グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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lost08 助言

ドラゴンたちの咆哮と爆音が鳴り響く戦場のほぼ中央、ロイとドラゴン型の化け物が静かな殺気を放ちながら睨み合う。

静寂が一人と一体の空間を支配するなか、彼らの近くにドラゴンの放ったオーラの流れ弾が当たり爆発が巻き起こった。それを合図に彼らは飛び出していく!

ロイとドラゴン型はほぼ同時に拳を放ち、真正面から衝突させた!

 

「にゃ!」

 

「くっ……!」

 

凄まじい衝撃波が黒歌とサイラオーグを襲い、拳自体には掠りもしていないのに、殴られたような鈍痛が全身を駆け抜けた。

黒歌に抱きかかえる形で庇われたリリスは、ひょこりと顔を出してロイの様子を探る。彼女の視線の先では、深紅の籠手を装着したロイがドラゴン型と殴りあっていた。

サイラオーグとの殴りあいと違うことがあるとすれば、お互いにノーガードの殴りあいではなく、確実に相手の拳を避け、時にはうまく受け流していることか。おかげで初撃の時ように衝撃波は生まれない。

 

「ラァッ!」

 

殴りあいは永遠に続くかと思われたが、ロイのほうが一枚上手だった。仙術による感知能力の向上で相手の動きを見切り、カウンターの一撃をドラゴン型の胸部に叩き込んだのだ!

 

『……っ!』

 

手痛い反撃をもらい、半歩後退るドラゴン型。ロイがその隙を見逃すはずもなく籠手を消して脚甲を装備すると、そのまま回転の勢いを加えて右足で上段回し蹴りを放つ。

 

「マジかよ……!」

 

━━が、彼の読みは甘かった。今のカウンターでドラゴン型に与えたダメージは微々たるものであり、あってないようなものだった。

つまるところ、ロイとしては追撃の一撃だったが、ドラゴン型からしてみれば隙だらけの大振りの一撃となったわけだ。

ドラゴン型は片手でロイの蹴りを受け止め、そのままジャイアントスイングの要領で投げ飛ばした。手を離す瞬間、ついでと言わんばかりにロイの足首を異常に捻ることも忘れない。

 

「━━ッ!」

 

右足首に鈍い痛みを感じ、ロイは表情をしかめる。だが刹那的に意識を切り替えて体勢を整えると翼を展開、勢いを殺してゆっくりと地面に足をつける。

 

「いって……」

 

それと同時に右足首の痛みが余計に強くなる。見てみると、足首が異様な方向まで曲がってしまっていた。具体的に言うと、爪先が後ろ向きになるほど曲がってしまっている。

ロイは深く息を吐きながら脚甲を消すと右足を上げ、足首に手を添えると一気に力を込め━━、

 

「フンッ!」

 

無理やり元の方向に戻す。『ゴキャ!』と聞くからにエグい音が周囲に響くが、ロイ自身は特に気にした様子もなく右足を地面につけると、何回か足首を回す。

 

「投げる瞬間に足首を砕きにくるとは、相変わらずえげつねぇな……」

 

右足の爪先をトントンと地面に当てながら、ロイはドラゴン型に言うが返答はない。それは予想通りだったようで、ロイは左手に弓を、右手に矢を作り出す。

手慣れた様子で矢をつがえ、目一杯引き絞って放つ。放たれた矢は空気を切り裂いて一直線にドラゴン型に向かっていく。

対するドラゴン型は高速で迫る矢を払おうと腕を凪ぐが、突然矢の軌道が変わる。ドラゴン型の腕を避けるように下に潜り込むと急上昇、アッパーカットのように顎を撃ち抜いた!

 

『っ!』

 

盛大な爆発と共に仰け反るドラゴン型。ロイは次の矢をつがえ、放った。足を踏ん張って転倒を避けたドラゴン型の視界には、再び自分に向かってくる一本の矢が映る。

先ほど迎撃に失敗したドラゴン型は回避しようとするが、突然矢が弾け、内側に仕込まれていた細かく鋭い大量の矢が襲いかかる。

ドラゴン型は回避の選択肢を捨て、自分の身体を深紅のオーラで包み込む。矢が直撃したのはそれの一瞬後のことだ。先ほどと同じ規模の爆発が連続で巻き起こり、爆煙がロイたちの視界からドラゴン型の姿を隠す。

ロイは次の矢をつがえ、それを天高く放った。一拍間を開けて、深紅の輝きを放つ極太の柱が爆煙を切り裂いてドラゴン型に襲いかかる!

