夕食を終えた俺━━ロイをはじめとした五人は、一旦着ぐるみを脱いで談笑をしていた。
俺がイッセーとサイラオーグに言う。
「俺と父さんで散々『ゆるキャラ』言っているが、本来なら母さんが管理しているんだぜ?」
「うむ、彼女はいわゆる目利きだ。埋もれているものを取り上げる商才に恵まれている。グレモリー領の片田舎、そこの住民しか口にしない珍しい作物や、原住民の作る工芸品などを都市部で流行させ、一大企業に仕立てあげてしまう。彼女によって救われた職人がどれほどいるか……」
本当、ただ怖いだけじゃないんだ。仕事をし始めれば手際いいし、何だかんだで優しいし。
いつかの病院で心配してくれたことを思い出して苦笑し、そのまま話を続ける。
「それにしても、母さんが若い頃はスゴかったらしいしな。俺はあんまり知らないが、『バアル家最強の女性悪魔』と呼ばれているぐらいだ」
「リアスの二つ名『
俺もそれを聞いたときは驚いたが、今の母さんからは想像できないな。戦時中は、あんまり戦場で会わなかったし……。
俺は一度咳払いをして、話を戻す。
「━━で、話は母さんの商才だったな。リリティファ、ここらへんに特産品とかないか?珍しい感じだったら、なおよしなんだが」
俺が訊くと、リリティファは首をひねる。
「えーと……この先の川を下った先に、綺麗で珍しい柄の織物を織る村があります」
リリティファはそう言いながら遠くを指さした。なるほど、織物か。
「父さん、どうしましょう。行ってみますか?」
「うむ、織物……か。それは興味深い。明日にでも行ってみよう」
俺たちがそう結論を出すと、リリティファは困り顔になっていた。
「……ですが、最近、この辺り一帯に山賊が出没しまして………。その村をよう襲撃しているんです」
なるほど、山賊が村を襲撃とは、穏やかじゃないな。って、山賊……?何時間か前にぶっ飛ばしたような気が……。
「山賊って、あいつらか?」
確認のために訊くと、リリティファは頷く。
「はい。あのヒトたちと、その頭領さんがいます」
「で、その頭領に告白されたと……。やれやれ」
俺が手を頭にやりながら嘆息し、首を横に振っていると、父さんが言う。
「山岳パトロールの人手が足りないのか。ふむ、領主としては山賊のことを耳にした以上、捨て置けない。……どれ、ここはひとつ山賊退治といこう」
膝を叩いて立ち上がる父さん。それに続くようにサイラオーグも立ち上がった。
「さすがは叔父上。当主自ら
「うむ、助かる。ロイとイッセーくんはどうするかね?」
父さんが俺たちに振ってきたが、答えは決まっている。
「俺は行きます。俺もグレモリー家の人間ですから」
「俺も行きます!三人を行かせて俺だけが行かないなんてできるわけないじゃないですか!」
ガッツポーズをしながら宣言したイッセーを横目で捉えつつ、訊いてみる。
「━━で、本音は?」
「こんな美人の人魚さんを狙うなんて、許せません!」
それを横で聞いていたリリティファは、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「うむ、それでは共に山賊退治と参ろうではないか」
こうして、俺たちは山賊退治をすることになったのだった。
翌日。
険しい岩肌の山道を登る『バップルくん』と『ゴモりん』、『ゴモりんJr.』、そして『ゴモりんJr.2号』。
前の三つは俺たちが入っているわけだが、残りの一つにはイッセーが入っている。
そのイッセーが訊いてきた。
『あ、あの、なんで俺までこれを?』
『表向きはイッセーの正体を隠すためだ』
『では、裏向きは?』
そう返してきたイッセーに、俺は着ぐるみの下で笑みを浮かべた。
『イッセーにも俺たちの苦労を知ってほしいからだ』
『……ですよね』
ちなみに、イッセーの着ぐるみは特注品で、中で鎧を装着できる作りになっている。これで戦闘も問題ないだろう。
俺たちが喋っていると、父さんが注意してきた。
『こらこら二人とも。我々の言葉は「ゴモゴモ」や「ゴモモ」なのだよ?これを忘れてはいけない。いつだって、「ゆるキャラ」精神を忘れてはいけないのだ。我らは「ゆるキャラ」の精進のため、ここに来ているのだから。そうだね、サイラオーグ?』
『はい、おっしゃる通りです。今の俺たちはあくまで「ゆるキャラ」でしかないッ!』
気合い入りまくりのサイラオーグ。存外、山賊退治にノリノリなのかもしれない。
山道を進むこと三十分程、物陰からぞろぞろと現れる者がいた。
「おいおいおい、止まれ止まれ」
いかにも山賊って格好の毛皮を着た物騒な男たちだ。見てみると、何人かは昨日吹っ飛ばしたやつのようだ。体中に包帯を巻いている。
山賊は忌々しそうに俺たちを睨んできた。端から見れば、変な格好だからな、仕方ない。
俺が嘆息していると、山賊は吐き捨てるように口を開いた。
「ったく、ここはテーマパークじゃねぇんだぞ?なんでこんな山中にラクダが3匹とリンゴのお化けが歩いてんだよ」
だよな……。返す言葉もねぇよ……。
俺が口の端をひくつかせていると、山賊は高らかに宣言する!
