実質ただのカード集めと作業ゲーで引退。

 で、今はこっちばかりを進めている。

 しかし、今日はちょっとやり込み過ぎたかな?

 時計は、既に午前二時を過ぎている。

 今日も朝練があるし、いい加減に寝ないとな。

 パソコンの電源を切り、ベッドに潜り込む。

 ではでは、おやすみ。

 

「……さま」

「…………」

「……しゅ……さま」

「…………」

「ご主人様、ねぇ、起きてん♪」

 

 ……?

 誰かがあたしを呼んでいる……らしい。

 あたり一面、靄がかかったように真っ白。

 

「あら、やっと起きたのねん♪」

 

 ……で、あたしの目の前に、巨木が立っている。

 ……じゃない、大男だ。

 全身ムキムキの筋肉に、何故かビキニパンツ一枚の。

 

「……い……」

「おはよう、ご主人様」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ、変態!!!!!!!」

「だぁれが、ムキムキマッチョで見るのも悍ましい変態ですってぇ?」

 

 そこまで言ってないし!

 てか、自覚してるのかこいつは。

 

「だ、だ、誰よ、アンタ?」

「うふ、よくぞ聞いてくれたわね。私は、貂蝉(ちょうせん)よ」

「ちょ、貂蝉? 貂蝉っていや……」

 

 さっきまでやっていた三国志ゲーのイベントに出てきた名前だ。

 え~と、確か董卓と呂布の仲を引き裂くために、身を犠牲にした絶世の美女……だったよな?

 ……うん、どこをどう見てもイメージが一致しないんですが。

 

「で、その自称貂蝉が、一体何の用?」

「あん、酷いわ酷いわ。あたしは正真正銘の、貂蝉よん」

 

 くねくねすんな、キモイわ!

 

「……で、もちろん用があるから来たのねん。ご主人様」

「その、ご主人様って何だ?」

「う~ん、詳しい事は話せないの、ごめんなさい。ただ、ご主人様はこれから、外史の世界に行って貰うの」

「外史?」

「そう。ご主人様、三国志の世界はご存知ね?」

「あ、ああ。あたしが知っているのは、ゲームの世界ぐらいだけど」

「概ね問題ないのねん、それでも。でも、外史の世界は、ご主人様が知っているのとは結構違うの」

 

 何を言っているのかわからないけど、貂蝉の目は真剣だった。

 

「でね、ご主人様にはその世界を救って欲しいの」

「世界を救う? なんであたしが?」

「それはおいおいわかると思うのねん。ただ、一つだけ注意しておく事があるから、それを聞いて欲しいのねん」

「注意?」

「そうよ。外史の世界では、『真名』というものがあるの」

「『真名』? 何だそりゃ?」

「その名のとおり、真の名前よ。ただし、外史の世界では命に等しい神聖なものねん。本人の許しなしに迂闊にそれを口にする事は、決して許されないものなの」

「…………」

「だから、相手を呼ぶときは、本人が許さない限り、絶対に真名は使っちゃいけないのねん」

「ふ~ん。じゃあ、あたしはどうすればいい?」

「ご主人様は真名がないから、そう言えばいいのねん」

 

 ……わからん。

 あたしが世界を救うとか、真名だとか。

 遠坂や氷室あたりなら、何か推定できるんだろうけど……あたしの頭じゃ無理だ。

 

「じゃあ、また会いに行くから、頑張ってねん、ご主人様♪」

 

 そして、ウインクをする貂蝉。

 うげ、吐きそう。

 ……と思った瞬間、あたりは光りに包まれ……あたしは意識を失った。

 

 

 

「……ん……?」

 

 鳥のさえずりで目が覚めた。

 なんか、変にリアルな夢を見た気がする。

 貂蝉とかいう変態に迫られるとか、どんな悪夢だよ。

 さて、朝練に……あれ?

 ベッドに寝ていたはずなのに、そこは地面の上。

 そして、あたりは……森?

 お気に入りのキュートなパジャマを着ていた筈なのに、何故か制服姿だし。

 おまけに、ご丁寧に通学カバンと愛用の薙刀、弓矢が隣に置かれている。

 とりあえず、誰かに連絡してみようか。

 ポケットを探ると、買い換えたばかりのケータイが入っていた。

 ケータイというよりもデジカメにしか見えない形状で、ソーラー充電タイプだから電池切れはあまり心配要らない。

 ……ただ、電話として使えれば、の話。

 液晶に映っていたのは『圏外』の表示。

 どんだけ田舎にいるんだ、一体?

 もちろん、メールもダメ、となれば……。

 しょうがない、とりあえず人を探しますか。

 持ち物一式を手に、あたしは立ち上がった。

 

 

 

 勘を頼りに歩いて行くと、やがて視界が開けてきた。

 ……で、何だここ?

 一面に広がる草原に、遥か向こうにそびえる小高い山。

 前に蒔寺の家で見た、水墨画みたいな風景。

 そして、空気がえらく澄んでいる。

 合宿で行った、高原の空気も爽やかだったけど、その比じゃない。

 ……ふと、人の気配を感じた。

 振り向いても誰もいない……いや、違う。

 大木の上に、誰かいる。

 

「……誰かいるのか?」

「…………」

 

 シュタッと何かが、目の前に降り立った。

 ……へ、忍者?

