俺━━ロイは、ロセと黒歌へのオイル塗りのせいでろくに確認できなかったUSBの中身を、自前のノートパソコンで確認していた。
「……これは、なかなかだな……」
それを確認した俺は、間抜けに声を漏らした。
調べたあいつの腕がいいってこともあるんだろうが、かなり事細かに情報が記されている。ってか、明らかに関わってはいけない類いの情報だ。
クレーリア・ベリアルがゴシップ好きだったことから始まり、彼女が何を知り、なぜ殺されてしまったのか、なんとなくわかってしまった。
使用者の力を数十から数百倍にまで高められる
俺は頭を抱えながらため息を漏らした。俺もあいつも、下手しなくても殺されるんじゃねぇか……?
俺たちは現役のエージェント、昔の任務で恨みを買っているのは確実。その手の輩に殺されたとか、筋書きはそうなるんだろうな。
ページを下にスライドさせていき、情報を確認する。どこで仕入れたのか、『
深いため息を吐き出す。レーティングゲームトップランカーのほとんどが使っているじゃねぇか……。だが、ディハウザーをはじめとした何人かは使っていないようだ。それは、いい情報……なのか?
ページの一番最後にこんな一文が書かれていた。
『━━覚悟はできている』
向こうも覚悟ができているようだ。お互い、背中には気を付けないとな……。
やれやれ……。自分から首を突っ込んだとはいえ、かなり面倒なことになりやがったな……。
その日の深夜。
この地域の『D×D』メンバーが兵藤宅のVIPルームに集まっていた。
今日の午後に、イッセーたちがクーデターを起こした連中と接触、宣戦布告されたらしいのだ。
━━というわけで、ミカエルと連絡を取り合っていた。
『申し訳ありません。立て続けにこちらの関与する事件に巻き込んでしまって……』
開口一番にそう言うミカエル。「立て続けに」というのはクリスマスのあれのことを言っているのだろう。
『彼らの要求は「D×D」との一戦です。特に駒王町に住まうあなた方との一戦を所望しているのです』
ミカエルの言葉を聞いてイッセーが訊く。
「どうして俺たちと……?」
その質問に俺が答える。
「この町は同盟のスタート地点になった場所だ。あいつらにとっては複雑な思いを持つ場所なんだろ。そんで、おまえらもそのスタートに完全に首を突っ込んでいる。逆恨みに思えるかもしれないが、あいつらにとって『D×D』ってのは複雑でいて、憎い相手なんだろう」
コカビエル襲来、三大勢力の和平、そして和平の象徴である『D×D』、クーデターの相手として狙ってくるのはある意味当然だろう。
グリゼルダが言う。
「クーデターに関与した者の大半が……家族を悪魔や吸血鬼に殺められたり、人生を狂わされた者ばかりです。復讐のため、あるいは悲劇を繰り返さないため、彼らは戦士となった━━。三大勢力の同盟に誰よりも異を唱えたのは彼らや、彼らが育てた教会上層部の方々でした」
俺も戦士側だったら納得するのに時間がかかるか、クーデターに参加していたかもな。憎い相手と手を取り合うのは、難しいことだ。
イリナが言う。
「なかには離反して他の組織に移動した者もいたけれど、大半は信仰心のある敬虔な信徒ばかり。……神を信じながらも、不満を抱いていた」
それを聞いた俺はため息を吐きながら言う。
「とは言ってもこれは完全な内輪もめだ。サイラオーグやシーグヴァイラは呼べないぞ?上の連中がうるさいからな。それにこの隙にクリフォトが冥界を攻めようとするかもしれねぇ」
ミカエルが険しい表情で言う。
『……我々の管理不足がそもそもの原因。今回は私たちが━━』
「待て、おまえは動くな」
アザゼルがミカエルの言葉を遮る。
「ミカエル、おまえは天界の象徴であるべきだ。ここで厳しい決断を下すのも、トップの役目だろうと俺も思う。━━が、この一件は言い方を変えれば喧嘩だ。事情はどうであれ、無理矢理抑え込めば禍根が残るだろう。だったら、落としどころはきちんとつけさせたほうがいい」
『しかし、アザゼル。それを皆さんに任せっきりにしてしまうのも……』
「俺は気になってもいるのさ。あのストラーダとクリスタルディが闇雲にクーデターを起こしたとは思えない。何か考えがあるのだろう。なんとなく気づいてはいるんだろ?」
『どちらも幼い頃から見てきていますから、彼らがどれほど敬虔な信徒か、よく知っていますよ。おそらく、回りくどいようで、真っ直ぐな想いを抱いているのだと思います』
ミカエルが一通り話し終えたところで訊く。
「ところで、テオドロって何者だ?イッセーたちからの話だと十二そこらに見えると聞いたが」
『テオドロ・レグレンツィは「奇跡の子」なのですよ。その中でも彼の才能は抜きん出ていたのです』
「奇跡の子━━天使と人間のハーフか」
俺が返すと、ミカエルは頷いた。
本来、あり得ないとまで言われている天使と人間のハーフ。天使は欲を持つと堕天する。だが、特別な儀礼と結界を用いれば、いちおうは可能だそうだ。その時にどちらかが肉欲に溺れれば、天使は堕天してしまう。純粋な愛を抱き続けなければいけないそうだ。……俺は、途中で邪念にかられるから無理だな。
まあ、その高いハードルを越えれば、天使と人間は子作りできるわけだ。で、産まれるのが『奇跡の子』というわけだ。
ふいにミカエルと目が合う。な、なんだ?何かあるのか……?
