グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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学年末のファントム
lost01 変わってしまった日常


『邪龍戦役』から一ヶ月以上が過ぎた頃。

俺━━兵藤一誠をはじめとした『D×D』メンバーは、少しずつだけどロイ先生の死を受け入れ、乗り越えようと頑張っていた。

学年末テストを終えた俺は、力尽きて机に突っ伏していた。

 

「あー、やっと終わった……」

 

今年に入ってから色々あったあげく、その最後にあんなことになってしまって、余計に勉強に手をつけられなかった。けど、まあ、どうにかなった。

俺が燃え尽きてボケッとしていると、アーシア、ゼノヴィア、イリナの三人が歩み寄ってきた。

ゼノヴィアが言う。

 

「いろいろあったせいで、勉強が疎かになってしまった。生徒会長として、少々不甲斐ない」

 

「学生生活との両立だもの、仕方ないわ。けど、とりあえずはお疲れさまって感じ」

 

イリナが俺の肩を揉みながらそう言った。俺が「あ~」と唸っていると、アーシアが言う。

 

「けれど、私は楽しいです。毎日が本当に……」

 

少し悲しげに言うアーシア。あの戦いはどうにか勝てたが、失ったものも大きい。多くのヒトが亡くなって、多くの自然が破壊された。何もかも上手くはいかないものだ。

俺たちからしんみりとした空気が漏れるなか、後ろから近づいてきた誰かにアーシアの両頬が引っ張られる。

 

「なーに、しんみりしてんのさ。山張り間違えちゃった?」

 

なんて気軽に声をかけてきたのは、アーシアたちとも仲の良い眼鏡女子の桐生だ。女子ではあるが、俺が認めるほどスケベだったりする。あと、俺たちが悪魔であることを知っている数少ない人物だったりもする。

 

「うぅ、ひっはらないでくらはい……」

 

アーシアが若干涙目になり始めると桐生は手を離す。

桐生はいたずらっぽく笑みながら謝る。

 

「あはは、ごめんごめん。ま、アーシアちゃんは山張らないで全部がんばるタイプでしょ?あのバカどもと違って」

 

「「誰がバカだ!」」

 

桐生が指差した先にいた二人、俺の悪友である眼鏡男子の元浜と丸坊主男子の松田が軽く怒鳴りながらこちらに詰め寄ってきた。

 

「反応したってことはバカの自覚ありってことね」

 

「「ぐっ……」」

 

桐生の返しにあっさり沈められる二人。こいつらはぶれないと言いますか、単純と言いますか……。

俺が苦笑していると、真っ先に復活した元浜が訊いてくる。

 

「……そ、それはそれとして、ロイ先生に何かあったのか?いきなり学校辞めるなんて、思いもよらなかったぞ」

 

「人気あったからな、ロイ先生。厳しいけど、その分面倒見良かったし……」

 

二人の言葉に真実を知る俺たちは固まってしまう。

表向きは『とある事情で教師を辞めた』ということになっており、この学園の生徒にはそう伝えられている。だが、実際は……。

真実を知る俺たちの表情が思わず暗くなるなか、桐生が空気を変えるために明るく努めてくれていた。

 

「ほ、ほら暗くならないの。また会えるかどうかはわからないけど、あんたたちがそんなんじゃ、ロイ先生が帰って来た時に驚いちゃうわよ」

 

「……ああ。そうだよな……」

 

俺は無理やり笑顔を作って頷く。あのヒトの分もしっかりしないと、笑われちまう。

俺たちがどうにか表情を明るくしていくなか、元浜が言う。

 

「ところで、ロスヴァイセちゃんは大丈夫なのか?なんか、最近ボケッとしている気がしてならないんだが」

 

「周りの連中も良く言っているよな。見ていて危なっかしいとかなんとか」

 

話題はロスヴァイセさんのものに変わる。あの戦いから、ロスヴァイセさんは物思いにふける時間が多くなってしまっている。授業の小テスト中とか、ボケッとしているのだ。

 

「ロイ先生とロスヴァイセさんは、まあ、個人的な付き合いとかもあったらしいから……」

 

俺が周りを気にしながら小声で言うと、二人はなぜか納得したように頷いた。

 

「事情ってそういうことか……」

 

「なるほど、それなら……」

 

「お、おい。いきなりどうしたんだよ?」

 

