グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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life08 招かれざる客

アウロス学園体験入学二日目の早朝。

起床して早々にとある問題が発生していた。

あの風呂騒動のあと、それぞれ二人で一部屋を割り当てられたのだが、俺はイッセーと相部屋だった。

そのイッセーとはじっくりお話をしてから就寝。そして起きてみると、なぜかレイヴェルとアーシアがイッセーに添い寝していたわけだ。

気配で気づきそうなものだが、少しばかり油断していたのかもしれない。はっきり言うと、気づけなかった。

そんなわけで、イッセーから剥がした二人には正座をさせて、若干オーラを放ちながら睨む。

 

「━━━で、言い残すことはあるか?」

 

「ちょっ、ロイ先生!?二人をどうするつもりですか!?」

 

俺の冗談に本気でツッコミを入れるイッセー。

俺はそんなイッセーに笑みを向けながら言う。

 

「冗談だよ。で、どうしてああなった」

 

俺が二人に視線を戻すと、レイヴェルが歯切れ悪く言う。

 

「……はい。実は、ゼノヴィア様とイリナ様がアーシア様を連れて何やら怪しげな話をしていたので、気になってあとをつけたのです。そうしたら━━━」

 

「━━━その三人が部屋に入ろうとしていて、なんやかんやでこうなったと」

 

俺が確認を取るように言うと、二人は頷く。

 

「「はい……」」

 

「「はぁ………」」

 

レイヴェルから話を聞いて、俺とイッセーはため息を吐いた。

あの二人は自重しろよ、まったく………。

 

「とりあえず、ゼノヴィアとイリナにはあとで話をしとくから、ここまでだ。そろそろ朝食だしな」

 

俺の一言で話は終わり、食堂に移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食後、俺たちはざっと状況を確認していた。

何でも、匙のヴリトラ、アーシアのファーブニルがヴァーリの神器(セイクリッド・ギア)に潜ってしまった(むこうでは赤龍帝被害者の会なるものがあるらしく、イッセーが手に入れた新しい力を活かすためにもそれを説得中)。

サイラオーグとその眷属は、午前中はディハウザーの主演映画に出演のためにこれないとのこと。

そして最後に、それぞれの持ち場を確認して、今日の活動が開始された。

そんなわけで俺は木場、ゼノヴィアとともに『騎士(ナイト)』についての授業を実演込みで行っていた。

俺は『騎士(ナイト)』ではないが、いちおう剣士なので参加しているわけだ。………俺が教えるってのも変な気分だがな。

ゼノヴィアは刀剣を片手に子供たちに力説する。

 

「いいか?剣は己を表す鏡のようなものだ。迷いがあれば、すぐに刃に出てしまう。常に平常心で剣を構えなければならない。それと、やられる前にやる。特に敵が話しかけてきた瞬間に問答無用で剣をぶつけるんだ!」

 

それとは対照的な木場の話が始まる。

 

「でも、力に頼り切って剣を振るうのは危険だからね。騎士ナイトは何よりも技能を求められる。そして、特性である速度。戦場を誰よりも駆け回って相手を翻弄する。隙を見つけて、的確に突く」

 

俺が締めくくるように、刀剣の切っ先を天に向けながら言う。

 

「二人のように一言で『騎士(ナイト)』と言っても考え方がまるで違う。どっちが正解とか、不正解とかはない。自分が一番だと思うことを出来る限りやる。そうすれば自分にとっての正解がわかるはずだ。ちなみに言っておくと、俺は木場よりだが、時には力で押す。何事もバランスが大事だと思っている」

 

子供たち全員が純粋無垢な目で俺たちを見つめ、興味津々という様子だ。

 

 

 

 

 

 

それから無事に『騎士(ナイト)』の授業は終了し、俺はロスヴァイセの手伝いのために移動していた。

その時だ━━━。全身に嫌な寒気が走り、俺の第六感を刺激した。

その感覚の直後、冥界特有の紫色の空が、白く塗り替えられていく謎の怪現象が発生した。

突然のことに、俺や講師を含めた校内にいる全員が空を見上げていた。

こんなイベントは予定にない。そもそもやるはずがない。こんな無茶苦茶なことをするのは、奴らしかいない。

俺が思考を巡らせるなか、ロスヴァイセが声をかけてくる。

 

「ロイ先生!これは、まさか………」

 

「わからんが、十中八九クリフォトだろうな」

 

俺とロスヴァイセが意見を確認し終えると同時に、校内放送が学園中に響いた。

 