「ここは『ビルーバ
『身ぐるみか。これは着ぐるみだが、それでもいいのか?』
サイラオーグが着ぐるみ姿でそう返すと、山賊はこめかみに青筋を立てて激怒した。
「んなこたぁ見りゃわかるんだよッ!いいから、殺されたくなかったら脱げって……」
眼前の『バップルくん』が高速で踏み込み、拳を放つ!同時に、激怒していた山賊が遥か後方に吹っ飛んだ!
「ぐぎゃああああっ!」
山賊は悲鳴をあげて後ろの岩に叩きつけられた。
サイラオーグは着ぐるみの手元に闘気を発生させている。ただ殴っただけではなく、闘気をまとわせて殴ったようだ。痛かっただろうな……。
そのサイラオーグが叫ぶ!
『欲しければ力ずくで来いッ!俺の着ぐるみは無闇に渡せるほど安くはないッ!』
闘気を全身に纏い突き進む『バップルくん』。この場で彼を止められるのは、本気の俺かイッセーだけだろう。
━━━━━
俺━━兵藤一誠の前で次々と山賊を蹴散らしていくサイラオーグさん。そろそろ俺たちも参戦しないと、出番がなくなりそうだ!
『さて、やるごもよ』
横のロイ先生はそう言いながら、異空間からアロンダイトを取り出して手を伸ばすが……。
『ご、ごも?ごもも……』
アロンダイトの柄が掴めずに悪戦苦闘していた……。だ、大丈夫なんだろうか……。
俺が心配そうに見ていると━━、
『……ごもおおおおおおおっ!』
突然叫んだと思ったら、そのまま山賊を殴り飛ばし始めた!ついに拳で行っちゃったよあのヒト!
お、俺も遅れないようにしないと!
四人で襲いかかる山賊を蹴散らしながら進むこと数分。
岩肌の山腹に大きな砦が現れた。外には大量の山賊が待ち構えている。
山賊の一人が、一際大きく粗暴そうな男に告げた。
「か、頭っ!あれです!あれがリンゴとラクダです!」
一歩前に出てきた山賊のボスと思われる男が、目を細目ながら言ってくる。
「こいつらの冗談かと思ったが、本当にリンゴとラクダじゃねぇか。どうなってんだ、こりゃ………。イベント会場と間違えて登山してきたにしちゃ趣味が悪すぎだ!」
言われてみればそうですね!リンゴとラクダが山賊退治って、よく考えなくてもなかなかカオスだ!
『バップルくん』が一歩前に出る。
『おい、貴様が頭目か?』
不敵に笑む山賊のボス。
「ああ、だとしたらなんだ?」
『近くの村を襲っているそうだな?そのような不逞の輩、万死に値する。バアル領「ゆるキャラ」代表「バップルくん」として貴様らを成敗してくれようッ!』
『バップルくん』の宣言に山賊たちが大笑いをあげた。
山賊のボスは巨大な斧を片手に息を吐く。
「おいおいおい、聞いたか、おまえら?『ゆるキャラ』様が俺たちを成敗だってよ?ったく、こんな山の上までそんな格好で来やがってよ。どんな理由かは知らねぇが、ハンパな力量は命を縮めるぜぇッ!やれぇ、野郎共ッ!」
『オオオオオォォォォォォッ!』
山賊たちの叫声をあげて突っ込んできた!