俺が訊いてみると、松田が言う。

 

「ほら、教師って仕事柄、そういうのにはうるさいだろ?」

 

「つまり、そう言うことだな」

 

二人はロイ先生とロスヴァイセさんが何かしらしたと思っているのか。まあ、教師同士が結婚したら、片方は別の学校に行かなきゃならないとか何とか聞いたことがあった気がする。そう思ってくれていたほうが、まだ楽かもしれないな。

ロスヴァイセさんが立ち直るのは、もっと時間がかかるかもしれない。今はどうにか耐えている感じだ。

ロイ先生、何で死んじゃったんですか……?あなたが死んじしまって、俺たちはどうにも落ち着きませんよ……。

 

 

 

 

 

時間が変わって深夜の旧校舎。

部活動を無事に終え、俺たちはいつも通り悪魔業をすることになった。アザゼル先生は用事があるとして冥界に行ってしまった。

 

「……はぁ」

 

何もない待機時間。手持ちぶさたの俺は思わずため息を吐いてしまった。

理由としては単純で、俺に上級悪魔への昇格の話が来ているのだ。こんなタイミングで、そんな話をされてもあんまり実感湧かないし、素直に喜べない。アザゼル先生は、

 

『いきなりすぎるのは承知だが、この前の戦いで各勢力が大打撃を受けたからな。冥界も、早めにその穴を埋めたいんだろうよ』

 

と言っていたけど、それで「わかりました」とすぐに頷けるほど俺も単純ではない。なれるのは嬉しいし、リアスたちも喜んでくれるだろう。だけど……。

俺が一人考えこむなか、前にリアスから言われた事を思い出す。

 

『イッセー、考えるも大事だけれど、覚悟を決めたほうがいいわよ。あなたが上級悪魔になると知って、色々なヒトから接触される筈よ。私の眷属としてではなく、あなた個人にね』

 

リアスの眷属としてではなく、俺として見られるようになる。そして、色々なヒトが会いに来る。しばらくは悩みの種は消えそうにないな……。

書類に目を通していたリアスが不意に部室を見渡す。暇をしているのは俺とゼノヴィア、イリナぐらいだ。誰かを探しているようだが……。

 

「どうかしたの?」

 

「いえ、ロスヴァイセはまだ戻らないのね」

 

俺の問いかけにリアスはそう返した。そうか、ロスヴァイセさんがまだ来ていないのだ。部活の時間はしっかりいたのだが、終わって早々にどこかに行ってしまった。けど、どこに行ったのかはわかっている。

ゼノヴィアが小さく息を吐くと、少し悲哀を込めながら言う。

 

「毎日欠かさず祈りを捧げにか。主に仕えた身としてはわかるが、何とも言えないな……」

 

俺たち異形は死んでしまったら、魂はどこにも行かずに消滅してしまう。何も感じず、何も出来ない、文字通りの無になってしまうのだ。

それでも、ロスヴァイセさんはロイ先生の冥福を祈りに行っている。そうでもしないと、きっとダメなんだろう。

俺たちの間にまた暗い空気が流れ始めるなか、仕事に行った木場たちが戻ってくる。

それを確認したリアスがひとつ咳払いをして優しく笑みを浮かべる。

 

「みんな、お疲れ様」

 

リアスのその一言を皮切りに、再び部室が賑やかになり始めた頃、リアスの耳元に連絡用の魔方陣が展開された。そのまま彼女は二三やり取りをすると、一度頷く。

 

「━━仕事よ」

 

リアスの一言に俺たちは表情を引き締める。

あの戦いが終わっても、俺たち『D×D』の仕事は終わらない。まだ、テロは続いているのだから━━。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

冥界グレモリー領。

日本の本土とほぼ同じ面積ほどある領土の、とある山の頂上。地平線までが一望できるそこにロイ・グレモリーの墓があった。

西洋風の墓に彼の名が刻まれ、その下にはグレンデルを引き剥がし、元の姿に戻った彼の右腕が埋葬されている。墓石の後ろには彼の最期まで共にあった聖剣アロンダイトが地面に突き刺さっている。

彼の墓の前には花が供えられており、それを供えたであろうスーツ姿の女性が両膝をついて座り、顔の前で両手を握りながら静かに祈っていた。その女性━━ロスヴァイセは毎日欠かすことなく、彼の墓参りに来ていた。

