グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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mission15 終わらせる者

冥界グレモリー領土。グレモリー屋敷。

本来なら平和であろうその場所は、現在は戦場と成り果てていた。

 

「ルキフグスの裏切り者めが!どこに隠れたッ!」

 

アガリアレプトと、彼が召喚した犬を思わせる形状の怪物たちによる襲撃が行われたのだ。

アガリアレプトはイラつきながら、屋敷の玄関ホールで、柱や壁を魔力の波動で破壊していき、怪物たちは臭いを嗅ぎながら目標を探す。

 

「……アガリアレプト家に、生き残りがいたなんて」

 

物陰に身を隠し、ミリキャスを庇いながら呟く。グレイフィア。

近くの物陰にはグレモリー夫妻の二人とメイドや執事が息を潜めていた。

セラフォルーと並んで女性悪魔最強と名高いグレイフィアと、バアル家最強の女性悪魔であるヴェネラナの二人がいれば、上級悪魔を眷属ごと相手にしてもどうにか

なるだろう。

だが、現在進行形で暴れている男は規格外。二人の攻撃でも大きなダメージを与えることは叶わなかった。

怪物が鼻を引くつかせると、グレイフィアが隠れている物陰のほうを向いて一度吠えた。

 

「そこかぁっ!」

 

「ッ!」

 

グレイフィアは危険を察知してミリキャスを抱えてその場を飛び退く。

一瞬後、二人がいた場所が盛大に爆ぜた。

再びグレイフィアとミリキャスを視界に捉えたアガリアレプトは、邪悪な笑みを浮かべた。

 

「グレイフィア・ルキフグス。そしてその息子。貴様らの命をもって、我が主への贖罪を果たせ!」

 

二人諸とも吹き飛ばすため、魔力を溜めた右手を二人に向けるアガリアレプト。

それが放たれようとした瞬間、彼の右腕が消し飛んだ。

アガリアレプトは自分の右腕を消し飛ばした者━━ヴェネラナを睨む。

 

「邪魔をするか、バアルの血統が……!」

 

肉が盛り上がり、すぐさま新たな腕が生えてきた。

 

「私の邪魔をするものは誰一人として生かしておかん!死ぬ!死んで我が主に詫びるのだ!」

 

犬型の怪物たちがヴェネラナに群がっていくが、彼女の前に立つ男が一人。

 

「はッ!」

 

ジオティクスが放った大量の魔力弾が怪物たちに当たり、次々と吹き飛ばしていく。

アガリアレプトはイラつきを隠すつもりもなく、盛大に舌打ちをする。

そんな彼を挑発するように、ジオティクスが不敵に笑む。

 

「グレモリー家の現当主として、妻と義娘(むすめ)にばかり無茶はさせられないな」

 

ジオティクスはそう言うが、怪物たちは吹き飛ばされた部位を再生させながら立ち上がり、グレモリー夫妻を取り囲んでいく。

前線を離れた久しいとはいえ、二人は戦争経験者だ。アイコンタクトもなしで背中合わせになると、怪物たちを睨んだ。

グレモリー夫妻に注意が向いた隙に、グレイフィアはミリキャスをメイドたちに任せてこの場を離れさせる。

夫であるサーゼクスは、進軍中のリゼヴィムへの対応でここには来られないだろう。

倒し方はわかっている。体のどこかにある(コア)を破壊すればいい。どこにあるかもわからないそれを、今この場にいるメンバーでどうにかするしかない。

グレイフィアは短く息を吐き、グレモリー夫妻とミリキャスが逃げた方向に目を向けた。

三大勢力の戦争と、その後の悪魔勢力内での内戦で、彼女の一族は一人を除いて死に、残った一人は現在獄中だ。

だが、今は家族がいる。血の繋がりはなくとも、それ以上の繋がりを持った大切な家族がいる。

世界と家族を守るために死んでしまった義弟のぶんまで、家族を守らなければならない。

優しさを感じる母親の目から、冷徹な戦士の目に変わる。否、戻った。

瞬間、グレモリー夫妻を囲んでいた怪物たちが銀色の魔力に襲われ、(コア)を吐き出す隙さえも与えられずに一瞬で消滅していった。

 

「義母様、義父様、下がっていてください」

 

全身から銀色のオーラを放ちながら、グレイフィアは眼前の敵を睨む。

 

