聖剣使い二人の監視を始めて数日。
俺とアリサは町のレストランに入っていた。別に腹を満たすためというわけではない。
俺はコーヒーを飲みながらサングラス越しに奥の席に視線を送る。
視線の先には先日すれ違った茶髪の高校生ぐらいの男子悪魔と、見知らぬ白い髪の中学生(?)と思われる低い背丈の女子悪魔、それと見知らぬ男子悪魔。その三人は、例の聖剣使いの女子二人と食事をしていた。
少し離れた席に座る俺たちには会話は聞こえないが、動きを見る程度なら出来る。
「悪魔とエクソシストが一緒に食事なんて、世も末ですね………」
「だな」
アリサの言葉に適当に返しながらコーヒを飲む。俺のその様子を見てアリサは少し不機嫌気味になった。
「隊長、何か、私の扱いが酷くないですか……?」
「ここで、その呼び方は止めろ」
「じゃあ、お兄ちゃんとかですか?」
俺は無言でサングラスを上にずらし、じっとアリサを睨む。アリサは「ご、ごめんなさい……」と返して黙ってパフェをつつき始めた。
俺を兄と呼んでいいのは今のところリアスとソーナだけだ。
俺はその言葉の代わりに溜め息を吐き出し、サングラスを元の位置に戻し、視線を例の席に戻す。
すると、茶髪の悪魔くんがケータイでどこかに連絡を取っていた。
バレたかと警戒したが、悪魔たちも聖剣使いも目の前の相手に集中しているのでそれはなさそうだった。
俺はコーヒーを飲み、監視を続行した。
数分後、呼び出されたと思われる金髪のイケメン悪魔が現れた。茶髪の悪魔男子ともう一人の悪魔男子と同じぐらいの年齢だろうか………。
監視を続けていくと聖剣使いの二人はレストランを出ていき、悪魔たちだけが残る。
アリサがそちらを追おうとしたが、俺はそれを手で制してケータイを取り出す。
「ジル、頼んだ……」
『わかりました。クリス、行くわよ』
ジルの声に少し遠くから『任せろ!』と返事が聞こえてきた。聖剣使いの尾行は外に待機していたジルとクリスに任せ、俺とアリサは悪魔たちを監視する。
しばらく待っていると、悪魔たちが急に大声を出してきた。
「俺の目標は━━ソーナ会長とデキちゃった結婚をすることだ!でもな………」
途中で声のトーンを落としたせいで後半は聞き取れなかったが、『ソーナ』って、まさか………。
俺が嫌な予感を感じていると、茶髪の悪魔くんが続くように、なぜか涙を流しながら叫んだ。
「そうか!なら聞いてくれ!俺の目標は部長の、リアス先輩の乳を揉む、そして吸うことだ!」
ソーナときて、『リアス』ときたか。つまり、あのバカどもは二人の眷属ってことか?あの二人、男を見る目が少し残念かもしれない………。
俺が妹たちのことを心配していると、アリサが引き気味に言った。
「あの二人、正真正銘のバカですね。何であんな事をこんな人の目のつくところで………」
「………バカなんだろ?」
俺たち同様に周りのお客たちも奇異の視線を二人に送っている。
白い髪の女の子悪魔と金髪のイケメン悪魔くんは嘆息していたが、あんな二人が知り合いって苦労しそうだな………。
レストランの会話を聞いた数日後。
俺とアリサは町に繰り出し、ある建物の屋上で双眼鏡を覗きこんでいた。
双眼鏡のレンズにはレストランで話していた悪魔たち四人が写っており、彼らはここ数日の間、神父の格好で町中を歩き回っていた。
俺とアリサがそんな遠目からの監視に飽き始めていると、ついにその悪魔たちに謎の神父が襲いかかった!
「来ましたね!」
「ああ」
俺の横でアリサがメモ帳を取り出しながらしゃがむ。
一応の俺たちの任務、ここを管轄する悪魔の眷属の戦力確認だ。深いことは直接見ないと調べられないので、こうして地道に調べさせてもらっている。
他の旧魔王派の悪魔たちも同様の事をやっているわけだ。
だが、俺の目は悪魔たちに襲いかかった神父が持つ剣に目がいった。
「聖剣、エクスカリバー、か。さて、どうする、悪魔くんたち?」
俺が興味深そうにそう言うと、アリサが横でメモ帳にエクスカリバーの事を書こうとしていた。が、特に何もわかっていない様子で首をかしげていた。
俺がジッと悪魔たちの様子を見ていると、悪魔たちは神父の服を脱ぎ捨て、そのまま茶髪の悪魔くんが左手に赤い籠手を出現させた。
「あれは!」
「どうしましたか!?」
俺の驚愕の声にアリサもつられる。俺は少し落ち着かせながらアリサに言う。
「多分だが、あの籠手は
人間は
━━が、その神は既に死んでいるんだよな。
俺の動揺にアリサも困りながらもメモしていく。
ソーナと結婚すると言っていた悪魔くんは右手にデフォルメしたトカゲの頭を出現させ、そこから神父に向かって舌を伸ばす。あれは確か……。
「あれは
「メモメモっと」
俺たちが確認しているうちに戦闘が始まり、金髪のイケメン悪魔君が魔剣を手に聖剣使いの神父に挑んでいった。
聖剣の方は残念ながらよく分からないからな、今回は無視だ。
それにしても、
「あの神父、なかなかやるな」
俺はそんな事を思った。
悪魔四人を相手に聖剣があるとはいえ結構勝負出来ている。結構腕がたつエクソシストなのかもしれない。
そんな事を思っていると、金髪イケメンくんが魔剣を作り出した!
