グレモリー家の次男 リメイク版   作:EGO

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sin05 羽化

冥府と呼ばれ、多くの死神たちの拠点となり、ハーデスの支配領域だった場所は━━━、

 

『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

深紅の鱗を持ったドラゴンのブレスと共に、いくつもの山が吹き飛び、地面が抉りとられ、

 

『ハッ!』

 

漆黒の旅団の剣撃をもって山が切り裂かれ、もはや見る影もなかった。

山を吹き飛ばすブレスの全ては避けられ、山を切り裂く一閃はドラゴンの鱗を少し削るだけで、突破するには至らない。

まさに拮抗状態と呼べる戦況ではあるが、激突する二つの勢力には決定的な差があった。

ドラゴンが天高く掲げた尻尾に深紅の輝きが灯り、振り下ろされると共に漆黒の旅団の一部を地面ごと削り取られる。

欠けた分はすぐさま闇から次が生じて穴を埋めていくが、それでも数は無限ではない。旅団の長である幾瀬鳶雄が消耗しきってしまえば、次がなくなってしまう。

残機が限られているという意味では、鳶雄のほうが劣性であった。

ドラゴンに決定打を与えることは出来ず、鳶雄は一撃でも当たればその時点で終わり。

その緊張感が、彼の神経を尖らせると共に、消耗を大きくさせていく。

少しだが荒れた息を整え、大鎌を構え直す。

 

オルクスがリリスを復活させるまでの間、何とか凌ぎきれば━━。

 

鳶雄は自分のその考えの甘さを呪った。

殺す気で行ったとしても、それでもまだ足りないだろう。

 

どうにかしてダメージを与えられないものか……。

 

ドラゴンに対して次々と挑んでいく猟犬たちの動きを観ながら、鳶雄は対抗策を考える。

ラヴァニアに頼んで、増援を送ってもらうように打診させたが、彼女から連絡がないことを考えると、なかなか難航しているのだろう。

そのラヴァニアは、リリスに解呪を施すために一度神殿に戻らせたが、そちらも難航しているのかもしれない。

リリスが死んでしまったら、その時点で打つ手なしとなる。

彼女に関しては、ラヴァニアに頑張ってもらうしかない。

 

『オオオオオオオオオオオオッ!?』

 

『っ!なんだ!』

 

突如として響いたドラゴンの咆哮に意識を戻すと、右目の付近から血が吹き出ていた。

吹き出た血が雨のように降り注ぎ、鳶雄と彼の旅団を濡らしていくが、鳶雄は一匹の猟犬に目をやる。

血に濡れた刃をくわえた猟犬は、鳶雄の元に戻ると彼にそれを渡す。

鳶雄は刃についた血を人差し指で拭うと、親指と擦り合わせる。

少し粘性の強い血は、すぐさま乾いて固まった。

ドラゴンが何度も頭を振ると、右目から白い靄が立ち上って傷が塞がったのか、血の雨が止む。

先ほど以上に殺気のこもった瞳が鳶雄たちを捉えるが、対する彼らは落ち着いたものだった。

すぐさま治るのなら、目を潰し続ければある程度動きを制限出来るかもしれない。

かといって、やり過ぎると治らなくなる可能性もある。下手に後遺症を残してしまうと、彼にも迷惑な話だろう。

何だかんだで気にしないような気もするが……。

思わず苦笑する鳶雄だが、表情を引き締めて大鎌を構えた。

 

『さて、俺も動くとするか』

 

彼が呟いた瞬間、姿が消える。

旅団に気をやっていたドラゴンは、一瞬で彼の姿を見失い、そして、視界が暗転した。

神速で動き出した鳶雄と(ジン)の同時攻撃で、両目を同時に潰されたのだ。

 

『ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

ドラゴンが大きく体勢を崩した瞬間、鳶雄は地面を闇で覆い尽くし、闇から大量の刃を出現させる。

地面から生えた刃はドラゴンの四肢の全てを貫き、飛び上がれないように地面に縫い止める。

さらに追撃として巨大な刃を出現させ、両翼を貫いて飛行を完全に封じる。

その隙に、大量の猟犬がドラゴンに切り込んでいった。

 

━━一度で駄目なら何度も斬ればいい。

 

鱗を少しずつ削りながら、確実に刃を通していく。

ドラゴンが小さく唸ると、深紅の粒子が舞い始める。

外に飛び出した影響で広範囲に散ったのか、物を溶かすほどの力を失っていたそれが、ドラゴンの周囲に集まり始めたのだ。

粒子に包まれた猟犬の何匹かが一瞬で溶かされ、彼らのくわえている刃と、ドラゴン自身を拘束する刃さえも溶かし始める。

鳶雄が小さく舌打ちをすると、ドラゴンが治りたての目を見開くと同時に、深紅の粒子が()ぜた。

深紅の爆煙が鳶雄たちに襲いかかり、彼らの体を急激に溶かしていく。

闇を見に纏う鳶雄に大きなダメージはなかったが、猟犬たちはそうとはいかず、次々と消滅していった。

ドラゴンが翼をはためかせると、爆煙が吹き飛ばされ、周囲の被害が浮き彫りとなる。

ドラゴンを中心に地面が抉りとられ、近くにあった岩は跡形もなく消しとんでいた。

猟犬たちはくわえていた得物ごと消し飛び、鳶雄の発生させていた闇も、ドラゴンの周囲には欠片も残っていなかった。

ドラゴンが小さく唸るなか、鳶雄は自身の鎌に目を向ける。

若干ながら刀身が爛れ、歪んでいた。

 

『さて、どうしたものかな……』

 

新たな鎌を闇より取り出しながら放った鳶雄の独り言に、(ジン)は一度鳴いて答えた。

まだまだやる気の相棒に不敵な笑みで返すと、彼らの横に二つの巨大な影が到着した。

 

「苦戦中みたいだな。待たせた」

 

「お待たせっと」

 

雷を纏う巨大な猫型の怪物を引き連れた綱生と、風を纏う背に二対の翼を生やしたグリフォンに乗る夏梅だった。

 

「━━で、どうする?」

 

猫の頬を撫でながら、綱生が鳶雄に訊く。

鳶雄は頷くと、ドラゴンに目を向ける。

 

『目を潰せばある程度のダメージを与えられる。何かしらの後遺症が残ってしまうかもしれないが、それしかない』

 

鳶雄の言葉に無言で頷く二人。

夏梅が周囲を見渡し、首を傾げながら訊く。

 

「ところで姫とオルクスさんは?」

 

『ラヴァニアはリリスの治療、オルクス殿はサマエルのところに向かった。プルート殿はどうした』

 

「死神が一斉に退()いていったら、そのまま力尽きて倒れちゃった。とりあえず、結界だけ張って、その場に置いてきたわ」

 

夏梅のどこか適当な言い方に、鳶雄は思わず苦笑した。

━━が、ここまで来てあることに気づく。

 

『何も仕掛けてこなかった……?』

 

生き残りの猟犬たちが絶えず攻撃を続けていたとはいえ、ドラゴンがこちらに何もしてこないことに、流石に違和感を覚える。

鳶雄が目を向けると、何やら苦しんでいるドラゴンの姿が映った。

何かが喉に詰まっているのか、苦しげにえづいているのだ。

 

「なんか、ヤバくないか……」

 

「何か来るわよね、あれ……」

 

『二人とも、備えろ』

 

三人と一匹が構えた瞬間、ドラゴンが血の塊を吐き出した。大きさとしては、大の大人がすっぽり収まるほどだ。

吐き出された血の塊は不気味に脈動しており、怪しげな白いオーラを空気中にばらまき始める。

 

『ゴオオオオオオオオォォォォォォォォ━━━………』

 

断末魔に似た咆哮と共に、ドラゴンは崩れ落ちる。

倒れると共に地震に似た衝撃が鳶雄たちに襲いかかるが、倒れたドラゴンからの肉や骨が腐っていき、それに伴って腐敗臭が漂い始める。

三人と一匹の表情が険しくなるなか、五感の鋭い鳶雄と(ジン)の表情は余計に酷い。

それ以前に、助けようとしていた男の成れの果てが、目の前で腐っていっているのだ。これでは助けようが……。

 

グシャ!

