「ん……」
彼女━━黒歌は、僅かな動きを感じとり目を覚ます。
戦闘とは全く違う倦怠感と、満腹になった時とはまた違う満足感に包まれ、今の彼女は最高に幸せだった。
それはそれとして、彼女は目を覚ました原因に目を向ける。
「くぅ……くぅ……」
彼女の胸に顔を埋め、寝息をたてている恋人━━ロイである。
目を覚ます気配のないロイの頭を愛おしげに撫で、黒歌自身も優しく笑む。
黒歌に触れられたロイは一瞬体を強張らせたが、再び寝息をたて始めた。
胸に顔を埋められているため、ロイの寝顔を堪能できないのは残念だが、これはこれで役得である。
恋人の特権を堪能しつつ、二度寝を始めようとした黒歌だったが、近づいてくる気配を感じてそれを中断する。
ロイを起こさないようにそっと離れ、ベットの端に放置されていた彼のワイシャツを羽織る。
(あ……、こいつの匂いがするにゃ……)
僅かだが香る彼の匂いを堪能し、表情を綻ばせるが、その直後に部屋の扉が豪快に開け放たれる。
「ロイさん!部屋に戻ったと聞いて起こしに━━━」
部屋に飛び込んで来たのは恋人の一人━━ロスヴァイセだった。
彼女の左腕には銀色の腕輪が填められており、それが黒歌と同じ効果のものだということはすぐに察することが出来た。
彼女は元気一杯と言わんばかりの絵柄を浮かべていたが、明らかにサイズが合わないワイシャツを羽織る黒歌の姿を見つけ、表情を驚愕に変える。
「く、黒歌、さん?どうしてロイさんのシャツを……?」
黒歌の羽織るワイシャツをロイのものと断定したロスヴァイセの目からハイライトが消え、いつものシーツ姿からヴァルキリーの鎧姿に瞬時に変わる。
明らかに殺気立っているロスヴァイセに怯む様子もなく、いたずらっぽく笑う。
「そりゃ、私の着物よりも近くに落ちてたから」
黒歌の言葉を受け、ロスヴァイセは部屋の端に目を向け、無造作に放置された着物を一瞥した。
黒歌に視線を戻し、彼女に右手を向けて禍々しいまでの輝きを放つ魔方陣を展開する。
「どうして、裸で、ロイさんとベットに……?」
もはや何を言っても撃つと言わんばかりに迫力を放つロスヴァイセを尻目に、黒歌は二又の尻尾を器用に使ってハートマークを形作る。
「そりゃ、恋人二人が男の部屋で二人きり。あとは分かるでしょ?」
優しく下腹部を撫で、勝ち誇ったように妖艶に笑んだ。
瞬間、ロスヴァイセの魔方陣から魔法弾が放たれる。
それは黒歌に吸い込まれるように突き進んでいくが、
「んあ……」
急に体を起こしたロイが無造作に振った右腕に当たり、あっさりと打ち消された。
「「………」」
突然の出来事に黙りこみ、目を見開く二人をよそに、ロイは再びベットに倒れた。
彼が寝息をたて始めたことに二人して安堵の息を吐きつつ、黒歌はロスヴァイセに怒鳴る。
「ちょっとあんた!今のマジで殺す気だったでしょ!?」
「抜け駆けは許しません……!」
「そんな事言うんだったら、あんたも仕事終わりに来れば良かったでしょ!」
「ロイさが疲れてるかもって気を使っただ!そっちだって気をさ使え!」
「変な方言出すんじゃないわよ!何言っているのかわからないにゃ!」
「おい……」
「……ごほん!━━少しはロイさんが疲れているかもとか、ゆっくりとさせてあげたいとかないんですか!?」
「誘ってきたのはこっちにゃ!」
「え゛!?」
「おい……!」
「ふふん。どうかしたにゃ?言い返してきなさいよ」
「え、えと、あの、その……」
「おい!」
「はい!」
「にゃ?」
口論を続ける二人だったが、突如発せられた声に遮られる。
眠っていたはずのロイが体を起こし、右腕の調子を確かめる。
首をゴキゴキと鳴らし、気だるそうに二人を睨んだ。
「……うるせぇ」
「「ごめんなさい」」
割りと本気の怒気が込められた言葉を受け、素直に謝る恋人二人。
ロイは後頭部をかきながらため息を吐き、側に落ちていた自分のズボンに手をかけ、とりあえずと言わんばかりにそれを履いた。
上半身裸のままベットから立ち上がり、欠伸を噛み殺しながら体を伸ばす。
「なんであんなに喧嘩をしていたかはわかるが、寝ている奴の横でやらないでくれねぇか?」