最初の頃こそ来る度に涙を流していたものの、今ではある程度の落ち着きを取り戻した。だが、それでも涙を流さないように耐えるのに必死だった。

祈りを捧げていたロスヴァイセは、背後に気配を感じとり一度祈りを中断して振り返る。そこにいたのは亜麻色の髪の女性、ロイの母親であるヴェネラナ・グレモリーだ。

ロスヴァイセは彼女の登場に驚きながらも目元の涙を拭い、立ち上がる。

 

「ご、ごきげんよう、ヴェネラナ様」

 

「ごきげんよう、ロスヴァイセさん」

 

手短に挨拶を済ませると、ヴェネラナはロスヴァイセの横につくと持っていた花を墓に供える。

 

「ありがとうございます。この子の事を想っていただいて」

 

「いえ、そんな……。私にはこれくらいしか出来ませんから……」

 

ヴェネラナの言葉に申し訳なさそうに返すロスヴァイセ。だが、ヴェネラナは優しく笑みながら言う。

 

「それでもです。私は毎日来てあげられませんから……」

 

少し悲哀の色を帯びた瞳で、彼女の息子(ロイ)の墓に目を向ける。

ロスヴァイセが何も言えないでいると、彼女の耳元に連絡用魔方陣が展開されると一方的に情報が伝えられ、魔方陣が消える。

それを受けたロスヴァイセは一度深呼吸をすると、覚悟を決めたようにヴェネラナに言う。

 

「行ってきます。まだ、終わっていませんから」

 

そう言うと駆け出していくロスヴァイセ。彼女の背中を見送ったヴェネラナはバカな事をした息子を説教をするように、だがそれ以上に悲哀を込めながらぼそりと呟く。

 

「やはり、良いヒトですね……。彼女の事を幸せにしてあげなさいよ、まったく……」

 

彼女は言葉に返す者はいない。ただ、冥界の優しい風が吹くだけだ。

ヴェネラナは一度息を吐くと、墓の前で両膝をついて祈りを捧げる。

 

━━願わくば、あの子にもう一度だけ、どこかで生きる機会がありますように……。

 

悪魔ではあるが、子を想う気持ちは人間と変わりはしない。

 

━━また別の人生を、出来ることなら平和に生きることの出来る機会をどうか……。

 

一人の母として、息子の未来を願う。今の彼女にはそれが精一杯だ。ロイの遺していった恋人たちを、妹たちを、仲間たちを、今を生きるヒトたちを支えていかねばならない。

ヴェネラナは静かに覚悟を決め、ロイの墓を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

俺━━兵藤一誠をはじめとしたオカ研メンバー(客分であるレイヴェル、別行動中のロスヴァイセさんを除く)は、とある都市の郊外にある廃ビルを見上げていた。

パッと見た感じ、十何階とかありそうな高層ビルだが、色々とあったんだろう。今はヒトの気配はない。

リアスが周囲を見渡しながら言う。

 

「周りへの被害を考えて、下手に大技は使えないわ。特にイッセーとゼノヴィアは気をつけて」

 

「はい」

 

「わかった」

 

リアスの注意に頷く俺とゼノヴィア。下手にやってこのビルを倒壊させようものなら、周りへの被害が大変なことになってしまうだろう。

今から俺たちはロスヴァイセの合流を待って、このビルに攻め込む。━━と言ったら人聞きが悪いが、実際にそうなのだ。

『邪龍戦役』の戦後処理が一段落すると、サーゼクス様とベルゼブブ様が中心となってレーティングゲームの不正に関わったヒトたちの一斉摘発をおこなったのだが、それで摘発された一部のヒトたちがテロ行為を始めたのだ。

あの戦いで死んでしまったヒトたちを、ロイ先生を侮辱されているようでムカつくけど、この怒りは抑えておかないと、たぶんビルを吹き飛ばしてしまう。

俺が自分を落ち着かせるように深呼吸していると、リアスが情報を確認する。

 

「私たちはこのビルから関知されたという不審なオーラの確認、テロリストならこれを排除することになるわ。周りは堕天使のエージェントが固めてくれているそうだから、万が一に撃ち漏らしてもそう簡単には逃げられないはずよ」

 

もしかして、アザゼル先生がいなかったのってこの手引きをしてくれていたからなのかな?だとしたら感謝しないと。

リアスが腕時計を確認しながら言う。

 

「そろそろロスヴァイセが戻ってきても━━━」

 

ドゴォォォォォォォンッ!

