珍しくありがたいことに何もない休日。
俺は例の如くリアスの遊び相手になっていた。そして、今は━━━、
「……………」
グレモリー屋敷の庭にある木の上に息を潜めている。
今回はリアスと手の空いているメイドや執事たちと“かくれんぼ”をすることになったのだ。で、鬼はリアス。
俺以外の皆は見つけやすい場所に隠れているが、これは勝負、少々厳しいが本気で勝ちに行く!
俺はそう決めて木の上に隠れたのだが、誰も来ない。もしかしたら忘れられたか、広い屋敷をくまなく捜索しているのかもしれない。
俺がそう判断したと同時に近づいてくる気配が一つ。リアスのものだ。
小走り気味に俺が隠れる木の根本に移動すると、周りをキョロキョロと見渡して首をかしげる。そして、少し時間を置いて一人のメイドが現れた。
「お嬢様、見つかりましたか?」
「うーん、おにーたまどこかな?」
ここ、キミの真上。
俺が木の上からバレないように見下ろしていると、メイドが視線を感じたのか見上げてきた。俺と視線が合った瞬間に目を見開いて驚いたが、声には出さずに錆びたロボットのようにギギギギと重い音をたてながら視線をリアスに戻す。
「いないな~、やっぱりおやしきかな?」
「そ、そうかもしれませんね」
リアスの言葉を受けて再び屋敷を目指す二人。俺はもうしばらくここにいることにした。
一時間後。
こ、これは、どうしたものか。あれから見に来ることもなければ気配すら感じないぞ。
俺が少し慌てていると耳元に連絡用魔方陣が展開された。
『ロイ、今どこです!?』
「母さん?えっと、庭の木の上ですけど……」
連絡してきた母さんに驚きつつ、俺は現在地を報告した。すると、母さんは大きく溜め息を吐きながら、
『戻っていらっしゃい。リアスがあなたがいなくなったと言って騒いでいます………』
「……………わかりました」
俺はすぐに木から飛び降りて屋敷に戻る。その最中にこう思った。━━次からは手加減しよう。
屋敷に戻ってみると、泣きじゃくるリアスと困るメイドたち、少し怒り気味の母さんが居た。
泣いていたリアスは俺を見つけると泣いたまま俺に駆け寄ってくる。
「ロイおにーたまぁぁぁぁ!」
「あー、えと、ごめんな」
勢いよく抱きついてきたリアスをそのまま抱き上げ、一応謝る。他に言葉が見つからなかった。そんな俺を見て、母さんが嘆息した。
「リアスと遊んでくれるのは構いません。私やジオティクスにも見れない時間がありますから。しかし、なぜ遊びに本気になるのです?」
母さんからの質問に、俺は真面目な顔で、
「リアスに勝負の厳しさを教えようと思ったんです」
と返した。その瞬間に母さんのアイアンクローが俺に炸裂する!
「っ!!?」
リアスを落とさないように足を踏ん張るが、相変わらず強烈だ!本当に効く!
「それは大切です。何事も自分の思うようにはいきませんから。しかし、なぜ今なのです?他にもタイミングはあるでしょう?」
「は、はい……すいません………」
母さんの言葉に素直に謝っておく。確かに、リアスがもう少し大きくなってからやれば良かったな!
俺がリアスに悟られないように懸命に痛みに耐えているとグレイフィア義姉さんが現れた。
「お取り込み中に失礼します。セラフォルー様がお見えになりました」
「?」
アイアンクローをされながら俺が疑問符を浮かべると、リアスが俺に抱っこされたまま嬉しそうにはしゃぎ始めた。
「ソーナ!ソーナ!」
な、なるほど、あの子を連れてきたのか……。なら、納得だ。セラが仕事をサボってなければいいんだが……。
リアスがはしゃぎ始めたのを見て母さんは手を離してくれた。こめかみ辺りが痛むが、まぁ、仕方がない。
息を整える俺を見ながら母さんが言う。
「とにかく、話は後です。セラフォルーとあの子はあなたたちが対応しなさい。ロイ、コーヒーぐらいなら淹れられるでしょう?」
「え?まぁ、味に自信はありませんが……」
「こーひー?」
リアスは俺と母さんの会話に首をかしげる。まだコーヒーは知らないか。
俺は抱っこする手を直しながらリアスに言う。
「コーヒーってのは、大人の飲み物って言うのか、ちょっと苦い飲み物だな」
苦いという言葉を聞いて表情を青くするリアス。苦いのは苦手か。
そんなリアスを安心させるように言う。
「大丈夫だって、リアスには飲ませないから」
「本当?」
「ああ、本当本当」
俺が笑顔でそう言うと、リアスは少し怯えながらも頷いた。ならオッケーだ。
「それでは、母さん、いってきます!」
「い、いってきまーす」
俺はリアスを抱っこしたまま玄関ホールに向かい駆け出した。
走ること数分。
「おにーたま、へいき?」
「うん?ああ、大丈夫だよ」
いまだに残る痛みが俺を襲っていた。体力的には何も問題ない。戦場で何時間もぶっ通しで戦ったこともあるんだ、子供一人抱えて走るなんて余裕だ。
何て思っているうちに到着。そこには、
「ロイ!遅いわよ!」
少しご立腹のセラと、
「こんにちはー」
セラと手を繋いで笑顔を浮かべる黒髪の女の子がいた。
「ソーナ!」
リアスがじたばたと暴れ始めたので一旦下ろす。
下ろした瞬間にリアスは走りだし、ソーナと呼んだ女の子に抱きついた。そのソーナと呼ばれた女の子も嫌がらずに抱き締め返していた。
リアスと抱き締めあっている女の子はソーナ・シトリー、セラの妹でありシトリー家の次期当主だ。
妹同士が再会を喜んでいるうちにセラが俺の方に歩いてくる。
「ソーナちゃんとリアスちゃん、本当に仲良さそうで良かったわ」
「ああ、持つべきは友だからな」
二人して年寄り臭いことを言ってはみたが、実際友達は必要だと思う。俺もセラとはそこから始まったわけだし。
「ねえ、ロイ?」
「うん?」
リアスとソーナのことを見ていた俺を不意にセラが呼んできた。俺が振り向くと、
チュ………。
軽く俺とセラの唇が触れた……。って、え!?