頷く二人を横目に、目を擦りながら欠伸を噛み殺し、椅子にかけられたコートの懐を探り、強引にタバコを取り出すと口にくわえる。
睨んでくるロスヴァイセがうるさいだろうから、それに実家である屋敷の中であることを考慮し、火をつけることはない。
「いや、俺のせいなのか?でもな、あの状況で……」
一人でぶつぶつと呟くロイだったが、ロスヴァイセに目を向けて優しく笑んだ。
「とにかく、起こしに来てくれたんだろ?ありがとうな」
「え、は、はい……」
照れ隠しで真っ赤になった頬を両手で隠しながら、嬉しそうに笑うロスヴァイセを横目に、黒歌は立ち上がる。
下着もつけず、ワイシャツのボタンも止めていないため、かなり大きめの胸が揺れる。
その胸を凝視していたロイに対し、黒歌は飛び付いた。
それを読んでいたロイは、黒歌をしっかりと抱き止める。
前までなら避けられるなり、近くのものを身代わりにしてくるなりしていたかもしれないが、今の彼はしっかりと抱き止めてくれた。
嬉しそうに彼の胸に頬擦りし、尻尾を左右に振る。
「ねえねえ、子供の名前どうする?私は女の子だと思うんだけど」
「名前って、気が早くねぇか?」
「こういうのは早め早めがいいにゃ。ねえ何にする~」
嬉しそうに笑いながら言う黒歌に、ロイは困ったと言うように苦笑しながら頬をかいた。
そんな微笑ましい光景を見て、一人怒りに震える人物がいた。
「…………」
ロスヴァイセだ。体から溢れ出る魔力で、銀色の髪が不気味に蠢く。
ロイはそれに気づきながらも、黒歌を髪を撫でる。
「やっぱり和風な名前がいいのか?」
「まあにゃー、私は和風がいいかも」
「そうか」
ロスヴァイセは無表情で気配を殺し、本格的に未来の子供の名前を考え始めてしまうロイの背後に忍び寄り、そのまま飛び付いた。
「仲間はずれにしないでください!」
その叫びと共に、彼女はロイの首筋に噛みついた。
「いっ……!」
ロイがちょっとした痛みで表情を歪め、くわえていたタバコを取りこぼす。
ロイが落としたタバコが眉間を直撃した黒歌は、流石に怒った様子でロスヴァイセを睨む。
「ちょっと、何してるにゃ!」
「んー!」
怒鳴る黒歌を無視し、ロスヴァイセはさらに噛む力を強くする。
「ロ、ロセ、さすがに痛いんだが……!」
「むぅ!」
「悪かったって!謝るから離れてくれよ!」
涙目で睨んでくるロスヴァイセに早口で謝り、それを受けた彼女はそっと口を離した。
ロイの首筋にはくっきりと歯形が浮かび、ほんのり血が滲んでいた。
ロイがその傷口を擦っていると、ロスヴァイセは彼の背中に額を当てる。
「……黒歌さんばかり、ズルいです」
「ごめん」
背中越しに彼女を見つめ、申し訳なさそうに笑む。
そんな彼の表情を知ってか知らずか、ロスヴァイセは続ける。
「今度、埋め合わせしてください」
「わかった」
ロイの返事にロスヴァイセは顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
目のハイライトは、いつの間にか元に戻っている。
そんな彼女の笑顔に見惚れつつ、苦笑した。
「まあ、いつになるかわからねぇけどな」
「むぅ。なら、今夜にでも……」
「流石にそれは……」
二人で今後のことを話していると、ロイに抱きついたまま放置されていた黒歌が、何かをいたずらでも思い付いたかのようにニヤリと笑う。
爪先立ちになると、そっと彼の首筋の傷を舐める。
ロイの口から変な声が漏れると、ロスヴァイセが額に青筋を立てて彼の正面に回り込んだ。
「黒歌さん、邪魔をしないでください!今は私が甘える時間なんです!」
「知らないにゃ~。隙があれば攻撃が基本じゃないの」
そう言いきると、ロイに抱きつく力を強め、何度も彼の首筋を舐める。
彼女の矛先は、明らかに傷とは無関係の場所である、顔や胸の火傷痕にまで及んだ。
ロイはくすぐったいそうにしながらも、無理に引き剥がそうとはしない。
「ぐぬぬ……」
再びロスヴァイセの表情が険しくなると、黒歌の腕を掴むと、『
宙に浮いた黒歌は華麗に回ると床に着地、ペロッと舌を出す。
「いいじゃん、このくらいさ~。スキンシップは大事にゃん」
