転移の光が止み、視界が回復すると━━━そこは夜の城下町だった。俺たちは町を一望できる塔の頂上に飛ばされたようだ。
そこから見えるのは、空中を飛び回り火炎を吐き出す邪龍たちの姿。
ここままだと、壊滅は時間の問題だ…………。
俺は怒りを抑えるように歯を食い縛り、上空のリゼヴィムを睨み、横のヴァーリはリゼヴィムに怒鳴る。
「リゼヴィムッ!」
「やっほー、ヴァーリきゅん♪お祖父ちゃんが遊んであげるぞい☆肩たたきしてくれると嬉しいな!」
空を飛ぶリゼヴィムはリリスを脇に抱えてこちらに手を振ってきていた。ヴァーリは光翼を展開し、リゼヴィムのほうに飛び出していく
「おい、ヴァーリ!」
アザゼルが制止の声をあげるが、ヴァーリはそれを無視してリゼヴィムとの戦いを始めてしまう!
殺したい相手の挑発でいつもの冷静さを欠いてやがる!
「アザゼル!悪いが俺もリゼヴィムに行くぞ!下手したらヴァーリが殺されかねねぇ!」
俺が翼を展開させながら言うと、アザゼルは小さく舌打ちをしてから頷く、
「チッ!人手が欲しいところだが、ヴァーリを頼む!」
「ああ!」
俺が飛び出そうとすると、リアスが俺を呼び止める。
「お兄様!フェニックスの涙を━━━」
俺は懐に手をいれるリアスを手で制し、強がるように笑みを浮かべてリアスに言う。
「リアス、それは住民に使ってやれ。俺は大丈夫だ」
リアスにはそう言うが、相手は格上もいいところの化け物だ。最悪おれは━━━━。
「ロイ、東門の地下にシェルターがある!そこに住民を避難させておくから、終わったらすぐに来い!」
思考を切り上げてアザゼルの言葉に頷き、空中で戦うヴァーリとリゼヴィムのほうに向かう!
俺がリゼヴィムに向かって飛び出していく中で、ヴァーリがリゼヴィムに蹴り飛ばされ下の建物に叩きつけられた。
ヴァーリをあっさり蹴り飛ばすとは、腐っても超越者ってことか…………!
左手に保持していた銃剣の銃口をリゼヴィムに向け、フルオートで連射。手に魔力を溜め、ヴァーリに追撃を放とうとしていたリゼヴィムを牽制する。
リゼヴィムはそれを察知し、ヴァーリに放とうとしていた魔力をこちらに放ってきた!
リゼヴィムの一撃はあっさりと銃弾を飲み込み消滅させると、その勢いのまま俺に向かってくる!
「━━━━━━━ッ!」
突撃の勢いを殺さず、体を捻ってギリギリでそれを避ける。銃剣の刃に魔力を込め、大上段から振り下ろす!
リゼヴィムは空いている手に魔力を込め、手刀を作ってそれを受け止めた!
リゼヴィムは嬉々としながら言う。
「ん~♪
リゼヴィムは腕を振り抜いて銃剣を押し返し、そのまま突きを放ってくる!
「チッ!」
舌打ちをしながら右手に長刀を生成、その一撃を受け流してそのまま斬りかかる!
リゼヴィムの腕は伸びきって戻せていない!これは━━━入る!
俺の確信にも似たそれは、リゼヴィムが抱える女の子━━━リリスによって長刀もろとも粉砕された。
儚い破壊音が耳に届き、俺は目を見開かせながら驚愕した。
脇に抱えられた体制から一撃入れてくるのかよ……ッ!
リゼヴィムが手刀を振り抜こうとすると、下から魔力の塊が上昇してくる!
「━━━まだだ!」
ヴァーリがようやく復活したようで、こちらに向かって急上昇してきていた!
俺は素早くその場を待避、その瞬間にヴァーリの放った一撃はリゼヴィムに直撃。奴に大ダメージを与える!
━━━━ことはなく、イッセーのドラゴンショット同様に霧散してしまった。
『
銃剣を変形させて剣モードに移行、長刀との二刀流の構えを取り、ヴァーリと肉弾戦を繰り広げるリゼヴィムに突貫する!
瞬時に間合いを詰めリゼヴィムに剣撃を放っていくが、リゼヴィムは俺とヴァーリのラッシュを的確に避け、反撃の一撃を放ってくる!