『グラウンドにいる体験入学生、父兄の方、講師、スタッフの皆さまは速やかに校内に入ってください。繰り返します━━━━』

 

緊急放送を聞いた俺とロスヴァイセは、嫌な予感がして仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オカ研、生徒会のメンバーが職員室に集まった。父兄と子供たちは、とりあえず体育館に集まってもらっていた。真羅の主導で情報を集めてもらっている。

俺は連絡用魔方陣で外への通信を試みるが、繋がらない。腕輪でも試してみるが、そちらも駄目だった。

 

「ダメだ、外に連絡できねぇ。転移のほうはどうだ?」

 

転移型魔方陣を展開していた朱乃に訊いてみるが、彼女は息を吐いて言った。

 

「ダメですわ。遠くにジャンプできません」

 

連絡、転移、どちらもダメか。英雄派と戦っていたの時にもこんなことはあったが、また別空間に飛ばされたか?

猫耳を出して、気配を探っていた小猫が言う。

 

「……周囲の気を探りましたが、草も木も本物です」

 

俺はあごに手をやりながら言う。

 

「……となると、少なくともこの町ごと結界で覆われたって感じか」

 

そう漏らした俺の横で、ソーナが連絡用魔方陣を出しながら言った。

 

「アグレアスと町の集会場には繋がりました。映像を出します」

 

すると、職員室に立体映像が二つ浮かび上がった。一つはアグレアスにいるサイラオーグ、もう一つは町の集会場にいるゲンドゥルさんだ。

サイラオーグが開口一番に言う。

 

『これはどうなっている?』

 

その疑問にゲンドゥルさんが答えた。

 

『この地域一帯丸ごと、敵対勢力の結界に覆われたと考えていいでしょう。今、総動員で各々使役している生物に結界の規模を確認させていますが、どうやらこの町とアグレアスを楕円形にすっぽり覆っている可能性が高いと報告を受けています』

 

予想通りではあったが、随分と大規模だな。

ゲンドゥルさんは続ける。

 

『それに加えて、私たち術者は魔法の大半を封じられてしまっています。この通り』

 

ゲンドゥルさんはそう言うと額を見せた。そこには禍々しい輝きの魔方陣が描かれていた。

俺も確認のために一度直刀を作り出すが、長さ強度共に問題なし。俺に続くように全員がオーラを集めるなり、神器(セイクリッド・ギア)を展開するなりしているが、そちらも問題なしのようだ。

お互いに頷き合い、ゲンドゥルさんに言う。

 

「このようだと、そちらにいる魔法使い限定の封印のようです。ここまで大規模かつ緻密なことができるのはおそらく━━━邪龍」

 

『━━━━━━っ!』

 

俺の一言に、リアスたちの表情が一層険しくなる。映像に映るゲンドゥルさんは努めて冷静さを保ち、口を開いた。

 

『ええ、ロイさんの言うとおりです。このようなことができるのは、千以上の魔法を操ったという伝説の邪龍━━『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』、アジ・ダハーカ。かの邪龍ならば、魔法使いを封じる術も知っているでしょう』

 

ゲンドゥルさんの言葉に全員が絶句していた。伝説の邪龍の名前が出てきたんだ、当たり前だろう。

そして、そのアジ・ダハーカを復活させたのは、間違いなくクリフォト。

 

「しかし、規模があまりに……。いくら伝説の邪龍だろうと、名だたる魔法使いたちと共に広大な土地を丸ごと封じるなんて……」

 

イリナが疑問を口にした。確かに、いくら伝説の邪龍でも、大規模な結界と魔術師の封印を同時におこなうとなると、無理があるだろう。

俺はある仮定を口にした。

 

「前に報告で聞いたユーグリットが所持している赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のレプリカ。それによる強化があれば話は変わるだろ」

 

本物とほぼ同じ事ができるレプリカなら、できなくはないだろう。

ゲンドゥルさんが息を吐いた。

 

『この一帯丸ごと囲う結界と、ここにいる魔法使いすべての術を縛る外法、どちらも増大させて発動したんでしょうね。レプリカとはいえ、相変わらず常識を逸した力を発揮しますね、神滅具ロンギヌスというのは』

 

まったくだ。ユーグリットの野郎、イッセーの力まで悪用しやがるとは、早くどうにかしねぇと………!

