あれから車で二時間ほど移動し、今度はカーミラ側が用意してくれていたゴンドラでツェペシュ側に移動する。
そのゴンドラの中で最初はイリナとゼノヴィアが低レベルの口喧嘩をしていたが、イッセーの一言で話題が変わった。
「ロイ先生、シトリー出資の学校が建てられるって知っていましたか?」
「イッセー、逆に知らないと思うか?」
イッセーの問いに俺は答えてため息を吐いた。前にセラから聞かされたが、耳にタコができるとはあの事だろう。
現在、ソーナの夢である『誰でも通えるレーティングゲームの学校』の第一号が建てられているそうなのだ。
俺の返しにイッセーは少し同情的な顔になる。
「それもそうですね………」
「そういえばロスヴァイセ。確か教師にならないかってオファーされたんだろ?どうするんだ?」
聞いた話だが、ロスヴァイセはその学校の教師にならないかと誘われたそうなのだ。
ロスヴァイセは俺の問いに難しそうに眉を寄せた。
「まだ考え中です。断る理由もなかったものですから。教員になって、ヒトにものを教えることが楽しいと思えているのも事実ですからね。今度、その学校が建ったら見学に行こうと思っています。そのためにも今回は穏便に済めばいいのですが」
俺も見学に行きたいが、今はなかなか面倒な立場だからな。行けるかは微妙なところか。さっさと任務を終わらせて絶対に見に行くがな………。
「皆で無事に帰還できたら、今度その学校を見に行きましょうか」
イッセーがそう言うとロスヴァイセも笑顔で頷いていた。
こういう話題にすぐさま反応して来そうなアザゼルは、
「なるほど、では冥府は━━━」
《まあ、クソ親父とハーデス様の考えることなんざ━━》
「━━━で、ルガールのほうもそちらの業界はどうなんだ?」
「………今回の騒ぎは静観を決め込んだようだ」
「そうか。確かにおまえさんの━━━」
小難しい会話をしていた。気になるが、このタイミングで入っていくと話が詰まってしまいそうだからやめておこう。
その後もゴンドラ内で各々がリラックスを心掛ける。緊張のし過ぎては体に悪いからな。
もうすぐ到着というときにアザゼルが話しかけてくる。
「ロイ、いいか」
「何だ?」
「向こうに到着したらルガールとベンニーアには別行動をさせる。町の偵察と脱出ルートの確保をしてもらう予定だ」
アザゼルはそう言うとイッセーに目を向けた。
俺は頷き、アザゼルに返す。
「わかった。イッセーには俺からも言っておく」
「ああ、頼んだ」
正直言うと別行動させるのは心配だが、ここは二人を信じるとしよう。万が一の時に備えておかないとな。
ゴンドラに揺られること三十分。
山をいくつか越えて、ついにツェペシュ側のゴンドラ乗り場に到着した。
到着早々俺たちの前に吸血鬼が数名現れる。そいつらは俺たちを確認すると訊いてきた。
「アザゼル元総督とロイ・グレモリー様、そしてグレモリー眷属の皆様ですね?我らはツェペシュ派の者です」
俺たちは無言で頷く。それを確認した吸血鬼は紳士的に招き入れる姿勢で述べた。
「こちらへどうぞ。リアス・グレモリー様はツェペシュ本城でお待ちです」
クーデター後なのに随分あっさり通してくれるんだな。
それにしても、リアスたちはツェペシュ本城にいるのか………。ヴラディ家から移されたんだろうな。
俺がそんなことを考えながら早速移動し始める。
ゴンドラ乗り場を出るとそこには豪華な装飾が施された馬車が止まっていた。これで城まで直行って事だろう。
するとイッセーがキョロキョロし始めた。
俺はすぐさまイッセーに近づいて小声で話す。
「(ルガールとベンニーアは別行動だ。いざってときの脱出ルートの確保に行って貰ってる)」
イッセーはそれを聞くと驚きながらも無言で小さく頷いた。
まぁ、音もなく仲間二人が消えてたら困惑するよな。ゴンドラの中で話しておけば良かったな。
二人がいない事に吸血鬼たちも気づいたようで戸惑いの声が上がり、上に報告していたが、客分である俺たちの方が優先されたらしく、渋々馬車に乗るように促してきた。
俺たちも頷き合い、馬車に乗り込んでいく。
