転生してから、俺には苦手な奴がいる。兄さんはそこまで苦手というわけではないようだが、なぜあの
そんな事を思いつつ、馬車に揺られている俺と兄さん。そして、
「いいかい、二人とも。いつものように向こうのヒトには迷惑をかけないようにね」
俺たちの向かいに座りながら注意しているのが、俺たちと同じ紅髪のダンディーな男性、父親━━ジオティクス・グレモリーだ。
俺から見ても母さんの尻にしかれているように見てるが、それでもれっきとしたグレモリー家の現当主だ。ちなみに、母さんのように厳しくはない。むしろ俺たちに甘い。その厳しい母さんは留守番だ。
「「わかりました」」
俺と兄さんは返事をするが、俺は内心面倒に思っている。
俺たちが向かっているのは『シトリー家』の屋敷だ。
数字だけ見れば、結構上の立場に思えるが、父さんと現当主様が旧知の仲らしく、お互いが当主になってもよく会っているそうだ。
それだけなら俺と兄さんは行かなくてもいいような気がするが、何でもシトリー家の次期当主の女の子が俺たち(特に俺)を気に入ったらしく、『グレモリー様が来るのなら、あの子たちも来ますよね?来ますよね!?』と、シトリー現当主に言ってしまったらしい。
それで向こうのヒトも大事な愛娘に年の近い友達が出来たと思い上機嫌に。父さんもそう思って上機嫌という、会うことが絶対避けられない状態になってしまったのだ。
どうしてこうなった………。
俺が心の中でぼやいているうちに馬車がゆっくりと停止、扉が外から開かれた。目の前にはグレモリーの屋敷と同じかそれ以上の大きさの屋敷があり、周りは自然ばかりだ。
馬車から降りた俺たちに扉を開けたと思われるメイドが一礼する。
「グレモリー家の皆様、お待ちしておりました」
「うむ、当主様はどこに?」
「はい、ご案内します」
「助かるよ」
父さんがメイドについて行こうとすると、俺たちを見て、
「さて、お父さんはお話ししてくるから、二人はセラフォルーちゃんのところに行ってきなさい」
その顔はとても明るいものであり、ものすごく嬉しそうである。これからシトリー現当主様と親バカトークを繰り広げるつもりなんだろう。
父さんの言葉が終わると屋敷の扉が開かれた。メイドと父さんが先に進み、俺と兄さんがそれに続く。そして途中で合流してきたもう一人のメイドに連れられ、俺と兄さんはそのセラフォルーという女の子のいる部屋へ。
部屋に続くドアの前、俺は自分の心臓な鼓動が速くなっていることを意識していた。すげぇバクバクしているよ、ホント。
俺はゆっくりと息を吐きながら、自分を落ち着かせる。
そうだ、会うのはたかが女の子一人だ。ビビることはない。父さんたちの話が終わるまで適当に流しておけば━━━。
「ロイちゃぁぁぁぁんっ!」
俺の名前を叫びながらドアが開け放たれ、女の子が俺に飛び付いてきた!
「ぐぼはっ!?」
不意討ちでろくに踏ん張ることが出来ず、そのまま女の子に押される形で壁に背中から激突する。壁に沿うように滑りながら床に座り込む。
会うたびにこうなるの忘れていた……。平和ボケしてきたなこりゃ、気を付けねぇと……。
背中の痛みを堪えながら、俺の胸に頬擦りしている女の子の顔を見る。
「うふふ~」
すごい上機嫌なニコニコ顔のこの
かなり活発な
「ロ、ロイ、大丈夫かい?」
兄さんが驚きながら俺の心配はしてくれるが、引き剥がそうとはしない。まあ、前にやろうとして暴れたからな。
「お嬢様、ロイ様が困っています。離れてあげてください」
「いーや!」
メイドの言葉を軽く流しながらいまだに俺に頬擦りしてくるセラフォルー。俺は嘆息して彼女に言った。
「セラフォルーさん、離れてください。暑いです、痛いです」
「……はーい」
俺の言葉でようやく離れてくれたが、少し拗ねた感じの声だ。どんだけ俺を抱き締めたいんだよ……。
俺は立ち上がり、服についた埃を払う。━━━仕草はするがこの屋敷も手入れが行き届いており、そこまで汚れていない。
俺がそんな事をしているとメイドが言った。
「それでは、私はこれで失礼します。お嬢様、もう手遅れだと思いますが、失礼のないようにお願いします」
「OK☆任せなさい☆」
メイドの言葉に満面の笑みで答えるセラフォルー。この先大丈夫だろうかシトリー家。このフリーダムガールが次期当主って心配になるぞ。
そんなこんなで俺たちはセラフォルーの部屋にお邪魔することになった。
二時間程いたのだろうか。もっと長く感じるが、多分それぐらいた筈だ。
俺は赤面しながら顔を俯け、三角座りしていた。理由は簡単だ。
「私も弟か妹がいればな~」
「確かに退屈はしないだろうね」
