ゼクラム様から話を聞いた俺たちは、今後のことをざっくりと話し合った。話し合いの結果、とりあえず、調べるのは目の前の脅威を退けてからという方向にまとまった。
そして、ゼクラム様の話を踏まえて、改めてトウジさんから話を聞きたいということで再び天界に訪れていた。
第一天の医療施設は、近代的なものもありながら、どこか幻想的であり、一言で言えば不思議な場所だった。
トウジさんの病室に通された俺たち。昨日はかなり辛そうだったが、かなり楽になったようで、顔色もいい。
俺たちがゼクラム様からの話を伝えると、トウジさんは上半身を起こして話し始めた。
「……我々は最後まで彼を説得しました。当時では……いや、いまでも根強いとは思いますが、悪魔と信徒の恋愛は許さるものではありませんでした……」
「加えて、相手は『べリアル』。下手をすれば、魔王クラスのディハウザー・べリアルが出てくる。そうなれば、再び戦争になるかもしれない。……そう思ったわけか」
俺が確認するように訊くと、トウジさんは頷く。
「そんな時に、バアル派の悪魔が接触してきたのです」
そして、二人とも殺されたわけか……。なんとも、和平前の三大勢力らしい出来事だな。昔は、何でもありだった……。
俺が瞑目してため息を吐くと、リアスが言う。
「過去の出来事は……当時の両陣営の事情があったとはいえ、悲しい出来事です。だからといって、クリフォトの力を借りてテロ活動をしている以上、捨て置くわけにはいきません。━━止めます。どんな結果になろうとも、いま止めないと悲劇と憎悪は増えていくだけですから」
リアスの覚悟に、俺も頷く。
「負の連鎖は、もう懲り懲りだ。俺たちで止める。たとえ、またあいつを殺すことになっても……」
俺たちの兄弟の言葉にイッセーたちも頷いた。
イリナがトウジさんに言う。
「私にも、パパの辛さはわかるよ。私も戦士だから……。戦士だけど、パパの家族だもん。パパが罪悪感を抱いていたとしても、パパを守って見せるから」
俺たちの覚悟を、立派なことを言ってみせたイリナの覚悟を受け、トウジさんは頬を伝う涙を拭い、イリナに告げる。
「実はね、マイエンジェル。パパは、クリスマス企画だけのために、来日したわけじゃないんだ。渡したいものがあったから、来たんだ」
マイエンジェルって呼び方が気になるが、それはいい。トウジさんはベッドの横に置いてあった大きめのケースを取り出した。
開けるように促されたイリナがそっとケースを開けると━━。
「これは━━」
中身を手に取るイリナ。ケースの中身は、静かに聖なるオーラを放つ、一振りの剣だった。
トウジさんが言う。
「デュランダルの持ち主だったローラン。そのローランの親友であり、幼馴染みであったオリヴィエの持っていた剣━━オートクレール」
オートクレール、か。デュランダル使いの親友の剣とは、イリナにぴったりだな。
トウジさんは続ける。
「真に清き者以外は触れられないとされた剣だ。斬った者の心すら洗い流してしまうとされる。調べた結果、イリナちゃんが一番適性が高いことがわかった。天使になったことがそれを後押ししたと言われているけど、デュランダル使いのゼノヴィアさんの相棒を長く務めたことも作用しているとも言っていたよ」
そう言われ、お互いに見つめ合うイリナとゼノヴィア。イリナが持てるってことは、優れた適性があるってことなんだろう。
トウジさんが言う。
「……イリナ。これで、
オートクレールを受け取り、力強い眼で頷くイリナ。
「パパ……ありがとう!私、あのヒトを止めるよ!」
イリナの言葉を受け、ようやく笑みを浮かべるトウジさん。
その後、いくつかのやり取りをしたあと、見舞いを終了して退室していく。
不意に部屋を出ようとしていたイッセーが呼び止められた。
「……申し訳ないのだけど、イッセーくんだけ残ってもらえないだろうか。話したいことがあるんだ」
それを告げられたイッセーはリアスに視線を送り、リアルはそれに頷く。
そんなわけで、イッセーを残して退室すると、こちらに近づいてくる男性天使が一人。
「ロイ・グレモリー様、時間をよろしいでしょうか」
俺に用があるだと?リンチとかじゃ、ないよな……?
嫌な汗を流しながらリアスとロセに目配せすると、二人とも若干不安そうに頷く。
「……ああ、大丈夫だ」
俺も不安を感じながらも頷いた。
「では、第五天に向かいます。ついてきてください」
「わかった。そんじゃ、行ってくる」
「お兄様、お気をつけて……」
「ロイさん、気をつけてくださいね……」
変に不安を余計に煽ってくる二人。たぶん、大丈夫だよな?