地面ごと対象を穿つ一撃を受ければ、並の生物なら跡形もなく消し飛ぶことだろう。だが、相手は並の生物ではない。得体の知れない化け物なのだ。

柱が消えていき、ドラゴン型の姿が現れる。彼が立つ場所を残して地面には大きな穴が開き、身体は血まみれになってはいるが健在であり、その瞳に宿る殺気は一切弱まっていない。

ロイは苦笑しながらため息を吐いた。

 

「本気で撃ったんだが、タフな野郎だ」

 

弓を消して槍を作り出し、それを両手に握って体勢を低くして構える。

ドラゴン型は首をゴキゴキと鳴らすと、ロイに答えるように同じく体勢を低くして構えた。

黒歌が心配そうに戦いを見つめるなか、一人と一体は彼女の視界から消え失せたのだった━━━。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

俺━━兵藤一誠は、オカ研の仲間たちとヴァーリチームという久しぶりのメンバーで謎の怪物たちとの戦闘を繰り広げていた。ソーナ先輩とその眷属は、万が一他の場所への襲撃に備えて待機中だ。

ここがタンニーンのおっさんの領地ということもあってか、ここに住むドラゴンたちも協力してくれているが、戦況はいいとは言えなかった。

 

「クソ!なんて固さだよ……!」

 

怪物の一体(蜘蛛のような姿)を全力で殴り飛ばしたが、ピンピンしていた。いくらダメージを与えても撃破には至らず、すぐに立ち上がって攻撃を再開してくる。

横目で他のメンバーの方を見てみると、一様に苦戦を強いられていた。動きも単調だから攻撃を貰うなんてことはそう簡単にはないが、バカみたいにタフだ。火力バカと言われる俺たちでも決め手に欠ける状態だった。ヴァーリチームの面々も、どうにも決め手に欠けるようだ。神を殺せると言われるフェンリルでさえも。

 

「ここまでして削りきれないとなると、ただの魔物ではなさそうだな」

 

俺の背後に背中合わせになるように、デュランダルとエクスカリバーを構えるゼノヴィアが現れた。彼女が相手取っていた怪物(象のような姿)は全身を斬られまくっているが、まだ生きており、這いながらも彼女に向かっていこうとしている。

何か弱点でもわかれば話が変わるんだが、それを探ろうにも数が多すぎる。一体や二体ならともかく、怪物は俺たちの周りだけで数十体。戦場全体にこんな奴らがいるとなると、数は百じゃきかないかもしれない。

 

「消し飛びなさい!」

 

「雷光よ!」

 

リアスと朱乃さんが一体の怪物(狼のような姿)に火力を集中させ、滅びと雷光が混ざった塊を放つ。怪物は避けようともせずに真正面からそれを受けると、そいつの頭が吹き飛んだ!残された身体がうつ伏せに地面に転がり、どす黒い色の血をぶちまける。

あれなら確実に倒れるはずだ。頭がなくなったら流石に生きてはいられないだろう。

俺が小さくガッツポーズをしているなか、異変が起こる。頭を吹き飛ばされた怪物の首の肉が蠢き始め、少しずつ何かを形成していく。

怪物はゆっくりと身体を起こし、リアスの方へと足を引きずりながら近づいていく。

 

「まさか、そんなことって……!」

 

驚愕するリアスの視線の先では、頭を再生させた狼型の怪物がいた。だが再生は完璧ではないらしく、皮膚や体毛が一切なく、筋肉や脳みそ、骨と思わせるものが丸見えになっていた。

リアスと朱乃さんが再び魔力を放とうと手を向けた矢先、上空から何かが落下してきた!それは狼型の怪物を押し潰し、大量の砂塵を舞わせる。

落下してきた何かが深紅の残光で砂塵を切り裂き、その姿を現す。それと同時にリアスの表情がいっそう険しくなった。

 

