トライヘキサと邪龍どもがが日本近海に出現の報を受けた俺━━ロイを含めて休憩スペースにいたメンバーは玄関ロビーに移動していた。
先ほど目を覚ましたというイッセーも合流したが、リアスたちから心配の言葉をかけれていた。まあ、本人はたじたじになっているがな。
リアスたちの意識がイッセーに向いた隙をついてか、ロセが若干恥ずかしがりながら日本風のお守りを手渡してくる。
「北欧の護符を日本のお守り風に収めてみました。ある程度の厄から守ってくれるはずです。持っていてください」
「それは助かる。ありがとうな」
受け取ったお守りを角度を変えて見てみると、裏側にハートマークが刺繍されていた。苦笑しながらロセに目を向けると、頬を赤く染めながら照れ笑いしていた。
お守りを懐にしまうと、ロセが頬を赤く染めたまま言う。
「ロイさん。その、お願いを聞いてもらっていいですか?」
「ん?まあ、簡単なものならな」
俺が返すと、ロセは一度深呼吸をして気分を落ち着かせると言う。
「その、私を━━」
「なになに、真剣な話?」
と、そこに黒歌が割り込んできた。彼女は話に割り込むと俺の腕に絡みついてくる。
黒歌の登場にロセは言葉を失って硬直していたが、すぐに気を取り直して不機嫌そうに黒歌を睨む。
「大切な話をしているんです!邪魔をしないでください!」
ロセの批判の声を笑って受け流すと、黒歌は俺の鱗に包まれた右頬を優しく撫でながら言う。
「そういう話は終わってからにしなさい。今は結構大変な状況なんだからさ」
「……そ、それもそうですけど……」
あっさりと言い負かされ、テンションだだ下がりのロセ。何か大切な話らしいが、終わってからのんびりと聞かせてもらおう。
それはそれとして━━、
「なんでヴァレリーがここに?」
俺の視界の先にはギャスパーに付き添われたヴァレリーの姿があった。先日会ったとはいえ、あそこまで元気になっていたとはな。
「敵の手の内にある聖杯を止めるために、彼女の力が必要なんです」
「雑魚どもを打ち止めにできるのか?」
「そのはずです」
簡単に答えるロセ。とりあえず、敵の復活を阻止できるのは大きいだろう。トライヘキサを倒せるかは別としてだが。
俺とロセが話していると、情報を整理していたためか遅れて現れたアザゼルが言う。
「さて、ロスヴァイセ。作戦の確認を頼む」
「わかりました」
ロスヴァイセは頷き、説明を始める。
「今回の聖杯を停止させる作戦で、トライヘキサの
言いよどむロスヴァイセに代わり、アザゼルが続ける。
「現状、その結界は一度使用の使い捨てだ。同じ事をしようとしたら、一から術式を練り直すしかない。加えて、これはトライヘキサにしか効果がない。それに、展開するのにも時間がかかるのが難点だ。ロスヴァイセやその他術者が無防備になる」
「つまり、護衛が必要なわけか」
「ああ」
俺の問いにアザゼルが頷く。手の空いた奴が護衛に回るのはいいが、戦場に出たらそんな余裕がないだろう。チームを別けるにしても、イッセーやヴァーリには伝説の邪龍二体を相手にしてもらわなければならない。俺が護衛につくにしても、グレンデルが言うことを聞いてくれるかどうか……。
俺があごに手をやって考えていると、ロビーに三人の見覚えのある悪魔が現れた。
「マスター!呼ばれていませんが、到着しました!」
「お久しぶり……でもないですが、助っ人に来ました」
「やあ、相変わらず無茶をしたようだ」
アリサ、クリス、ジルの三人だ。って、こいつらも参戦してくれるのか。
疑問が顔に出ていたのか、アリサが(そこまで大きくもない)胸を張りながら言う。
「マスターの眷属なんですから、こんな時こそ頼ってください!」
「……眷属いたのか、おまえ」
アザゼルが何てことを言ってきた。あんまり周りの連中にも伝えていなかったから、こいつにも伝わっていなかったんだろう。リアスは思いの外驚いていないようだが……。
俺は咳払いをして簡単に三人を紹介する。
「黒髪のがクリス。金髪がアリサ。紫髪がジルだ」
俺のざっくりすぎる説明に続き、クリスが丁寧に一礼する。
「ロイ・グレモリー様の『
クリスに続いてアリサが慌てて一礼し、顔をあげると同時に人懐っこい笑みを浮かべながら自己紹介を始める。
「ロイ様の『
最後にジルが優雅に一礼し、苦笑混じりに言う。
「私はジル。ロイの眷属ではないが、十年近い付き合いのある同僚だ」
「━━と、まあ、こんな感じだな。で、
俺の素朴な疑問をぶつけてみると、ジルが答える。
「『
こんな状況でも自分の富だの名声だのに拘って、前線に来てくれない奴らがいるとは。こっちは命懸けの戦いに行くっていうのに……。
俺が小さくため息を漏らしていると、ジルがロセに目を向けながら言う。
「アジュカ様から話は聞いた。術式も教えてもらったから、微力ながら手伝わせてもらうよ」
ロセが心配げにこちらを見てきたので、俺は頷いてやる。
「腕は保証するから安心しろ」
俺の言葉にロセは不安げに頷くと、アザゼルが訊いてくる。
「展開までの間、ロスヴァイセの護衛は適当にチームロイでいいか。おまえらに任せていいんだな?」