ようやく目的地か。遠かったな………。
とりあえずリアスたちは無事だろうか?ルガールとベンニーアのことも心配だ。
俺はそんなことを考えながら馬車に揺られるのだった。
城までの道中窓から町の様子を見ていたが、クーデターがあったとは思えないほど静かで住民たちの様子も普通だった。
アザゼルが言う。
「おそらく、住民に知られないよう最低限の行動でクーデターを成功させたんだろう。となるとだ。謀反を起こした連中は内政の深くまで話をつけていたと見える。聖杯を餌にしたんだろうな」
住民に知られないようにクーデターを起こし、成功させたのか………。今回の戦いは今までとは違う意味で面倒そうだな。
俺がそんなことを考えているうちに馬車は町を抜けて城に入ろうとしていた。
巨大な正門の壁が上に上がり、馬車が入城を果たす。
城の大きさはグレモリーのものと同じぐらいにでかい。石造りの古めかしい感じであり、独特のオーラを城全体から醸し出していた。
馬車の降り口で下車し、俺たちは城の中を進んでいく。
そして明らかに玉座に続くという感じの両開きと思われる扉だ。そしてこういう扉のお約束のように見事なレリーフが刻まれている。
「ここでしばしお待ち下さい」
案内をしてくれた執事が告げる。
それから数分ほど扉の前で待つ俺たちの耳に、たかが数日ぶりなのに懐かしく感じる声が聞こえてきた。
「イッセー!皆!」
その声に反応して全員がその声の主の方を見るとそこにはメイドに付き添われたリアスとその後方に木場がいた。
誰よりも先にイッセーが近づきいていった。
「リアス!無事でしたか?」
イッセーの質問にリアスは笑顔で頷いていた。とりあえず無事なようで何よりだ。
「なんとかね。……クーデターのことは察知したようね。アザゼル」
アザゼルは頷き、そして訊く。
「何か起こるだろうなと思ってこいつらを召喚して、ここまで連れてきた。文句はないだろ?」
「そうね。私もどうにかして呼ぼうと思っていたから。ただ、この城に軟禁されていて、動けない状況だったのよ。けど、王にお招きいただいた割に今の今まで謁見はなかったわ。そうこうしているうちに先程『お客様が来たからついてきてほしい』と言われて……ここに来たというわけ」
クーデター中もリアスたちに何かあったってわけでもなさそうだ。
俺は木場に確認する。
「木場、何もなかったみたいだな」
「はい。拍子抜けするほどでした。僕にも部長にも火の粉はかかりませんでしたよ。こちらに手を出すほど暇ではなかったのかもしれません。今までは、ですが」
木場はそう言うと扉の方を見る。
客分全員とまとめて謁見する気なのんだな。
扉の両脇にいた古い鎧に剣という、王に仕える騎士のような格好をした兵士たちが俺たちを確認すると言う。
「では、新たな王への謁見を━━━」
そう言うと彼らは扉を開けていく。重々しい音を響かせながら、扉が開かれた。
アザゼルが最初に入り、少し遅れて俺が、そのあとにリアスたちの順番で入室する。
広い室内。下に敷かれた絨毯は真っ赤で、扉のレリーフと同じデザインの刺繍が金色に輝いていた。
絨毯の先の一段高いところに玉座が置かれていた。
その玉座に座っているのは若い女性。その玉座から少し離れた位置に見た目は若い男性も列席している。男性の方はまったく生気を感じない。つまりは純血の吸血鬼というわけだ。
この広い室内には今確認した二人以外にも兵士数名と中性の貴族を思わせる服を着た者も数名、つまり部屋の大きさに比べてここにいる人数は少ない。
こういうときは色んなやつが集まって、俺たちを囲んで色々と小言を言ってくると思ったんだがな。ここまで少ないと静かでいいな。
と言っても、ここにいるのはクーデターに参加して立場が約束された連中だろうがな。
『
俺はそこまで考えると、玉座の目の前についたので姿勢を正す。
玉座に座っているのは砂色の色合いが強いブロンドを一本に束ねた女性だ。シンプルなデザインのドレスに身を包み、やさしそうな微笑みを浮かべていた。
