俺━━アザゼルはリアスたちから別れ、アグレアスの内部に侵入し、動力室を目指していた。
作戦開始前に頭に叩き込んだ地図を頼りに、設置された罠を解除しながら進むこと数分。リリスに遭遇した。まあ、こいつはポケットに入っていたチョコレートで説得していたわけなのだが、その途中でボロボロのリゼヴィム、そしてヴァーリが現れた。
ヴァーリはダメージで動けなくなったリゼヴィムにトドメを刺そうとすると、今度は満身創痍のファーブニルが現れた。ファーブニルは天界でアーシアを守るために重症を負い、治療中のはずだった。だがファーブニルは相当な無理をしてここに来たのだろう。ただリゼヴィムを殺すために……。奴はファーブニルの逆鱗に触れた。それだけで万死に値する。
リリスはお菓子に夢中。配下のはずのアジ・ダハーカとアポプスにも見限られ、聖杯を奪われた。奴を守るものは誰もいない。リゼヴィムが死ぬのは時間の問題だった。
「ここで、使う気はなかったんだか、しゃーねぇ!」
リゼヴィムは自分の目の前に転移型魔方陣を展開する。俺たちは逃げる気かと構えるが、どこかに転移するのではなく、ここに転移させていることに気がついた。
転移の光が弾けると━━━、
「……忙しすぎねぇか?」
「なんで私まで……」
ボロボロのロイと黒歌が現れた。めっちゃ仲睦まじい様子で。
ふと、ロイの体に砕かれた赤い鎧の一部が張り付いていることに気づく。右手の籠手は原型を留めているが、切り傷だらけ。左手の籠手は手の甲を防ぐ程度しか残されていないし、脚甲は右足の
それと、ロイのオーラが変わっていることにも気づいた。何か、いつにも増して静かで、濃密なオーラだ。上で何があった?
リゼヴィムはロイを見ながら驚愕を隠せない様子で、狼狽えていた。
「……な、ななんで、まともになってやがるんだよ!?おまえは完璧に━━」
「壊れたとか言いたいのか?まあ、正解ではあったが……」
ロイはリゼヴィムの言葉を遮り、黒歌に目を向ける。
「恋人が頑張ってくれたってことだな。たぶん」
「あとできっちり対価はいただくからね」
ロイの恋人発言に、黒歌は少し頬を染めていたが、いつもの調子でそう返していた。こいつら、いつになく仲睦まじいな。本当、上で何があった……?
俺が腕を組ながらあごを擦っていると、今にも飛び出しそうになっていたファーブニルにロイが待ったをかけた。
「ファーブニル。こいつを殺すのはまた今度にしてくれ」
ロイのいきなりの発言に、ファーブニルは怒気を込めながら返す。
『そいつはアーシアたんを泣かした!』
「わかってるが、殺すのは色々と終わってからにしてくれ」
ロイはそう言うなり、吸い込まれそうなほど鮮やかな深紅の瞳でリゼヴィムを睨む。
「おまえの事だ。死んだら何かあるんだろ?」
「━ッ!な、何の事だ?ここまで来て死ぬのは嫌だなーって気持ちはあるよ?」
一瞬。ほんの一瞬だが、リゼヴィムの表情が険しくなっていた。そのあとはいつものふざけた調子だったが、一瞬見せたあの顔、何かあるな。
俺はロイに目で合図を送り、あいつが頷いたところで話を合わせる。
「なるほど、おまえならやりそうなことだな。で、何が起こるんだ?」
「さ、さあな。ほら、さっさと殺したら?俺のことを殺したくてたまらないんでしょ?」
リゼヴィムはヴァーリとファーブニルを煽るように言うが、彼らは動かない。かなり殺気立っているが、ギリギリで耐えてくれているようだ。
ロイが少しだるそうに言う。
「そんなに言われて殺すかよ……。何か起きたら面倒だろうが……。ちなみにだが、俺なら魂を
「…………」
露骨に黙りこむリゼヴィム。ああ、これはおそらく間違いないだろう。
ロイはさらに続ける。
