俺━━ロイとリアスたちがオーディンの護衛を開始してから数日。
毎日のように日本を観光するオーディンに終始振り回され、全員がいつになく疲労を感じていた。
今はスレイプニルという八本足の巨大な空飛ぶ軍馬が引く馬車に乗るオーディンを護衛中だ。リアスたちはオーディンと一緒に馬車に乗り込んで軽く休憩していることだろう。
その馬車と軍馬を囲むようにして、俺、木場、イリナ、バラキエルがその横を飛びながら周辺を警戒している。
「日本のヤマトナデシコはいいのぉ!ゲイシャガール最高じゃ!」
外にも聞こえるほどの声量で言うオーディン。こっちの苦労も知らないで…………。
俺は大きく溜め息を吐いた。護衛として外を固めるだけならまだ楽だ。キャバクラに行けば毎度のように俺だけが店の中まで連れていかれ、遊園地に行けばあちこちに連れ回される。
本当に疲れる………。日本を楽しみすぎだろ、この爺さん………。
俺は眠気を覚ますように思いっきり自分の両頬を叩く。頬がヒリヒリするが、目は覚めた。そのためにやったからな。まあ、いつも通り何かあるとは思えんが………。
俺が少し気を抜いた矢先、
ヒヒィィィィィィィンッ!
突然馬が鳴き出した。何かを警戒するように周囲を見渡している。そして、突然馬の進行方向に現れた謎の男性を発見した。
何か気配があったわけでもなく、突然そこに現れたのだ。その男性は目付きが悪いが顔は整っており、黒いローブを身に付けている。
馬車から飛び出してきロスヴァイセがその男性を見て心底驚いた表情になり、アザゼルは舌打ちをしている。
どこかで見たことがあるような……、聞いたことがあるというか………。
俺が首をかしげていると、男性はマントを広げて口の端を吊り上げて高らかにしゃべりだした。
「はっじめまして、諸君!我こそは北欧の悪神!ロキだ!」
そうか、悪神ロキか。聞いたことはあったが、あんな痛い奴だとは思わなかった。なんだ、あのマントといい「はっじめまして」とか、格好つけたいのか?目立ちたいのか?
俺はそれは口に出さずにロキに訊く。
「これはロキ殿。何かご用ですかな?この馬車にはオーディン殿が乗られておりますが、それはご存知で?」
「いやなに、我らが主神殿が我ら以外の神話体系に接触していくのが耐え難い苦痛でね。邪魔をしに来たのだ」
悪意を隠す気もなくそう告げてきた。
俺は口調を戻しながらロキを睨む。
「堂々と言ってくれるな、ロキ。そう言う自分が接触しているって自覚はあるのか?」
俺が皮肉げに言うとロキは楽しそうに笑う。
「他の神話体系を滅ぼすのならば良いのだ。和平が納得できないのだよ。我々の領域に土足で踏み込み、そこへ聖書を広げたのはそちらなのだからな」
「……それを俺に言うなよ。ミカエルか、死んだ聖書の神にでも言え」
俺が返すと馬車から出てきたオーディンにロキが言う。
「どちらにしても、主神オーディン自ら極東の神々と和議するのが問題だ。これでは『
「その前に、おまえは『
「ああ、そうだとも。己の意志で参上している」
「OKだ。たく、面倒なことになりやがったな………」
俺が再び溜め息を吐くと、オーディンが足元に魔方陣を展開。それに乗って前に出る。
「まったくじゃ。どうにもの、頭の固い者がまだいるのが現状じゃ。こういう阿呆まで登場するのでな」
オーディンはあごのひげを擦りながらそう言った。
「ロキ様!これは越権行為です!しかるべき公正な場で━━」
「一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれたまえ。オーディンに訊いているのだ。まだこのようなことを続けるおつもりなのか?」
「そうじゃよ。その方が今よりも何倍も楽しいからの。日本の神道を知りたくての。あちらもユグドラシルに興味を持っていたようでな。和議を果たしたらお互いに大使を招く予定じゃよ」
オーディンの回答にロキは苦笑した。
「……認識した。なんと愚かなことか。━━ここで黄昏を行おうではないか」
ふいに俺たちを悪寒が襲った。ロキが凄まじい敵意を放ち始めたのだ。悪とはいえ神様、舐めてかかると死ぬな。
俺は異空間から銃剣を取り出してロキに確認する。
「抗戦の宣言と受け取っていいんだな?」
俺の最終確認にロキは不敵に笑み。
「いかようにも」
ドガァァァァアアアアンッ!
