グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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life10 プレゼント

大蛇(おろち)の毒で倒れ、そのまま解毒治療を受けた俺━━ロイは、冥界の病院に担ぎ込まれていた。

入院している間、俺はある考えに浸っていた。

ゼクラム様から話を聞いたときは、色々と立て込んでいたからそこまで深くは考えなかったが、なぜクレーリアを殺したんだ?

悪魔と人間の寿命なんて、比べるまでもない。クレーリアを百年でも冥界で軟禁すれば、どうにかなった可能性もある。だが、殺害した。なぜだ……?

兄さんやセラに聞こうとも思ったが、二人のことだから教えてはくれないだろう。昔の同僚の手を借りるか。……ほとんど職を変えたか、引退して隠居していた気がするがな。

俺はそう決め、とりあえず退屈だったので━━、

 

「買い物日和だなっと」

 

病室を抜け出していた。しっかり看護師の行動パターンを把握してから動いたので、騒ぎにはならないはずだ。

格好はいつかのデートと同じものだが、髪を魔力で黒く染めているおかげでグレモリー家の者だとはバレずに済んでいた。現に、店に入っても何も言われない。

 

「ん?」

 

何となく入った店で、あるものに目が止まる。

これ、買っていくか……。ちょうど色もぴったりだし、価格は……ちょっと高めだな。まあ、だいたいこんなもんだろう。

俺はそう決め、それを購入。あとは、いつ渡すかだな……。

 

 

 

━━で、病室に戻ってみたら、

 

「ロイ。髪を染めてまで、何をしているのかしら?」

 

額に青筋を浮かべている亜麻髪の女性━━母さんがいた。連絡もなしに来るとは……予想外だった!

俺は冷や汗を流しながら、ゆっくりと正座する。

 

「ちょっと、気分転換に買い物に行っていました……」

 

「……それは、ちゃんと許可を貰ったんでしょうね?」

 

俺は無言で視線を泳がせる。嘘を言ったところで、すぐにばれる。なら、素直に言ったほうがいいよな……?

 

「……か、勝手に出ていきました……」

 

俺が言うと、母さんは眩しいほどの笑みを浮かべ、俺にアイアンクローをくらわせてくる!

 

「ぎぃぃいいやぁぁぁぁぁああああッ!ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!」

 

「病院では静かにしなさい。いいわね?」

 

「だったら、離してくだたたたたっ!」

 

俺がタップしながら言うと、母さんはため息を吐きながら手を離す。

俺が唸りながら頭を押さえていると、母さんが言う。

 

「あなた、いつからそんなに自由になったの?昔はきっちりしていたのに」

 

「心境の変化です」

 

俺はそう言うと、声のトーンを落とす。

 

「(まあ、前世でクリスマスとか、その手のものをあまり経験できませんでしたから、ちょっとはしゃぎたいんですよ)」

 

俺が本音を言うと、額に手をやりながら再びため息を吐く母さん。

 

「わかりました。今回は見逃します」

 

「ありがとうござい━━」

 

「ただ……」

 

俺のお礼を遮ると、母さんは俺の額を小突く。

 

「次はありませんから、気を付けなさい」

 

「……はい」

 

俺が萎縮気味に返事をすると、正座をする俺を抱き締めてきた。

俺が若干驚いて固まっていると、母さんは俺の頭を撫でながら耳元で漏らす。

 

「たまには心配するこっちの身にもなりなさい……」

 

「ごめんなさい……」

 

俺が謝ると、母さんは体を離して優しく笑む。

 

「あとはあの()にお任せするわ」

 

そう言いながら病室の入り口に目を向ける母さん。俺が疑問符を浮かべながらそちらに目を向けると、

 

「…………」

 

扉の隙間から、ゆらゆらと揺れる銀色の髪が見えた。もしかして、今のやり取り、見られていたのか……。

俺は若干頬を赤くしながら、頬をかく。何と言うか、恥ずかしいな……。

母さんは可笑しそうに笑むと、「たまには屋敷にも顔を出しなさい」と告げて出ていった。

俺がため息を吐いていると、病室前にいた銀髪の女性━━ロセが申し訳なさそうに入ってくる。

 

「その、すいません。覗くつもりはなかったんですけど……」

 

