第五天、研究施設の一室に、義手を戦闘用のものに変え、ついでにアロンダイトを背負った俺━━ロイと、指揮として残ったガブリエル。そしてミラナを始めとした『
立体映像が中央の台に映し出されている。
どの映像も、邪龍が暴れまわっているものだ。第二天から第四天が攻め込まれている形のようで、天使たちが必死に応戦していた。
「敵は第三天から侵入したようです!」
天使の一人がそう報告をくれた。同時に映像が切り替わり、第三天━━天国の空中に浮くアグレアスが映し出された。そこから邪龍が湧き出ているようだ。
さらに映像が切り替わり、見覚えのある奴らが映し出される。
「……ラードゥン、ヴァルブルガ、クロウ・クルワッハ。また面倒な奴らが来てやがるな……」
俺が嘆息気味に漏らす。ヴァルブルガはどうにかなるが、ラードゥンとクロウ・クルワッハは、なかなか苦戦するだろう。実際に、二体と一人に天使たちは苦戦を強いられていた。
だが、奴らはどうやって天界に入った?天界の結界を突破するにしても、その段階で気づくはずだ。まさか、天使に裏切り者が……?
俺があごに手をやりながら考えこんでいると、何かを操作していた天使が声を出す。
「第一天の司令室と繋がりました!映像に出します!」
そう言うなり、台からテレビ画面のように映像が映し出される。
『こちらは第一天です!そちらはご無事ですか!?』
向こうの天使は少々慌てているようだが、映像を見る限りあちらは大丈夫そうだな。
俺の横にいたガブリエルが訊く。
「こちらは大丈夫です。状況は把握できていますが、クリフォトは一体どこから……」
ガブリエルが俺たち共通の疑問を口にすると、また別の映像が映し出される。
『━━冥府サイドだろうな』
現在地上にいるアザゼルからだ。連絡がくるだけ、アウロスの時よりはマシだな。
俺が訊く。
「そっちはどうだ?上がって来られるか?」
アザゼルが首を横に振る。
『ダメだな。天界への入り口が開けられない。増援は送れそうにない』
ダメか。増援は望めないが、天界の戦力は十分だろう。ラードゥンだのクロウ・クルワッハだの、相手が悪いような気もするがな。
「原因はわかるか」
俺が問うと、再び映像が映し出され、今度はミカエルが顔を出す。
『申し訳ありませんが、調査中なのですが……今は第七天の障壁を補強を優先しています』
「まあ、天界の中心をやられるわけにはいかねぇからな。エレベーターは後回しでも構わねぇよ」
俺が軽く肩をすくめながら言うと、ミカエルも『申し訳ありません』と再び謝ってくる。
話をアザゼルのものに戻す。
「さっき冥府って言ったよな?となると、ハーデスの野郎か……!」
俺が憎々しげに吐き捨てると、アザゼルが深く頷いた。
『あの野郎、どこまで俺たちに嫌がらせするつもりなのかね?まあ、それは後だ。奴ら、おそらく
話を進める俺たちに、イッセーが訊いてくる。
『あの、なんですか?その、辺獄とか煉獄とか……』
「ざっくり言うと、天国と地獄以外で死者が流れ着く場所だ。そこで身を清めると、晴れて天国に行ける。ようは、天国への裏口みたいなものだな」
俺の本当にざっくりとした説明にアザゼルが続く。
『辺獄と煉獄は「ハデス」とも言う。聖書の神は冥府を参考にそれらを定義したらしい……。ここからは憶測になるが、ハーデスは辺獄か煉獄から天国に行く道を見つけた可能性がある』
アザゼルの憶測が終わると同時に、第一天の映像に映る天使が報告をしてきた。
『報告です!煉獄から第三天へ通じる扉が破壊されているとのことです!』
その報告に、俺、アザゼル、ミカエル、ガブリエルの表情が一層険しくなり、リアスたちの表情が驚愕に変わる。
あの骸骨野郎、どこまでやれば気が済むんだよ……っ!英雄派だけじゃなく、クリフォトにまで協力しやがって……!