「(ちょ!?場所と状況を考えろよ!)」
俺が慌てながら小声で言うと、セラはイタズラっぽく舌を出しながら言う。
「だって、ロイと会うのも久しぶりなんだもん☆イタズラしたくもなっちゃうわ☆」
セラはそう言うが、俺はハッとしてリアスたちの方を見る。今のに気づいていないのか、二人で何をしようか話していた。
俺はホッと息を吐き、セラに言う。
「セラ、やってくれるのはいいが、場所は考えてくれ。ハラハラする」
「そのハラハラがいいんじゃない☆」
ダメだこの
そう思いながらも俺は話題を変える。
「で、仕事はどうしたんだ。サボった訳じゃないだろうな?」
「だ、大丈夫よ。今日はオフを貰ったわ」
セラは心外だと言わんばかりの目で俺を見てきた。まあ、大丈夫だとは思っていたけどさ。
「ロイおにーたま!セラおねーたま!」
リアスがトコトコと俺たちの元に走りより、それにソーナが続く。
「何して遊ぶ?」
リアスの問いに俺とセラは笑みを浮かべて、
「さて、何をするか」
「そうね、何をしましょうか」
何をするかを考え始めた。妹と未来の
数時間後。
「はぁ………」
「ふぅ………」
俺とセラは部屋で休んでいた。ベットにはリアスとソーナが寝ている。あれから二人して妹に振り回されたが、どうにか満足させることが出来た。
で、セラは俺が淹れたコーヒーを飲んでいる。自分でも飲んではみているが、美味しいのかはわからない中途半端な味だ。
「それにしても、子供は元気だな」
ふと俺がそんな事を言ったのだが、セラはおかしそうに笑う。
「ふふ、言っていることがお年寄りよ?私たち、悪魔的にはまだまだ若いんだから」
「それもそうだが、子供が目の前ではしゃいでいると嫌でもそう思っちゃうんだよな」
そう言いながらコーヒーを一口。相変わらずの味だ。
「で、仕事はどうだ?あんまり深くは話せないと思うけどな」
俺が訊くとセラは少し俯いた。
「順調だけど、やっぱりはぐれ悪魔は減らないわね。転生悪魔の制度は確かに私たちにはいいことだけれど、そればっかりじゃないわ」
やはり、まだまだそこのところは難しいようだ。
俺はセラの肩に手を置いて励ますように言う。
「いつかに言ったが、俺はおまえを信じる。それが間違いでも、少しずついい方向に変えていけばいいさ」
「ロイ………」
少しだけだが、セラの表情が明るくなった気がする。そして、そのまま少しずつ顔が近づいて………、
「いやー、二人とも、お熱いね」
「「………………」」
聞き馴染んだ声が俺たちの後ろから、俺とセラがゆっくりとそちらを向くと、
「や!」
兄さんが軽く右手を挙げていた。って、兄さん!?
俺は驚きを隠しながら兄さんに訊く。
「兄さん、仕事はどうしたよ!?」
「そうよ、サーゼクスちゃん!私はオフだけど、サーゼクスちゃんは━━━」
俺とセラが仕事の心配をしたが、兄さんはそれに構わずに、
「あ~、リーアちゃんは可愛いな」
リアスの寝顔をマジマジと見ながら表情を緩めていた。同時にセラが立ち上がり、兄さんに言う。
「何よ!リアスちゃんよりソーナちゃんの方が可愛いわ!」
「む、今のは聞き捨てならないな!ここは勝負といこう!僕はリーアの━━━」
「だったら私はソーナちゃんの━━━」
どこからかディスクを取り出す二人。確か、あれは記録媒体だったはずだ。それはともかく、
「二人とも、他所でやってくれ。二人が起きちまう」
「「うん!」」
二人は頷くと部屋を出ていってしまった。扉の向こうから二人の声が聞こえてくる。
俺は溜め息を吐き、さっきの騒ぎでも起きなかった二人に目を向ける。
可愛い寝顔してるな………。写真でも撮ろうかな………?
何て考えが一瞬浮かんだが、すぐに首を横に振る!俺はそこまで変態ではない!シスコンではない!━━━と思いたい!
そんな俺の葛藤は誰にも知られることはなく、いつものように賑やかな俺の休日は過ぎていったのだった。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。