そんなわけで、第五天に到着。案内の男性天使に先導され、近代的な建物に入り、そのままそこの待合室に通された。
埃一つない、綺麗な部屋だ。中央には長机と、それを挟むように人間界にもありそうなソファーが二つ置かれている。
「こちらでお待ちください」
男性天使はそう言うと、足早に部屋から出ていった。
待っている間、暇で仕方ないので部屋の中を歩き回っていると、ドアが開けられた。全開ではなく、中を覗くときのようにほんの少しだけだ。
俺がじっとそのドアを見ていると、少女と思われる声がドアの向こうから聞こえてきた。
『ガ、ガブリエル様、が、がん……頑張ってください……。こ、これもミカエル様からのご指示です……』
『け、けれど、ミラナ、彼とは━━━』
駄目だ、これ以上は聞き取れない。だが、あのドアの向こうにはガブリエルがいるようだな。帰りたくなってきた……。
俺はため息を吐きながらソファーに腰掛け、ドアの向こうにいる二人に声をかけた。
「入ってきたらどうだ?そこにいられたんじゃ気になって仕方ねぇ」
反応なし。むしろ完全に黙りこんだのか、向こうが静かになった。
俺はため息を吐き、懐からタバコを取り出した。久しぶりに━━。
「天界は全面禁煙です!」
一服しようとしたら、顔を真っ赤にしたガブリエルが怒鳴りながら入ってきた。ガブリエルに続き、緊張した様子の見慣れぬ女性天使も入ってくる。
見慣れぬ女性天使のほうは、黒いシスター服を着ており、
俺は再びため息を吐き、タバコをしまうとガブリエルに言う。
「……で、俺に用ってのは?俺としては、クリスマス企画をもっと詰めていきたいんだが」
わざとらしく不機嫌そうに言うと、二人は同時にビクッと体を強張らせるが、固い表情のまま長机を挟んで向かい側にあるソファーに腰掛けた。
ガブリエルが言う。
「た、単刀直入に言いますと、あなたに『あるもの』をお渡しします」
「単刀直入って言っておきながら、それを言わないって、どうなんだ?」
「……えぇと、それはぁ………」
俺の返しに、ガブリエルは言い淀むと、横に座る女性天使に助けを求めるように視線を送る。
女性天使に訊く。
「ところで、おまえは?見覚えがないんだが……」
女性天使は表情を強張らせ、顔を若干俯けながら自己紹介を始めた。
「……わ、私はミラナ・シャタロヴァ……ガブリエル様の『
ほうほう、ガブリエルの『
「俺はロイ・グレモリーだ。って、知ってるか。ガブリエルの『
「……うぅ……はい……」
顔を赤くしながら頷くミラナ。あの出来事は、少し刺激が強すぎるか?
俺がそんな事を思っていると、ガブリエルが俺と視線を合わさないように努めながら話を戻す。
「あ、あなたにお渡しするもの、それはこの建物にあります。い、今から、そ、それを確認に向かいます……」
ガブリエルがそう言うと、彼女とミラナは立ち上がり、足早にドアのほうへ。俺もそれに続いて立ち上がり、二人に続く。
待合室を出て長い廊下を進むなか、俺はガブリエルに問う。
「それで、俺に渡したいものってなんだ?」
「あなたにお渡しするもの、それは━━━」
若干落ち着いた様子のガブリエルが言いかけると、両開きの扉の前に到着した。横でミラナがディスプレイを操作すると、両開きの扉が開いていく。
扉が開いた先は、大きめの空間だった。空間の真ん中には、攻撃的なオーラを放つ白銀の刀身の大剣が浮いている。その周りにいる研究員と思われる天使たちは、各々話したり、書類や機材とにらめっこしたりしていた。
俺が部屋を見渡していると、ガブリエルが剣を手で示しながら言う。
「━━円卓の騎士、ランスロット卿が振った聖剣『アロンダイト』です」
━━━ッ!
ア、アロンダイト!?円卓最強と言われたランスロットの剣だと!?それを、俺なんかに渡すってのか!?