「ハーデスの野郎。兄さんとアザゼルから『次はない』と警告されただろうが!」
俺の言葉にミカエルも険しい表情のまま言う。
『我々からも、ジョーカーを送りましたからね。冥府の主神は何を考えておられるのか……』
俺たちが愚痴をこぼしていると、アザゼルが思い出したかのように口を開く。
『……ユーグリットから聞き出した情報によると、復活した邪龍のなかで、リゼヴィムの支配を受け付けなくなってきたものが出てきているそうだ。それが、クロウ・クルワッハ、アジ・ダハーカ、アポプスの三体。こいつらは、リゼヴィムと取り引きをし始めていると言っていた』
「なんだ?『条件付きで解放』とかか?」
俺が思い付きで言うと、アザゼルが一瞬驚きながらも頷く。
『正解だ。内容はわからないが、おそらく「神クラスと契約しろ」とかそんなんだろう。そして、冥府━━地獄と関連性が高いアポプスがハーデスと契約した。と考えられる』
俺は呆れたようにため息を吐き、クリフォトたちの立てた筋書きを口に出す。
「クリフォト的に言えば、『逃げ出した邪龍が勝手に神と契約して、なんか知らないけど情報をくれた』ハーデス的に言えば、『逃げ出してきた邪龍と契約して、色々と教えてやった』……これを協力と言わずになんて言うんだろうな……」
俺の言ったことに、アザゼルが目を細める。
『━━悔しいが、それを追及している場合でもない。俺たちは天界の扉を開けようと思う。おい、ミカエル!そっちに手が空いている奴がいたら、門のほうも頼むぜ』
『わかりました』
「それはそれとして、奴らの狙いはなんだ?『システム』はいくらなんでも無理だ。ミカエルたちがもう固めてる」
俺は横のガブリエルとミラナに目を向ける。
「なら、そこを守るセラフとその『
二人から視線を外し、あごに手をやりながら考える。
天界にあって、重要か貴重なもの……。
「ミカエル。生命の実と知恵の実はどうなんだ?」
『……どちらも樹自体は健在ですが、長らく実は付いていません。主が亡くなられて以来、果実の成長は止まってしまいました』
ミカエルの言葉で、余計に目的がわからなくなる。奴ら、本当に何をしに天界に来た……。
俺が思考を深めていると、突然振動が俺たちを襲う!見た限り、リアスたちのいる第一天は揺れていない!ってことは━━━。
「奴ら、上がってきたか!」
俺が振動に耐えながら言うと、映像に映るイリナが何かに気づく。
『……あれはッ!』
『━━ッ!』
イリナの叫びにオカ研メンバーが反応した。大量の邪龍を引き連れた人間が、第五天の現状が流れる映像に映っているのだ。
「
念のため、第四天の映像を確認するが、邪龍の物量に押され始めているようだ!天使たちが第五天の入り口となる門まで防衛ラインを下げており、邪龍が突破しつつある!
グリゼルダが目元を厳しくした。
『……いけません。現在、第五天には、解毒の最終段階のかめに紫藤局長が上がっています!』
━━なら、行く場所とやることが決まった!
「トウジさんのほうには俺が向かう!おまえらも敵を蹴散らしながら上がってこい!」
『はいっ!』
映像に映るリアスたちが勢いよく返事をしてきた。
俺がアロンダイトを背負い直していると、ミカエルが言う。
『ガブリエル、ミラナ、二人も紫藤局長の保護をお願いします。相手は邪龍、容赦はいりません』
「はい」
「お、お任せください!」
二人が頷き、ガブリエルが部屋にいた天使たちに指示を飛ばす。さっきの赤面が嘘のような凛々しさだな。
それを済ませたことを確認し、俺を含めた三人で部屋を後にしようとすると、アザゼルが訊いてくる。
『ロイ、ぶっつけ本番だが、大丈夫か!?』
俺は振り返り、不敵な笑みを浮かべてアザゼルに返す。
「俺は『
『へっ。そうだな。あんまり無理すんなよ!』
「おうよ!」
俺、ガブリエル、ミラナの三人は、勢いよく部屋を飛び出した━━━。
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俺━━兵藤一誠を含めたオカ研チームが、映像越しにロイ先生を見送ったとき、あることに気づいた。
「アザゼル先生、ロイ先生が背中に張り付けていたものは……?」
『「アロンダイト」だ。リゼヴィムを相手できるようにロイに渡してくれって話を通しておいたんだが、今年中に渡せたようだな』
『━━━ッ!?』
アザゼル先生が何てことがないように言うが、アロンダイト!?俺でも名前を知っているぞ!?
驚愕する俺たちをアザゼルが急かす。
『ほら、おまえらも出発しろ。紫藤局長のほうにロイが行ってくれているとはいえ、万が一もある。俺も門を開き次第、増援を送れるように準備する!おまえら、気張れよ!』
俺たちはハッとしながらも『了解!』と返し、第一天を出発する。
ロイ先生、俺たちが行くまで、イリナのお父さんをお願いします!
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