グレンデルを倒した俺━━ロイはフードの男を睨みつける。
男は中身がスクランブルエッグのようになったグレンデルの頭部の右半分を見るとため息を吐き、俺に視線を送ってきた。
「流石、
『━━ッ!?』
男の言葉にソーナたちは目を見開いて驚き、俺を見つめてくる。
俺はそれを感じながらも男に言う。
「……俺に
俺の問いに男はフードを取り払い、素顔を見せて答えた。
フードが取り払われると、そこにあったのは銀髪の青年の顔だった。そして、俺の思い浮かべていたヒトの面影を感じさせる。
「皆様、初めまして。私はルキフグス。ユーグリット・ルキフグスです」
………やはり、奴から感じたオーラの質はあのヒト━━グレイフィア
俺はユーグリットに訊く。
「………で、『
「それはいずれわかりますよ」
ユーグリットは目を細めながら答えた。
その言葉にソーナは何かを得心した様子で言う。
「………なるほど、この町に侵入し、魔法使いを招き入れたのはあなたですね?グレイフィア様と同質のオーラを有する者であれば、結界を通過できてもおかしくはないのかもしれません」
なんてガバガバな結界だ………。これから心配になるぞ………。
俺が一人、的外れなことをを考えていると、ユーグリットが冷淡な声音になった。
「姉に、グレモリーの従僕に成り下がったグレイフィア・ルキフグスに伝えておいてください。━━━あなたがルキフグスの役目を放棄して自由に生きるのであれば、私にもその権利はある、と」
ユーグリットはそれだけを告げると、グレンデルの頭部の右半分と共に転移魔方陣の光に包まれて消えていった…………。
ユーグリット、あいつの上にいるのは誰だ………?ここまで大掛かりなことをする旧魔王の残党なんてほとんどいないはずだ。なら、別の誰かだよな…………。
俺があごに手をやって思考を巡らせていると、フィールドの端々が崩れ始めた。
すると、謎の力を使ったギャスパーは再び倒れてしまった。今度こそ限界のようだ。
「とにかく脱出だ!ソーナ、朱乃、転移の準備頼む!」
「はい!」
「わかりましたわ!」
二人は返事をすると、俺たちを囲むように転移魔方陣を展開し始める。ギャスパーは小猫が回収していた。
すると、レイヴェルが手元に小型魔方陣を発生させて培養カプセルのほうに放っていく。その魔方陣はカプセルに当たると、一度輝いてから消えた。
「……せめて、これぐらいはさせてもらいますわ」
そうか今のは……、
「そんじゃ、俺もやっておくか」
俺も小型魔方陣をカプセルに飛ばす。
これでマーキング完了だ。
ソーナと朱乃がそれを確認すると俺たちは転移の光に包まれる。
………兄さん、これは今までにないほど面倒なことになりそうだぞ………。
あの後すぐさま脱出に成功した俺たちは駅の中にいた。
なぜ駅の中にいるかというと、あの空間から出ると駅の悪魔専用ホームだったのだ。
拉致されている間に時間の感覚がおかしくなっていたのか、数時間しか経っていないと思ったのにもう朝日が登り始めていた。
まあ、偽フェニックスの涙のカプセルは回収出来なかったが、俺とレイヴェルでマーキング魔方陣をつけたからそのうち回収出来るだろう。
俺がそんな事を考えているとレイヴェルが駆け寄ってくる。
「ロイ様!よろしいですか?」
「レイヴェルか、どうかしたか?」
「調べられた時の魔方陣、覚えていらっしゃいますか?」
「ああ」
レイヴェルは俺が頷くと一枚の紙を見せてくる。それには一つの魔方陣が描かれていた。
「この魔方陣であっているでしょうか?」
あの時のか。ユーグリットにやられたから違うものかもって思ったが、意外に同じだったようだ。
「ああ、大丈夫だ。覚えていたのか?抜かりないねぇ」
「ふふ、当たり前です。このレイヴェル・フェニックス、ただでは起き上がりませんわ!それではイッセー様の所に行ってきますわ!」
どこかに走っていくレイヴェル。先ほどまで泣いていたのが嘘のように、瞳には自信が満ち溢れていた。………あの子は立派になるな。
俺がそう考えていると、
「レイヴェル!無事か!?」
そんなレイヴェルの兄が来ていた。
「ライザー遅いぞ。もう終わった」
「何ですと!?」
ライザーは驚いているが実際終わっているしな………。
と言っても、何だかんだで来てくれるとは妹思いな奴だ。
いい兄さんがいるな、レイヴェルは。俺もいるけどさ。
………これからどうなるんだ?なあ、兄さん、義姉さん………。
あれから数日。
俺は自室でセラと連絡を取っていた。映像に映るセラの顔はいつになく不安そうだ。
なかなか口を開かない彼女に変わり、俺から話題を切り出す。
「……で、俺はどうなる?」
『あなたの元部下の二人と、アジュカちゃんが送り込んだヒトに話を聞いて、あなたがユーグリットと接触した可能性は低いと判断されたわ』
あいつらにも話を聞いたのか。まあ、ある意味こういう時に活躍してもらわないとな。
俺が黙って続きを待っているとセラが言う。
『それで、あなたには任務をお願いすることになったわ』
「………『ユーグリットの捕縛、もしくは殺害』、だろ?」
『…………ええ』
俺は息を吐いた。要は身の潔白を自力で証明してみせろってことだ。
だが、それが結果的に義姉さんのためになるっていうのなら、多少の危険は軽いもんだな。
「了解。久しぶりの任務になるが、任せとけ」
『お願いね。それと、また腕輪をつけてもらうことになったわ』
「今度は連絡用じゃなくて『監視用』だろ?」
俺の返しにセラは頷くと腕輪が送られてきた。
『今回は位置情報が送られる仕組みよ。通信もできるようになっているから』
俺は無言で腕輪をつけ、感触を確かめる。相変わらずサイズピッタリだ。十年間つけていたのだから、懐かしさを感じる。
俺が昔の任務を思い返していると、腕輪が透明になって見えなくなった。
『教師をしているってことで、いちおうの配慮よ。大丈夫?キツくない?』
「ああ、問題ない。すまないな、色々と追加させちまって………」
俺が謝るとセラは小さく笑い、最後に言う。
『ロイ、一日でも早くユーグリットを捕らえて。グレイフィアさんのためにも………』
義姉さんはグレモリー城に軟禁されているそうだ。それを考えると、俺はまだマシなほうなんだな………。
なら、義姉さんのためにも頑張らねぇと…………!
「ああ、任せとけよ」
俺の言葉にセラは頷くと「じゃあな」と一言伝えて連絡用魔方陣を解除する。
俺は透明になった腕輪を撫でると再び姿を現した。
………これをつけていると、嫌でも頭が任務モードになる。昔から染み付いた、癖のようなものか………。
俺はそんな事を思いながら背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。
ユーグリット、俺は何としてもおまえを捕らえる………ッ!
俺は一人、自室で静かに覚悟を決めたのだった━━━。
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