「━━彼は私が倒します」

 

凜とした彼女とは対象的に、アガリアレプトは唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。

 

「舐めるなよ、裏切り者風情が!今の私に勝てるものは、我が主以外にいるはずがない!」

 

アガリアレプトが叫ぶとともに、彼の体から瘴気が吹き出し、全身を包み込んでいく。

同時に肉の塊のような触手が生き残った怪物たちに襲いかかり、取り込んでいく。

 

『貴様が裏切った一族と、我が主に代わり、私が貴様を断罪する!死だ!死以外の罰が与えられると思うなよ!』

 

ノイズのような雑音と共に飛ぶ怒号。そして、アガリアレプトからどす黒いオーラが放たれた。

瘴気が晴れ、そこにいたのは一体の化け物。

全身を触手のようなものが蠢き、その表面の皮の全てが焼き爛れ、絶えず瘴気を放ち続けるそれは、化け物以外に形容しがたい、冒涜敵な形だった。

 

『そう、断罪だ!裏切り者に死を!悪しき血統に終わりを!我が主を裏切ったこの世界に破滅を!』

 

脳内に直接響くアガリアレプトの怒号に、グレイフィアは冷静でありながら強い声音で返す。

 

「終わらせません。この世界も、私の家族も、守ってみせます!」

 

『ほざくなぁぁぁぁぁああああああああッ!』

 

瘴気をばらまきながら、化け物はグレイフィアに飛びかかる。

グレイフィアはその場を飛び退き、壁に開いた穴から外に飛び出していく。

化け物は彼女を追い屋敷の外への消えていく。

 

「グレイフィア!」

 

ヴェネラナが手を伸ばすが、彼女の横を一陣の風と共に深紅の軌跡が通りすぎていく。

懐かしくも、昔よりも力強くなった、二度と会えないはずの波動を感じ、彼女は彼の名を呟く。

 

「ロイ……?」

 

━━ただいま。

 

彼女の呟きに、優しげな声が答えた気がした。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

グレモリー屋敷の中庭。

かつてはサーゼクスとロイの兄弟が共に鍛練を積んでいたその場所は、グレイフィアと化け物の戦いで見るも無惨な姿へと変わり果てていた。

 

『なぜだ、なぜ殺せない!?私は貴様よりも強くなった!なのに、なぜだ!?』

 

瘴気を放ちながら慟哭する化け物。

そんな化け物にグレイフィアは冷徹に告げる。

 

「あなたには何もないからですよ。守りたいものも、未来も、希望も……。それを奪ったのは私たちかもしれないわ」

 

『ならば━━!』

 

「……せめて、おまえの主のところに送ってやるよ、アガリアレプト」

 

突如として響いた第三者の声。

一人と一体は同時にその声の主のほうに目を向けた。

彼らの視線の先には、なぜか余裕そうな様子でタバコを吹かしているロイの姿があった。

 

『馬鹿な!なぜ貴様がここにいる!?」

 

「なぜって、そりゃ、少年を倒したからだろ?」

 

挑発するように、肩をすくませながら言うロイ。

紫煙を吐き出し、タバコを握りつぶす。

 

「次はおまえだ、化け物。義姉(ねえ)さん、行けますか!」

 

「え、ええ。ロイ、なのね……?」

 

ロイの登場に驚いた様子のグレイフィアに、彼は首を傾げる。

 

「兄さんから聞いていなかったんですか?まあ、突然飛び出して行った俺も俺ですけど……」

 

義姉弟がそんなやり取りをしていると、化け物が吠える。

大気を震わせる咆哮をもろに受け、ロイとグレイフィアは耳を塞ぎ、その隙を見逃すはずもなく、化け物はグレイフィアに向かっていくが、

 

「━━やらせると思うか?」

 

ロイが瞬時に復帰すると共に動きだし、脚甲を装着。横から化け物の頭に当たる部分に蹴りを叩き込み、蹴り飛ばす。

グレイフィアが魔力を解き放ち、追撃の一撃を放つ。地面を抉りながら突き進むそれは、化け物の尻尾のような触手に受け止められる。

化け物はそのまま押し返そうとするが、再び飛び出したロイが魔力の塊にドロップキックを放って後押しし、尻尾の防御の隙間に強引に捩じ込み、塊を爆発させる。

爆発の瞬間に離脱したロイは、グレイフィアの横につく。

 