「いや、大丈夫だ。で、どうかしたか?」

 

俺が訊くと、お見舞いの品と思われるリンゴをベッド脇の机に置いてから彼女は言う。

 

「お忙しいセラフォルー様に代わって、様子を見に来ました」

 

「そうか。ありがとうな」

 

俺が笑みながら礼を言うと、ロセは顔を赤くする。まだ慣れていないようだ。

そんなロセを見て苦笑しながら、話題を変える。

 

「クリスマス、明後日だったな。退院は明日だから、ぎりぎりか」

 

俺がぼやくと、ロセはリンゴを剥きながら頷く。

 

「確かに退院は明日ですけど、無理はしないでくださいね?紫藤局長は大事をとってお休みなさるのですから」

 

「俺のタフさを舐めるな。やると決めたら、意地でもやってやるよ」

 

俺が言うと、ロセは「そうですよね」と苦笑する。そして、剥き終わったリンゴをこちらに差し出してくる。受け取ろうと手を出すが、なぜか引っ込められた。

俺が再び手を伸ばそうとすると、ロセは病室の扉がしっかりと閉まっていることを目で確認し、覚悟を決めた表情になる。

 

「あ、あーん………」

 

リンゴを爪楊枝に刺し、そう言いながら差し出してきた。……つまり、そういうことだよな……。

俺も周囲の気配を探り、ヒトが周りにいないことを確認する。

俺はため息を吐き、ロセの差し出したリンゴをほおばった。うん、ほどよく甘酸っぱいな。

 

「どうも。まあ、やるにしても、場所を考えて欲しいけどな」

 

「そ、それは言うんでねぇ!わ、わた、わたすだって恥ずかしいんだ!」

 

訛るロセ。久しぶりに聞いた訛り声だ。

ロセはその後も俺にリンゴを食べさせると、顔を真っ赤にしながら病室を飛び出して行った。まあ、何事も慣れなんだろう。……たぶん。

 

 

 

 

 

そんな事があった二日後。

 

『メリークリスマス!』

 

乾杯するオカ研メンバーと生徒会メンバーと企画参加者たち。ついでにルフェイと黒歌もいる。

無事に『クリスマス企画』を終えた俺たちは、ちょっとしたパーティーをしているわけだ。

プレゼント配りは、俺の分担を減らしてもらう方向にしてもらい、無理を言って参加させてもらった。

俺同様、かなりの無茶をしたファブニールは、現在眠りについている。あいつのおかげでリゼヴィムの腕を飛ばせたんだ、しばらく休んでもらおう。

何て事を思いつつ、俺が黙々と食事に手を出しているなか、黒歌が腕に絡んでくる。

 

「ちょっと、聞いたわよ。八岐大蛇(やまたのおろち)の毒もらったんでしょ?大丈夫なの?」

 

「大丈夫じゃなきゃ、ここにいないっての。おまえは心配しすぎなんだよ」

 

俺はそう返しながら黒歌を剥がそうとするが、全然離れてくれない。こいつ、意外と力あるな……!

小猫に助けを求めようとしたが、ギャスパーと楽しそうに食事をしていて、声をかけられる雰囲気ではない。あとで手伝ってもらおう。

一人でどうにか剥がそうとしていると、リアスと朱乃が前に出る。

 

「皆、聞いてちょうだい。私と朱乃から重大発表があるの」

 

「うふふ、こんな時に突然かもしれませんけれど、あえてこのタイミングでお伝えしようと、前から決めていたのですわ」

 

朱乃が微笑みながらリアスに続き微笑んでいた。

リアスが続ける。

 

「オカルト研究部の新部長と新副部長について、発表するわ」

 

ああ、あれか。事前に話を聞いていた俺とソーナは特にリアクションしないが、イッセーたちと生徒会の面々は驚いていた。

リアスは言う。

 

「私は、オカ研の部長を三年間やってきたけれど、特別強いルールを残さないようにしてきたわ。それはこれから継いでいく部長、部員たちにも覚えておいてほしいことなの。オカ研はその時々のルールで運営していったほうがいいわ」

 

リアスは一度咳払いをして、新部長、新副部長を発表した。

 

「新しい部長はアーシア、新副部長は裕斗よ」

 