 あたしよりも小さいけど、その身長ほどの刀を背負い、脚絆に手甲を付けた、髪の長い女の子。

 

「よく気づきましたね。……何者ですか、あなたは」

「そりゃ、こっちの台詞だけど」

「…………」

 

 無言で、彼女は背負った刀を抜いた。

 殺気からすると、冗談ではないみたい。

 白刃が木漏れ日を受けてキラリ、と光る。

 

「ちょ、ちょっと。あたしは別にアンタと遣り合うつもりは……」

「…………」

 

 女の子は、剣を下げる気配がない。

 参ったなぁ、こんなところで殺陣をする気もないんだけど。

 でも、隙あらば斬りつけてくるのは、どう見ても間違いない。

 ……仕方ない、身を守るか。

 あたしは手にしたカバンを置き、弓矢を下ろした。

 そして、薙刀の包みを解く。

 その間にかかってくるかな、と思ったけど……待ってくれるのか様子を見ているのか、とにかく女の子は動かない。

 

「お待たせ。その前に……、名前を聞かせて貰えないか? あたしは、美綴綾子」

「……姓は周、名は泰、字は幼平」

「周泰、ね。なら、勝負!」

 

 同時に、周泰は横へ飛んだ。

 素早い動きだ。

 ……でも、あたしの目には、ちゃんと追えていた。

 そのまま横に払われる刀を、薙刀で受けた。

 ガキン、と金属同士がぶつかる衝撃が伝わってきた。

 

「……!!」

 

 彼女の目が、驚きで開かれた。

 が、それも一瞬。

 今度は突きを入れてくる。

 それをかわしながら、周泰の動きを観察。

 見た目の通り、パワーよりもスピードで勝負するタイプみたい。

 とは言え、その一撃はなかなかのもの。

 どう見ても真剣だけに、間違っても喰らう訳にはいかない。

 突きのラッシュをかわされ、彼女は一度間合いを取るべく、下がった。

 

「やりますね」

「アンタも。それだけ遣う奴は、久しぶりだよ」

 

 ヘルプで出場した剣道の全国大会でも、ここまでやる相手はほとんど覚えがない。

 ……当然だけど、その大会はあたしが優勝した。

 ただ、剣道はルールがあり、防具をつけて竹刀での試合だけど、今は違う。

 それだけに気は抜けないけど、あたしは緊張感と同時に、高揚感も味わっている。

 

「ですが、ここまでです!」

 

 そう言うと、周泰は素早く動き出す。

 そして、あたしの周りをぐるぐると。

 ……不思議な事に、あたしの目は彼女を見失う事が、なかった。

 動体視力にはそれなりに自信はあったけど、それにしても何かがおかしい。

 

「……そこっ!」

 

 あたしはその刹那、薙刀を一閃。

 ガンと大きな音と共に、周泰の刀が宙を舞った。

 

「あっ!」

 

 声をあげた彼女の喉元に、薙刀を当てる。

 

「勝負あったね」

「……の、ようですね」

 

 観念したように、周泰は目を閉じた。

 

「なら、あたしの質問に答えてくれるか?」

「…………」

「黙秘するのか。なら、ここは、どこ?」

 

 ……と、周泰が目を開いた……というか、驚いている。

 

「どこ、とは……?」

「いや、気がついたらこんな場所にいるんだけどさ。で、やっと人がいた、と思ったらいきなり襲われるし」

「…………」

「明命。そのぐらいにしなさい」

 

 と、草原の方から声がした。

 見ると、馬に跨った女性がひとり。

 ……いや、もう一人いる。

 ……二人とも、全く隙がない。

 

「雪蓮様、冥琳様!」

 

 周泰は、片膝を付く。

 どうやら、この娘の主人……かな。

 

「ねえ、あなた。名前は?」

 

 と、最初に声をかけてきた、桃色の髪をした女性。

 この中では、一番の遣い手と見た。

 

「あたしは、美綴綾子。アンタは?」

「私は、姓は孫、名は策。字は伯符よ。で、こっちは周瑜」

「……周瑜公瑾だ」

 

 今度は、あたしも即座に反応してしまった。

 

「……えーっ! 孫策に周瑜って、呉の小覇王に美周郎!?」

 

 と、孫策は不思議そうに、

 

「呉の小覇王? ねぇ冥琳、私、そんな風に呼ばれてるの?」

「さあな。私も美周郎とは……。幼平は聞いた事あるか?」

「わ、私も初耳です」

 

 あれ、人違いかな?

 ……ふと、気がついた。

 周泰も、呉の有力武将じゃんか。

 ……でも、何でみんな女性なんだろう?