反撃をギリギリで避けつつ斬りかかっていくが、いつも通りとはいかない。
横でがむしゃらにリゼヴィムに拳を放っていくヴァーリが『邪魔』だ!先ほど同様、いつもの冷静さを欠いているこいつに連携を求めることが自体がお門違いか!
ついにヴァーリが顔面を殴り飛ばされ、俺も腹を蹴り抜かれた!
「━━━━━かはッ!」
体をくの字に曲げ、肺の空気を吐き出しながら吹き飛ばされた!
翼を動かして無理やり姿勢を制御。家屋への激突を避ける。
剣を銃剣に戻し、リゼヴィムに発砲。吐き出された滅びの弾丸がまっすぐ突き進んでいくが、リゼヴィムの手刀に弾かれる。
ダメ元で撃ち続けながら間合いを詰めていき、長刀に魔力をさらに込める。
ここまで力の差があるとどうにもならねぇ。一撃にすべてを懸ける━━━ッ!
魔力を溜め終えた瞬間、射撃を止めて一気に間合いを詰める!
リゼヴィムが魔力弾を放ってくるが、縦横無尽に動き回って全てを避け、長刀を右肩に担ぐように構えを取り、間合いに入った瞬間に上体の捻りを加えて一気に振り抜く!
今の俺の全力。これがダメなら━━━━。
「舐められたもんだね~」
パリン………………。
「━━━━ッ!」
リゼヴィムが軽口を叩きながら手刀でそれを粉砕。砕け散る儚い音が俺の耳に届いた。
その矢先、視界が一瞬霞んだ。ま、まずい………。魔力が━━━。
砕け散った長刀が霧散。それと同時に左肩に激痛が走った!
「ぐ……………!」
霞んだ視界が痛みにより再び鮮明になる。
リゼヴィムの抜き手の一撃が肩を抉っていた………。
それを視認した瞬間、一気に左腕から力が抜け、保持していた銃剣がこぼれ落ちる。
それをすぐさま拾いに向かい、リゼヴィムとの間合いをあける。
右手で地面に落ちた銃剣を拾い上げ、剣モードに切り替える。右拳で左肩を押さえながら荒れた息を整える。
「はぁ…………はぁ……………」
息を整えながら、思考を巡らせる。
銃剣を使おうにも魔力がない。斬りにいったとしても、魔力切れで動きが悪い。どうする━━━━!
俺がそう思慮したとき、リゼヴィムが地面に降り立つと同時にリリスをこちらに放ってくる。
「リリスちゃん。重い一撃、頼みます!」
「━━━━━━ッ!」
俺はすぐさま回避行動にに移ろうとするが、もう遅かった。
リリスが見た目はかわいらしい動作で拳を放くる!その一撃は俺の腹部を的確に捉え━━━━。
グシャッ!
「━━━━がッ!」
何かが潰れる音と共に異常なまでの衝撃が全身を駆け巡り、大量の血を吐くと同時に吹き飛ばされた。
数えることがバカに思えるほどの建物をぶち抜いていき、水切りの石のように地面を跳ねながら再び壁に背中から激突。それでもようやく止まる。
…………城壁かなにかまで吹き飛ばされたか…………?
壁に軽くめり込んでいる体を無理やり動かそうとするが━━━━、
「ッ!」
全身に激痛が走り、うつ伏せに崩れ落ちる。これは、命にかかわるもの以外の全身の骨が折れてやがるのか…………?剣も落としちまったみたいだ…………。
うつ伏せに倒れたまま、いつになく荒れた息を整えようとする。だが、息をするたびに胸が、肺がいてぇ…………。
息をするたびに表情を苦痛で歪ませていると、
「ゴボ!」
息の代わり血を吐いてしまった。
肺に骨が刺さってやがる…………。
なぜか冷静でいられる自分に驚きながら、霞む視界に映る銀髪の男を睨む。
「お、生きてる?リリスちゃんが加減してくれたのかな?動けない?死にそう?なら結構」
身動きの取れない俺の近くに、銀髪の男━━━リゼヴィムが降り立った。
━━━━━
ヴァーリチーム、黒歌はツェペシュ領に突如として現れた邪龍を蹴散らしながらリーダーを探していた。
チーム全員で相手をしていた聖十字架の使い手は邪龍の出現と共に撤退していた。
ならば、リーダーと合流し、現状を確認したほうがいいだろう。チームの面々もそれを承知し、それぞれが町に散った。
邪龍が大量に出現したせいか仙術による探知の効きが悪く、文字通り足で探していた。
(やれやれ、どうしたもんかにゃ)
