ソーナが目標としている「誰でも通えるレーティングゲームの学校」はアガレス領にある。
理由はいくつかあるが、一番大きな理由はソーナがセラの、つまり魔王の妹だからだ。俺やセラはソーナを応援はしているが、大きな支援は出来ていない。下手に動くとセラの政治目的と思われてしまうからだ。
俺とリアスがグレモリーとして大きな支援が出来ないのもまた、兄さんが魔王だから。
同じく応援してくれているサイラオーグは、大王家の次期当主だから大きな支援は出来ていない。
本当に政治ってのは面倒だ。
それを知ったソーナは夢を捨てることも考えたらしい。セラに迷惑はかけられないと自分に言い聞かせて………。
そんななか、ソーナに助け舟を出してくれたのがアガレス家現当主だったのだ。悪魔の中間管理職であるアガレス家は各方面からの信頼も厚く、周りからの風当たりもそこまで強いわけでもなかったそうだ。
そんなわけで、誰でも通えるレーティングゲーム学校第一号がアガレス領に建てられた。
という事で、いつものオカ研メンバーと俺は土日を利用して、体験入学の手伝いをするためにアガレス領に来ている。
俺はいつもの生活用の義手をつけているが、すぐに戦闘用のものも取り出せるように異空間にしまってある。
学校が建てられた場所はいつかにリアスとサイラオーグがゲームを、俺は曹操と一対一で勝負をした場所。空中都市アグレアスの近くにある町━━━アウロスだ。
冥界では農産業随一と称されるアガレス領。まさにそれを体現しているような町だ。
この町は農業で生計を立てている住民が多いが、人口自体は多いとは言えない。レーティングゲームの聖地であるアグレアスからも近いため、端から見れば発展していそうだが、その観光用の町はここの反対側に位置しているため、滅多なことではヒトが来ないという。
つまり、観光名所の近くにある田舎町ってわけだ。
俺たちが転移してきたのは、そんな町の中心にある監視塔の最上階。窓からは緑溢れる町と、その町にいくつかある風車小屋、そしてゲームの聖地アグレアスが見える。
学校を建てる場所としては、中々いい環境だと思う。
転移魔方陣の前で待っていてくれた町の役員に連れられ、監視塔を降りていく。下で待っていたのは━━━。
「よう、兵藤」
匙だった。
グレモリーの次期当主のリアスが行くと聞いて、町長さんも顔を出そうとしたらしいが、俺とリアスが事前に「大仰な出迎えは無用です」と伝えたことと、例の魔法使いの集会の準備でも忙しいとのことで来ていない。
役員から匙に案内役がバトンタッチされ、俺たちは学校に向けて歩き出した。
どことなくヨーロッパを思わせる石造りの家や畑、風車小屋、都会では感じることのできない、いい静けさがこの町にはあった。
匙が言う。
「いいところだろ?冥界の田舎町!けど、魔法使いの集会とかが毎年行われるくらいの、いわゆる知るヒトぞ知る町だ。近くにレーティングゲームの大舞台アグレアスも一望できるし、環境は最適とさえ言える」
俺やリアスがいることを忘れてタメ口で喋る匙だが、それを指摘する者はいない。匙の生き生きとした表情を見ていると、それがとても些細なことに思えてしまう。
その後も他愛のない会話をしながら匙についていくこと十分ほど、町の南端に真新しい建物が現れた。
大きさとしては駒王学園には及ばないが、体育館と思われるものや運動場が見てとれ、その配置がなんとなく駒王学園に似ている。
校門に設置されている表札には『アウロス学園』と記されている。ソーナはこの町の名前を学校名にしたようだ。
まあ、シトリーとかの名前を出してしまうと、また上の連中がうるさいからな。
校門を潜り、本館に近づいていく。
運動場では、もう子供たちが走ったり、魔力を競い合っているようだ。ソーナやサイラオーグの眷属が付き添っていることが遠目に確認できた。
それを眺めながら本館に入ると、ソーナが出迎えてくれた。
匙がソーナに伝える。
「会長、オカルト研究部の皆さんをお連れしました」
「サジ、ご苦労様でした。担当のところに戻ってくれてかまいません」
それを聞いた匙は足早に担当の場所に戻っていった。
どことなく駒王学園に似ている本館からは、新築独特のにおいがする。
リアスが手を差し出し笑顔で一言告げる。