「まあ、並の生き物なら即死ですよ、間違いなく」

 

「あれが並の生き物ではないことは見ればわかります」

 

ロイはグレイフィアの言葉に苦笑し、化け物に目を向ける。

 

『この程度の痛みで、私が死ぬわけがないだろう!』

 

だよなと言わんばかりに息を吐く。

深紅のラインが這い回る右腕を一瞥し、輝きが弱くなっていることに気づく。色も少し薄くなっているようだ。

 

「あまり時間をかけていられないか。義姉さん、ソッコーで終わらせますよ」

 

「ええ、わかっています」

 

『舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

化け物は叫ぶと共に瘴気がばらまかれる。

瘴気でできた霧に包み込まれるなか、ロイが言う。

 

「あまり吸わないほうが良さそうですね。体に悪いですよ、これ」

 

━━なら、あなたも喋らないほうがいいわよ。

 

呼吸を止めながら、グレイフィアはそんなことを思っていた。

何もしないよりはマシだとメイド服の端を破り、簡単なマスク代わりにして口元を覆う。

ロイの場合、吸い込んだ瞬間に体内で暴れさせている滅びの魔力で瘴気を消滅させることで事なきを得ているのだが、グレイフィアがそれを知るよしもないだろう。

グレイフィアの心配をよそに、ロイは目を閉じて集中していく。

狙うは一点。化け物の(コア)だ。そのためにもまずは、場所を探るところから始めるしかない。

化け物もそれは重々承知だ。彼のその行動を阻止するために化け物は動き始めていた。

足の裏の触手を地面に潜ませ、地中から彼の首を狙う。

だが、それすらも読んでいたロイは、目を閉じたままその場で半身を取って首を狙った一閃を避ける。

同時にそれは終わった。

 

「頭の中か。脳ミソが(コア)ですね」

 

グレイフィアが一度頷くと魔力を溜め、ロイは指をゴキゴキ鳴らしながら籠手を装着、体勢を低くして突撃の姿勢に入る。

ロイが飛び出していこうとした瞬間、あることに気づく。

 

「いや、頭だけじゃない。胴体の中心と、尻尾の付け根にも━━あわせて三つか……」

 

「その三つは全て同時に破壊しなければ駄目よね」

 

グレイフィアの問いに頷きで答える。

近ければ、あの男の技を借りて潰すことは出来ただろう。だが、位置が悪い。どうやっても、三つ同時に潰すことが出来ない。

ロイは体勢を楽にしながら顎に手をやり一瞬思案するが、ため息を漏らす。

 

「━━あと一手が足りない。こんなことならセラに来てもらえば良かったな」

 

ロイとグレイフィアで同時に二ヶ所を潰すことは出来るだろう。では、あとひとつは?化け物はグレイフィアの攻撃を真正面から止めかける程だ。並の強さでは全く戦力にカウント出来ない。

 

『どうした、動きが止まっているぞ!』

 

防御の体勢に入っていた化け物が吠え、大量の触手を蠢かせると、その全ての先端を二人に向ける。

 

『消えてなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 

とてつもない魔力が込められた連続砲撃。

グレイフィアは障壁を展開して受け止める体勢に入るが、ロイは不敵に笑んだ。

 

「舐められたもんだな……!」

 

籠手を消して鎌を生成すると、向かいくる魔力弾を次々と切り払っていく。

砲撃はまだまだ続くが、鎌を高速回転させることでさらに速度を底上げしていく。

全ての攻撃を切り払ったロイは不敵に笑う。

 

「俺は『切り裂き魔(リッパー)』だ。斬れないものはない」

 

だが、右腕の輝きがさらに弱まっていっていることに、ロイ自身も化け物も気づいていた。

化け物はもう少し粘ればいいが、ロイは一刻も早く勝負をつけなければならない。

ロイは短く息を吐く。

 

「……この際無茶は承知か。義姉さん、行きますよ。頭は任せます」

 

魔力を解き放ち、全身に深紅のオーラをたゆたわせながらグレイフィアに目を向ける。

グレイフィアの頭部の(コア)の破壊と同時に、胴体と尻尾の(コア)も潰す。魔力を脚部に集中させ、暴走させれば、限界を超えた最高速度が出せる。それで叩けばどうにかなるだろう。

 