ヒトがいない事をいいことに盛大にため息を吐く。この際
「…………ん?」
黒歌の耳に遠くから何かが崩れる音が届く。その音は少しずつ近づいてきており、黒歌が警戒態勢に入った瞬間━━━、
「━━━━━え?」
黒歌の目の前にあった建物を爆音に似た音と共に粉砕し、紅髪の男性━━━ロイが飛び出してきたのだ。彼は黒歌に気づくことなくそのまま吹き飛ばされていく。
黒歌は間の抜けた表情になっていたが、彼女の足元にロイが使っていた剣が落下した音を合図に表情を引き締める。
彼の強さはある程度理解している。そんな彼が、いったい誰を相手にすれば━━━━。
思考した矢先、黒歌のはるか上空を一つの気配が通り過ぎていく。ヴァーリに似ているが、彼とは根本的に違う邪悪な気配。
その瞬間に理解する。おそらく相手はヴァーリの祖父、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーだ。それならば彼が負けることもあるだろう。
問題は、そのリゼヴィムがロイのほうに向かっていることだ。このまま行けば、彼は確実に殺させるだろう。
足元に落ちた剣を拾い上げ、思考する。
(助けに行ったってどうにもならないし、私も殺されるかもしれない)
『そのヒトに何かあったら、部長に会わせる顔が━━━』
いつかに妹に言われた言葉が脳裏によぎる。
彼が死んだら、彼の周りにいたヒトたちが泣くだろう。そこには妹も含まれる。それに━━━。
「大事な種の持ち主だし、ここで恩を売っておきますか」
自分に言い聞かせるようにそれを口にし、ロイが飛ばされた方向に駆け出した。
その震える手を、できるだけ気にしないように━━━。
━━━━
血まみれで倒れるロイを見下ろし、リゼヴィムは笑む。
左腕はあげられなくなり、右腕も曲がってはいけないほうにまで曲がっている。両足は見た目は無事だが、骨にヒビが入っていることだろう。
完全優位の状態のリゼヴィムがロイに言う。
「ヴァーリきゅんはあれから全然出てこないし、ちょいと話そうや。ちなみにリリスちゃんは先に帰ってもらったから安心してね」
「おまえと………話すことなんか………ねぇ………!」
息も絶え絶えの状態で返すロイにリゼヴィムが怒鳴る。
「いいから聞きなさいって!俺さ、ロイちゃんを見て一つ思ったことがあるんだよね」
倒れるロイに構わずリゼヴィムは笑顔をより一層強くして話し始めた。
「ロイちゃんさ。あんたは俺の『同類』だよ。今ある状況に満足してねぇだろ?心のどっかではあんたも戦いを求めてる。俺にはわかる!あんたの眼は確かに俺の大っ嫌いな正義の眼だ。だがあんたの眼だけには影が見えた。何が言いたいかわかる?本当のあんたは正義のために戦うような奴じゃない。あんたは俺らと同じ悪側の奴さ」
ロイはそれを聞いて小さく唸る。リゼヴィムが言っていることに反論したいが、今の彼にはその体力も、説得力もない。彼はつい先ほど、ただ殺すために力を振るってしまったからだ。
「でもでも、あんたは正義の側に立って戦ってる。何で?こっちに来たほうが楽しいよ?刺激的だよ?やっぱりあれかい?家族や恋人は裏切れないってか?」
「おまえに、何がわかる?血の繋がった孫を、家族を何とも思わないお前に、何が━━ゴボッ!」
「おいおい………。無理してっと死ぬぞ?」
リゼヴィムは血を吐いたロイに息を吐いてそう言うと、顔が真剣なものに変え言葉に迫力をこめ始める。
「私はなロイくん。キミに私たち側に来てほしいと思っているんだよ」
「━━━━ッ!」
ロイは口には出さないが驚いていた。いつもふざけていたリゼヴィムが急に真剣な顔を━━━魔王ルシファーとしての風格を放ち始めたことに。
「キミは私の考えを理解し、予測した。キミと私は似ているんだよ、考え方がね。別にいいじゃないか、殺したいから殺すことも、裏切ることも、キミは今に満足しているのかい?本当の自分を抑え、誰かのために戦う自分に」
「…………………」
ロイは考えこむように黙りこみ、視線を泳がせる。