兄さんが俺の小さい頃(物心つく前)の話をしているのだ。漏らしただの、転んだだの、迷子になっただの……迷子は最近でもあるな。とにかくそんな話をしているのだ。
あまりの恥ずかしさに、何も言えない状況の俺を見てセラフォルーが言った。
「でもロイちゃん。その頃の子は誰だってそんな感じよ。私やサーゼクスちゃんだってね?」
「僕はあまりお母様やお父様には聞かないからよくわからないけどね」
セラフォルーの振りに苦笑しながら答える兄さん。俺は顔を上げながら兄さんを見た。
「兄さん、たまには自分のことを暴露してください……」
「じ、自分で自分のことを言うのかい!?」
俺の振りに今度は驚愕する兄さんだが、セラフォルーは構わずに俺の顔を見てきていた。
「ふふ、恥ずかしがるロイちゃんも可愛いわね」
小声で何か言っていたが、うまく聞き取れなかった。何と言ったのか俺が聞き返そうとすると、ドアがノックされ、「失礼します」の一言の後に開かれた。
「サーゼクス様、ロイ様、グレモリー当主様がお呼びです」
どうやら、話しが終わったようだ。ようやく解放されるのか……。
俺が周りに気づかれないようにホッと息を吐くと、セラフォルーが抱きついてきた。
「え~!まだロイと一緒にいたい~!」
多分だが、セラフォルーは俺を弟みたいな感じで扱っているんだと思う。今の言葉も完全に遊び足りない子供のそれだ。
「ロイは人気だね」
他人事のように言ってくる兄さん。頼むから置いていかないでくれよ?
俺がその事を考えながら頬に汗を滲ませているとメイドが言った。
「ロイ様にもロイ様のご都合があります。わがままおっしゃらないでください」
少し怒気を感じる声音。さすがのセラフォルーも怯む━━━、
「それでもよ!」
ことはなかった。逆に俺を抱き締る力が強くなっている!こいつ、変に根性あるな。いや、ただわがままなだけか。
一歩も引かないセラフォルーにメイドが困っていると、
「サーゼクス、ロイ、どうしたんだい?」
開けっ放しだったドアから父さんが入ってきた。入ってきて早々に俺とセラフォルーを見て朗らかに笑う父さん。
「セラフォルーちゃんはロイが好きなんだね」
「……………」
父さんの一言にセラフォルーは顔を赤くしている。が、離す気配はない。顔を赤くするなんて、いきなりどうしたんだ?
俺が首をかしげていると父さんが片ひざをついて、視線をセラフォルーに合わせるとやさしく諭すように言った。
「いいかい、セラフォルー。キミの気持ちはわからないわけではないけれど、ロイは嫌がっているだろう?」
それを聞いた途端に不安そうな顔で俺を見てくるセラフォルー。俺は「あははは……」と苦笑するしかなかったが、セラフォルーはショックを受けている様子だった。
「だから、今回は離してあげてくれないか?また来るから」
父さんの言葉にセラフォルーは頷くと名残惜しそうに俺を解放してくれた。一応、俺の口からも言っておく。
「セラフォルーさん、また来ますから、抱きつくのはその時にお願いします」
セラフォルーは涙目になりながらも頷くと俺に言ってきた。
「ロイ、私のこと次から『セラフォルー』って呼んで……」
なるほど、『さん』付けを辞めて呼び捨てにしてくれってことか。そのぐらいならいいか。
「わかりまし━━」
「あと敬語もなしにして……」
「…………」
俺に被せるように言ってきたセラフォルーの言葉で言い淀んでしまった。チラリと父さんを見ると、笑顔で一度頷く。
俺は一度深呼吸をしてからセラフォルーに改めて言った。
「わかった。また会おう、セラフォルー」
出来るだけの笑顔でそう言うと、セラフォルーは満面の笑みを浮かべて、「うん!」と言いながら頷いた。
こうして、俺たちはグレモリーの屋敷に帰ることになった。父さんと兄さんに続いて帰りの馬車に乗り込もうとすると、
「ロイー!またねー!」
部屋の窓を開けて、先ほどと同じ笑顔で俺に手を振っているセラフォルーが見えた。
「またなー!」
俺は手を振り返してから馬車に乗り込む。すると、父さんが謎の笑みを浮かべて俺を見てきていた。
「……あの、父さん?何か?」
「いやなに、ロイに随分早い春が来たのかな、とね?」
「?」
父さんの言葉に俺は首をかしげることしか出来なかったが、セラフォルーの見せてくれたあの笑顔は輝いて見えた。
「サーゼクスも、頑張らないと弟に先を越されてしまうよ?」
「がんばります。ロイには負けません」
セラフォルーの笑顔を思い出しながら窓の向こうの景色を見る俺を他所に、兄さんと父さんが何か喋っていたが、俺の耳は簡単にそれを聞き流し、俺がその言葉を理解することはできなかった。
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