天界から帰還した俺━━ロイは、リアスたちと別れ、駒王町からだいぶ離れたある都市に来ていた。格好は、ロセとのデートの時と同じものだ。てか、外出するときの服があまりない。
で、なぜそんな足を伸ばしたかというと、
「ロイ!遅いわよ!」
「悪い悪い、色々あったんだよ。って、おまえは知っているだろうが……」
セラとデートをするためだ。ロセとの一件の時に約束して、なかなかタイミングが取れずにこんな時期になってしまった。
セラの格好は、
相変わらず、女性のおしゃれは命懸けだと思う。寒くないのだろうか………。
俺がまじまじと見ていたせいか、セラが頬を赤くして、
「もう、じろじろ見ないでよ」
と、照れながら言うが、表情はとても嬉しそうである。
俺は苦笑しながら言う。
「セラのそういう格好を見るの、久しぶりだからな。見惚れてた」
「━━━━━ッ!」
俺の言葉に、セラは余計に赤くなる。久しぶりだからな、こういうことを言うのも。なんか、こっちも照れ臭くなってきたぞ……。
俺も若干頬を赤くしながら、一度咳払いをしてセラに訊く。
「それで、どこに行くんだ?予定はそっちが決めるってことだったが……」
「うふふ、大丈夫よ、私に任せなさい!」
胸を張って笑みを浮かべながらそう言うセラ。相変わらずのかわいい表情、日頃のストレスが吹っ飛ぶな。
俺が笑みを返して頷くと、セラが俺の右手を取ってくる。
「さあ、行きましょう!」
セラはそのまま俺の手を引いて駆け出す!相変わらず、いきなりだな!まあ、いつも通りのテンションで安心できるけどさ!
セラに引っ張られながら、安堵からか、無意識に笑みがこぼれた。
待望のデートだ、楽しまねぇとな。
━━━━で、
「ロイ、これなんてどうかしら?」
「…………」
「こっちは?」
「…………」
セラとのデート。一発目に訪れたのは、なぜかコスプレ専門店。魔法少女的なものから、戦士的なものまで、色々ある。
セラが俺に見せてきたのは、セラがいつも着ているミルキーコスプレ服の色違いバージョンと、露出多めのミニスカサンタのコスプレセットだ。
俺としては、ミニスカサンタ━━━いや、いつものミルキーってのもありか?でもな、新鮮味に欠ける……。
セラは黙り込んでいる俺の顔を覗き込み、若干心配そうな声音で聞いてくる。
「ロイ、聞いてる?」
俺は安心させるように笑みを浮かべ、頷いてやる。
「ああ、聞いてる。ちょっと考え事だ」
「なになに、悩み事?」
「目の前の二つのどっちが恋人に似合うか、真剣に考えてる」
俺がセラが持つその二つを見比べ、あごに手をやりながら言うと、セラは少し驚いた様子を見せた。
「いつもなら『どっちも似合うと思うぞ』とか言うのに、珍しいわね」
「そうか?まあ、心境の変化ってやつだな。………よし、決めた。こっちだな」
俺はミニスカサンタのほうを指差した。季節的なものを考慮してみた。まあ、セラに着て欲しいってのが本音だけどな。
セラの表情がパアッと明るくなる。な、なんだ、いきなりどうした。
「さっすが、ロイ、わかってるわね☆こっちのミルキーは『持っているもの』なの☆サンタを選んでくれるなんて、私のことをよく見ている証拠ね☆」
と、セラは言ってくる。━━━まったく気づかなかったぞ。季節で決めていなければ、地雷を踏み砕くところだったのか……。
セラがミルキーのものを棚に戻している隙に、俺は冷や汗を拭い、振り返ったセラに笑みを浮かべて頷いてやる。
「まあ、勘なんだけどな。おまえを見ているうちに無意識に覚えていたんだろ」
「勘でもいいのよ~☆ロイが見てくれていればそれで~☆」
表情を緩ませながら、俺の腕に絡んでくるセラ。とりあえず、そのミニスカサンタ、買うなら買ってこい。
それから、セラとのデートは何の問題もなく進んでいき、公園のベンチで一休みしていた。
先程買った缶コーヒーを飲み、日が傾き、暗くなり始めた公園から帰っていく子供たちを眺めながら、隣に座るセラに言う。
「悪いな。いきなり休もうなんて言っちまって」
「いいのよ。私もそろそろ休もうって思っていたから☆」
「ならよかった」
俺はそう返し、小さくため息を吐いた。
天界に行って神経を尖らせ過ぎたせいか、無性に疲れていた。まあ、あとは夕食を摂って終わりだろう。━━何事もなければ。
公園から俺たち以外のヒトがいなくなると同時に、俺とセラは表情を引き締める。
俺たちの視線の先、木の影に誰かいるのだ。ただの人間なら気にするまでもないが、その誰かから殺気が向けられているのだ。
「おまえ、何者だ?」
「……………………」
俺の問いに奴は何も答えず、木の影から姿を現す。
長い黒髪の男性だ。顔立ちからして、日本人か?