「スキンシップ。なるほど、スキンシップですか……」
ロスヴァイセは確認するように呟くと、ロイのほうに向き直る。
「……ロセ?」
不思議そうに首を傾げると、そんな彼の唇がロスヴァイセの唇で塞がれる。
驚くロイと感嘆の息を漏らす黒歌。そんな二人をよそに、ロスヴァイセはロイの頭を押さえて逃がさないようにすると、舌を絡め始める。
奥手だった彼女の急な攻めに驚きつつ、ロイは横目で部屋の入り口に目を向けた。
「……何をしてい……るんですか」
そこには呆れたような表情(ロイにしかわからないほどの変化)のツヴァイが立っていた。
「あ、おはようにゃ」
「おはよう……ございます……」
ツヴァイがぎこちない敬語で挨拶をすると、黒歌はニコッと笑った。
「ほら、先生。ちゃんと挨拶しなきゃ駄目でしょ?」
黒歌の言葉に、ロスヴァイセは名残惜しそうに唇を離すと、ツヴァイのほうに向き直った。
「……おはようございます、ツヴァイくん」
「おはようございます」
ロスヴァイセの挨拶に素っ気なく返すと、ツヴァイは頭から蒸気を吹き出しているロイに目を向けた。
「あんたの両親とリアス……様とソーナさ…ま、サイラオーグ様、シーグヴァイラ様と、それぞれの
「勢揃いだな。何かあったのか?」
慣れない「様」付けに苦戦するツヴァイに苦笑しつつ訊くと、当の本人は首を傾げた。
「よくわからん。あんたから話があると言っていたが」
「……?まあ、行けばわかるか」
取りこぼしたタバコを拾い上げ、椅子にかけられたコートの懐に戻すと、魔力を使って瞬時に服をラフなものに着替える。
貴族服を━━とも考えたが、場合によっては長話になるかもしれないとして、その考えは却下となった。
ロイがゴキゴキと首を鳴らす横で、黒歌はワイシャツのボタンを(胸元ははだけているが)止め、ロイのコートを手に取り、下着━━正確にはパンツだけ━━を確保する。
「ねえねえ、ズボンか何か貸して」
「あ?着物がそこにぶちまけられてんだろうが」
「いいじゃない。えっと、ここら辺かにゃ?」
黒歌はクローゼットと思われる場所を見つけ、躊躇いなくそこを開け放つと、テキトーに身繕い始める。
ロイはため息を吐き、彼の服に身を包む黒歌を、羨ましそうに見つめるロスヴァイセに目を向けた。
「……おまえはスーツ姿に戻ったらどうだ?」
「私も」と言われる前に先手を撃つ。
考えを見透かされていたロスヴァイセは頬を赤くして俯くが、瞬時に鎧姿からスーツ姿に変わる。
素直に従ってくれたロスヴァイセの髪を撫でつつ礼を言い、どたばたと騒がしいクローゼットを無視してツヴァイに目を向けた。
「さてと、場所は?」
「こっちだ。……あいつはいいのか?」
ツヴァイは無表情で黒歌のいるほうに目を向けると、
「お待たせにゃ!」
全身ロイの私服に身を包んだ黒歌がポーズを決める。
流石の彼女にも羞恥心が残っていたのか、コートのボタンが止められ、だいぶ露出を抑えたように思える。
三人の視線を一身に浴びるが、黒歌はどこ吹く風とロイの右腕に絡み付く。
「さ、早く行くにゃ。これ以上待たせちゃ悪いにゃ」
「そう思うんなら、自分の服を着ろっての」
「そうです、ずるいです!」
ロスヴァイセはそう言うと、ロイの左腕に絡み付いた。
両手に花とも言える状況だが、その中央にいるロイは疲れ果てたように息を吐く。
「……ツヴァイ、頼んだ」
「ああ、こっちだ」
ツヴァイの先導で屋敷を進む。
その間、上機嫌の黒歌と不機嫌なロスヴァイセに挟まれたロイは、何度も盛大なため息を吐いていた。
━━━━━
「━━そんなわけで、だいぶ遅れて申し訳ない」
俺━━ロイは、ざっくりと遅れてきた経緯(黒歌と色々したというのは除いて)を説明し、席についていた。
俺の右隣にはセラ、左隣にはロセ、その隣に黒歌、そこから俺の眷属たちといった感じに並んで座っている。
そんな俺たちと対面する形で席が並べられ、呼ばれた面々が腰をかけていた。
それはそれとして、
「おまえも座ったらどうだ……?」
俺は背後に控えているツヴァイに目を向け、苦笑混じりにいったのだが、当のこいつは、
「━━『