「改めて、おめでとう、ソーナ」
ソーナはリアスの手を握り、微笑む。
「ありがとう、リアス。まだ第一号で、開校も大分先だけれど、体験入学を実施できるまでには形にできました」
二人が握手を終えたと同時に俺も手を差し出し、笑みながらソーナに言う。
「俺からもおめでとう。セラにも見せてやりたいもんだ」
「ありがとうございます」
ソーナは俺の手を握りながらいつも通りの口調で返してきた。だが、付き合いがそれなりにある俺は、なんとなく明るい声音なことがわかった。
「それでは、中を案内しましょう」
俺たちはソーナの先導で校内を歩くことになった。
見ていて思ったが、ここに来ている子供たちはだいたい十歳ほど、人間的に言うと小学生ぐらいの子供が多い。
逆に言うとそれだけの子供学校に通うことを望んでいるわけだ。
それからしばらく歩いていくわけだが、時々イッセーとリアス(おっぱいドラゴンとスイッチ姫)を見て驚く親がいたが、二人とも手を振るだけにとどめていた。ここで握手だのサイン会だの始めたら、それこそ体験入学どころじゃないからな。
渡り廊下を越え体育館に入ると、聞き覚えのある力強い声が耳に届いた。
「いいか!パンチというのは腰をおとして、体全体から打ち出すように一直線に前へ突き出すのだ!」
『はい!』
体育館で子供たちに正拳突きを教えているサイラオーグの声だ。
子供たちもたどたどしくはあるが、元気にパンチを繰り出していた。
「ハッ!ハッ!ハッ!」
子供たちに指導していたサイラオーグが俺たちに気づき、構えを解いて、朗らかな笑みを見せてくれた。
「おおっ、リアス、ロイ様も」
サイラオーグが子供たちに言う。
「見ろ、おっぱいドラゴンたちだ」
サイラオーグの一言で子供たちが一斉にイッセーたちのほうに興味を注いだ。
こうなると子供は止まらないからな。
俺は小さく息を吐き、レイヴェルに耳打ちをする。
「(とりあえず、レイヴェル。頼んだ)」
「(お任せください!イッセー様のマネージャーとしてのがんばりどころですわ!)」
その後、レイヴェルの指示のもと、即時イベントが行われた体育館だった。
急遽開始されたおっぱいドラゴンのイベントを抜け出し、俺はのんびりと校舎を見て回っていた。
子供たちは講師からの指導を受けて元気よく、真剣に体を動かしていた。
魔力や魔法の基礎を教えているところがあったが、魔力に乏しい子供たちが真剣な顔でそれらに向き合う姿に、
━━━俺もあのぐらいの年の頃はヤンチャしてたな~。何て考えながら、ブラブラと歩いていると、
「ロイ様、こんなところに」
ソーナに見つかってしまった。いや、別にやましいことがあるわけではないのだが、いちおうソーナに案内されている最中にいなくなったため、探させてしまったのだろう。
「おう、イッセーたちのほうはいいのか?」
「はい。レイヴェルさんが指導しているので大丈夫かと」
俺の問いにソーナは頷く。レイヴェルの信頼は厚いようだ。まあ、あの
「そうか。それにしてもいいところだ。子供たちも生き生きしてる。学校ってのはこうでないとな」
「この学校にはレーティングゲームだけでなく、すべての教育機関から入学を拒否された子供たちも来ています。能力が低いから、階級が低いから、そんな理由で入学ができない、そんな子供たちが………」
ソーナが声のトーンを落として言った。
ここにいる子供たちは学校に行きたいが何かしらの問題に直面した子たちだ。そんな子供たちが、わらにもすがる気持ちでこのアウロス学園に来たのだろう。
今の悪魔は、そのような者たちに容赦がない。救われる機会すらあたえられないのだ。ソーナはそれを変えようとがんばっている。
ソーナが窓から運動場を走り回る子供たちを見ながら言う。
「がんばります。まだスタートもしていませんが、あの子供たちのためにも、これからひとつひとつ壁を突破していきます」
言っていることがリアスみたいだが、それだけこの学園の設立に気合いが入っているのだろう。
俺はソーナを見ながら言う。
「そんじゃ、俺も手伝うさ。俺が出来ることは少ないが、
「姉様と正式に結婚しましたら、そう呼ばせてもらいます」
俺の言葉を遮り、ソーナは厳しく言う。もう少し頭を柔らかくしてもいいんじゃないか?