……体が耐えられるかは別問題だが。

 

ドラゴンと悪魔のハイブリッドであるロイは、そう簡単なことでは死にはしないどころか、ダメージにすらならないだろう。

その体が耐えられるかもわからない速度を叩き出せれば、離れた位置にある(コア)の同時破壊も可能なはずだ。

ロイはグレイフィアが何かを言い出すよりも早く、全身の力を抜き、両腕をだらりと垂らしながらスタンディングスタートの姿勢に入った。

全身の力を抜き、両足に魔力を込めて瞬間的に爆発させられるようにする。

 

『ぬおおおおおおおおおおおおおおお!』

 

ロイが攻勢に出ると見た化け物は叫びながら跳躍。天高く飛び上がると、二人に対して魔力弾による雨を降らし始める。

とっさにグレイフィアは前に出ると、ロイと自分を覆うように障壁を展開。次々と降り注ぐ魔力弾に耐える。

一発当たるごとに凄まじい衝撃が伝わり、グレイフィアは片ひざをつきかけて障壁が破られそうになるが、歯を食い縛って踏みとどまる。

化け物は歪みきった口の端を吊り上げる。

魔力塊の雨を降らせながら、体の触手の先端を鋭利にさせて鞭のように振るう。

触手の一撃はグレイフィアの障壁を掻い潜り、身動き出来ない彼女に迫っていくが、

 

「ッ!」

 

「━━ロイ!?」

 

寸前でロイがその身を盾にして飛び出し、触手が彼の脇腹を深く切りつけ、軌道がズレてグレイフィアに直撃することはなかった。

 

「このくらい、問題ねぇ……!」

 

片ひざをつきかけて踏ん張るが、ダメージは確実に与えられたため、口の端から血が垂れる。

脇腹からも絶えず血が垂れていくが、傷口から吹き出た黒い炎で焼き塞がれた。ロイは眉ひとつ動かさなかったが、肉の焼けた臭いから察するに、文字通り焼いて塞いだのだろう。

口許の血を拭い、もはや火傷になっている脇腹を押さえる。

 

「……存外ヤバイかも」

 

ロイは苦笑するが、グレイフィアは気が気ではない表情に変わる。

 

「ロイ、大丈夫なの!?」

 

「血は止まりました。まだ行けますよ」

 

化け物は地面に降り立ち、ロイを睨む。

 

『貴様、化け物か……!?』

 

「おまえに言われたくねぇよ。さて、どうするか……」

 

傷口を塞いだせいなのか、右腕の輝きは余計に小さく弱くなっていく。

次の一撃が最後なのは確実。だが、一撃では奴を殺しきれない。

化け物が再び触手を蠢かせ、ロイとグレイフィアに矛先を向け、二人を貫こうと一気に飛び出していく。

回避しようとした二人の後ろから複数の深紅の球体が飛び出し、次々と触手を呑み込んでいく。

突然の事態に驚愕する二人をよそに、背後から声がかけられた。

 

「まったく、無茶をするね。ボロボロじゃないか」

 

『貴様は……!』

 

怒りをあらわにする化け物をよそに、二人は振り返り、声の主を見る。

 

「兄さん!?」

 

「サーゼクス!?」

 

「やあ、無事でなによりだ」

 

驚く二人を半ば無視する形で、サーゼクスは笑みながら気軽に片手を挙げた。

化け物はサーゼクスを睨み、興奮した様子で触手を逆立てる。

 

『そちらから出てくるとはな、偽りのルシファーめが!』

 

サーゼクスの表情が冷酷なものに変わり、化け物を睨む。

 

「アガリアレプト。ルシファーとして、貴様を冥界の敵として滅しに来た」

 

『私の前で、ルシファーを語るなぁぁぁぁぁぁ!』

 

化け物は触手をサーゼクスに向けて放つが、彼の操る滅びの球体で次々と滅していく。

消し飛ばされた触手は再生を始めるが、今までになく遅い。

 

『ッ!なぜだ、なぜ治らない!?』

 

同様する化け物に、サーゼクスは球体を手元に寄せながら不敵に笑む。

 

「アジュカが対抗術式が大方完成してね。効果があるかを確かめさせてもらったわけだが、問題なさそうだ」

 

滅びとはまた違うオーラを纏う球体に、化け物はたじろぐ。

ロイは息を整えると手元にナイフを作り出し、サーゼクスの横につく。

 