「今度は
「使い手によってはあらゆる属性の魔剣を作り出せるものでしたのよね?」
「ああ、そうだ。よく勉強しているな」
俺がアリサを褒めると、悪魔たちが動きを止めてある一点を見始めた。
双眼鏡でそちらを見ると、そこに新たな人物が現れていた。神父の格好をした初老の男だ。金髪イケメンくんがその男を憎悪するように睨んでいる。
何言かその初老の神父が聖剣持ちの神父に言うと、二人して逃げようとし始める。そこに聖剣使いの二人の女の子が現れた。
それと同時に聖剣持ちの神父が懐から球体を取り出した。俺はすぐさま双眼鏡から目を離したが、
「どうかしたんですか?」
アリサが逆に双眼鏡を覗きこんでしまった。その瞬間、
「ギャァァァァァッ!?目が、目がぁぁぁぁぁぁ!」
「閃光玉を使いそうだったんだ。言い忘れた」
アリサが目を押さえながら転がり回り、俺はそんな彼女を見ながら平謝りする。そして、ある覚悟を決めた。
「アリサ、戻るぞ。今日確実に何かが起こる」
「は、はい!わかりました!」
目を擦りながら立ち上がり涙目で俺に返すアリサ。俺は頷くとアリサを置いて歩きだす。アリサは何度もまばたきしながら俺の後に続く。
アジトに戻った俺はすぐさま本部に連絡を取った。
『ジャック、どうかして?』
俺の通信に答えるのは直属の上司━━カテレア・レヴィアタンだ。俺が潜入した当初にこいつの下に配属され、そのまま行動している。
俺はカテレアに進言する。
「カテレア様、私にコカビエルを殺らしてください」
「た、隊長!?」
「「…………」」
俺の言葉に聞き耳を立てていたアリサは驚き、ジルとクリスは無言で聞いている。
『……それは、なぜです?』
少し怒気を含んだ声。カテレアはキレかけているが、冷静を装って訊いてきていた。
俺も冷静なふりをしてカテレアに言う。
「このままコカビエルがここの悪魔たちを殺せば、再び戦争になります」
『よいではありませんか、私たちはそれを望んでいます』
カテレアの言葉に、俺は心の中で兄さんたちに謝りながら返す。
「今の偽りの魔王どもが支配している限り、戦争が始まったところで同じことの繰り返しです」
『つまり、戦争は今起こすべきではないと?』
「はい」
俺は即答でカテレアに返し、お互い黙りこむ。
すると、俺の背後から声がかかった。
「カテレア様、私からもお願いします」
声の主はジルだ。彼女は俺に微笑しながら言葉を続ける。
「今回の事件、うまく解決させれば三竦みのトップ会談になる可能性もあります。いえ、アザゼルのことですから、絶対にそうなるでしょう。その会談を狙えば……」
『奴らを一網打尽に出来る………と言いたいのかしら?』
「はい」
ジルの言葉を聞いて、カテレアは考えているようだった。俺とジルに軽く頭を下げると、耳元でいつもと違う口調で、
「気にするな。お互い、あの子たちには死んでほしくないからな」
と言ってきた。こいつは俺の本名を知らないが、俺もこいつの本名は知らない。だが、俺とジルの右腕には全く同じ腕輪が巻かれている。
俺たちが返答を待っていると、カテレアが言った。
『わかりました、おやりなさい。ただし、我々の存在を悟られないようにするのです。出来ますね?』
「はい。向こうには偽りの魔王からの増援と思わせるつもりです」
俺はそう返すと、カテレアは『では、後程』と言って連絡用魔方陣を消した。俺は溜め息を吐き、ジルも微笑を浮かべた。
「さて、そういうことだ。ジル、アリサ、おまえらは退路の確保。クリス、おまえはここを守れ。俺が戦闘区域に突入する」
「わかりました」
ジルは口調をいつものものに戻して返事をする。
「ま、リーダーがやるって言うなら従うだけですよ!」
クリスはニカッと歯を見せながら笑みを浮かべた。
「わ、わかりました!隊長がやるなら私もやります!」
アリサも少し慌てながらも返事をしてくれた。一番若手の彼女には無理をさせているのかもしれない。
だが、俺はその無理を通してでもやらなければならない。コカビエルとの決着、これだけは誰かに譲ることのできない、俺がやらなければならないことだ。
俺は瞑目し、深く息を吐く。そして声を張り上げた。
「よし、行くぞ!」
「「はい!」」
「おう!」
俺は号令を飛ばし、各々が応答する。いつもの事をしながら、俺たちは準備に取りかかった。
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