 

「まぁ、いいわ。でもあなた、相当腕が立つわね」

 

 孫策は、何故か楽しそうだ。

 そして周瑜は……こっちも何故か、こめかみに手を当てている。

 

「明命を簡単にあしらうなんて、並の腕じゃ無理よ」

 

 確かにそうだろう。

 あたしも、何故あんなに簡単に勝てたのかが不思議なぐらいだし。

 

「雪蓮様、申し訳ありません。私の腕が未熟なばかりに」

「それは違うわよ、明命。わたし、ううん、母様でもその人に勝てるかどうかわからないもの」

 

 そして、孫策はあたしを見て、

 

「とりあえず、わたしのところに来ない? いろいろと聞きたい事もあるし」

「雪蓮! 不用心過ぎるぞ」

 

 周瑜は、あたしを警戒してるっぽい。

 まぁ、普通はそういう反応するよな。

 

「いいじゃない。これだけの凄腕、武勇伝も多そうだし。そのあたりも聞きたいなぁ、って」

「だが、どこかの間者かも知れんのだぞ」

「ん~。でも、悪い人には見えないのよね~。それに、わたしの勘が大丈夫、って言ってるし」

「ハァ~……」

 

 すると、周瑜、大きくため息を一つ。

 

「全く、言い出したら聞かない奴だ。ただ、雪蓮の勘働きは外れがないからな……。わかった、好きにしろ」

「わ~い、ありがとう。冥琳♪」

 

 孫策、満面の笑みだし。

 ……まぁ、このままいても途方に暮れるだけだし、申し出はありがたいんだけどさ。

 

 

 

 一向に連れられ歩く事、数時間。

 程なく、大きな城壁が見えてきた。

 

「うへ~、流石は孫策。大きな城持ってるね」

 

 すると孫策、微妙な顔つきで、

 

「残念だけどあれ、わたしの城じゃないの」

「我らは今、袁術の食客でな」

 

 周瑜も苦い顔。

 

「あれ? って事は、もう都が長安になったって事?」

「え?」

「は?」

「……あ、あの……。美綴、何の事でしょう?」

 

 一同が呆気に取られているけど……あたし、何か変な事、言った?

 

「……孫策、あのさ。変な事、聞いてもいい?」

「変な事って?」

「洛陽の井戸から、アンタのお父さん、何か拾ったりしてない?」

「父様が? 冥琳、知ってる?」

「いや」

 

 惚けている、という雰囲気でもない。

 

「ねぇ、何の事言ってるの?」

「あ、いや……」

 

 どうやら、武将が女性ばかり、というだけじゃなく、歴史もあたしが知っているものとは違うらしい。

 となると……迂闊な事は言えないな。

 未来から来たから知っている、なんて……どう考えても危険過ぎる。

 

「……。ごめん、いろいろと混乱してて」

「……そう。まぁ、今日はゆっくりと休む事ね」

 

 幸い、それ以上はツッコまれなかった。

 

 

 

「姉様、お帰りなさい」

「雪蓮姉様、お帰り~」

 

 城下町を過ぎ、城門のところで、よく似た二人の女の子が出迎えていた。

 ちょっと雰囲気こそ違うけど、どうも姉妹っぽい。

 

「ただいま、蓮華、小蓮。変わった事はない?」

「はい。……それより、その者は?」

 

 蓮華と呼ばれた娘が、訝しげにあたしを見る。

 ……まぁ、バリバリ不審者なのかもね、あたし。

 

「じゃ、自己紹介して貰える?」

 

 孫策に促され、あたしは頷いた。

 

「美綴綾子。字とかなくて、姓が美綴で、名が綾子ってんだ。よろしく」

 

 すると一同、ほぉ、という感じ。

 

「字もないのか。では、この大陸の生まれではないのか?」

「そうなるかな。生まれ、って意味では東の島国出身になるけど」

「東の島国? すると、蓬莱の国か?」

 

 う、知らん、その名前は。

 

「どうだろう? ただ、地理的に言えばそうなる」

「……そうか。私は姓は孫、名は権、字は仲謀だ」

「シャオは孫尚香だよ!」

 

 孫権に孫尚香、か。

 孫権は言わずもがな、孫尚香は確か……ああ、劉備と結婚するんだっけ。

 どうやら、性別が皆逆、という訳じゃないんだな。

 

「とにかく、今日はもう休むといいわ。明命、部屋に案内してあげて」

「はい!」

「それじゃ美綴、また明日ね」

 

 孫策はそう言って、城の中へ。

「では美綴様、どうぞこちらへ」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 

 

「では、何かあれば呼んで下さい」

「わかった」

 

 バタンとドアを閉める。

 ベッドと机だけしかない、シンプルな部屋。

 もっとも、外には人の気配。

 まぁ、見張りを立てるのが当然だろうし、気にしててもしょうがない。

 ドサッと固いベッドの上に、あたしは身を投げ出す。

 

「ハァ、何がどうなってるんだか」

 

 あの筋肉達磨の言う通り、あたしは三国志の世界に来ちゃったらしい。

 ただ、出会う武将は皆女性ばかり。

 城下町にいた人は男もいたから、女性だけの世界、って訳でもなさそうだけど。

 あたしもゲームを通してだけど、ある程度の知識は持っているつもり。

 ……でも、歴史からしてそもそもが違っている。

 

「一体、あたしに何をさせようってんだろうねぇ……」

 

 疲れていたあたしは、そのまま目を閉じた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。