年はリアスと同じか少し上のように見える。彼女からは血の通った美しさを感じた。彼女がハーフだからこそなのだろう。いつも通りなら第一印象はここで終わっているのだが、今回だけは少し切なさを感じた。
彼女の赤い瞳は虚ろで輝きを失っていたからだ。
ただそれだけのことなのに彼女から感じる儚さがそうさせたのだと思う。
そんな彼女が挨拶をくれる。
「ごきげんよう、皆様。私はヴァレリー・ツェペシュと申します」
ヴァレリーはそう言いながら微笑むが先程感じた儚さをより強くさせるだけだ。
「あ、えーと、一応ツェペシュの現当主━━━王様をすることになりました。以後お見知りおきを」
声音はとても軽やかなものだ。だが視線は朧気で俺たちの誰にも正確に捉えていない。ただ一人だけ、見知ったヒトにだけ視線を定める。
「ギャスパー、大きくなったわね」
ギャスパーに話しかけるが当のギャスパーは悲壮な表情を浮かべていたが、無理矢理笑顔を作りヴァレリーに返す。
「ヴァレリー……。会いたかったよ」
「私もよ。とても会いたかったわ。もう少し近くに寄ってちょうだい」
ギャスパーはそう言われてヴァレリに近づいていく。それを兵士も側近も止めようとしなかった。
ヴァレリーはギャスパーを抱き寄せると一言漏らす。
「……元気そうで良かった」
「うん。悪魔になっちゃったけど、僕は元気だよ」
「ええ、そのことは聞いてるわ。あちらでは大変お世話になったそうね」
「うん。友達や先輩もできたんだ。もう一人じゃないよ」
ギャスパーの視線がイッセーたちの方に向けられる。ヴァレリーもイッセーたちを見て微笑んだ。
「まぁ……ギャスパーのお友達なのですね。……あら」
ヴァレリーは突然誰もいない方向を見る。
「-------。------」
すると聞いたこともない言語で誰かに話しかけていた。
悪魔の能力の一つである言語翻訳が機能しない。つまり、どこの言葉でもない何かを彼女は話しているということだ。アザゼルが聖杯関係のことでそんなことを言っていたな。
俺がそんなことを考えていると突然ヴァレリーが顔を輝かせた。
「そう、そうよね。私もそう思うわ。え?………けれど、それはまだ………-------。------本当?そうよねぇ………-----」
誰もいない空間と話続けるヴァレリーにギャスパーは戸惑いの表情となっていた。
アザゼルが呟く。
「……おまえたち、あれを真っ正面から捉えるな。聖杯に引っ張られる。教会出身のやつは視線を外しておけ」
それを即理解したアーシア、ゼノヴィア、イリナは視線を床に移していた。
俺がアザゼルに確認をとる。
「あれが聖杯を使いすぎた時に出るっていう副作用とか言うやつか?」
「そういうことだ。詳しくは後で説明する」
パンパンと手を鳴らされた。音の発生源はヴァレリーの近くにいた見た目は若い男性吸血鬼だ。
「ヴァレリーその方々とばかり話していては失礼ですよ?きちんと王として振る舞わなければなりません」
「そうでした」
ヴァレリーは笑顔で相づちを打ち続ける。
「うふふ、ごめんなさい、皆さん。でも、私が女王様である以上、平和な吸血鬼の社会が作れそうなの。楽しむよね。ギャスパーもここに住めるわ。誰もあなたや私を虐めることなんてしないもの」
今の発言はどう考えても本心からではなく、いいように騙されているとわかるものだった。
彼女は心も
「………ヴァレリー……」
ギャスパーは彼女を見てただただ涙を流していた。
アザゼルが若い男性吸血鬼を睨んだ。
「よくもまぁここまで仕組んだものだ。それを俺たち堂々と見せるたぁ趣味が悪すぎだ。お前さん、この娘を使って何がしたい?見たところ今回の首謀者はお前さんなんだろう?」
それを聞いた男性吸血鬼は醜悪な笑みを浮かべた。
「首謀者といえば、そうなのでしょうね。おっとご挨拶がまだでした。私はツェペシュ王家、王位継承第五位マリウス・ツェペシュと申します。暫定政府の宰相兼
こいつがヴァレリー・ツェペシュの兄、ね。今の発言は間違いなく嘘だろうから、本心は、本当の目的は何だ?やはり弱点のない完璧な生物になりたいのか?