俺が頬をかきながら苦笑していると、ソーナは続ける。
「それと、支援をしてくださるのはうれしいのですが、あまりやりすぎないでください」
「わかってるよ。上の連中は頭が固いからな……」
ソーナはそれを聞くと腕時計で時間を確認し、「それでは」と一言告げてから再びどこかに行ってしまった。
おそらく講師の手伝いに行ったのだろうが、俺に関しては特に予定も無いので、またブラブラと歩くことにするのだった。
しばらくして、レーティングゲームのランキング一位、『
「………………っ。何だかな…………」
俺は一人、中庭のベンチで頭を抱えていた。
本当、何だろうな。戦闘中は問題ないのに、それ以外のときに頭痛に襲われる。今度病院に行くか……。
それにしても『ベリアル』か。クレーリア・ベリアルについて、あれから関わらないでいたが、ディハウザーはどういう認識なんだろうな………。やはり、報告のとおり、あの町にいた「聖剣使い」に滅せられたのか?
俺はいつかの任務のことを思い出しつつ、頭痛がおさまるのを待ったのだった。
待つこと数分。頭痛もおさまったので、また校舎を歩きまわっていた。
ある授業が子供たちが廊下に溢れるほどの盛況を見せていた。親御さんも立ち見で見学しているほどだ。
中を覗くと、ロスヴァイセが子供たちに囲まれていた。
ロスヴァイセは、ソーナとサイラオーグから「教師をやってくれないか?」言われていたし、あのデートの時にも言ったが、とりあえずという事でやっているのだろう。
俺は後ろから気配を感じて振り向く。
そこには銀髪の淑女━━━ゲンドゥルさんがいた。
「ゲンドゥルさん、お久しぶりです」
「あら、ロイさん。お久しぶりです。ロセがいつもお世話になっております」
お互いに頭を下げる俺とゲンドゥルさん。
俺は顔を上げ、手を顔の前で振りながら言う。
「いえ、そんなことは……」
「聞きましたよ。あの子のわがままで買い物に付き合わされたとか」
付き合わされたというか、それがデートだったんだけどな。ゲンドゥルさん的には映画とかのほうがよかったのか?
苦笑する俺と、真剣な顔のゲンドゥルさんの会話が聞こえていたのか、ロスヴァイセが俺たちに気づき、驚きの声を上げた。
「ロイ先生!ばあちゃ……お祖母さんも、見てたんですか」
ゲンドゥルさんが教室に入っていき、俺もつい流れで中に入ってしまった。
「ここで特別講師をする約束だからね。明日の集会前にいい気分転換にもなります」
言われてみれば、明日だったな、例の集会。その前にここで講義をするってわけだな。
すると、教室内に緑色のオーラに包まれた小さな妖精のようなものが出現し始めた。
妖精は羽ばたきながら、軽やかに教室内を飛び回り、教壇に着地する。
教壇にはゲンドゥルさんが立ち、妖精をやさしくなでながらやさしい笑みを浮かべ、静かに口を開いた。
「魔法の起源━━━魔法がどういう風に生まれたか?皆さんはご存じかしら」
その問いに子供の一人が元気よく挙手をして答える。
「占いや呪術だって聞きました!」
ゲンドゥルさんは笑顔で頷き、やさしく語りかける。
「その通りです。魔法は、占いやおまじないから誕生したのです。こんなことが知りたい、あんなことになったらいいな、あのヒトのために、他の誰かのために……たくさんのヒトを助けられる方法が欲しいと願った術者たちが作り上げたものなのです」
俺もついつい聞き入ってしまうほど、ゲンドゥルさんの言葉はすんなりと耳に入ってくる。
『あのヒトのために、他の誰かのために』、か。
「現代の魔法には確かに優劣があり、明らかな差があります。ですが、これだけはまず最初に覚えておいてほしいのです。……どのような魔法でも必ず術者と他の誰かの役に立ちます。この世に意味のない魔法なんてないのですから」
そのにっこりとしたやさしさ溢れる笑顔は、厳しそうなゲンドゥルさんからは想像できないものだった。
『この世に意味のない魔法なんてない』。いい言葉だ。
それを聞いたロスヴァイセも少しだけ微笑んでいるように見えた。
『他の誰かの助けにために』。何か大切なものを、改めてゲンドゥルさんから教えられた気がするな。
ゲンドゥルさんの講義は続く。
「さて、このお話はここまでにしておきましょう。では、突然ですけれど、妖精と仲良くなりたいって思いヒトはどれくらいいるでしょう?」
「「「「「はいはいはいはい!」」」」」
一斉に手を挙げる子供たち。それに混ざって教室を覗いていたイッセーも手を挙げかけて、横の匙に止められていた。
その匙も名残惜しそうにしていたが、俺はゆっくり聞かせてもらうか。何か楽しそうだ。
そんなわけで、俺はゲンドゥルさんの講義を楽しんだのだった。
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