言われたアーシアは完全に不意討ちだったらしく、口をポカンと開けて面食らっていた。

リアスが続ける。

 

「アーシアにした理由は、この中で一番新しいオカ研を作ってくれそうだと思ったから。私とは違う方向へ部活を動かしてくれそうで、そう考えたら、一番楽しそうだったのよ」

 

続いて朱乃が木場を選んだ理由を言う。

 

「裕斗くんが副部長なのは、単純に二代続けて女性で固めるのも……という面と、男子生徒との架け橋にもなりそうだと、私とリアスが考えたからですわ」

 

「イッセーにしようかとも考えたのけれど、これから忙しくなりそうだし、かといって部活動をおろそかにするわけにはいかないから、裕斗にやってもらおうってことになったのよ」

 

細かい理由は、そんな感じなんだな。最終的に決めるのはリアスと朱乃だから、俺はあまり口出ししないでいた。

アーシアが部長だと、確かに何か新しいことが始まりそうだし、木場が副部長ならなんか安心して色々と任せられる。男子生徒の架け橋って言ったが、むしろ女子が寄ってきそうだがな。

リアスが二人に問う。

 

「それで、二人はこれを受けてどうなのかしら?」

 

「僕は問題ありません。光栄なくらいです」

 

木場は快諾していたが、アーシアはまだ戸惑っている様子だ。

 

「わ、わ、わ、私は………その!」

 

「とりあえず落ち着け」

 

どうにか黒歌を剥がした俺は、そう言いながらアーシアに水を渡す。アーシアはその水を飲んで、少し落ち着いてから言う。

 

「私で本当にいいのかなって思ってしまいまして……。人見知りの激しい私が、きちんと勤められるのか、不安で……」

 

イッセーがアーシアに言う。

 

「大丈夫だよ。その辺は俺たちがしっかりフォローするから。それにアーシアが部長ってだけで俺、張り切れちゃうし」

 

俺はうんうんと頷きながら、イッセーの肩に手を置く。

 

「そうそう、この通りイッセーは『誰かのために頑張れる単純バカ』だからな。何かあったら俺もサポートするから、やってみたらどうだ?」

 

「ロ、ロイ先生?た、単純バカって、誉めてます?バカにしてます?」

 

イッセーが何か言っているが無視して、みんなに訊く。

 

「みんなもいいだろ?」

 

俺の問いかけに、オカ研メンバーは笑みを浮かべながら頷く。

 

『もちろんです!』

 

それを聞いたアーシアはしばし考え込み、笑顔で頷く。

 

「……わかりました。謹んでお受け致します!若輩者の私ですが、よろしくお願いします」

 

『はい、部長!』

 

一礼するアーシアにオカ研のみんなが返事をしていた━━━。

 

 

 

 

 

 

場所が変わって俺の部屋。

広めの部屋には、俺、ロセ、黒歌の三人がいた。俺はベッドに腰掛け、ロセは椅子に、黒歌は部屋を観察するようにうろうろしていた。

 

八重垣(やえがき)はリゼヴィムに……」

 

「はい。イッセーくんは、『あのヒトとなら、分かりあえた』と……」

 

八重垣の動向について聞いていた。どうやら、俺が到着する前にリゼヴィムに殺されていたようだ。もう少し早くついていれば、どうにかなったか……?

俺がそんなことを思慮し始めていると、背中から黒歌に抱きつかれ、右肩に黒歌の顔が乗っかる。

 

「私が言うのもなんだけど、起きちゃったことは仕方ないにゃ。『あの時ああしておけば━━』なんて、考え始めたらきりがないにゃ」

 

俺とロセは驚愕しながら黒歌に目を向ける。こいつが、そんな真面目なことを言うなんて……。

俺たちの心中を察したのか、黒歌が不機嫌そうに言う。

 

「ちょっと!私だって色々と考えてるのにゃ!考えなしに動いてるって思ってたわけ!?」

 

「ああ」

 

「……はい」

 

「ひどいにゃ!」

 

俺たちの返事を受け、わざとらしくショックを受けた表情になる。だが、俺から離れようとはしない。

俺が苦笑していると、俺たちの前に転移魔方陣が展開される。紋様はレヴィアタン。つまり、来るのは━━、

 

「ロイ☆メリークリスマス☆」

 

ミニスカサンタ姿でポーズを決めるセラだった!あの時買ったやつ、着てきたのか!