リゼヴィムはそんなロイを見ながら、だめ押しと言わんばかりに言った。
「私たちの元に来い!そうすればキミは自由に戦える。本当の悪魔として、キミが気に入らないものをその剣で斬り裂いていけばいい。強いものが弱いものを支配し、服従させる。気に入らない奴を殺す。私が目指しているのは異世界でそれを行うことだ。キミはそれに━━━私の夢に共に参加したくはないのか?未知の敵と何度も戦える。その戦いに。さあ、ロイ・グレモリーよ!」
ロイはそこまで聞くとリゼヴィムを見つめ、痛む体を無理やり立ち上がらせる。
笑う膝を気力で支え、リゼヴィムに面と向かって言う。
「俺は………大きな勘違いしていたようだ…………」
明らかに敬意を払うような声音になったロイに、リゼヴィムは祭儀場で見せた無邪気なものとは違う、冷静な喜びを感じる笑顔を見せた。
「そうか!わかってくれたか!」
リゼヴィムはそう言いながら倒れかけるロイの体を支え、そのまま抱擁した。
「それなら話が早い!すぐに治療を━━━━」
「………ああ、ようやくわかったよ」
「……?」
疑問符を浮かべシドウの顔を覗き込むリゼヴィムに彼は、まったく感情を感じさせない声を発する。
「………ヴァレリー、おまえの言葉の意味が」
ロイがそう言った瞬間、かつてないほどの魔力が彼の体から放たれる!
「━━━━ッ!」
リゼヴィムは驚愕しながら後ろに飛び退き、ロイを睨む。
「………貴様!何をする!」
「………ああ、リゼヴィム、おまえの言うとおりだ。俺は正義側じゃない。俺は悪側だ。おまえの話で目が覚めた」
シドウがそう言うと体に黒いオーラを纏いはじめる。
「そう………。俺は『
彼のその言葉と共に体を黒いオーラが包み込み始め、殺気を含めた一切の感情のない顔でリゼヴィムを見る。
「━━━━心なんていらない」
彼が最後にそう呟くと、彼の体は完全に黒いオーラに包み込まれ、表情がうかがえなくなる。同時に右腕がうごめき、『バキッ!』という音と共に元の向きに戻った。
リゼヴィムは驚愕しながら漏らす。
「━━━━これは、まるでサーゼクスではないか」
リゼヴィムの言うとおり、今のロイは黒いオーラに体を完全に包まれ、表情もわからなくなっている。
知っている者からしたら、今の彼は『
もっともロイの滅びでは地面が消し飛ぶほどのパワーはないのだが………。
『……………………………』
ロイがリゼヴィムに視線を向けた瞬間、黒い軌跡を残しながら一瞬でリゼヴィムに肉薄する!
リゼヴィムは驚愕した。魔力が一切残っていなかったはずのロイから異常なまでの魔力が溢れ始め、今や━━━━。
『…………………………』
「━━━━━━━━━ッ!」
ロイが放った高速のストレートがリゼヴィムの腹部を捉える。だが、リゼヴィムはとっさに魔力を腹部に込めたため、貫通はしていない。だが、衝撃は確実に通っていた。
勢いのまま撃ち抜かれ、地面に足をつけたまま吹き飛ばされるリゼヴィム。彼はその体制のまま魔力を手に込め、拳ほどの大きさの魔力弾を連続でロイに向けて放つ!
ロイはそれを冷静に体捌きのみで避け、背後にあった建物に直撃、そのまま倒壊していく。
ロイはそれを気にすることなく、お返しと言わんばかりに指先から魔力弾を放った。
リゼヴィムはそれを障壁で防ごうとするが、その瞬間に魔力弾が弾け大量の刃が散弾のようにリゼヴィムに降り注いだ!
とっさに障壁の範囲を広げてそれらを防ぐが、リゼヴィムの周辺の地面を抉り、大量の穴を開けていく。
リゼヴィムはそれを確認して冷や汗をかく。直撃すれば、自分がああなると予想することは簡単だった。
彼の両腕は使い物にならないほどぼろぼろだった。なのに、なぜ彼は━━━━!
ロイは再び肉薄。リゼヴィムの顔面に渾身の右ストレートを放つ。
リゼヴィムはそれに肘で合わせ、正面から激突したロイの拳から何かが砕ける音が響く。
リゼヴィムは一瞬笑みを浮かべる。今の一撃は、確実に骨を砕いた感覚があったからだ。
━━━だが、ロイは素早く右腕を引き、再び顔面に拳を放つ!