「おまえ、前に言ったよな?俺とおまえは似ているってよ。俺がそれを思いついたんだ、おまえも似たことは考えてんだろ?」
ロイの言葉にリゼヴィムは露骨に視線をそらした。なるほど、これはビンゴだ。リゼヴィムのリアクションで、俺の中の予想が確証に変わった。
「そんなわけだ。こいつを殺したら、ヤバイことになる可能性が高い」
ロイはそう締め括り、ヴァーリとファーブニルに目を向ける。
ヴァーリは黙って瞑目し、ファーブニルは歯を食い縛りながら頭ごと視線を外し、八つ当たりのように壁を殴り抜く。
「ありがとう」
ロイは小さく礼を言うと、リゼヴィムに近づき、流れるように奴のあごを外す。
「あがっ!?」
「舌を噛み切られたら敵わねぇからな」
俺に目配せするロイ。俺は頷き、本来なら力のあるドラゴンに使うような特別強力な拘束用魔法を使う。簡単なものじゃ、破られちまうからな。
じたばた暴れるリゼヴィムをロイと二人がかりで無理やり押さえつけ(ロイがリゼヴィムの腕を本来とは逆方向に曲げたが、気のせいだろう)、サーゼクスたちに連絡をいれてから転移用魔方陣を展開する。
「あばよ、リリン。てめぇの顔は二度と見たくねぇ」
俺が吐き捨てると、ロイもため息を吐きながら頷いた。
同時に魔方陣の輝きが強くなっていき、リゼヴィムを転移させる。向こうにはサーゼクスを始めとして手練れが待機しているはずだ。問題ないだろう。
光が止むと、そこにリゼヴィムはいなかった。無事に転移させられたようだ。
リゼヴィムがいなくなると、ファーブニルも
「こんな幕引きか。呆気ないものだな……」
目を開きながらそう漏らした。どことなく憑き物が落ちたような表情だが、心中なかなか複雑なものなんだろう。
━━━━━
俺━━ロイは、リゼヴィムを送り飛ばされるのを見届けると、壁にもたれ掛かってそのまま座り込んだ。ダメだ、しんどい。
そんな俺に黒歌が駆け寄ってくると、仙術による回復をしてくれる。怪我は治らねぇが、体力はある程度回復できるだろう。
アザゼルが訊いてくる。
「で、何があった。その壊れた鎧は、レプリカの『
「ああ、そうだ。だが、主にアーサーのおかげでボロボロだよ。おかげで反応しねぇ……」
右腕の籠手の宝玉を叩きながら言うと、そこを軽くペチペチ叩いてくる女の子が一人。
「……ん?」
リリスだ。今までのリゼヴィム捕縛劇を無視して、ずっとチョコレートを頬張っていたのだが、いきなり俺を構い始めたのだ。
とりあえず、頭を撫でてやる。オーフィスにもやったことがあるが、この子はどんなリアクションをするのかね。
「……?」
ダメだ、首をかしげる以外に反応してくれない。
ある程度だが体力も回復したのでリリスを撫でるのを止めて立ち上がり、アザゼルに訊く。
「で、この先が中心部だよな。とりあえず、行くんだろ?」
「そのつもりだ。おまえらはどうする」
俺は黒歌と目配せして頷きあい、口を開く。
「ここまで来たんだ、付き合うさ」
「同じくにゃ。こいつが心配だし」
黒歌が肘で俺を小突きながら言った。まあ、心配だらけなんだろう。本来なら動けないほどの満身創痍だし。
すると、リリスが俺の手を引いて自分の頭に乗せた。なんだ、撫でて欲しいのか?
とりあえず、そのままリリスを頭を撫でてやると、黒歌の耳元に連絡用魔方陣が展開される。
「はいにゃ。あ、白音?こっちは大丈夫にゃ。え?あいつ?そっちも大丈夫よ。ぴんぴんしてるにゃ」
小猫からのようだ。色々とやってしまったが、リアスたちは大丈夫だろうか。
不意に黒歌が俺のほうに連絡用魔方陣を飛ばしてくる。それを受け取った俺は、魔方陣を耳元に近づける。
「おう、俺だ。すまねぇな
『ロイさん!大丈夫ですか!?怪我は!