 

「メリークリスマス。似合ってるじゃないか」

 

俺が言うと、セラが両手を頬にやりやがら体をくねくねし始める。

 

「もう、恥ずかしいじゃない☆」

 

そう言うわりには嬉しそうだけどな。それを見ていたロセと黒歌の表情が引き締まる。てか、俺を抱き締める黒歌の腕に力が入った。

俺は頬をかきながら、一旦黒歌に離れてもらう。残念そうにしていたが、ちょっとやりたいことがあるんでな。

俺は特に説明もせずに手元に小型の魔方陣を展開する。三人が疑問符を浮かべながら見てくるが、俺は構わずに言う。

 

「俺からのクリスマスプレゼントってやつだ。まあ、あまり期待はしないでくれ」

 

「「ッ!」」

 

俺の言葉で、セラとロセの表情が変わる。すごいキラキラした目で見てくるのだ。あまり期待するなと言ったんだがな……。

 

「まずはセラ。おまえにはこれだ」

 

魔方陣から小さな箱を取りだし、中身を見せる。セラはそれを手に取り、目をうるうるさせながらそれを眺める。

俺は照れ臭く後頭部をかきながら言う。

 

「ちゃんとしたものを渡したかったんだが、それは『本番』にとっておくことにした。どうだ……?」

 

「うん……うん……!嬉しいわ………!」

 

セラは何度も頷き、それを右手の薬指にはめる。俺が渡したのは小さな蒼い宝石がついている『指輪』だ。結婚式の時にも渡すんだよなとも思ったが、いつになるかわかったもんじゃねぇから、思いきってこれにした。

 

「次はロセ。おまえにはこれだ」

 

「は、はい!」

 

俺は次の箱を取りだし、中身を見せる。

 

「指輪にしようかとも思ったが、セラと同じものだと特別感が薄れる気がしたからな。今回はこれで我慢してくれて」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

ロセはそっとそれを手に取り、まじまじと見つめ始めた。俺はそんな彼女を見ながら苦笑し、手招きする。

 

「つけてやるから、こっち来い」

 

「は、はい!」

 

そんなわけで、それを首につけてやる。ロセにプレゼントしたのは銀色の宝石のついた『ネックレス』だ。これなら、服の下とかにも隠せるしな。

 

「━━これで良し。次、黒歌!」

 

「にゃい!?」

 

なんか勝手に関係ないオーラを出していた黒歌を指差す。いきなり呼ばれたあいつは驚いていたが、なんか嬉しそうである。

 

「日頃の感謝を込めてってことで。ほれ」

 

俺はそう言いながら黒歌にプレゼントを渡す。こいつへのプレゼントは、黒い宝石のついた金属の『ブレスレット』。何となく、これしかないと思った。

それを受け取った黒歌は、それを大事そうに抱えながら笑む。

 

「ありがとね。大事にするわ」

 

「━━っ」

 

その時の黒歌の笑みに、一瞬見惚れた自分がいた。いつものふざけたような笑みではなく、優しい笑みを浮かべていたのだ。ちょっと、面食らった。

それに気づいたのか、黒歌の笑みがいつものものに戻る。

 

「なに?見惚れてた?」

 

「そんなわけ、ねぇ……」

 

「見惚れたたんだ。ふふ……」

 

いじってくる様子もなく、嬉しそうに笑む。なんか、調子狂うな……。

俺が右頬をかいていると、セラが左頬を引っ張ってくる。

 

「あ、あの~、セラしゃん?」

 

「プレゼントを貰ったのは嬉しいけど、話があるの」

 

いきなり冷静な声音になったセラ。これは、説教パターン?