母さんか、それともリアスか、ツヴァイはそんな事を告げてきた。
使命って、ずいぶん大袈裟だな。単なる仕事のひとつみたいなものだろうに。
一度肩をすくめ、少し意地悪な質問をぶつける。
「ちなみに、座れと命令したら?」
「あんたの指示なら、従おう。だが、身の安全を考えるのなら、待機を指示しろ」
即答である。
こいつ、真面目だな……。いや、そもそも指示をされて何かするということしか知らないのかもしれん。
「……好きにしろ」
俺が諦めたように口にすると、ツヴァイは少し狼狽える。
「……好きにしろ、か。むぅ……」
「どうした」
「いや、このまま待機する」
「そうか」
俺とツヴァイがそんなやり取りを終えると、クリスがため息を漏らす。
「そいつはずっとそんな感じですよ。指示を受ければすぐに済ませるのに、それがないと何もしないか突拍子もないことをするんです」
「……窓から飛び降りたな、そういえば」
母さんに好きにしろと言われ、窓から飛び降りたことを思い出す。
何であんなことをしたのかは気になるが、それはツヴァイのみぞ知る、だ、
「それはそれとして、あの子は?」
「えっと、兵藤さんの家にお邪魔しています。フィスちゃんになついているんですよ」
アリサが笑みながら言うと、リアスが苦笑した。
「ふふ、フィスとリース、ずっと一緒にいるんですよ?」
アリサたちの『フィス』や『リース』呼びに小さく首を傾げたが、ヴィンセントがいるのだ、彼女たちの本名は隠しておいたほうがいいだろう。
「まあ、姉妹みたいなもんだしな。今度見にいかねぇと」
じゃれ合うというか、リリスが一方的に甘えている姿が目に浮かぶ。
俺がほっこりしていると、アザゼルが一度咳払いをした。
「━━そろそろ始めていいか?」
「ああ、すまん。で、何を話せばいいんだ?」
痺れを切らすアザゼルに聞き返すと、ため息が返ってきた。
「まあ、忘れていても仕方がないか。おまえ含め、事情を知っている奴らに単刀直入に訊くぞ」
アザゼルはそう言うと、俺、セラ、兄さん、父さん、母さんに順番に目を向けた。
「━━アポプスの言葉、どういう意味だ」
……ああ、それか。
完全に忘れていたことを思い出し、思わずため息が盛れた。
「……どうって言われても、言葉の通りだ」
疑問符を浮かべるリアスたちを一瞥し、最後にロセ、黒歌、ガブリエルに目を向ける。
「━━俺には『前世』ってやつの記憶が
俺が何てことのないように言うと、事情を知らない面々の表情が険しくなる。
俺は続ける。
「━━俺が
俺はそう付け加え、アザゼルに目を向ける。
兄さんか誰かから話を聞いていたのか、そこまで驚いている様子はない。
「それが『異世界』ってやつなのかはわからねぇ」
俺の告白に一様に混乱が広がっていくなか、俺は自分の右手を顔の前にやり、火傷痕に目を向けた。
「……ただ、こっちの人間界より戦争は多かったと思う。俺は、物心ついた頃から戦っていたからな」
広げていた右手を閉じ、苦笑する。
「後で聞かれるだろうから言っておくと、恋人や家族、親友、仲間に隠し事はいけねぇかなってな」
俺が言うと、ヴィンセントが半目で睨んできていた。
「……今さらおまえが何を言おうが驚かないって思っていたが、想像以上だ……」
「ふっ、俺は常に予想を越えていく男だぜ?」
俺がどや顔で言うと、ヴィンセントは「そんなキャラだったか?」と呟いて頭を抱えた。
俺たちのやり取りが終わった頃を見計らい、ロセが訊いてくる。
「……何であれ、ロイさんはロイさんなんですよね?」
「むしろ、その記憶があったから今の俺になったわけなんだがな」
「なら、それでいいです。私は今のロイさんが大好きですから」
「そうにゃ。てか、そういうのは私を抱く前に言っておいて━━━」
黒歌はそこまで言ってから「しまった」と言わんばかりの表情で口を塞いだ。
だが、現実は非情なり。俺の肩に優しく手が添えられた。
俺は壊れたロボットのような音をたてながら、その手の持ち主━━セラに目を向ける。
「ロイ、どういうことかしら?」
力を入れれば折れてしまいそうな細腕から、俺の肩を砕かんばかりの力が込められていく。