「な━━━━ッ!」
リゼヴィムは驚愕しながらもそれを避け、再び間合いをあける。
「貴様、一体━━━━!」
驚くリゼヴィムに、ロイがゆっくりと右手を握りながら無感情な声音で言う。
『戦いに痛みはいらない。そうすれば死も怖くなくなる』
「━━━━━ッ!」
ロイの言葉にリゼヴィムは一層驚愕を強くする。
彼の言葉を鵜呑みにすれば、彼は『痛覚を無視』しているということだ。
痛みとは体からの警告である。それを無視しているということは━━━━。
ロイは左手をリゼヴィムに向け、そこから黒いオーラを解き放つ!
高速で放たれたオーラの濁流は、地面と空気を抉り取りながらまっすぐリゼヴィムに向かっていく!
リゼヴィムは小さく舌打ちをすると、それを跳躍して避ける。的を失ったオーラは直進していき、進路上の建物も抉りとっていく。ある程度進んでいくと、オーラは霧散していった。
リゼヴィムがそれを確認したと同時に眼前にまさに拳を放とうとしているロイが現れ、一気に拳を振り抜いた!
リゼヴィムの顔面を捉えた一撃は凄まじい快音を響かせ、空気を震わせる。
リゼヴィムが背中から近くの建物に激突。大量に舞った砂塵で姿が見えなくなった。
ロイもゆっくりと降下し、地面に足をつける。同時に体の各所から血が吹き出るが、彼はそれを気にする様子もなく、リゼヴィムの気配を探る。
リゼヴィムが自信のオーラで風を起こして砂塵を吹き飛ばし、鼻血を拭ってロイを睨む。表情には若干の焦りがあった。
リゼヴィムの先ほどの言葉は真実であり、ロイを引き込みたいのは事実だ。どうにか生け捕りにしたいがために、ある程度加減をしている。
━━━だが、このままいけばこちらが死ぬ。
リゼヴィムの脳裏にその考えがちらついた。このままロイの魔力切れを狙うのもいいが、ヴァーリがいつ戻ってくるかもわからない。
リゼヴィムがそう思慮した矢崎、視界の端にあるものが映った。その瞬間、リゼヴィムの顔は今までにないほど邪悪な笑みを浮かべていた。
━━━━━
黒歌はロイを追うことを決めたことを後悔していた。
(な、なんで町の真ん中から端っこまで飛ばされるかな!?)
若干息を切らしながら走ること数分。ようやくロイとリゼヴィムがいる城壁近くまでたどり着き━━━、
「━━━━━ッ!」
同時に驚愕した。
倒壊した建物と抉りとられた地面。地面に大量の穴があいている場所もある。
別次元の破壊の爪痕が残されたその一角に、彼の姿があった。
黒いオーラで全身を包み、敵がいる方向を見つめる誰か。いや、あのオーラは━━━━。
「…………ロイ・グレモリー」
ぼそりと彼の名を口にする。いつかに座禅をした時に感じた、どこまでも冷たいオーラを全身に纏っているのだ。こちらに気づいているはずなのに、興味がないように前だけを見続けている。
彼の持つ『何か』があれだとしたら、彼が妹の近くにいるのは危険だ。
黒歌はそう判断したとき、全身の毛穴が開く感覚に襲われた!強烈な殺気を全身に受けたのはすぐに判断できる。
突然放たれた殺気の出所を見ると━━━邪悪な笑みを浮かべたリゼヴィムがこちらに魔力を溜めた腕を向けていた。
気づいた時にはもう遅く、リゼヴィムの手から超高速の魔力弾が放たれた。
防御も回避も間に合わない。当たれば確実に━━━。
超高速で放たれたはずの魔力弾がゆっくりと進んでいるように見える。いや、魔力弾だけではない。自分の残された時間の全てがゆっくりと進んでいるのだ。
(ああ、やっぱり来なきゃ良かったな…………)
黒歌は後悔しながらも、小さく笑みを浮かべる。
(白音、ごめんね……………)
最期に浮かんだのは迷惑をかけてばかりの妹の顔。そして、妹の顔を思い浮かべて思ったのは━━━、
(私が死んだら、あの
黒歌にとってただ一人の家族を置いていく後悔。
ようやくまた会えたのに、今度は二度と━━━━。
すぐさま来るであろう衝撃を受け入れように目を閉じた。
凄まじい爆煙が黒歌を包み込み、彼女の存在を完全に消滅させた━━━。
「…………………あれ?」