「……こっちがカーミラ側と接触しているのは知っているな?ここまで招き入れて良かったのか?」
俺の質問にマリウスは肩をすくめてから答える。
「新政府は相手が誰であろうと友好的に交渉をしていくというスローガンを………。半分冗談ですが。正直な話、私は政治など、興味はあまりありません。それはクーデターに乗った私の同士に任せるだけですので。ただ、今回はヴァレリー女王があなた方に会いたいとおっしゃったものですし、私もあなた方に興味があったのですよ。何せ協力者からよくお噂を伺っているものですから」
そこまで聞くと次はアザゼルが質問をする。
「それはこの際置いておく。主犯のお前さんに訊こう。なぜクーデターを起こした?あの野郎の立案か?」
核心に迫ろうとするアザゼルの発言に吸血鬼たちがどよめくが、マリウスだけは平然として答えた。
「私は聖杯が好き勝手できる環境を整えているだけです。ヴァレリーの聖杯は興味の尽きない代物でして、色々試させているのですよ。本当にそれだけでしてね。なので邪魔者には退陣してもらいました。あの野郎とは、あの方を指しているのでしょうが……今回の行動は我々が起こしたことです」
…………こんな野郎のために国の内部が滅茶苦茶になってるのか。
ヴァレリーはそれを聞いても笑顔を崩さなかった。完全に彼女の心まで操っているようだな………。
今の発言で貴族と思われる吸血鬼たちもざわついた。
「マリウス殿下、それは今ここで話すべきことではありませぬぞ!」
「こ、ここは仮にも謁見の間です!ざ、暫定の宰相といえど、それ以上のことは謹んでいただきたい!」
「相手はグリゴリの元総督と魔王の弟君、グレモリー家の次期当主なのですから、今の発言を総意と取られてしまうと我々の立場がありませぬ!」
回りの連中が慌ててたしなめようとしているが当のマリウスは、
「これは失敬。早く宰相の任を解いてもらいたいぐらいです」
と言って苦笑いをすると共に皮肉を言っていた。
そんな態度の男一人に誰も強く言っていかない。この状況を見るに、やはり主犯はあいつ………。
イッセーたちも嫌悪の感情をマリウスに向けていた。
「……ヴァレリー・ツェペシュは解放できないというのね?」
リアスがそう訊くが、マリウスはただ一言、
「当然です」
と返すだけだった。
「話し合いは無駄だよ、リアス部長」
今まで見たことのない程冷たい表情のゼノヴィアがデュランダルを取り出そうとしていた。
「ゼノヴィアやめろ。相手は『仮にも』宰相だ」
俺が止めようと発言すると共に若干の皮肉を挟んでおく。
マリウスはそんな俺たちを見て平然と笑みを浮かべるだけだった。
「怖いですね。では、ボディーガードをご紹介到しましょうか。私が強気になれる要因のひとつをね」
マリウスはそう言うと指を鳴らす。その瞬間俺たちを悪寒が襲った!
『━━━ッ!』
巨大な何かに、それこそ二天龍との戦いで感じたような圧倒的なまでのプレッシャーが放たれたのだ。
俺たち全員がそのプレッシャーを放つ存在に視線を向ける。
そこには黒いコートを着た長身の男性が一人、柱に背を預けていた。
金と黒が入り乱れた髪、右目は金で左目が黒のオッドアイが特徴の男性だ。
その男は俺たちを一瞥したあと視線を床に落とした。
その瞬間、俺たちを襲ったプレッシャーを感じなくなる。
「明らかに一人だけ次元が違うな。感じ的には吸血鬼じゃない。ドラゴンか何かだろ、あれ………」
俺の言葉に返すやつはいない。それほどまでに今のプレッシャーが強烈だったのだ。
俺たちが何も言うことが出来ないなかマリウスが再度パンパンと手を鳴らした。
「今日はここまでにしましょうか。お部屋をご用意しています。皆様もしばしご滞在ください。それとヴラディ家の当主様もこの城の地下室に滞在しておりますのでお会いになるとよろしいでしょう」
謁見はその言葉と共に終わりを迎え、俺たちは退室を余儀なくされた。
マリウス・ツェペシュ………。あいつが今回の首謀者でヤバイ奴ってのはわかった。
黒ずくめの男を視線に捉えつつ、俺たちは王の間を後にしたのだった━━━。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。