俺が黙っていると、セラは続ける。

 

「ロスヴァイセから聞いたわ。また、ガブリエルの胸に飛び込んだそうね?」

 

「飛び込んだってか、倒れたらそこにあったと言うか……」

 

そう言いながら横目でロセに目を向けるが、気まずそうに視線をはずされた。

 

「言い訳は結構。今日という日は許さないわ!」

 

こうして、俺の聖なる夜は、恋人からの説教で更けていったのだった━━。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

所変わって天界某所。

『四大セラフ』に名を連ねるミカエルとガブリエルが、長机を挟んで書類を確認していた。

 

「無事に『クリスマス企画』も完了したようですね」

 

「…………」

 

ミカエルの言葉に、ガブリエルは反応しない。心ここに有らずと言わんばかりに、ボケッと虚空を見つめていた。

ミカエルは書類から視線を外し、苦笑した。

 

「彼のこと、気になりますか?」

 

「ふぇ!?い、いえ……それは……」

 

ミカエルの言葉に、露骨に反応するガブリエル。彼というのは、十中八九、ロイのことだろう。

ミカエルは言う。

 

「彼なら大丈夫と言ったはずですよ。現に、『クリスマス企画』にも無事に参加していますからね」

 

ガブリエルは小さくホッと息を吐いた。ミカエルは自分がロイの心配をしていると解釈したようだ。

だが、彼女の胸中にあるのは、リゼヴィムに面と向かって言ってのけたロイの言葉。

 

『セラフだからとかは関係ねぇ……!俺の目の前で、こんな美人に死んで欲しくねぇんだよ……!』

 

自分のことを『一人の女性』として捉える発言に、ガブリエルは困惑していた。

ミカエルをはじめとして、男性天使の顔は整った者が多い。そんな彼らと会う機会は多いが、彼らはあくまで『同僚』か『部下』、まとめてしまえば『仲間』だ。そう線引きし、主に代わって彼らをまとめる『セラフ』として、振る舞ってきたし、周りもそう接してきた。

では、ロイは?初めて会ったときは、『天使』と『悪魔』という絶対的な『敵』だった。そう線引きできた。

だが、今や三大勢力は和平を結び、悪魔を『敵』とは線引きできない。『仲間』と線引きしようとも思えたが、そう思うたびに違和感を感じ、彼の顔を思い出すたびに胸に何かが突っかかる。一体なにが突っかかっているのか。それがわからない。

悩み続けるガブリエルに、ミカエルは言う。

 

「ガブリエル。主が亡くなり、天界は大きく変わりました」

 

いきなり真面目なことを話し始めたミカエルに、ガブリエルは首を傾げた。

ミカエルは続ける。

 

「主だけではありません。多くの天使も失いながら、様々な工夫を凝らして今まで天界を運営してきました」

 

何が言いたいのかまったく把握できていないガブリエルに、ミカエルは書類を置き、単刀直入に言う。

 

「たまには息抜きも必要でしょう。『セラフ』としてではない『あなた』として、彼と向き合ってみればどうですか?」

 

「……?」

 

余計にわからなくなり始めるガブリエルを見て、ミカエルはため息を漏らす。

 

「自分には鈍感なのですね。ガブリエル、あなたは彼に、ロイ・グレモリーに『恋』しているのではありませんか?」

 

「ッ!」

 

いきなりミカエルの口から出た言葉を受けたガブリエルは驚愕の表情を浮かべるが、なぜか胸に突っかかっていたものが取れたような錯覚を覚える。

彼は初めて自分が『異性』として意識したヒトだ。

彼は進み続ける強いヒトだ。

彼は守るためなら無茶をするヒトだ。

彼は━━。

 

『ありがとうな』

 

━━笑顔が似合うヒトだ。

ガブリエルがそう思った瞬間、彼女の周りに堕天防止用の結界が展開される!

慌てるガブリエルとは対象的に、ミカエルは特に気にする様子もなく言う。

 

「あまり考え過ぎないようにしてくださいね。堕天されては大変です」

 

「ご、ごめんなさぁい」

 

ガブリエルはいつもの間延びした声で返し、自分を落ち着かせるように深呼吸をして結界が解けるのを待つ。

 

そう言えば、彼もこんなことをしていたような……。

 

ガブリエルがそう思った瞬間、結界からけたたましい警告音まで鳴り始める!

