グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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mission08 戦場へ

リゼヴィムが脱獄してから数日。

俺━━兵藤一誠をはじめとした『D×D』駒王町チーム(いつかに教会のクーデター組と戦ったメンバー)とアザゼル先生という面々が、再び兵藤家のVIPルームに集まっていた。

アザゼル先生が開口一番に言う。

 

「アジュカからの情報提供のおかげで、リゼヴィムの居場所をだいたいだが把握できた。今は刃狗(スラッシュ・ドック)をはじめとした三大勢力のエージェントに偵察に向かわせて、正確な場所を確認しているところだ。あいつによると、ヴァーリたちもあっちにいるようだぞ」

 

ようやく場所が掴めたようだ。この数日間、あいつがいつ動き出すかどうかが気になってしまって、よく眠れなかったよ。

俺たちが頷くと、アザゼル先生がどこかの地図を取り出した。冥界の山間部のようだが、俺ではよくわからない。冥界の広さは地球とほぼ同じ。冥界には海がないぶん、土地の広さは地球よりも大きいだろう。そんな冥界の地形を完全に把握しているヒトなんて、そこまで多くはないはずだ。

 

「冥界悪魔領の辺境、旧魔王派が追いやられた場所の近くだ。この周辺は8000メートル級の山が多いは、強力な魔物が多いはと、問題が山盛りでな。捜索はかなり難航しているようだ」

 

「けれど、リゼヴィムがこの山のどれかにいることは確かなのよね?」

 

リアスの問いに、アザゼル先生は頷く。

 

「それは間違いない。もしかしたら、旧魔王派の残党と合流を目指したのかもな。少しでも戦力が欲しいところなんだろうよ」

 

険しい表情で言うアザゼル先生。もし旧魔王派と合流されれば、また大規模なテロ行為を行うかもしれない。いや、もしかしたらその準備を進めている可能性もある。

俺たちが一様に表情を険しくさせるなか、アザゼル先生の耳元に連絡用の魔方陣が展開される。

 

「ああ、俺だ。なに?待て、落ち着いて報告しろ」

 

アザゼル先生はそのまま二三やり取りをすると、俺たちに目を向ける。

 

「どうやら、入り口と思われる場所を見つけたようだが、あの怪物どももが現れたようだ。エージェントたちも対応しているが、流石に多勢に無勢。増援として、おまえらを向かわせることになるが、大丈夫か?」

 

「問題ないわ」

 

「大丈夫です」

 

リアスとソーナ前会長がほぼ同時にそう返し、俺たちも頷く。

 

「こちらも問題ありません。デュリオ、聞いていたわね?」

 

「大丈夫です。……俺だってちゃんと聞くときは聞いているんですよ」

 

シスター・グリゼルダとデュリオがそんなやり取りをしていた。

まあ、とにかく、早く向かったほうがいいだろう。あの怪物たちは一体がやたら強く、そして異常なまでの生命力を持っている。実戦経験が多くても、奴らとの直接の交戦経験が少ないヒトたちが大半では、流石に辛いだろう。

 

「協力者にも連絡を入れておく。()()()()()()()()()もいることだしな」

 

ロイさんの眷属と仲間って、あの四人のことかな?余り話したことはないけど、ロスヴァイセさんからは「悪いヒトたちではないですよ」とだけ言われたことがある。

まあ、ロイさんの知り合いなのだから、極悪人ではないだろう。……やたらと癖が強そうだけども。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

俺━━ロイは現在、冥界の森のど真ん中で━━。

 

「鬱陶しいんだよ!」

 

《があ……!?》

 

死神一行と戦闘を開始していた。嫌な気配を感じてそこを目指そうとした途端、それを見計らったかのようなタイミングで湧いてきやがったのだ。その数およそ五十。

直剣ですれ違いざまに死神の首をはね、鎌ごと体を叩き斬り、体を脳天から真っ二つに切り裂く。戦闘を開始して数分で、死神の数は一桁台となっていた。

その生き残りの中で、特に強いオーラを纏う死神━━たぶん上級死神に切っ先を向ける。

 