「あいつの(コア)は三つあるのは確認した。頭部と腹部、あとは尻尾の防御付け根。その三つを同時に潰さねぇとおそらく殺しきれねぇ」

 

サーゼクスが頷くと、グレイフィアが彼の横についた。

久しぶりに揃った三人を見て、ロイは笑みを浮かべた。

 

「兄さんが腹、義姉さんは尻尾を頼みます。俺は陽動してから頭を潰すので、少し待っていてください」

 

二人が頷いた瞬間、ロイは音もなく飛び出していった。

化け物は反応するが、全てが遅い。体のいたるところを斬られ、傷口を焼くことで再生を妨害する。

腹と尻尾の付け根の(コア)が露出するほど斬られた瞬間、ロイは高速で動き続けながら二人に目を向けた。

瞬間、サーゼクスとグレイフィアが動き出す。

サーゼクスは滅びの球体を操り、グレイフィアは溜めに溜めた魔力を手元に集める。ロイは右手に握るナイフを籠手に変え、指を全開にしながら鉤爪のように曲げる。

化け物が触手を振り回して抵抗を始めるが、ロイは被弾お構いなしに懐に飛び込む。そして━━、

 

「「ハッ!」」

 

「これで終わりだ……!」

 

夫婦がまったく同時に攻撃を放った瞬間、ロイは籠手に包まれた右腕を化け物の頭に捩じ込んだ!

 

『━━━わ、私は………!』

 

化け物が苦しげに声を漏らすなか、ロイは化け物の目をまっすぐ睨む。

 

「おまえの苦しみは察するよ。だがな━━」

 

ロイが(コア)を引き抜いたと同時に、夫婦の放った魔力塊がそれぞれの(コア)を破壊した。

化け物がピクリとも動かなくなるなか、ロイの手元には怪しく点滅する化け物の心臓(コア)が残されていた。

ロイは化け物を睨みながら告げる。

 

「━━俺たちにも譲れないものがある」

 

ロイは心臓(コア)を握りつぶし、その血で顔の右半分を汚した。

それに構うことなく、ロイは静かに告げる。

 

「━━たとえ何を殺したとしても、何を壊されたとしても、守りたいものがあるんだよ」

 

ロイがそう告げたとともに、化け物はヘドロへと還っていく。

完全にヘドロへとなる前に、化け物はどこかに遠い場所に向けて手を伸ばした。

 

『━━ああ……我が……主よ……。今……そちらに参ります………』

 

近くにいるロイの耳にだけ届く声で、アガリアレプトは満足そうに呟いた。

どこかへと伸ばされた腕はヘドロとなり、重力に従って地面へと落ち、急速に崩壊を始めた体もヘドロへとなっていった。

 

「……俺たち悪魔は死んでも無になるだけだろうがよ。まったく」

 

ロイが呟いたと共に右腕の輝きが消え、一気に脱力した彼は倒れこむ。

 

「ロイ、大丈夫かい!グレイフィア、彼の眷属がこちらに来ているはずだ!彼女をここに呼んできてくれ!」

 

「わかったわ。ロイ、気をしっかり保つのですよ!」

 

グレイフィアはサーゼクスの指示に従って屋敷の方へと戻っていく。

 

「……ちょっと、無理をしすがたか……?」

 

「とりあえず、しばらく休むといい。リゼヴィムはこっちで何とかするよ」

 

ロイが安堵の表情で小さく頷くと、

 

「ロイー!だいじょうぶー?」

 

彼に向けて駆けてくる少女━━リリスと、その後ろを走るアリサに目を向ける。

サーゼクスの手を借り、ロイが無理をしながら立ち上がったその時だ。

 

《━━ようやく、このタイミングが訪れたな》

 

一陣の黒い風がリリスに襲いかかり、彼女を拐う。

ロイたちがリリスを拐った者を睨んだ瞬間、その者は気絶した様子のリリスを抱えながら優雅に一礼する。

そんな行動とは裏腹に、邪悪を孕んだ声音で死神は告げる。

 

《私は冥府に属する最上級死神ゼクロムと申します。魔王ルシファーどの、我が主、ハーデス様のお言葉を聞いていただきたい》

 

眼球のない双眸には、怨敵を睨む絶対的な敵対者としての輝きだけが灯されていた━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 




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