驚愕しながらアロンダイトに目を向けるが、同時にある話を思い出す。
「聖剣って言ったが、魔剣に堕ちていなかったか?ガウェインの弟を斬ったとかなんとかで」
俺が訊くと、ガブリエルは頷く。
「その通りです。魔剣となってしまったアロンダイトを回収、その危険性から今まで封印していました。しかし、木場裕斗様が提供してくださった聖魔剣、それを解析することで、魔剣となってしまったアロンダイトを元の聖剣に戻すことに成功しました」
木場の聖魔剣が、こんなところにも生かされているとはな。量産型とかもあったし、これからも色々とできるんだろうな。
俺が感心しながらアロンダイトに近づいていく。周りを円柱状の結界で囲まれているらしく、手で触れることはできない。
結界に手を添えながらアロンダイトを眺める俺に、ガブリエルが並ぶ。
「対リゼヴィム・リヴァン・ルシファー用に、この剣をあなたにお渡しします。その前に━━」
ガブリエルがミラナに目配せすると、ミラナが天界式の魔方陣を展開した。その周りを研究員が固めていく。
「あなたのオーラと、アロンダイトのオーラを同調させます。あの陣に入ってください」
「わかった」
俺が横のガブリエルに目を向け、笑みを浮かべると、ガブリエルは顔を赤くしながら顔を背ける。
俺は小さく息を吐き、その陣の中に入る。同時に研究員とミラナが操作を始めると、陣が輝き始めた。それに合わせるようにアロンダイトを囲む結界も輝き始める。
自分の中に違う何かが流れ込んでくる、気持ち悪い嫌な感覚に襲われるが、同調できるように集中していく。
周りでは研究員が忙しく動き回ってくれているが、手を借りっぱなしじゃ悪いよな。
俺は瞑目し、自分でもオーラを合わせるようにしていく。少しずつオーラが同調していき、気持ち悪さが無くなってきた。
嫌な感覚がなくなった矢先、周囲から歓声があがる。ゆっくりと目を開け、アロンダイトのほうに視線を向ける。
アロンダイトから、俺と似ているオーラを感じ取れた。「似ている」と言うのは、俺のオーラと聖なるオーラが混ざっているからだ。攻撃的なオーラは、ある程度落ち着いているように思える。
俺は周囲に確認するように視線を送る。横の研究員たちとミラナはホッと息を吐いていた。
ガブリエルが言う。
「これで、アロンダイトを振れるはずです。手に取ってみてください」
「了解」
結界が消え、触れられるようになったアロンダイトに近づいていき、手を伸ばす。
アロンダイトの柄をゆっくりと握り、感覚を確かめる。
見た目同様にずっしりとした重さがあるが、これぐらいなら問題なく振り回せるだろう。
俺はそれを確認しながら、ガブリエルに笑みを送る。
「ありがとうな。これなら、いけそうだ」
「……は、はい」
先ほどの落ち着いた様子から一変、再び顔が真っ赤になっていた。
再びため息を吐きながらアロンダイトを眺め、若干魔力を送ってみる。曇りのない白銀の刀身から、深紅の滅びの魔力と、攻撃的な聖なるオーラが入り交じった不思議なオーラが放たれる。
「聖剣ってよりは、聖魔剣だな。まあ、木場のやつほど綺麗に両立しているわけじゃないが……」
俺の一言に、男性研究員が返してくる。
「あなた専用の剣です。オーラと同調させたので、あなたの『滅びの魔力』にも問題なく耐えられるはずですよ」
「そんじゃ、早速纏わせて━━━」
一気に魔力を送って刀身を深紅の魔力で包み込み、すぐさま魔力を送りこむのを止め、元の状態に戻す。
「おお……!傷一つない。流石、聖剣だな」
そんな事を言う俺の視線の先には、傷一つない聖なるオーラのみを放つアロンダイトの姿がある。魔力を送れば、滅びの一撃を放てるが、無しでも聖なるオーラだけで攻撃できるんだな。
「さてと、貰うものを貰ったし、リアスたちの所に━━━」
俺がそう言いかけた瞬間、突然の揺れが俺たちを襲う!
空の上で地震は起こらねぇだろうから、どっかで事故でも起きたのか!?
研究員たちとミラナ、ガブリエルも仰天しながらも揺れに耐えていた。あいつらも想定外ってことだよな!
揺れが治まるよりも早く、部屋の壁に警戒を知らせる赤い天界文字が点滅し始めた!
「いきなりどうした!?」
俺が怒鳴ると同時に、部屋に警備の天使が駆け込んできた。顔色が悪い。何かあったようだ。
「ガブリエル様、大変です!」
「何事ですか!」
凛々しい戦士の顔になったガブリエルが訊くと、警備の天使が報告する。
「……邪龍が、クリフォトが天界を攻めてまいりました……ッ!」
その報告に、部屋にいた天使たちの表情が青ざめる。
クリフォトの毒牙が、ついに天界にまで達してしまった━━━。
ざっくりアロンダイトについて説明。
アロンダイト自体はアーサー王伝説に登場しないが、その後に書かれた作品で『ランスロットの剣』として登場。今作ではそのままランスロットの使った剣として扱う。
アロンダイトがオートクレールになったという説もあるが、今作では別々の武器として扱う。
外見は、FGOに出てくるアロンダイトを想像してもらうと分かりやすいと思います。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしいお願いします。