「まったく、しつこいんだよ。いい加減諦めろ」

 

《諦めろ?まったく、可笑しなことを言いますね》

 

大半の部下が殺されたというのに、まだまだ余裕が消えない上級死神だが、その部下の面々からは少し怯えの雰囲気を感じ取れる。

必死に背中に貼り付いているリリスに気をかけながら、俺は死神どもに最後通告をおこなう。

 

「さっさと手を引け。今なら、殺さないでおいてやる」

 

《お断りします。その子供を連れていかなければ、我々がどうなるかわかりませんので》

 

上級死神がそう言うと、部下の死神たちも覚悟を決めたように鎌を構え直した。

どうやら、あの骸骨神様は本気のようだ。部下が何人死のうが、回りにどんな影響が出ようが、何がなんでもリリスを奪おうとしている。相当諦めが悪い部類のようだ。

俺は一度小さくため息を吐き、死神どもに本気の殺気を飛ばす。

 

「そんじゃ、死んでもらおうか」

 

《それはこちらのセリフです!》

 

上級死神が真っ先に飛び出し、部下たちがそれに追従してくる。不規則に高速で動き回りながら俺の隙を探っているようだが……。

 

「甘いな……」

 

俺が直剣を地面に突き立てたと同時に、大量の深紅の刃が地面から飛び出し、死神どもを貫いていく。

次々と死神は貫かれていくが、上級死神がそれを掻い潜って俺の背後を取った。

 

《あなたの魂、貰い受け━━!》

 

そのセリフは最後まで続くことがなかった。俺の背中に貼り付くリリスの放った拳によって、体をばらばらにされたのだ。

疲れているとはいえ仮にも龍神、上級死神程度には遅れを取らないようだ。まあ、明らかな不意討ちだったから貰ったというのもあるのだろう。

上級死神が消し飛んだことで、生き残った二人の死神が流石に狼狽え、戦意が一気に無くなったように見える。だが、逃がすつもりはない。最後通告は先ほど済ませたのだから。

俺は神速で飛び出し、一思いに二人の死神の首を刈り取った。頭と泣き別れした胴体は一気に力が抜けたように両膝をつき、ゆっくりと地面に倒れた。

フッと短く息を吐き、直剣を消す。いきなりのことで驚いたが、そこまで強いやつはいなかったな。前に黒歌を殺しかけた野郎がいなかったのは、どうにも不安だ。何か企んでいるのかもしれない。

 

「ん~」

 

「どうかしたか?」

 

背中で愚図り始めたリリスを背中から降ろし、向かい合う形で膝をついて顔の高さを合わせる。

眠そうな顔で目を擦りながら、リリスは俺に言ってくる。

 

「つかれた……」

 

疲れたって、さっきまでは元気そうだったのに、死神に一発入れただけでそこまで消耗したのか……?

リリスの頭を優しく撫でながら言う。

 

「さっきはありがとうな。眠いか?」

 

俺の問いにリリスはこくりと一度頷く。

ゆっくりと眠って欲しいのが本音だが、先ほどから感じる嫌な気配の正体を探らないといけないし、それが危険なものなら()()()()()()()に危険が及ぶ前に対処しておきたいんだよな……。

頬を掻きながら困り顔で苦笑していると、耳元に連絡用魔方陣が展開された。前にロセたちに渡したものだ。

 

「おう、俺だ」

 

『俺はアザゼルだ。協力者はおまえで合っているな?』

 

盗聴を警戒してか、初対面のような名乗りで、俺の名前は出さないアザゼル。俺もそれに合わせて自分の名前を出さないで返す。

 

「ああ、大丈夫だ。何か情報でもくれるのか?」

 