「……欲望に誠実になろうかなと思いまして」
「ふぅん……」
明らかに納得していないセラから視線をそらすと、完璧に固まっているガブリエルが視界に入った。
天使としてその反応はどうかと思うが、恋する乙女にそんなものは関係ないのだろう。……たぶん。
俺たちがいつものようなやり取りをしていると、ミカエルが訊いてきた。
「色々とお伺いしたいことは多いのですが、なぜその記憶が保持されていたのかは覚えているのですか?」
「ま、まぁな。なんか神様的な奴に会ったから、かな?」
何百年も前のことで、もううろ覚えだ。
女性だったってのは何となく覚えているが、どんな顔立ちだったとかは、ほとんど思い出せない。
俺の言葉を受け、ミカエルは顎に手をやった。
「あなたの記憶にある場所が異世界だとしたら、その神は変わり者ですね」
「……おまえがそれを言うのか」
アザゼルの突っ込みが入ったが、ミカエルはどこ吹く風と言った様子で返す。
「神が悪魔を生み出すなど、まったく、こちらに産み落としてくれれば良かったものを……」
「あんな戦時中大混乱のなか、そんなイレギュラーがいたら面倒だろうが」
ミカエルのアザゼルの口論がヒートアップするなか、ソーナが眼鏡の位置を直しながら言う。
「ですが、ロイ様。なぜその話を私たちにしたのですか?隠しておこうと思えば出来たはずです」
「さっき言った通りだ。隠し事はしたくなかったってのと、色々と迷惑をかけたお詫びとして、かな」
俺が言うと、ソーナは不機嫌そうに目をそらす。
そんなソーナをよそに、アザゼルがリアスたち『
「下手に巻き込みたくないから全員は呼ばなかったが、出来るだけ他言は控えてくれ。ここにいる奴ら以外に話す時は、ロイと俺を呼べ。そのほうが手っ取り早いだろ」
「……また説明しろと?」
「責任とれ」
「……了解」
俺たちが言うと、アリサが首を傾げた。
「これ、ジルさんには何と説明すれば……」
「まあ、あのヒトなら『それがどうした』とか返してきそうではあるけどな」
クリスが苦笑混じりにそう返し、アリサもつられて笑みを浮かべた。
俺は一度息を吐き、席を立つ。
「納得してくれていなくても、それは仕方がないことだ。俺自身も突拍子のない話をしていることは承知している」
その後、部屋に集まってくれた全員に目を配り、深々と頭を下げた。
「今まで隠し事をしていたこと、そして多大な迷惑をかけたこと、この場を借りて謝罪したい。━━本当に、申し訳なかった」
たったの数秒のはずなのに、数分間頭を下げているように思えてくるなか、リアスの声が響いた。
「お兄様、顔を上げてください。それはそれでこっちが困ります」
困った時の声音のそれに、俺はゆっくりと顔を上げた。
リアスたちは一様に苦笑を浮かべ、目を合わせる。
「何であれ、お兄様はお兄様です。私たちがどうこう言うつもりはありません」
リアスの言葉に、ソーナ、サイラオーグ、シーグヴァイラがそれぞれ頷いてくれた。
その隙に、ヴィンセントが言う。
「ま、男なら隠し事のひとつやふたつあって当然だろ。それを告白してくれた奴を蔑ろにするほど、落ちぶれてないってよ」
「……ありがとう」
無意識の内に盛れた言葉に、ヴィンセントは「よせよ」と苦笑した。
「私の、いえ、私たちの気持ちも変わりません。あなたを想う気持ちは、いまさら揺らぎません」
ガブリエルの微笑と共に送られた言葉に、ロセと黒歌は頷いた。
やっぱり、あの神様に感謝しねぇとな。他の場所じゃ、こいつらには出会えていなかったはずだ。
「そんじゃあ、改めてよろしくってのと」
全員を見渡し、最後に両親に目を向け、最後にセラに目を向ける。
彼女と目があうと、自然と頬が緩み、笑みを浮かんだ。
「━━いまさらながら、ただいまってことで」
「ふふ、おかえりなさい」
セラも笑みで返し、俺の手を優しく握ってくれた。
ようやく、この言葉が言えた。
俺が安堵の息を吐くなか、背後から、
「━━これが家族というものか……」
という呟きが聞こえた。そんな気がした━━━。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。