俺が小さく首をかしげていると、ミカエルが訊いてきた。
『……こんな時に訊くのも野暮ですが、ガブリエルとはどうですか?「あの部屋」、使われているといいのですが……』
『━━っ!?』
部屋中の視線が俺に集中する。大半は呆れの色が強い冷たいものだが、一部は怒りや嫉妬にかられたようなものだ。ところで、『あの部屋』って、なんだ?
俺がよくわからないまま頬をかきながら訊く。
「なんだ、その『部屋』って」
『おや、ご存知ありませんでしたか。実は、「悪魔と天使が子供を作れる部屋」を開発しまして……』
「へぇ……。ん?」
「……なんてもん作ってんだよ」
俺がジト目で睨みながら言うと、ミカエルは苦笑する。
『ガブリエルも奥手ですね。私としては、次の世代を期待しているのですが……』
「ちょっと待て、クリスマスに問答無用であいつを送り飛ばしてきたのは、そんな裏があったのか」
俺の若干の怒気を込めた一言に、ミカエルは笑みで受け流した。この野郎、一発殴りてぇ……。
俺がオーラをにじませながら右拳を血管が浮き出るまで握りしめていると、アザゼルがひとつ咳払いをして話を戻す。
「ってわけだ。悪いが、あいつらの挑戦を受けてもらいたい。天界と教会の尻拭いってやつだ。いつも貧乏くじを引かせて悪い」
アザゼルの言葉にリアスは不敵に笑み、ソーナもやる気を感じる表情(長い付き合いならわかるほど小さい変化だが)になっていた。
「……和平の原因はコカビエルだが、そもそもあいつをあそこまで狂わせたのは俺かもしれねぇ。昔の自分の詰めの甘さがこれを招いたなら、全力を尽くすさ」
俺が若干の悲哀を込めて言うと、アザゼルがため息を吐く。
「あんまり背負いこむな。あいつを止められなかった俺も俺だ」
俺たちが少しばかり重い話をしていると、イリナが苦渋に満ちた表情でミカエルに訊く。
「私も参加してもよろしいのでしょうか?リアスさんたちの味方として━━」
『ええ。あなたには苦労をかけますね。私が不甲斐ないばかりに……』
申し訳なさそうにするミカエルだが、デュリオは笑って首を横に振っていた。
「ミカエル様が悩む必要性なんかありゃしませんって。こういうのはどこでも起こりうる事件です。何かを変えれば、必ず不満を抱く者は現れてしまうもんですよ」
それを聞いたグリゼルダは感心していた。
「あなたがリーダーらしいことを言うなんて……成長しましたね」
「姐さん、もう少し俺のこと評価してくれるとうれしいんだけどなぁ……」
デュリオはガックリしながら言うが、今ので俺の中の評価も上がったぞ。ようやくリーダーっぽくなってきたな。
「天界も動いてくれるのはありがたいね。ところで、ストラーダとクリスタルディってどんくらい強いんだ?大雑把でいいから頼む」
俺の言葉にグリゼルダがしばし考え、口を開いた。
「そうですね、デュリオと互角です」
「聞かなきゃよかったかな……」
デュリオクラスが二人とかホントに人間なのか?もはや化け物じゃねぇか……。
「いやーあの二人、マジで強いから気を付けようねぇ」
ホント、気を付けよう。
俺たちがそんなことを話していると、アザゼルが言う。
「まとめると、挑戦を受けるのは、リアスチーム、ソーナチーム、D×Dの『
まあ、それは俺から話をしておこう。黒歌になにされるかわかったもんじゃねぇが、横に小猫かルフェイがいれば問題ないはずだ。
バックアップは十分。あとは前線が頑張らねぇといけねぇ。出来れば話し合いで済ませたいが、もう、その機会は過ぎ去っているだろう。……やるしかない。
俺はそれを確認し、剣士三人の方を見る。木場、ゼノヴィア、イリナの表情は複雑極まりないものになっていた。
その後の話し合いで決戦は三日後と決め、本日は解散となった━━。
「ロイ、ひとついいか?」
部屋に戻ろうとした矢先、アザゼルに絡まれる。肩を掴まれて呼び止められたのだ。
「……なんだ?」
「ガブリエルとどういう関係だ?」
真面目な顔で訊いてくるアザゼル。鋭い眼光で睨み付けてきていた。
俺は気まずげに視線を外しながら言う。
「クリスマスに、『末永くよろしくお願いします』って言われた……」
「へぇ~」
アザゼルはあごを擦りながら言うと、思いっきり肩を握ってくる!な、なんか肩からメキメキと嫌な音が!
俺が痛みに耐えながら睨み付けて殴ろうとすると、アザゼルは手を離す。
「どうしておまえばっかりモテるんだよぉぉぉぉぉ!」
血涙を流してそう叫びながら部屋を飛び出していくアザゼル。あいつ、大丈夫か?
俺は小さく息を漏らし、今度こそ部屋を後にしたのだった。
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