「……とりあえず落ち着け。俺は大丈夫だ」
ロセの
俺がホッと息を吐いていると、リリスが服の袖を引っ張る。
「……もっと」
存外気に入ったようで、催促してくるリリス。まあ、減るもんじゃねぇし、やってやろう。
リリスを撫でていると、ロセが安堵の声音で言う。
『とりあえず、大丈夫なんですね?よかった……』
「心配かけたな。こっちにはアザゼルとヴァーリもいるから、俺たちはこのまま奥を目指す。あとで会おうぜ」
『わかりました。でも、無理はしないでくださいね?』
「わかってるよ」
俺が返事をすると、連絡用魔方陣が消える。
ゆっくりと息を吐き、改めて身体を確認する。切り傷多数に、腹には鈍痛。切り傷は滅びの糸で縫われているから血は出ていない。下手したら開くかもしれないから注意しねぇと。鈍痛のほうはどうにもならねぇな。
「行けるか」
「このくらい、問題ねぇよ」
アザゼルの問いかけに即答する。この程度で倒れていたら、世話ねぇからな。
アザゼルは頷くと、通路の奥に視線を向ける。さて、鬼が出るか、蛇が出るか、……獣が出るか、何にしても行くしかねぇか。
そんなわけで、俺、アザゼル、ヴァーリ、黒歌、リリス(俺と手を繋いでいる)は、アグレアスの奥地を目指していた。
俺も来るのは初めてなんだが、『
俺がそんな事を思い出していると、アザゼルが俺の右手を指さしながら言ってくる。
「そのレプリカ、どうする?」
もはや動かないレプリカの『
「外してもらいなさいよ。どうせ使わないし、使えないでしょ?」
思慮する俺に、黒歌が訊いてきた。確かに、斬られ過ぎたせいか、機能が完全に停止している。これじゃ、ただの硬い防具だ。
籠手を見ながら言う。
「まあ、確かに何かあるってわけでもねぇからな。……今度こっちからグリゴリの施設に行くから、その時に外してくれ。赤龍帝はイッセーだけで十分……だろ?ヴァーリ」
「ああ。リゼヴィムの討伐は出来なかったのでね、ライバル対決だけは邪魔しないでくれ」
そう言いながら、ヴァーリは俺を睨んでくる。もとから邪魔をするつもりはねぇけどな。
「怖いねぇ、まったく」
俺はわざと怖がるように肩をすくめながら言うと、リリスが俺を見上げながら訊いてくる。
「赤龍帝……赤龍帝
「まあ、そう言うことだな。もとから偽物だが」
「……?」
首をかしげるリリスの頭を撫でてやると、少しくすぐったそうに目を閉じる。だが、何となく嬉しそうだ。まったく、かわいい顔してんな。
「なんか、手慣れてるな」
「小さい頃のリアスとソーナの面倒を誰が見たと思ってんだ」
「あー、なるほど」
俺とアザゼルが何て事を話していると、俺たちの前にデカイ両開きの扉が現れた。これが、動力室への扉か……。
アザゼルは俺たちに目を配り、小さく頷く。俺たちも頷き返し、再び意識を戦闘モードに切り替える。
「それじゃ、行くぞ」
俺たちの空気が変わったことを察したアザゼルはそう言うと、ゆっくりと扉を開いていく。
扉が少し開いたと同時に、悪寒が全身を駆け巡った!これは、かなりヤバイぞ……!リリスも何かを察したのか、いきなり俺の背中に隠れる。
アザゼルもリリスの反応を受けて危険を察し、手から力が抜けかけるが、踏ん張って扉をこじ開ける。そうだ、ここまで来たからには行くしかねぇ!
俺たちは覚悟を決め、開かれた扉を潜るのだった━━。
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