「ッ!あなたは……!」

 

落下してきたのは、紅髪に深紅の槍を手に持った男性━━ロイだったのだ!凄まじい速度で地面に叩きつけられたはずだが、直立不動で立っており、目立ったダメージはない。

ロイは俺たちに目を向けることなく、自分で押し潰した狼型に槍を突き立てる。狼型は一度ビクリと身体を跳ねさせると動かなくなった。一拍開けて、狼型はどす黒いドロドロの泥のようなものに変わってしまう。

何かしらの手を使って狼型を仕留めたようだが、何をしたのかがわからない。だが、向かってくるのなら対処しないといけない。現に、ヴァーリチームの面々は少し殺気立っていた。

俺たちが怪物とロイに警戒するなか、再び空から何かが降下してくる。ドラゴンを思わせる怪物だが、他の奴と比べるととても静かで、それでいて圧倒的なオーラを身に纏っていた。

明らかに一体だけ別次元なのがわかるが、そいつはロイと対峙しているようだ。

不意に俺たちにロイが声をかける。

 

「その獣どもの身体のどこかには所謂(いわゆる)心臓に当たる部分、(コア)がある。そこを潰さねぇといくらやっても死なねぇから、まあ、上手くやれよ」

 

ロイはそう言うと、ドラゴン型に向かって飛び出していった!俺では見えない高速の攻撃が放たれていくが、ドラゴン型はそれらを見切って避けていく。

怪物たちはドラゴン型の邪魔にならないように、再び俺たちに向かって飛び出してくる。俺たちは迎撃を強いられるが、先ほどのロイの言葉を思い出す。

(コア)を見つけてそこを潰せばいいということだが、それがどこにあるのか検討もつかない。この際身体を全部吹き飛ばしてしまったほうが楽に思えてきた!

俺が怪物を殴り飛ばすと、小猫ちゃんが吹っ飛ばされた怪物を指差してイリナに言う。

 

「その個体の右足の付け根に気が集中しています!そこを破壊してください!」

 

「わかったわ!」

 

イリナは飛び出してオートクレールでそこを貫くと、怪物が動かなくなり、一拍開けてドロドロになっていった。

小猫ちゃんが見つけられたってことは、仙術を扱えれば弱点を見つけることが出来るってことなのか?ここにいるメンバーで仙術を使えるのは小猫ちゃんと、ヴァーリチームの美猴も使えたはずだ。だが━━、

 

「そんな期待した目で見るなよ!こっちも忙しいんだっての!」

 

怪物二体を同時に相手取っていて、(コア)を探る余裕はなさそうだ。

小猫ちゃんに頼りきりにしてもいいが、彼女の負担が大きすぎる。全てを倒しきるまで集中がもたないだろう。それほどまでに怪物の数が多すぎる。

俺たちが怪物を迎撃しながらも手を探るなか、突然指示が飛んでくる。

 

「象は鼻の付け根、蜘蛛は頭と胴体の繋ぎ目、蝙蝠は眉間、蛇も同じ場所にゃ!」

 

『ッ!』

 

俺たちは瞬時に反応して各々の相手取っていた怪物を撃破していく。って、今の声は聞き覚えがある。

その声の主が小猫ちゃんの真横に降り立つ。

 

「姉様!」

 

「心配かけたわね。お待たせにゃ!」

 

声の主は黒歌だった。ロイに連れていかれと聞いてはいたが、あの様子では大丈夫そうだ。

ふと、彼女がおんぶしている女の子の存在に気づく。オーフィスによく似た黒いドレスに、マントのような黒い外套を羽織った女の子━━リリスだ。

驚く俺たちを他所に、ドラゴン型と互角の戦闘を繰り広げるロイがこちらに叫ぶ。

 

「黒歌、あいつはどうした!」

 

「眷属と合流したから大丈夫にゃ。あと、化け物の倒し方も伝えといたにゃ」

 

「それは助かるなっと!」

 

ドラゴン型を思いっきり蹴り飛ばし、そのまま槍を投げる!音を置き去りにする速度で飛ぶそれは、ドラゴン型にあっさりと叩き落とされた。

ロイは鎌を手元に作り出し、地面を滑るという死神を思わせる動きでドラゴン型に向かっていく。ドラゴン型は翼を広げて飛び出していき、ロイの鎌とドラゴン型の拳がぶつかり合い、激しい衝撃波が発生する!

そのまま二人は他者の介入を許さず、圧倒的な速度とパワーの戦闘を繰り広げていく。余波で地面が抉れ、近くの巨岩が切り裂かれ、砕け散っていった。

両者一歩も引くことはなく、相手の動きを最低限の動きだけで避け、反撃に転じていく。見ているこっちではどっちがどう攻撃しているのかもよく分からないほどだ。

ヴァーリは怪物を殴り飛ばし、黒歌に問いかける。

 

「無事でなによりだが、あの男と何かあったのか?」

 

黒歌は少し考えると、ドラゴン型と渡り合うロイに目を向ける。そして悲哀を込めた声音で俺たちに言った。

 

「あいつは、ロイ・グレモリーよ。間違いないわ」

 

「ッ!それは本当なの!?」

 

驚愕するリアスに、黒歌は小さく一度頷いた。

 

「ただ、記憶のほとんどがなくなってるみたい。色々と話してみて、私とロスヴァイセのことは(かろ)うじてって感じだけど、他の連中のことは全く……」

 

黒歌の言葉を信じるなら、ロイは本当にロイ先生で、記憶がないから俺たちのこともわからなかったと。とりあえずそれは後にして、どうしてロイ先生はリリスを連れているんだ?

黒歌の言葉に俺たちが何とも言えない空気になるなか、ヴァーリがリリスを見ながら訊こうとした矢先、盛大な爆音が俺たちに届く。

そちらに目を向けると、吹き飛ばされたドラゴン型が片ヒザをついており、対峙するロイ先生も片ヒザをついていた。いつの間にか槍から籠手に変わっているから、殴りあいになっていたのだろう。

ロイ先生が息を切らしながら、ドラゴン型に言う。

 

「おまえ、タフにも程があるだろ。今まで会ったなかでも一番だぞ……」

 

ドラゴン型は首をゴキゴキと鳴らしながら立ち上がり、再び突撃の体勢に入る。

 

「おっと、そこまでです」

 

突如響く第三者の声。声の主はドラゴン型の横に降り立ち、俺たちに目を向けてきた。

声からして男だろうか、ローブにフードで顔は口元以外はよく分からない。男の登場と同時に怪物たちが一斉に下がり、攻撃が止まった。

男は優雅に一礼しながら口を開く。

 

「初めまして『D×D』諸君。今までのご活躍、私の耳にも届いていますよ」

 

謎の男の登場に驚くしかない俺たちだが、男は顔を上げると続ける。

 

「まあ、挨拶はこのくらいにして。私は『クリフォト』の残党、そのリーダーをしている者です」

 

男の言葉に、俺たちはほぼ同時にそいつを睨み付ける。

男は特に気にした様子もなく言葉を続けた。

 

「そんなに睨まれても困るのですが、気持ちはわからなくもありませんがね」

 

「あなた、ここを襲撃した目的はなんなの」

 

リアスの問いに男は周りを見渡しながら言う。

 

「主な目的はデータの採取です。この獣たちのコントロールも完全ではないので」

 

「『主な』ということは、他にも何かあるということかしら?」

 

「ええ。もうひとつは━━」

 

男はゆっくりと手を上げ、ロイ先生を指差す。

 

「そこの━━」

 

「ヒトを指差すなって、誰かに教わらなかったのか?」

 

「……」

 

ロイ先生の突然の一言に、男は言葉を詰まらせる。

ロイ先生は立ち上がり、男と俺たちを警戒しながらもこちらに、正確には黒歌とリリスに歩み寄ってきた。

男はひとつ咳払いをして言葉を続けた。

 

「その男、『燃え(かす)』に興味があったのでどうにか接触したかったのですよ」

 

━━『燃え滓』。

 

男は確かにそう言った。あいつはロイ先生が記憶を無くしていることを知っているからそう表したのか、それとも何かしらあってそう呼んだのか。

 

「『燃え滓』ね。記憶がない俺にはぴったりな呼び方かもな」

 

ロイ先生は苦笑しながら男に返すが、「だが━━」と言いながらいきなり表情を引き締めて、黒歌とリリスを守るように立ちはだかる。

 

「記憶がない俺にも守らなきゃならねぇヒトがいる」

 

確かな覚悟が込められた言葉。その時、俺はあることに気づいた。ロイ先生の目の色が変わっているのだ。この前に遭遇した時は黒かったけど、今は(あお)、リアスやサーゼクス様、昔のロイ先生と同じ色をしているのだ。

リアスたちもそれに気づいたようで、何となくだが表情が緩んでいた。記憶がなくなっても、このヒトの底にあるものは変わらないようだ。俺たちは眼中になさそうだけど!

ロイ先生の言葉を受け、男は口元を不気味に歪ませる。

 

「『守らなければならないヒト』、仲間、恋人ですか。なるほど、それは一考の価値はありそうですね。獣たちにそのような意識を組み込めれば、ククク……!」

 

不気味に笑う男に、珍しくヴァーリが問いかけた。

 

「貴様、何者だ。オーラからして悪魔だが、貴様のようなものは感じたことがない」

 

「麗しきルシファー様の系譜、その末裔。ああ、あのお方の血が、あなたの身体を流れているのですね……」

 

興奮した様子でヴァーリの全身を舐め回すように見つめながら、男はそう呟いた。関係のない俺まで鳥肌が立つほど、男の声は気味の悪いものだった。

それを(もろ)に受けたヴァーリは、

 

「っ……!」

 

珍しくドン引きしていた。その横では、ロイ先生も「うわぁ……」と露骨に嫌そうな顔をしている。

男は「失礼、取り乱しました」と言うと、ドラゴン型に目を向ける。

 

「この特異個体と『燃え滓』。とてもいいデータが取れましたよ。やはり、私の計算通りでした。あなたとこの個体は()()()()()()()()

 

その言葉を受けて、ロイ先生はドラゴン型を睨む。相手も睨み返してきているが、お互い体力的に限界なのか、いきなり仕掛けるなんてことはなかった。

男がそう言ってドラゴン型とロイ先生をそれぞれ見たあと、怪物たちの足元に次々と転移魔方陣が展開され、そのまま展開の光に消えていく。

男とドラゴン型の足元にも転移魔方陣が現れ、転移の光に消えていくなか、リアスが男に叫んだ。

 

「待ちなさい!あなたは何者なの?!」

 

リアスの問いに、男は不気味に笑む。

 

「ルシファー様に遣える一族は、何もルキフグスだけではないのですよ。では、またお会いしましょう……」

 

男がそう言うと転移の光に消えていった。『ルシファーに遣える一族』、また面倒なことになりそうだな。

俺たちが表情を強張らせるなか、不意にロイ先生が黒歌の手を取った。

 

「もうしばらくこいつを借りていく。構わ━━」

 

「ストップにゃ!」

 

ロイ先生の言葉を遮り、黒歌はそっとロイ先生の手をほどいた。

ロイ先生は驚きながらも無理に連れていくつもりはないらしく、素直に手を引っ込めた。

黒歌が言う。

 

「せっかくこいつらと合流出来たんだから、話ぐらい聞いたらどうなのよ。ロイ・グレモリーについて知りたいんでしょ?」

 

「まあ、そうだが……」

 

「こいつらだって、そいつのことよく知ってるんだから、もっと話を聞きなさい!」

 

「お、おう……」

 

黒歌に気圧されてか、どんどん萎縮していくロイ先生。黒歌の背中にくっつくリリスは、上に這い上がって肩車をしてもらうと、黒歌の頭の上から顔を出してロイ先生をじっと見つめていた。

俺たちが困り顔になるなか、どこからか鳶雄さんが現れ、魔方陣を展開し始めた。

 

「他の場所の怪物たちも撤退した。とりあえず、指示通りにアザゼルを呼ぶ。あのヒトなら、もう少し落ち着いて話せるだろう」

 

そう言うと、魔方陣が輝いてそこからアザゼル先生が現れる。到着早々にロイ先生を見つけると、流石に驚いていた表情になるかが、すぐに持ち直して改まった様子で声をかけた。

 

「俺はアザゼルだ。色々と話を訊きたいんだが、一緒に来てもらえるか?」

 

アザゼル先生の言葉を受け、ロイ先生は警戒しながらも考えるなか、リリスが黒歌の肩から飛び降りてアザゼル先生の足元に駆け寄る。そのまま無言で手を差し出していた。

首を傾げるアザゼル先生とロイ先生だが、不意にリリスが言う。

 

「チョコちょうだい」

 

「ん?ああ、チョコな。やりたいのは山々なんだが、今は持ち合わせがないんだよな……」

 

アザゼル先生の言葉を受けたリリスは、露骨に不機嫌そうに頬を膨らませた。

それを見たロイ先生はため息を吐き、不機嫌そうなリリスを抱き上げるとそのまま肩車をして、困り顔のアザゼル先生に言う。

 

「わかった、一緒に行くよ。この子にチョコを食わせてやりたいしな」

 

器用にリリスの頭を撫でながら優しげに笑むロイ先生。なんか、子供のことを気にする父親の顔に見えるのは気のせいだろうか。

アザゼル先生は表情を元に戻して一度頷くと、俺たちに言う。

 

「戦後処理はこっちのスタッフにやらせるから、おまえたちも戻るぞ。こいつと話さなきゃならないだろうしな」

 

俺たちはほぼ同時に頷く。このヒトが本当にロイ先生だというのなら、どうにかして記憶を取り戻さないといけない。どうすればいいかはわからないけど、やるしかない。

またロイ先生と戦って、誰かが傷つく姿なんて見たくはないし、ロイ先生に誰かを傷つけて欲しくない。

こうして、俺たちはタンニーンのおっさんと合流することなくその領地を後にすることになった。今度機会を見て顔を出しておこう。おっさんは俺の恩人なんだから、たまには会いに来てもいいだろう。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

「どうかしたにゃ?」

 

リリスを肩車しているロイは、不意に黒歌に声をかけられて彼女に目を向けた。

 

「どうにも、胸につっかえていた何かが取れたような気がするんだよな。なんでだろ」

 

ドラゴン型と死闘を演じた後だというのに、まだ余裕そうな彼に、黒歌は思わず苦笑した。

 

「ま、それもそのうちわかるでしょ。あんたが一番最初に惚れた女にも会えるだろうし」

 

「だといいんだがな……」

 

ロイが少し不安げに言うと、リリスが彼の髪を軽く引っ張り始めた。

 

「ロイ、ロイ……」

 

「ん、どうかしたか?」

 

ロイはリリスを一旦肩から降ろし、優しく頭を撫でながら訊くと、リリスは目を擦りながら言う。

 

「ねむい……」

 

「了解。おいで」

 

両腕を広げ、リリスを受け入れる体勢になるロイ。リリスは倒れるように彼の胸にダイブすると、そのまま寝息をたて始めた。

リリスを抱き上げたロイは、黒歌に言う。

 

「とりあえず、この子がぐっすりと眠れればいいか。最近ろくに寝れていないんでね」

 

「まあ、毎度死神とやりあっていたんでしょ?当たり前にゃ」

 

「かもな」

 

思わず苦笑するロイ。だが、何となく安堵の色が濃いのは、これからいく場所が割りと安全だと何となくでわかっているからだろう。

そんな彼らのやり取りを見ながら、アザゼルは少し思慮を深めていた。

 

(オーフィスの半身であるリリスが、あそこまで爆睡するほど体力を使うか。考えられることとしては━━)

 

ロイとリリス、『D×D』の接触、合流。そして動き始めた謎の男と彼が率いる化け物たち。

『D×D』の面々はロイとの合流に安堵しながらも、戦いの激化に備え、表情を引き締めていくのだった。

 

━━戦いは終わっていない。むしろ始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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