 

「「『ッ!』」」

 

腐っていく肉の山を白い籠手に包まれた腕が生える。

飛び出た腕が力強く手を握ると、白いオーラが爆発する。

ドラゴンだったものの肉片が辺り一面にぶちまけられ、血の塊の中身であり、腕の持ち主が姿を露にした。

 

《はぁぁぁ………》

 

肩などに鋭角の目立つ軽鎧(ライト・アーマー)に身に纏った男と思われる何者か。

背中に翼のように三対の角と思われる意匠があり、兜の一部が冠を思わせる形状だった。

兜の瞳にあたる部分は不気味な白い輝きを放ち、そこから血涙と思われる何かが流れ落ちる。

白い鎧が左手をまっすぐ横に伸ばすと、そこに身の丈を越える弓と思われる何かが作り出される。

弓を地面に突き刺して固定し、何も持たずに右手で弓の弦を引くような動きをした瞬間、鳶雄たちはその場を飛び退く。

白い鎧が右手を開くと、鳶雄たちがいた地面が抉りとられる。

一体何を放ったのか。それはわからなかったが、その瞬間、彼らは同じ事を思っていた。

 

━━当たれば間違いなく死ぬ。

 

痛いとか、苦しいとか、そんなものを感じる余裕なく、一瞬で死を与えてくるであろうそれを、白い鎧はただ息を吐くように自然に放ってきたのである。

 

『先ほどまでのあれは(まゆ)。本体はあれか……!』

 

どうにか着地した鳶雄は、白い鎧を睨みながら吐き捨てた。

攻撃をし続けていたドラゴンは、本体を守るただの繭であり、今まで与えたダメージは完全に無意味だったのだ。

 

「何だかよくわからねぇけど、やるしかねぇか!」

 

「あははは……。これは姫も呼んでこなきゃ駄目かな」

 

それぞれがやる気になるなか、白い鎧は彼らの方に向き直る。

人の形になってなお、その赤い瞳から放たれる憎しみの色は消えることはなく、さらに濃く、深くなっていた━━━。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

ハーデス神殿の地下深く。

少し時間がさかのぼり、鳶雄とドラゴンが激闘を繰り広げている真っ最中だった頃。

地上での激闘の余波も感じられなくなるほどの地下の奥底に、サマエルは捕らえられていた。

覚醒しかけていたロイの攻撃で、片翼と頭部右半分が削り取られて、痛々しかったその姿をさらに醜く歪めていた。

 

《……さて、始めるとしましょう》

 

一人でこの場を訪れたオルクスは、自身の得物である大鎌を構え、サマエルの腹に狙いを定める。

 

《……食べたものを、吐き出してもらいますよ。その腹、捌いてでも》

 

どこか後ろ向きな覚悟を決めた声音でそう呟くと、自身の体に特殊な紋様の魔方陣を刻み、足元に魔方陣を描くと、サマエルの懐に飛び込む。

そして、

 

《ぬぅん!》

 

その腹に刃を突きつけた。

 

『オオオオオオオオオオオ…………ッ!』

 

サマエルが苦痛の声を漏らすと共に、オルクスの大鎌を中心に、サマエルの体を魔法文字が這っていく。

魔法文字の輝きが、先ほど設置した魔方陣と同調すると、サマエルの体から濡羽色のオーラが転送され始める。

オルクスはその様子を横目で確認した瞬間、サマエルの傷口から血が吹き出し、それを頭から被ってしまう。

聖書の神の憎しみの込められたそれは、ドラゴンに対しては絶対的な威力を誇るものだ。オルクスは純血の死神ではあるが━━、

 

《ぬうおおおおおおおおおおお!?》

 

全身を駆け巡る激痛に意識が飛びかけるが、歯を食い縛ってそれに耐える。

 

━━全ては、愛する娘の未来のために……!