それを見ていたロイ先生が肩をすくめる。
『言葉は不要か。行くぞ!』
『はい!』
ロイ先生は返事をしたサイラオーグさんと共に突撃していってしまった!山賊たちは二人の高速の動きに翻弄され、次々と打ち倒されていく!
二人の異常なまでの撃破ペースに、完全に置いていかれてしまった!けど、あの綺麗な人魚━━リリティファさんのためにも、カッコいいところ見せないと!
俺が意気込んで二人に加勢しようとすると、女性の声が届いた。
「これはどういうことでしょうね。あなた、ロイ?」
その言葉と共に現れたのは、リアスのお母さんだ!
怒りに満ちたご様子で黒いオーラをにじみ出している!
その後ろにはリアスの姿が!嘆息して首を横に振っていた。
すると、リアスのお父さんがハッとしたように、片言でリアスのお母さんに言う。
「………ボクハ、『ゴモりん』ゴモ。コンニチハ」
それを聞いたリアスのお母さんが迫力のある雰囲気を放ちながら、目を厳しく細めた。
「それは、領主のお仕事をほっぽり出してまで演じなければならないものなのでしょうか?息子と甥っ子を連れ出すなんて……。ねえ、あなた。いま吹き飛ぶのと、あとで吹き飛ぶのとで、どちらがお好みなのかしら?」
低く冷たい声音だ。吸血鬼の城でのロイ先生か、それ以上だと俺は感じた。それよりも、ロイ先生には何も言わないんですね……。
俺が気になったので見てみると、ロイ先生はガタガタと小さく震えていた!これは言う意味ないですね!お母さんの恐怖が体に刻み込まれているよ!
グレンデルを前にしても余裕だったロイ先生が、たった一人の女性に怯えているのだ!実際、横にいる俺も怖いんだけどね!
『ゴモりん』はふいに頭部を脱いで、その場に正座した。
「申し訳なかった。これにも深い事情があるのだよ、ヴェネラナ」
わずか一分で当主様が折れた!グレモリー男子は奥さんに弱すぎるよ!
ロイ先生はどうなるのかな……。レヴィアタン様に振り回される未来は目に見えているけど!
俺がそんなことを気にしていると、山賊のボスが言った。
「何かよくわからねぇが、チャンスだ!一気に攻めろ!」
『オオオオオォォォォォォッ!』
またやる気になった山賊たちだったが、
「………お黙りなさい」
リアスのお母さんは、山賊冷たい視線を投げかけて、手元から膨大な魔力を解き放ち、山賊もろともこの山の一帯を黒いオーラで覆い尽くしてしまった!
『ギャァァァアアアアアッ!』
悲鳴をあげて吹っ飛んでいく山賊たち!奥にいたボスもついでに空高く吹き飛ばされていった!
この日、山賊一味は謎の着ぐるみ集団と女性悪魔によって山の一部ごと吹き飛ばされたという。
━━━━━
かくして、母さんに連行された俺たちは、四人まとめて半日以上に渡ってお説教を受けることになった。
『ゆるキャラ』のプロデュースは母さんがすることになり、これにて一件落着……でいいのか?
余談だが、リリティファが紹介してくれた織物も母さんに見出され、領土全域に広まっていくことになった。
リリティファもその織物の宣伝ガールとして抜擢され、グレモリー領土で人気者となったのだった。
━━のはいいが、問題が一つ。
『いつまでこのままなんだごも……』
「あと、五分だけお願いします」
「着ぐるみ越しじゃなくて、直接本人に抱きつきなさいよ……」
家に帰ったらロスヴァイセに迫られて『ゴモりんJr.』の着ぐるみを着せられ、なぜか熱いハグをされていた……。
黒歌が言っていたが、抱きつくなら俺本人にお願いします……。
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