黒歌に離れてもらい、右腕を左手の指で小突き言う。
「俺に関しては、こいつが放棄しなけりゃな……」
呑まれるつもりは毛頭ないが、万が一もある。先に言っておいたほうがいいだろう。
それに対してクリスが反応した。
「まあ、エリックのほうも終わり
「まだ誰かいるのか……?」
「そいつは眷属じゃなくて同僚だ。腕は確かだぞ。……諜報に関しては」
あいつの戦闘能力はしらん。だが、一人であそこまでたどり着いた諜報能力は流石だろう。まあ、追っ手であるジルたちから逃げ回ったんだ、最低限の護身術ぐらいならいけるだろう。
「それはそれとして、その術式ってのが発動したら行動開始か」
俺の問いにアザゼルが頷いて説明を始める。
「ああ、まずはトライヘキサを止めて、邪龍と偽赤龍帝を蹴散らしつつ、聖杯を停止される。雑魚どもを打ち止めにさせるってことだ」
ヴァーリが言う。
「それで、トライヘキサを止めたらどうするつもりだ?」
当然の質問にアザゼルは笑みながら答える。
「各神話、各勢力トップ陣の集中砲火を浴びせる。それでもダメだったら、俺たちに考えがある。まあ、成功させるさ」
何かしらの作戦があるようだが、どうにも嫌な予感がする。短い付き合いだが、アザゼルの表情が覚悟を決めたというか、大仕事を控えてやる気になっているようなものに見えなくもない。
俺はそれを気にしながらもリアスたちに言う。
「ダメだったらとかは気にせず、成功をイメージしろ。でないと出来るものも出来なくなる。いいか、死ぬ気でベストを尽くせ!」
『はいっ!』
全員が力強く応じる。そんな俺を見たクリスとアリサ、ジルがなぜか苦笑していた。
俺は構わずに続ける。
「━━とは言ったが、死んだら許さねぇからな!いつも通り、全員揃って明日を迎えてぇからな!」
俺の言葉を受け、アリサがいきなり吹き出す。そのまま彼女は笑いを堪えながら言う。
「や、やっぱりそう言うんですね……!一番危険な仕事をやるのはマスターなのに━━━あ、ごめんなさい、ごめんなさい!冗談です!部下のかわいい冗談ですから!」
俺が右手の骨をゴキゴキ鳴らしていることに気づいたのか、アリサは勢いよく土下座した。確かにかわいい冗談だが、こいつは俺の怖さを忘れていたようだ。眷属になったというのに。
俺たちのやり取りのおかげなのか、作戦開始までもうすぐだが場の空気がなんとなく和んだ。そんな気がした。
病院を出発して数十分。俺たちは連合軍の集合場所である日本近海の名も知らぬ島に来ていた。
トライヘキサが近くにいるせいか、天候が酷く悪く、先程から悪寒がする。あの時は気にしなかったが、凄まじいプレッシャーだ。
俺は一旦リアスたちと別れ、孤島の林の中で倒れた樹を椅子代わりにして座り込んでいた。
「……ったく。トライヘキサのオーラに当てられたか?いきなり騒ぎ始めやがって……」
先程から右腕の疼きが止まらない。戦闘前にこれだと、戦闘が始まったらどうなる。下手すりゃ、いきなり呑まれる可能性もある……。
俺の心中に不安が渦巻くなか、背後にヒトの気配を感じて振り返る。そこにいたのは、俺の人生を変えてくれた最愛の
「……セラ」
「探したわよ、ロイ」
セラはそう言うと俺の横に腰かける。お互いに話さない時間が続くが、不意に彼女が口を開く。
「もっと自分を大事にしてよ。今回だけでいいから……!」
涙混じりに言葉を漏らすセラ。確かにここ最近無理をしてばかりだが、今回ばかりは流石に無理をしすぎたか……。
俺はドラゴンのものになってしまった右手を眺め、思わず苦笑した。
「まあ、これが終わればしばらくは平和になるだろうよ。そしたら、のんびりとさせてもらうさ。またどっか行こうぜ」
「……うん、そうね。これが終わればとりあえずは平和になる。そのためにも頑張らないと」
いきなり真剣なことを言い出すセラ。アザゼルといい、セラといい、どうしてこう覚悟を決めた顔をしているのか……。
俺がじっと見ていることに気づいたのか、セラは急にいつもの無邪気さを感じる笑みを浮かべる。
「そうしたら、またデートに行きましょう☆欲しいグッズがあるのよ☆」
「またミルキーか?相変わらずだな」
俺が肩をすくめながら言うと、身を取り出してくるセラ。いつにも増していい臭いがするのは、中途半端にドラゴンだからだろうか。
セラは人差し指を突きつけて目を輝かせながら言う。
「ロイにもミルキーの素晴らしさが伝わってくれるって信じてるからね☆いえ、伝わってくれるまで観賞会を開催しちゃうんだから☆」
「それはまたキツいな……」
俺が引き気味に苦笑していると、セラの両手で俺の両頬が包み込まれ、正面から彼女の顔と見合わせる。
いきなりの行動に俺は疑問符を浮かべるが、セラは優しく笑むとそのまま優しく口付けしてきた。彼女の温かさと柔らかさが唇に伝わり、何となくだか俺の心中も落ち着いたような気がする。
彼女の顔が離れていくなか、ほんの一瞬だけ名残惜しそうな表情になっていたことに気づく。もしかして、何かしようとしているのか……?