俺の横ではイッセーも怒りをあらわにしていたが、すぐに何かを思い付いたような表情になると口を開いた。

 

「だったら俺が解呪法を増大させます!」

 

それを聞いた俺とソーナは首を横に振った。

 

「いい考えだが、カウンターの術式が用意されているはずだ」

 

「そのとおりです、イッセーくん。下手をすると大惨事になります」

 

相手は必ずカウンターの用意をしているはずだ。こちらが使用すれば、空間もろとも爆破なんて可能性もある。

むこうもブーステッド・ギアの特性をよく理解してやがる。やりにくいな。

そう思いながら、俺はひとつだけ安心できそうな予測を口にする。

 

「つっても、そう何度も使えるもんでもないだろ。所詮はレプリカだ。報告だと、使うだけでもかなりのコストが必要なようだからな。それにしたって、アジ・ダハーカの術を増大させるとは、そっちもかなり緻密な加減が必要だったはず。ユーグリットの野郎はブーステッド・ギアの扱い方を熟知してるようだ。ああ、イッセー、おまえが劣っているわけじゃねぇ。おまえが異才なら、ユーグリットは鬼才って言うのか?それはともかく、ルキフグスの名は伊達じゃないってわけだ」

 

そう、相手はルキフグス。グレイフィア義姉(ねえ)さんの実の弟だ。

 

「相手の狙いはゲンドゥルさんたちと、アグレアスの旧魔王時代の技術と見るべきか?」

 

俺の呟きにソーナが頷く。

 

「あのアグレアスには、旧魔王時代の技術が使われています。いまだ解明できていない部分もありますが、前ルシファーの息子である、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーはあの島にある何かを狙っているのかもしれません」

 

『旧魔王時代の遺跡、あるいは兵器の類いでしょうか。それとも666(スリーシックス)に繋がる何かということかもしれません』

 

「異世界関連の物の可能性もあるな」

 

ゲンドゥルさんと俺が何となく予想を立ててみたが、答えは出てこない。あの空中都市はよくわからねぇからな。

 

「これだけ大規模な結界を張ったんですから、外の誰かが異常を察知しているのでは?」

 

イッセーから質問がくるが、俺は首を横に振る。

 

「それも想定済みだろう。こっちの一時間が結界の外だと一分とかになっているのかもしれん。それをするにしてもかなりの準備が必要なんだが、伝説の邪龍とレプリカブーステッド・ギアが合わされば、簡単だろう」

 

『ここまで大規模な術は確実に身を削りますね。ドラゴンだろうと、命が対価になってもおかしくありません』

 

「体が滅んでも聖杯で即復活できるだろうからな。そりゃ無茶するぜ」

 

俺とゲンドゥルさんが話を進めていくなかで リアスが言う。

 

「英雄派の魔獣騒動から、各主要都市には様々な防壁術式が設置してあるけれど、まだここは━━━」

 

「アグレアスとここにはまだ防壁術式を張っていませんでした。アグレアスはレーティングゲームの聖地の一つで観光名所です。防壁術式を張るには一時的に機能を完全に止めなければなりません、ですから延期が続いていたんです。それが裏目に出てしまいました」

 

リアスに続いてソーナが言うと、俺もそれに続く。

 

「明らかに狙っているよな。もしかしたら政界かそれなりに階級が高い奴がクリフォトに通じてるのかもしれん」

 

俺がそこまで言うと、全員の表情が固くなってしまった。裏切り者がいるかもと言ったんだから当たり前だ。

俺が対応を考えているなか、職員室に一人のスタッフが息を切らしながら入ってきた。

 

「……どうかしたか」

 

俺が訊いてみると、スタッフは息を整え、人差し指を上にさして答えた。

 

「━━━━上空に映像が」

 

俺たちはそれを聞いて、一斉に校庭に向かい走り出した。

 

 

 

 

俺たちは一斉に校庭に飛び出した。

見上げると、花畑の爽やかなな映像が空一面に広がり、悪魔文字で『しばしお待ちください』と記されてある。その映像を見ながら全員が構えるなかで、空からふざけた口調の声が聞こえてきた。

 

『え?もう始まってんの?マジで?ちょっと待ってよ~。おじさん、まだお弁当全部食べてないって。いいから、出ろって?わかったわかった』

 

聞き覚えのあるムカつく声。今の声を聞いた全員が憎々しげに映像を見ていた。

花畑の映像が銀髪の中年男性の映像に切り替わる。

 