俺の疑問は、口に出す前に吹き飛んだ。━━奴の手に、禍々しい波動を放つ剣が握られているのだ。
俺とセラが警戒を強めていると、男の持つ剣の波動が高まっていく。
━━━やる気のようだ。
俺はセラに目配せすると深く息を吐き、魔力を解き放つ。普段見えない視界右半分も見えるようになり、全身から深紅の魔力が放たれ始める。おそらく、両目がユーグリットと戦った時のように不気味なものになっているだろう。
セラが解き放った魔力は冷気となり、彼女の足元の地面が凍らせ始める。
俺たちが準備を整えると、男が憎しみを隠そうともせずに言葉を発する。
「ロイ・グレモリー………。僕は、あなたを━━━『滅びの血族』であり『彼女の死』を利用したあなたを、許さない………ッ!」
なんか、いきなりすぎてよくわからねぇが、『滅びの血族』ってのは、バアルの血のことだろう。俺の母親はバアル家の悪魔だからな。だが━━、
「『彼女の死』……だと?」
「ロイが誰かの死を利用するなんてこと、ありえないわ!」
セラが俺の事をかばってくれるのは嬉しいが、俺が利用して死んだ誰かか、それとも、そのヒトの死を利用して俺が何かをしたのか、どっちだ?
『━━━あなたの隊は、駒王町に潜入しなさい』
『確か、グレモリーとバアルが管轄している町……。警備も厳重なものの筈ですが……』
『その問題はありません。縄張りにしていた悪魔が死に、今は警備が緩んでいます』
『その悪魔とは?』
『その悪魔の名は━━━』
「━━━クレーリア・べリアル………っ!」
俺が思い出した瞬間に声を出すと、男の表情が憤怒に染まる。
「そう、彼女だ。三大勢力の平和のため、クレーリアの死をあなたは利用した!許せるわけがないだろう!」
男が叫ぶと剣のオーラが弾け、強烈な邪気が解き放たれる!
邪気の正体━━八つの頭を持つ巨大なドラゴンと思われるそれは、血涙を流しながら、大きな顎を開き、無数の鋭い牙を覗かせていた。その首の一本一本が意思を持つようにうごめいている。
剣からドラゴンが生えてきやがったのか!?それにしたって、デカイ!首だけなのに十メートルは越えているぞ!?