 

《おおおおおおおおおおおおおお!》

 

オルクスは血を被ることもいとわず、鎌をさらに深く突き刺し、魔法文字の輝きをさらに強くしていく。

地上で白い鎧が出現したのは、それとほぼ同じタイミングだった。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

ハーデス神殿の王室。

ドラゴンとなったロイが暴れまわった結果、もはや見る影もなくなったその場所で、二ヶ所だけ無傷の場所があった。

ひとつはラヴァニアの作り出した氷の壁で守られた、ハーデスが拘束されている部屋の一角。

もうひとつは、無造作に床に寝かせられたリリスの近くだった。

そのリリスを介抱しているのは、鳶雄たちとは別行動をとるラヴァニアだった。

サマエルによる呪いを出来る限り解呪し、治療を施していくのだが━━、

 

「このくらいが限界ですかね……」

 

いかんせん、サマエルの呪いが強すぎる。

万全の状態のリリスならある程度対抗出来たのかもしれないが、消耗しきっている彼女に、その呪いは強すぎた。

他の手を思慮するなかで、突如リリスを囲むように魔方陣が展開され、濡羽色の輝きを放ち始める。それと共に、リリスの顔色がほんの僅かだがよくなっていった。

ラヴァニアは小さく笑むと、この場にはいないが、頑張ってくれているであろう死神に「ありがとうございます」と小さな声で礼を言う。

それとほぼ同時に、凄まじい振動が冥府の大地を揺らし、ぼろぼろとなっていた神殿がさらに崩れ始める。

 

「皆さんは大丈夫でしょうか……」

 

心配ではある。だが、彼らを信頼しているからこそ、彼女はここに残り、リリスを守り続けることを決めた。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

冥府の荒野の真っ只中。

そこに転移用の魔方陣、それも悪魔たちが使うものではなく天使たちが扱うものが現れ、光が一気に弾けた。

そこに現れたのは複数人の天使たち。

ひときは目を引くのは、腰まである金糸のような綺麗な髪に、どこぞの赤龍帝なら見ただけで鼻の下を伸ばすであろう豊満な胸の女性天使。

最強の女性天使にして、四大セラフに名を連ねるガブリエルが、冥府に到着したところだった。

ガブリエルは周囲を確認し、そしてそれらを見つけた。

彼女の視線の遥か先では、いくつもの爆発が起き、雷が落ち、爆煙が何かによって切り裂かれ、闇から何かが生まれている。

この世のものとは思えない戦闘が繰り広げられるその場所を見つめ、ガブリエルはゆっくりと息を吐くと、周りにいる部下たちに指示を飛ばす。

 

「皆さんは死神の捕縛、及び情報の集積を。私はあの場所に向かいます」

 

だいたいの状況は、ラヴァニアの報告で把握している。

あの戦闘を行っているのが刃狗(スラッシュ・ドッグ)チームと、自分の想い人であることも━━。

だからこそ、彼女は自ら地獄に飛び込む覚悟を決めた。

ロスヴァイセと黒歌はリゼヴィムとの戦いに向かい、セラフォルーは避難指示や各神話体系への協力を仰ぐために駆け回っている。

 

━━彼を止められるのは、現状私しかいない。

 

世界を救い、恋人も救うためには、自分が頑張るしかない。

自分にそう言い聞かせ、部下たちと別れて行動を開始する。

この行動が吉と出るか、凶と出るかは、彼女を含め、誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 




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