『こちらとおまえが追いかけている男の場所をだいたい把握出来たが、捜索に向かったエージェントが襲撃を受けたらしい。援護を頼めるか』

 

「わかった。座標を送ってくれ、すぐに向かう」

 

俺が手短に答えると連絡用魔方陣が消えると同時に転送用魔方陣に展開され、紙切れが送られてくる。って、旧魔王派の本拠地の近くじゃねぇか。またあそこに戻ることになるとは……。

一度ため息を吐くとリリスが俺に抱きつき、胸に顔を擦り付けてくる。

 

「ロイ、またどっかいく?」

 

「ああ。ロセたちを助けに行く」

 

まだあいつらがそこにいるかはわからないが、きっとその結果に繋がるのだろう。もしかしたら、もう現場にいるかもしれない。

リリスを優しく抱き締め返し、なだめるように背中を撫でてやる。

 

「また危ない場所に行くけど、大丈夫だ。俺が守るから」

 

「……ん」

 

俺の胸に顔を埋めたまま頷くリリス。きっと眠たくてしょうがないのだろう。

このままキャンプ地を探してそのまま眠らせてあげたいが、戦闘は既に始まっている様子だ。急がなければならないだろう。

 

「大丈夫?」

 

「……うん」

 

「よし。それじゃ、行くか」

 

リリスを抱っこしたまま立ち上がり、背中からドラゴンの翼を展開する。

それに合わせてリリスがギュッと俺の服を掴んだことを確認し、彼女に負担をかけないようにゆっくりと上昇する。

先ほどまで立っていた場所が小さくなっていき、ある程度の高度に達したらリリスをしっかりと抱き、一気に加速して目的地を目指す。

ロセか黒歌のどちらかはおそらく現地にいるだろう。何となくだが、そんな予感がする。てか、目的地に近づくにつれて黒歌の匂いを感じられるようになってきた。

さて、急ぐとしますか。あいつのことも守ってやらないといけないし。

俺は心中でそう思うなか、さらに加速する。黒歌の匂いを感じたと同時に、大量の怪物どもの気配も感じ取れたのだ。

それだけならまだしも、今までとは何かが違う。まだ見えないほど遠いのに、気配だけで何体いるかがわかってしまうほどだ。相当強力な生命エネルギーを放ってやがる。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

「オラッ!」

 

黒髪の男性悪魔━━クリスは魔力を込めた渾身の拳で、ライオンを思わせる怪物を殴り飛ばす。快音と共に吹っ飛ぶ怪物だが、すぐさま体を起こして身を低くして構える。

 

「回復します!頑張ってください!」

 

彼に守られる形で立つ金髪の女性悪魔━━アリサは回復の力を込めたオーラを飛ばし、負傷した他のエージェントやその使い魔を癒していく。

 

「なるほど、これは厄介だな……」

 

魔力で作られた杭で地面に打ち付けられ、身動きの取れない怪物を魔方陣で調べあげながら、紫髪の女性悪魔━━ジルがため息を吐いた。

 

「なかなか見つからないな。……この状況では場所が絞りきれん」

 

額の汗を拭いながらそう漏らすスーツ姿の男性悪魔━━エリック。クリスが怪物を引き付けてくれている隙に敵の拠点を探しているが、まったく見つからない。

エージェントが捜索を始めるとほぼ同時に、周辺の山岳部を被うように妨害電波のようなものが放たれ、リゼヴィムに刻まれた烙印の座標がはっきりしないのだ。

そんな事をぼやいたエリックにクリスが怒鳴る、

 

「だが、やるしかないだろ!あのヒトが命懸けで繋いでくれたんだ!俺たちも次に託せるようにしないとよ!」

 