俺が手に西洋のものを思わせる直剣を生成、セラが氷の魔力で
それを見た男は、今度はセラを睨む。
「現魔王━━セラフォルー・レヴィアタン。あなたもあなただ。魔王でありながら、『奴ら』を止められない。いや、『奴ら』が何をするかを察知することもできない」
今度は『奴ら』、か。セラにも止められない奴となると、大王派の重鎮か?あいつらはまず好きにやって、終わってからの事後報告が多い。まだまだ悪魔もひとつになりきれていないな。
俺がちらりとセラに目を向けると、彼女も複雑な表情になっていた。今言われたことを自覚はしているんだろう。だが、簡単に変えられる代物ではない。難しいところだ。
「セラ、起きちまったことは仕方ねぇさ。今は目の前の相手に集中しろ」
「……ええ。わかってるわ」
改めて構え直した俺たちを、男と男の剣から出現した八つのドラゴンの首が睨み付ける。
まさに一触即発。あとはどちらから仕掛けるかという状況になった矢先、左腕が疼き始めた。
「まったく、勝手な行動をされては困るんだがね」
「「「━━━ッ!」」」
突如響いた第三者の声。だが、今の声は聞き覚えがある。
俺は声の主を睨み付け、名を叫ぶ!
「リゼヴィム!」
「やあ、ロイくん。久しぶりだね」
銀髪の男性━━リゼヴィムが、不敵に笑みながら立っていた。
俺がリゼヴィム、セラが八つ首のドラゴンと男を警戒するなか、リゼヴィムが男に目を向けてため息を吐く。
「まったく、私たちの目的が一致したから協力しているというのに、計画をご破算にするつもりか?」
計画だと?天界の役員を狙っているのにも関わっているらしいが、それも計画のうち……?
「しかし、彼はクレーリアの━━━」
考えを深める俺をよそに、熱の入り始めた男の言葉をリゼヴィムは手で制し、男の横について転移魔方陣を展開し始める。
「━━!待ちやがれ!」
「待ちなさい!」
俺たちはそう叫びながら、同時に攻撃に移った。俺は直剣を逆手持ちにすると、投げ槍のように投げつけ、セラは氷柱を撃ち放つ!
まっすぐ放たれた俺たちの攻撃は、リゼヴィムの放った散弾状の魔力弾で全て撃ち落とされた。逆に、その流れ弾が俺たちに襲いかかってくる!
「チッ!」
俺は舌打ちをしながら両手に直剣を生成、セラの盾になるために前に飛び出し、向かってくる魔力弾を全て斬り伏せる!
全てを斬り伏せ、再びリゼヴィムたちのいた場所を睨み付けるが、すでに転移を済ませたようで、いなくなっていた。
俺はため息を吐きながら魔力を抑える。視界の右半分が見えなくなるが、消耗を抑えねぇとな。
周囲の安全を確認し、同じく魔力を抑えたセラに声をかける。
「無事か?ケガは、していなさそうだが……」
「大丈夫よ。いきなりすぎて困っているけど」
息を吐くセラ。まあ、色々と起こりすぎだよな。
まずは、あの男は誰だ?次に、なぜリゼヴィムは現れた?あと、なぜ俺が女性と行動すると面倒になるのか?
俺は小さくため息を吐く。
「とりあえず、戻るか。色々と報告しねぇとな……」
「そうね。はぁ……。せっかくのデートが………」
深いためを吐くセラに、俺は苦笑しながら言う。
「気にするな、とは言えねぇか。まあ、また時間を見つけてだな」
「……うう、ロイとのデートが………」
顔を俯けて、若干涙目になっているセラの頬に、俺は優しく笑みながら手をやる。
「セラ……」
「なに?」
顔を上げたセラが、それ以上何かを口にするよりも早く、その口を塞ぐ。
「ん━━━!?」
もちろん、俺の口でだ。ようは、俺とセラはキスしているわけだな。
俺がゆっくりと口を離し、顔も遠ざける。セラは顔を真っ赤にして驚いていた。
俺が笑むと、セラも照れ臭そうに、嬉しそうに笑う。
「さて、今度こそ戻るか。俺はクリスマス企画、セラは会議に勤しむことになりそうだな」
「そうね。まったく、面倒なことになったわ」
「ああ。本当、面倒だな」
俺たちは同時にため息を吐き、その場で転移魔方陣を展開、それぞれの持ち場に戻ったのだった。
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