俺が問いただそうとすると、セラはわざとらしくやる気を出したとアピールするようにガッツポーズをしながら言う。
「さて、頑張りましょう☆私も日本も大好きなの☆」
明らかに俺に質問させないように今の発言をしたんだろう。それを察することはできた俺は無理に質問しないようにして、彼女に続く。
「俺も日本は好きだな。まあ、今はこっちが職場だし、結構日本に潜伏していたからな」
「好きのベクトルが違う気がするわ……」
「……そうか?」
このやり取りを最後に、俺とセラはそれぞれの持ち場に向かう。アザゼルやセラが何を考えているにしても、出来るだけそれをさせたくはない。あんな覚悟を決めた顔をされたら、その身を犠牲にするような何かなんてことは簡単に予想できる。させられるわけがない。
俺が島の岩礁まで戻ってくると、緑色の指輪━━『
「あ、マスター!遅いですよ!どこに行ってたんですか?」
「風に当たりにな。さっきまで倒れてたんだから、少しは当たっておかねぇと」
身体を伸ばしながら言うと、クリスが一度肩を回して拳を握りながら言う。
「俺は万全です。いつでも何でも来いって感じですよ!」
やる気十分のようだ。
横ではジルとロセが魔方陣を展開して話し込んでいたが、不意にジルが作業をしながらもこちらに目を向けて言う。
「まあ、何かあったらシトリー眷属の『
「まあ、最悪の場合は頼るか……。イッセーでも暴走を止められたんだ、匙にも出来るだろう」
一通りの調整を終えたからか、ロセは作業の手を止めると言ってくる。
「それもいいですけど、本当に無理はしないでくださいね?こっちがもちません」
「お、おう……」
散々言われたが、無理はしない方向でいこう。無茶はすると思うけどな……。
ふと、こんな時に間違いなく絡んでくる黒歌がいないことに気づく。あいつ、どこに行った?
俺が周囲を見渡していたからか、ロセが言う。
「黒歌さんはヴァーリチームと一緒に行動しています。まあ、『終わったら報酬をいただくにゃ』とか何とか……」
地味にロセの『にゃ』をかわいいと思ってしまった俺がいた。黒歌の口調に慣れすぎたか?
そんな下らない疑問をよそに、連合軍の面々が近くの島や俺たちのいる島から次々と飛び立っていく。
妖怪に始まり西洋の魔物、悪魔、天使、堕天使、その他神話に属する者たち。それぞれの本拠地を守るために多くの戦力を割いていると聞いていたが、それでも迎撃にも送ってくれたようだ。感謝するしかねぇな。
トライヘキサのいる方向に向かう連合軍を背に、俺は仲間たちに言う。
「さて、俺たちも行くとするか。準備は」
「いつでもどうぞ」
「右に同じです!」
「問題ない」
「私も大丈夫です!」
クリス、アリサ、ジル、ロセがそれぞれ答えてくれる。
俺は頷き返して右腕に籠手を出現させてアロンダイトを取り出す。
「新メンバーロセを加えた俺たち『チームロイ』の初陣だ。派手に行こう……」
「……ロイさんって、こんな事言うキャラでしたか?」
「いつもの事ですよ」
小声でロセとアリサがそんな会話をしていたので、振り向いてアリサを睨む。
俺に睨まれたアリサは自分の頭を守るように手で隠しながらクリスの後ろに隠れた。
「……ま、またですか、またなんですか!?」
「おまえは懲りたらどうなんだ……」
巻き込まれたクリスは困り顔で苦笑していたが、地味に楽しそうでもある。まあ、今は状況が状況だから無視して視線を前に戻し、籠手に力を込める。
『
黒を基調とした
「━━それじゃ、行くぞ!」
「はい!」
「了解!」
「ああ!」
「了解です!」
俺たちはその場を飛び出して戦場に向かう。トライヘキサを倒すために。この世界を護るために━━━。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。