『んちゃ♪皆のアイドル、リゼヴィムおじさんです☆皆、はじめまして、あるいはお久しぶり!なんだか大変なことになっちゃっているだろうけど、説明なしではなんだから俺が直々に説明してあげようかなって思ったしだいです!ほら、こういうのを敵が説明するのはお約束じゃん?こちらが不利になっても種明かしをするのもお約束じゃん?』

 

相変わらずイライラする口調だ。

俺のフラストレーションが溜まるなか、リゼヴィムがムカつく声音のまま続ける。

 

『なんとなーくわかっていると思うけど、実は、僕たち、その辺一帯丸ごと、結界で包囲しちゃいました!いやー、いきなりのドッキリで申し訳ない!』

 

申し訳ないと言うわりには、罪悪感を感じている素振りを見せない。当たり前だ、あいつにとってはそれが普通なんだからな。

 

『やってくれたのは、邪龍軍団のラードゥンさん!初代英雄ヘラクレスにぶっ殺されちゃった黄金の果実の守り手さんだ!』

 

リゼヴィムの背後に巨大な木のドラゴン━━『宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)』、ラードゥンが見える。

 

『例のごとく、『せい☆はい』で再生怪獣のように大復活させちゃったわけだけど、彼の持つ強力な守護防壁、結界の類いは健在でねぇ。いやはや、ユーグリットくんのレプリカ神滅具(ロンギヌス)も手伝って領土ひとつ覆っちゃいましたよ!神滅具(ロンギヌス)の力ってスゲーっ!』

 

リゼヴィムの横にユーグリットが現れる。その手には聖杯が握られていた。

 

「…………ッッ」

 

イッセーの横にいたギャスパーが双眸を危険なほど輝かせて奥歯を噛んでいた。ギャスパーにとっては、この映像は耐え難いものだろう。

 

『そして、その町にいる諸君!そこも結界で包囲したあげくに名だたる魔法使いの皆の魔法力も封じてしまいました。封じたのは、邪龍の中の邪龍!千の魔法を操るアジ・ダハーカさん!こちらの方法もお見事!もちろん、レプリカのブーステッド・ギアで強化済みです!』

 

リゼヴィムの背後に、もう一体の巨大な三つ首のドラゴンが現れる。あれがクロウ・クルワッハと同格と称されるドラゴン━━━アジ・ダハーカか。できれば相手したくないな。

リゼヴィムは嬉々として続ける。

 

『なお、外界から完全に時間ごと隔絶されているから、外にいる者たちには、気づかれないよん』

 

リゼヴィムはそう言うと耳障りな笑いをあげ、肩をすくめた。

 

『なーんで、こんなことをしたかって?理由は、簡単♪そこに集まる魔法使いの皆が俺に協力してくれないなら、まとめて吹っ飛ばしちゃおうってね!あと、アグレアスの技術もちょいと盗ませてもらえると助かります!僕のパパたちが作り出したものだもーん。俺が相続してもいいものだと思わない?ねぇ、思わない?』

 

拉致できねぇなら、殺しちまおうってことか。思考回路が子供のそれじゃねぇかよ………!

リゼヴィムは俺たちに指を突きつけてきた。

 

『うひゃひゃひゃひゃ、そこに俺たちの打倒を企てて結成したっていう「D×D」の皆がいるんだろう?何、事前情報ぐらいは得てるぜ。おもしろいから、勝負といこうぜ?量産型邪龍の大群と、伝説の邪龍さまがそちらと、あの空中都市に向かう。蹂躙するためだ。それを止めてみろよ。ねぇ、止めてみてくれって』

 

リゼヴィムはそう言うと指を鳴らす。その瞬間に町を囲うように紫色の巨大な火柱が天高く立ち上がり始めた。

 

「━━━紫の炎、『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』か。また聖遺物(レリック)が相手なのか、まったくよ。見た感じだと、ぐるっと町を囲うように展開している感じだな。奴ら、誰一人として逃がす気はねぇようだな」

 

俺がそう言うと、リゼヴィムが楽しそうに手を振っていた。

 

『てなわけで、踏ん張ってくれよ!三時間後、行動開始だっ!うひゃひゃひゃひゃっひゃひゃひゃひゃ!』

 

映像はそこで終わる。

最悪だ。ここは守るべきものが多すぎる。学園、子供たちとその父兄、そしてこの学園に賭けるソーナたちの思い。

だが、守りきってやるよ。不幸の中の幸いというべきか、『D×D』の悪魔チームのほとんどがここにいる。

━━━なら、守れるはず。いや、何としても守らねぇといけねぇ………!

 

 

 

 

 




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