(ロイ)を守れなかった悔しさと不甲斐なさに歯を食い縛りながら、再び向かってきたライオン型の脳天にあびせ蹴りを放ち、ひび割れが出来るほどの勢いで地面に叩きつける。

脳ミソが耳や鼻の穴から垂れ出てくるが、ライオン型は身体を痙攣させながら立ち上がろうとする。

クリスは小さく舌打ちをしながら軽く跳躍、全体重をかけたストンプで頭を踏み砕く。

だが、それでもライオン型は動こうとする。クリスの表情が驚愕に染まるが、首から漏れでる発光した何かを発見し、躊躇いなくそれを引き抜いた。

ライオン型の身体がビクリと一度痙攣すると、ドロドロのヘドロになってクリスの足を絡めとる。

 

「……な、なんなんだよ、こいつら……!?」

 

ヘドロから足を引き抜き、汚物を見るように怪物たちを見ながら言うクリス。

そんな彼にジルが魔方陣を消しながら言う。

 

「どうやら、今クリスが引き抜きたものを破壊したければ死なないようだ。最近出現するようになった例の怪物たちと同種、あるいはその上位種だな」

 

「消耗戦は覚悟の上でしたけど、流石に疲れましたよ……。負傷者が多すぎます……」

 

「治療は重症者に絞れ。軽傷者には少し無理をしてもらうしかない」

 

負傷者を片っ端から癒していたアリサに、ジルはそう告げた。隠す気もなく、軽傷の者は見捨てろと言っているのだが、その言葉にアリサは複雑そうな表情を浮かべた。

そんなアリサの髪を優しく撫でながら、ジルは呟く。

 

「誰であっても、全てのヒトは救えないさ……」

 

━━それでもひとつでも多くの命を救おうと、今まで重ね続けた罪を償おうと抗い続けた男がいたがな……。

 

誰にも聞こえないように、心の中でそう漏らすジル。その瞳には悲哀の色が浮かび、どこかを見つめていた。

十年という悪魔からしてみればあっという間の時間ではあったが、彼とは生活を共にしたのだ。

いつか死ぬかもと覚悟を決めていたとはいえ、あの別れ方はあまりにもいきなり過ぎた。最期くらい、何か言ってやれば良かったとも思っている。

 

「さて、その急所を探らないといけないな。どうしたものか……」

 

ジルは雑念を振り払い、顎に手をやりながら思慮を深めていく、個体ずつのエネルギーが集まっている部位を探り、そこを潰すしかないが、一体ずつ探していては時間がかかりすぎる。

 

「そろそろ場所を移すか。この周辺は探り尽くしたはずだ」

 

地図を確認しながらエリックがそう言った。エージェントはエリアごとに散っているが、怪物の迎撃のために隣接するエリアのチーム同士が合流していることが多い。

ジルたちもその例に漏れないが、場所によっては彼女たちの担当と違い、捜索が一切進んでいないエリアもあるだろう。

 

「移動って、どうやってですか……?」

 

まだまだ湧き続ける怪物たちを見ながら、アリサはそう漏らす。包囲網を破ろうとしても、その最中にまた包囲されてしまうのだ。

それでも敵の間を潜り抜けて捜索を続けるエリックは流石の一言に尽きるが、その努力の結果が伴わない。その小さな苛立ちが彼の胸中を渦巻いていた。が、冷静さを保ち続ける。そうでなければ、本当に見つからない。

ジルがさらに思慮を深めようとした矢先、空から大量の深紅の剣が降り注いでくる。

その剣は次々と怪物たちを貫き、確実にヘドロに変えていく。長遠距離からの攻撃にも関わらず、怪物たちの心臓を寸分の狂いなく撃ち抜いていくのだ。

突然の事態に警戒を深める面々だが、そんな彼らの目の前に『彼』が降り立った。

鮮やかな紅の髪に、それよりもさらに深く、意識が吸い込まれるほど鮮やかな深紅の剣を携えた一人の男。

 

「━━待たせたな」

 

驚愕するジルたちのほうに向き直り、彼━━ロイは不敵に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




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