突如、ロキに波動が襲いかかった!
それを放った者を見ると、ゼノヴィアだった。デュランダルから大質量のオーラを放ったようだ。
「ゼノヴィア、先手必勝と言うが、あの様子だと効いてないぞ」
俺は何事もなさそうに宙に浮くロキを睨む。さすがは神様だな。
「聖剣か。いい威力だが、神を相手にするにはまだまだだ」
木場が聖魔剣、イリナが光の剣を生成して身構える。
それを見ていたロキが笑う。
「ふははっ!無駄だ!これでも神なんでね、たかが悪魔や天使の攻撃ではな」
ロキが左手を前にゆっくりと突きだす。その手には圧倒的なプレッシャーが集まっていく!
俺はその場を飛び出して右の銃剣でロキに斬りかかる!ロキは左手に込めたオーラでそれを受け止めた!
「ほう!なかなか良い動きをするな!」
「それはどうもっ!」
俺は適当に返しながら一旦距離を取りながら左の銃剣の銃口を向けて連続で滅びの弾丸を放つ!が、ロキが展開した魔方陣に阻まれた!
北欧の術式!厄介だな!
俺は連続で射撃してロキを牽制し、その隙に
ロキは防御を止めて接近してきた一誠に対処する。一誠の渾身の拳を軽やかに避けて蹴りをくらわせていた。
俺は銃剣を両剣モードに変えて刃を滅びの魔力で覆う。そしてそれをブーメランのように全力で投げた!
高速回転しながら飛んでいくそれをロキは余裕で避け、不敵に笑む。両剣はとんでもない方向まで飛んでいってしまった。
俺が舌打ちをしていると、リアスと朱乃も馬車から出てくる。二人ともオーラを纏って臨戦態勢だ。
「紅の髪。グレモリー家……だったか?そこの男とそこの娘は魔王の血筋か。堕天使幹部が二人、天使が一匹、悪魔がたくさん、赤龍帝も付属。ずいぶん厳重な警備だな」
「その厳重な警備にして正解だったわい」
オーディンの一言にロキは頷き、不敵な笑みをいっそう深めた。
「よろしい、ならば呼ぼう」
言うと、マントを広げ、高らかに叫ぶ。
「出てこいッ!我が愛しき息子よッ!」
ロキの叫びから一拍空けて、宙に歪みが生じる。
何かを呼び出したようだな。何が出てくることやら……。
その空間の歪みから出てきたのは灰色の狼だ。十メートルぐらいはありそうだな。
俺はそれを確認しながら、頬を流れる嫌な汗を意識してしまう。あれから感じるプレッシャーは、ヤバイ!関わったらアウトの部類のものだ!
狼が俺たちを順番に睨む。睨まれた瞬間に全身を悪寒が走った。ロキ以上のプレッシャーに心臓を鷲掴みにされたような感覚を持ってしまう。
「いかん、そいつには手をだすな!イッセー、ロイ、距離を取れ!」
アザゼルが珍しく焦ったような表情になっている。いや、もう、あれが何かはわかる。
「アザゼル、あれは
「ああ、間違いない………」
俺とアザゼルはお互い確認しあい、その狼━━フェンリルを最大に警戒する。神をも殺せる牙を持つ怪物、俺たち普通の悪魔なら即死してもおかしくはない。
ロキがフェンリルを撫でながら言う。
「そうそう。気をつけたまえ。何せ、こいつの牙はどの神でも殺せる代物なのでね。試したことはないが、他の神話体系にも有効だろう」
そこまで言うと、ロキはリアスをゆっくりと指差す。
「この子に北欧の者以外の血を覚えさせるのも良い経験になるかもしれない」
━━ッ!
やらせるわけねぇだろがっ!