さすがのミカエルも慌て始め、ガブリエルに言う。

 

「ガ、ガブリエル!?落ち着きなさい!それ以上は大問題です!」

 

「ごめんなさい……」

 

今度は真面目に返し、ようやく結界が消える。

それを確認したミカエルは手元に魔方陣を展開。そこから『ドアノブ』を取り出した。

この『ドアノブ』は、紫藤イリナも持っているものだ。このドアノブを付けたドアを開ければ、『悪魔と天使が子作りできる部屋』に入ることができる。

それを知っているガブリエルの顔が赤くなる。

 

「念のため、渡しておきますね。使い方はわかっていると思います」

 

ガブリエルは顔を真っ赤にしたままそれを受けとるが、それと同時に再び結界が展開された。

ミカエルは苦笑し、どこかにいるガブリエルの想いヒトに言う。

 

「ガブリエルを頼みますよ。あなたになら、彼女を任せられます」

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなざい……!」

 

当のロイは、いまだにセラフォルーから説教されていた。セラフォルー曰く、「なぜガブリエルの胸がいいのか」「自分の胸では不足なのか」など、どちらかというと愚痴が多い。

それを見ているロスヴァイセと黒歌は、

 

「どうすればあの防御を崩せるかにゃ……」

 

「この際、後手に回るのも……」

 

「いやいや、それはないにゃ。狙うなら一番にゃ」

 

「そうですけど……」

 

どうやってセラフォルーを回避してロイに迫るか、真剣に話し合っていた。だが、まったくゴールが見つからない。

その時、ロイの耳元に天界式連絡用魔方陣が展開される。ロイは耳を済ませ、セラフォルーもそれに耳を近づける。

 

『ミカエルです。こんな時間で恐縮ですが、お話があるようなので、あるヒトをそちらに送ります。では━━』

 

一方的な喋りのあと、連絡用魔方陣が解除される。それと同時に、彼らの前に転移用魔方陣が展開され、一気に光が弾ける。

 

「お、お邪魔しまぁす……」

 

光が止み、そこにいたのは、サンタ姿のガブリエルだった。ロイは気まずそうに顔をそむけるが、セラフォルーが無理やり前に向き直らせる。同時にロスヴァイセと黒歌もロイに詰め寄った。

 

「これはどういうことかしら?」

 

「これはどういうことですか?」

 

「これはどういうことにゃ?」

 

三人同時に詰め寄られたロイは、全力で首を横に振りまくる。そんななか、ガブリエルが笑みながらロイに頭を下げた。

 

「末永く、よろしくお願いしまぁす」

 

「「「「……………」」」」

 

ガブリエルの発言に、完全に固まる四人。真っ先に復活したのはセラフォルーだった。

セラフォルーはガブリエルに詰め寄り、鬼の形相で問う。

 

「あなた!私からロイを奪うつもりなの!?天使として、それはどうなのよ!?」

 

「ミカエル様は、『信仰にも色々な形がある』と」

 

「どんな信仰よ!?」

 

セラフォルーはそう返すが、ガブリエルは特に気にした様子もなくロイに目を向けて笑みを浮かべた。それを向けられたロイは苦笑する。

 

「これは……面倒なことになりそうだな……」

 

「まさか、こんな事になるなんて……」

 

「にゃはは……。またすごいライバルが来ちゃったにゃ……」

 

絶望的な表情になるロスヴァイセと、珍しく力なく笑う黒歌。三人の前では口論を続けるセラフォルーとガブリエル。

ロイはそんな二人を眺めながら微笑する。

 

「ま、無下にはできねぇか……」

 

「なんですぐに納得できるのよ!まさか、前から密会していたとか!?」

 

「そんなわけねぇじゃん」

 

ロイは軽く流すが、部屋に揃った四人に視線を配り、無意識のうちにロイは笑う。

 

━━かつての敵同士が笑いあう。

 

ようやく叶ったセラフォルーの夢。あとは、この状況を楽しみ、永く続くように戦うだけだ。

 

━━それが自分なりの『贖罪』であり、『戦う理由』だから。

 

だが━━とロイは思う。

目の前であれやこれや言い合う四人を前に、ロイは前から考えていたことの答えにたどり着く。

 

━━誰かと共に生きること。それが俺の『夢』であり、『生きる理由』なんだろう。

 

前世ではまったく抱かなかったその想いに気づき、ロイの表情がさらに和らぐ。

また騒がしくなるであろうこれからを想いながら、それを楽しみにしている自分を自覚しながら━━。

 

 

 

 

 




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