━━━━はずだった。
なぜか無事で済んだことに驚くよりも先に、なぜ自分は━━━、
「はぁ………………はぁ………………」
「な、なんで……………?」
ロイに抱えられているのだ。かなり無理をしたのか、息が荒れている。
ロイは城壁に背中を預けるようにもたれ掛かり、黒歌はそんな彼の胸に顔を埋めるように抱えられて━━━━正確には抱かれていた。
右腕でしっかり体を押さえられ、かなり密着している。
黒歌は自分の右足に生暖かい液体が垂れてきたことに気づく。
嫌な予感と共に黒歌がロイの左腕を見ると、黒歌の表情は一気に青ざめる。
「━━━━━━━━━ッ!」
ロイの左腕の肘から先━━━前腕にあたる部分がなくなり、そこからおびただしい量の血が流れ出ているのである。
「あ、あんた……………」
黒歌が悲痛な目でロイを見るが、それを気にせずに彼は黒歌の背後に目を向ける。
黒歌がつられるように後ろを向くと、視線の先でリゼヴィムが残念そうに息を吐いていた。
「ロイくん、どうしてそんな愚か者を守るのだね。『はぐれ悪魔』なぞ、命はおろか片腕を犠牲にして守る価値もないだろう?」
リゼヴィムの言葉に黒歌は俯く。自分は罪人であり、責められるべき立場なのだ。
だが、ロイは左腕を無くしてまでそんな自分を守った。
ロイは息を吐き、リゼヴィムに言う。
「確かに………ただの『はぐれ悪魔』なら、守る価値もねぇよ………」
「ならば━━━━」
「だが━━━━」
ロイはリゼヴィムの言葉を遮り、黒歌に向けて言うように口を開く。
「こいつは、黒歌は━━━俺の仲間だ」
ロイはそう言うと黒歌を自分の後ろに隠すと、おぼつかない足取りでリゼヴィムに向かう。
一歩踏み出すごとに左腕から大量の血が吹き出し、地面に大きな赤いしみをつくる。
それでもロイは止まらず、リゼヴィムに言い放つ!
「なら、死んでも守るさ。それが今の俺の生き方なんでな!」
ロイの体から先ほどとは違う紅のオーラが放たれ、同時に彼は駆け出す。駆け寄りながら右手に紅い刀身の長刀を生成、勢いのままリゼヴィムに振り下ろす!
リゼヴィムはそれを今まで同様に手刀で受けようとしたが━━━━━、
「━━━━な!?」
ロイの一閃はリゼヴィムの右腕を難なくはね飛ばした!
だが、ロイはそれを振り抜いた勢いで倒れ、そのまま動かなくなってしまう。
リゼヴィムは切り落とされた右腕を拾い上げると、魔力を使ってそれを繋ぎ合わせ、倒れるロイを見下ろす。
「……私にも届きうる力。下手をすればキミも超越者と呼ばれそうだな。キミをそちら側で野放しにしておくのは危険だな。だからこそ私はキミが欲しいわけだが………。少々力ずくになってしまったが、後でじっくり話すとしよう」
リゼヴィムはそう言うと微動だにしないロイに警戒しながら手を伸ばしていく。
黒歌が攻撃しようとした瞬間、白い閃光がリゼヴィムに襲いかかる!
リゼヴィムは後ろに飛び、白い閃光の正体を確認した。
「ヴァーリ、しつこいな!」
「リゼヴィム!まだだ!まだ終わっていない!」
ヴァーリは兜越しにリゼヴィムを睨み、攻撃に移ろうとする。
だがその瞬間、彼らの周辺を闇が染め上げた。
「これは、リアス・グレモリーの
「ここまでか。ロイ・グレモリー、また会おう。その時には、その『甘さ』がなくなっていることを祈るよ」
リゼヴィムはそう告げるとどこかに飛びさっていく。
ヴァーリは大量の血を流して倒れるロイと、怪我をした様子はないが力なくへたりこんでいる黒歌を一瞥し、黒歌に怒鳴る。
「黒歌、そいつを介抱しろ!死んでしまうぞ!」
「━━━━ッ!わかってるわよ!」
黒歌はヴァーリの言葉にハッとしながらロイのもとに駆け寄る。
ヴァーリはそれを見てひとつ頷き、リゼヴィムを追って飛び出していった。
黒歌にはそれを気にする余裕はなく、表情を引き締めてロイの体を調べ始める。
━━━━何としても、彼を助けなければ。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。