俺が動き出そうとした瞬間、ロキは言葉の続きを口にした。
「━━魔王の血筋。その血を舐めるのもフェンリルの糧となるだろう。━━やれ」
オオオオォォォォォォオオオオオオオンッ!
透き通るほどの遠吠えが夜空に響き渡る。俺はそれを半分無視してリアスを目指す。一瞬遅れてフェンリルもリアスを目指して宙を駆け出した!
俺はフェンリルよりも早くリアスの元にたどり着き、そのまま強引に押し飛ばす!
「キャッ!」
リアスが小さく悲鳴をあげるが、それに構う暇はなく、俺にフェンリルの爪が振り下ろされた!
「ッ!」
俺はそれを紙一重で避ける!耳元を風切り音が通りすぎ、全身に鳥肌がたった!一瞬でも反応が遅れたら死んでいたな!
フェンリルが再び攻撃を放とうとした瞬間に横合いから飛んで来た一誠に殴り飛ばされた!
「一誠、いい反応だ!」
「はい!ありがとうござい━━ごぶっ」
一誠が突然血を吐いた。見ると腹部に風穴が空いている!?フェンリルに目を向ければ、爪の先が血で湿っている。
「一誠!」
俺はあわてて近づき、そのまま肩を貸す。血が出過ぎだな、このままだと危険なのは見ればわかる。
「アーシア、回復だ!急げ!」
「は、はい!」
アーシアが手元に緑色の回復オーラを集めてこちらに放とうとしている。ちょうど来てくれたゼノヴィアと木場に一誠を任せ、俺は盾になるように前に出る。
「赤龍帝、そしてそこの男、一瞬とはいえフェンリルの動きに対応したな。恐るべきことだ。いまのうちに始末しておこう」
ロキは再びフェンリルに指示を送る。どうする!避けたら一誠たちが危険で、避けなければ俺が死ぬ………。選択の余地はない…………!
俺は両手に滅びの直刀を生成して二刀流の構えを取り、フェンリルを睨む。どうにかして一誠の回復までの時間を稼ぐ。死にかけても、最悪生きていればアーシアがどうにかしてれる!
俺が飛び出そうとすると、ロキにアザゼルとバラキエルが仕掛ける!だが、二人の攻撃は俺の攻撃を防いだものと同じ魔方陣で防がれている。
やはり、あの術式が厄介だ!神クラスなだけあって固い!北欧はそこんところがこっちよりも進んでいるからな!余計にそう思えて仕方ない!
「だったら、同じ術式で!」
ロスヴァイセがロキのものとよく似た魔方陣を何重にも展開して魔法攻撃を放っていく!まさしくフルバーストだ!
俺は勝手に興奮していたが、ロキはそれさえも余裕で防いでしまう。やはりダメなのか!
「では、こちらの番だな」
ロキが手を薙ごうとし、それにあわせてフェンリルが俺に向けて殺気を放ってくる。無感情な薄暗い双眸が俺を捉えて離そうとしない。
俺はそれを真正面から受けながら殺気を押し返す。すごい怖いが、どうにかなるレベルだ。
俺が覚悟を決めて飛び出そうとした瞬間、俺たちの視界に光が一閃流れていく。それは高速でフェンリルの横を通過していき━━。
『
謎の音声と共にフェンリルを中心に空間が大きく歪んでいく。フェンリルもその歪みに捕らわれ、動きを封じられる。が、すぐに歪みを噛み砕いて脱出した。
俺たちとフェンリルの間に白銀が降りてくる。
「兵藤一誠、無事か?」
「ヴァーリ……」
俺たちの前に現れたのはヴァーリだ!さっきの攻撃はあいつがやったのか!
だが、白龍皇の技をあっさりと噛み砕くとは、さすがはフェンリルだ。敵ながらそこは評価したい。
「おいおい、おっぱいドラゴンは致命傷かぃ?ったく、強いんだか、弱いんだか、わからねぇ奴だぜぃ!」
ヴァーリの横に金色の雲に乗った青年がつく。確か、美猴だったか、孫悟空の末裔だったな。って、なんでこいつが?
「今度は白龍皇か!」
ロキはