吹雪に消えた狼の群れと、紅髪の少年を追いかけ、俺━━ロイを含めた『D×D』はコキュートスを走っていた。
先ほどよりも酷くなった吹雪に影響され、少し時間がかかってしまったが、ようやく追い付くことが出来たのだが、
「待っていましたよ、『D×D』の諸君。そして、『燃え滓』」
俺たちに目を向けながら、不敵に笑むローブの男。その横には少年が立っており、その回りを狼型が囲んでいた。
俺は男を睨みながら言う。
「あの野郎が復活したのかと思ったが、まだみたいだな」
「ええ、後五分ほどです。まあ、既にオーラが漏れ出ていますが」
そう言う男の後ろ、リゼヴィムが封じられていると思われる場所に魔方陣には怪しげな魔方陣が展開され、ゆっくりとだが回転しているようだった。おそらく、あれが一回転すると出てくるのをだろう。
白銀の鎧を纏うヴァーリが、強烈な殺気と共に強力なオーラを放ちながら男を睨む。
「舐められたものだな。五分もあれば、貴様なぞ殺せるぞ」
並の奴ならびびるのだろうが、目の前の男は違う。何故か興奮した様子で、恍惚の表情を浮かべていた。
「ああ……。ああ……!その殺気、そのオーラ、最っ高です!流石はあのお方の末裔!素晴らしいっ!」
「ッ!」
ヴァーリは気味悪がりながらも一切の躊躇いなく、右手から白銀のオーラを撃ち放つ。それは吸い込まれるように男の顔面に直撃した。
男は凄まじい爆音と共に体全体を仰け反らせて背中から倒れそうになるが、足と腹筋だけで体を支え、すぐさま体を起こす。
「な、なに……!?」
困惑するヴァーリ。当たり前だろう。ヴァーリの攻撃を真っ正面から受けた男は━━、
「いい……!とてもいい…!非常にいい!あ゛あ゛、下品なのですが、久しぶりに勃起してしまいましたよ!」
顔面を血塗れにしながらも、めっちゃ嬉しそうにしているのだ。な、なに、あいつ。変態?変態なの?いや、紛れもない変態だよな!?
ドン引きしている俺たちを他所に、男は恍惚の表情を浮かべたままヴァーリに目を向ける。
「やはりあのお方の血族は、我が主、ルシファー様の系譜の力は素晴らしい……っ!!!」
「……っ!」
流石のヴァーリも気圧されたのか、数歩後退る。兜で見えないが、その表情は険しいものか、口の端をひきつらせて引いていることだろう。
美猴がそんなヴァーリを励ますように、珍しくふざけた様子もなく、少し同情するようにその肩を叩く。
「あ゛あ゛……。それはそうと、いいのですか?あなた方がそうしている間にも、リゼヴィム様の復活の時は確実に、刻一刻と迫っておりますが」
男は大きく息を吐き、落ち着いた様子でこちらに言ってきた。確かに、それはそうなのだが、こいつのせいでヴァーリの戦意が鈍ってしまった。
まだやる気の俺たちは目配せすると、再び構える。相手は少年と狼型の群れ、そしてあの
ちらりと少年に目を向けると、しっかりと睨み返したきた。先ほど与えた傷も完治しているようで、背中に背負うアロンダイトに右手をかけていた。
小さく息を吐き、リアスたちに言う。
「すまねぇが、あいつは俺が相手する。ちょっと因縁ありなんでな」
左手で右胸の傷をかきながら、右手に直剣を生成。少年はアロンダイトを抜き放ち、殺気を放ち始める。
そんな少年を見ながら、男は不気味な笑みを浮かべた。
「ふふ、これはあなたに夢中のようですね。必死になって親を追いかける子供のようです」
親を追いかける子供、ね。家族に言われるのならともかく、敵に面と向かって言われるってのは妙な気分だ。
「……とりあえず、あの変態と狼どもは任せるぞ」
男の言葉を気にかけながらも、リアスたちに確認を取る。
「任せてください。お兄様のそっくりさんはお任せします」
「変態、ですか。まあ、否定はしないでおきます。自覚はありますので」
男は何てことのないように言いながら、不気味な笑みを一層強くする。
「……とにかく頼んだ!」
「……ッ!」
そいつから逃げ出すように、少年を誘い出すようにその場を離れる。少年は少し驚きながらも俺についてきてくれた。
俺がホッと息を吐いたと同時に少年が飛び出し、大上段からアロンダイトを振り下ろしてくる。だが━━、
「
「っ!」
直剣を下段から、体の捻りを加えながら一気に振り抜き、アロンダイトを正面から受け止める。
お互いの腕に凄まじい衝撃が伝わるが、俺は不敵に笑み、少年は反応を示さなかった。
あと男とは別の意味で不気味だが、今は気にしていられない。このまま勝負!
一時間ほど前と同じように、至近距離での撃ち合いを始める。だが、始めてすぐに、前とは違うことに気づいた。
前のように被弾してもお構いなしにひたすら撃ち込んでくるわけではなく、俺の攻撃を防ぎ、時にはカウンターを放ってくる。
まあ、その程度で俺に当たるわけでもなく、前に比べて当てにくくなっただけだ。そこまで問題はない。
横凪ぎに振るわれたアロンダイトに合わせ、こちらも直剣を凪ぎ払う。甲高い金属音にも似た音が、吹雪に混ざって周辺に響き渡る。
競り合いながら少年に声をかける。
「で、少年。お前が何者か、いい加減聞かせて欲しいんだが?」
「………」
返答なし。言葉がわかっていないのか、あるいは故意に無視しているのか、前者だとしたら、虚しいがな。
俺は強引に押し切り、少年の体勢を崩させると、練り上げた気を込めた蹴りを頭を放つ。若干鈍い音と共に少年は吹き飛ばされるが、アロンダイトを地面に突き立てて無理やり勢いを殺していた。
首をゴキゴキと鳴らす少年だが、すぐに片ヒザをついた。『気』というものは全身を駆け巡るものであり、乱させると文字通り体が動かなくなる。脳に直接叩きつけられれば、下手すれば死ぬ。目の前の少年は普通にしているがな。
少年は自分の拳を開いたり閉じたりして感覚を確かめ、歯を食い縛りながら立ち上がると、こちらを睨み付けてきた。一切戦意が衰えることはなく、むしろ高まっているほどだ。
もう一二撃叩き込めば、戦闘不能にすることは出来るだろう。だが、倒れても構わずに噛みついてきそうで怖いがな。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン……!
そんな事を思慮していると、少し離れた位置からの遠吠えが耳に届く。おそらく群れのボスのものだろうが、初遭遇時に比べればだいぶ弱々しいものだ。どうやら、リアスたちも優勢のようだ。
ゆっくりと息を吐き、再び気を練り上げる。とりあえず、一撃だな。二撃目はその時に考えればいい。
一度脱力し、直剣を握ったまま腕をだらりと下げる。筋肉の緊張を一旦ほぐし、隙を伺う。少年は俺の挙動全てを限界まで警戒しているようだが、あれでは無駄に疲れるだけだ。力の抜きどころがわからないってことは、そこら辺はまだまだと言ったところか。
俺は苦笑すると、一気に右に飛ぶ!━━フリをして真っ正面から殴りにいく!
俺が右に飛んだと錯覚した少年の不意を突く形で、彼の腹に拳をめり込ませる。インパクトの瞬間に拳を捻り、一気に気をかき乱す。
少年は肺の空気を吐き出しながら吹っ飛び、地面に展開されている魔方陣のほうまで行ってしまう。
急いで追いかけると、倒れる少年の横に男が現れ、顎に手をやりながらため息を吐いた。
「やはり、まだまだ調整が必要ですね。難しいところです」
「変態野郎が。その少年は━━━」
俺が問い詰めようとした矢先、魔方陣の輝きがいきなり強くなり始めた。
「今さらですが、アンチマジック対策も、私が死んでからの対策もしてありますので、あなた方の妨害は本当に無意味なものでしたよ。いいデータが取れましたが」
━━ッ!つまり、こいつに魔方陣を張られた時点で俺たちの負けだったってことか……!道中で無駄に苦戦しすぎたな……!
表情を険しくさせる俺の横にヴァーリが降り立ち、それに続いてヴァーリチームの面々が合流する。
「おまえら、出てくるぞ。やるしかねぇが、行けるか?」
「元よりそのつもりだ。今回は殺してはいけない理由はないだろう?」
「その筈だ」
俺とヴァーリがそのやり取りを終えると共に、魔方陣の輝きが一層強くなり、一気に弾けた。
「い、いや~、しんどかった……。ファーブニルに何回殺されたかな?もう慣れ始めた自分が怖い!」
魔方陣のちょうど中心に、少しやつれた様子で、目の下に濃い
かなり消耗している様子だが、放つオーラは相変わらず邪悪極まりない。
俺たちが一斉に構えるなか、男が恍惚の表情を浮かべ、リゼヴィムにすり寄って行く。
「ああ。お待たせいたしました、リゼヴィム様!ようやく、あなたをお救いすることが出来ました!」
「あー、おまえか。はいはい、助かったよ」
「ありがたきお言葉!
男の様子に若干うんざりした様子で、リゼヴィムは男を引き剥がす。あいつの変態性は、昔からということか。
「リゼヴィムッ!」
「お、ヴァーリか。いや~、久しぶりじゃん。元気にして━━」
リゼヴィムが言い切る前にヴァーリが手元から白銀のオーラを放つ。だが、奴に当たった瞬間に霧散してしまう。その結果を受けて、ヴァーリは小さく舌打ちをしていた。
「━━たみたいだね。お祖父ちゃん感激!……駄目だ、跳び跳ねる元気もねぇ」
露骨に疲れたように肩で息をするリゼヴィム。
やはり
俺たちが構えるなか、リゼヴィムが少年に目を向け、少し驚いた様子で俺にも目を向けた。そして、少し引いた様子で目を細めるながら男に目を向けた。
「昔からヤベー奴だなとは思っていたけど、ここまでかよ。いやー、流石に引くわー」
「ひとつでも使える駒が必要だったのです。ルシファーを
「ふーん」
興味なさげに言うリゼヴィム。話題の少年は、アロンダイトを杖代わりにしてふらつく体を無理やり支えていた。
俺はリゼヴィムを睨み付ける。
「出てきたところ悪いが、死んでもらうぞ」
「わーお、ロイくんじゃあないか。でも、だいぶ雰囲気変わったんじゃねぇの?具体的に言うと、
「そいつはどうも。褒めてくれた礼に、おまえの命を貰いたいね」
「えー、やだ。折角出てこれたのに、即帰宅とかつまんねぇじゃん」
両腕を水平に広げながら言うリゼヴィム。感覚を確かめるように肩を回しながら、横に控える男に言う。
「さて、とっとと出るとしますか。そこんところも準備万端なんだろ?」
「ええ、もちろんです。出口も確保してあります」
男は小さく頭を下げながらそう言った。つまり、こいつら━━!
「逃がすかよ!」
「リゼヴィム、止まれ!」
俺は手にしていた直剣をぶん投げ、ヴァーリが右腕の籠手を解除して自身のオーラのみを込めた魔力弾を放つ。
その二つはまっすぐリゼヴィムに向かっていくが、
「……っ!」
直剣は少年のアロンダイトに弾かれ、
「リゼヴィム様!」
魔力弾は男がその身を盾にして防いだ。胸から大量の血がぶちまけられるが、その男の表情は━━、
「あ゛あ゛、やはり素晴らしい……!」
嬉しそうなものだった。ひたすらに気持ち悪いな、あの変態野郎。
守られた側のリゼヴィム自身も流石にその表情を異物を見るものに変わる。あいつもあの野郎の扱いに困っているのだろう。
突如、リゼヴィムたちを囲むように転移用の魔方陣が展開され、輝き始める。
「……何もメンバーは私だけではないのですよ。外部にもサポートのメンバーがいるのです」
地面をのたうち回りながらそう言う男。表情は先ほどのものから変わっていない。
「……まあ、なんだ。どうせトライヘキサはおまえらが止めたんだろ?なら、仕切り直しだ。あの時出せなかった奥の手を見せてやるよ」
リゼヴィムがそんな男を虫を見るような目で一瞥すると、俺たちにそう告げてきた。同時に魔方陣の輝きがさらに強くなっていく。
俺たちが逃がすまいと飛び出そうとしたと同時に、彼らを守るように満身創痍の狼どもが現れる。横目でリアスたちのほうに目を向けると、一際大きなヘドロの山が出来上がっていた。ボスは倒せたようだ。
小さく舌打ちしながらリゼヴィムを睨むと、こちらを見つめてくる少年の姿が写った。特に何かあるわけでもないのだが、俺が見つめ返すと少年が口をパクパクと動かす。
俺と男がほぼ同時に首をかしげると、少年の口からようやく音が漏れ出る。
「つぎは、ころす………!」
的確な殺意と共に宣戦布告。それを受けた俺は無意識に笑みを浮かべた。
「っ!なんだよ、喋れるじゃねぇか」
「ほう、これはおもしろい」
俺と男が同時に反応を示すと共に、転移の光が強くなっていく。
「そんじゃ、『D×D』の諸君。また会おう」
リゼヴィムがそう告げると共に奴は転移の光に包まれていく。同時に狼の群れが一斉に飛び出して俺たちに襲いかかる。
狼を蹴散らしながら前進していくが、文字通り命懸けで食らいついてくる狼の猛攻になかなか進めないでいるが、多少のダメージはお構い無しで突き進んでいく。
最後の一体を撃破し、直剣を投げた瞬間、リゼヴィムたちは転移の光と共に消えていった。目標を失った直剣ははるか彼方まで飛んでいき、視認出来なくなってしまう。
「ああ、くそ……!」
俺は流石の疲労から膝をたき、悔しさをぶつけるように地面を殴り付ける。視界の隅では、ヴァーリも怒りでオーラを滲ませていた。
俺たちの戦いは、更なる激化の一途を辿っていくようだ━━。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。