 

『ッ!』

 

突如の爆発音に身構える俺たち。見上げてみると、ビルの上の階から大量の煙が舞っていた。さらに目を凝らしてみると、そこから何かが落下してくる!

俺たちがその場を飛び退くと、それが地面に叩きつけられる。

 

「あぁ、いてぇ……、いてぇよぉ……」

 

そう呻きながら、黒いローブを着た男性悪魔が立ち上がろうとするが、その男性を上から降ってきた数本の矢が身体を貫く!

俺が素早く真紅の鎧(前の戦いの影響なのか、呪文無しで纏えるようになった)を纏うなか、リアスたちが防御の体勢に入る。

 

「があ……!」

 

男性悪魔が苦悶の声をあげた瞬間、再び降ってきた矢に頭を貫かれた。貫いた矢は役目を終えたからか、塵になって消える。

動かなくなる男性悪魔。リアスが俺たちに向けて一度頷くと同時に翼を展開、俺もアーシアをお姫様抱っこして翼を展開、みんな一斉に飛び立つ。この間に攻撃が来そうなものだが、特に何もなく俺たちは上昇していく。

急な反撃に備えて爆発の起きた階のひとつ下に降り立つと、気配を殺して素早く陣形を組み直して上を目指す。

上を目指すなか、何かの戦闘音が俺たちの耳に届いた。ヒト同士ではそう簡単には出ないような激しく、それでいて重い音が連続していく。

音を頼りに階段に駆け上がり、爆発の起きた階に到着してみると、俺たちは驚愕した!先程の爆発のせいなのか、柱を残してほとんどの壁が吹き飛ばされ、大量の瓦礫が床に散乱しているのだ。

警戒しながら音を頼りに進んでいくと、ピタリと戦闘音が止む。戦闘が終わったのか、こちらに気づいて中断したのか、どっちだ?

さらに奥に進んでいき、ようやく音の発生源に到着。残っていたであろう柱も砕かれ、大量の血が床にぶちまけられているのだ。

そして、その血溜まりの中央に立つ血(まみ)れでマントを思わせるぼろぼろの黒い外套を身に纏い、フードを目深に被っている男性がいた。腕には金属製と思われる簡単な手甲がつけられており、吸い込まれそうなほど鮮やかな深紅の太刀が握られている。あの色を見るとロイ先生の事を思い出してしまうが、今は目の前のことに集中しないと……。

俺たちが身構えるなか、男性がため息を漏らす。

 

「増援、か。まったく面倒だな……」

 

……今の声、何となく聞き覚えがあったような……。

リアスたちもそう思ったのか眉を寄せているが、男性が太刀を構えながら言う。

 

「まあいい。やることは変わらねぇ」

 

そう言いきった瞬間、男性のオーラが爆発的に上がる!身体から漏れでたオーラに当てられて、大量の塵が舞うほどだ!

自身の姿を隠すほど待った塵を切り裂き、そこから現れたのは、

 

『━━あの子は渡さん……!』

 

ヒトを形作る黒い靄の塊だ。外套の形に添うようにも靄が掛かっているため、一目ではヒト型とはわかりづらいが、人間で言う目に当たる部分が怪しい紅の色になっているので、何となくどこがどの部位かってのがギリギリわかる。

だが、「あの子」って誰のことだ?俺がそれを問おうとした瞬間、男性の姿が消える!

 

ドゴンッ!

 

重い音と共に俺の腹部に衝撃が走る!それを認知した瞬間、何かに弾き飛ばされたように吹っ飛ばされた!

 

「が……!」

 

柱に叩きつけられ、一気に吹っ飛ばされた勢いをなくした俺は、自分の腹を見る。完全に鎧が砕かれてはいるものの、そこまで問題はなさそうだ。

俺は簡単な確認を終えると、先程までいた場所に目を向ける。

そこにはいつの間にか両腕に深紅の籠手を装着し、拳を振り抜いた体勢の男性が立っており、リアスたちを一瞥する。

 

『……どこからでも来い』

 

どこか冷たいながらも確かな覚悟に満ちた声で、俺たちに告げてきたのだ━━。

 

 

 

 

 

 

 




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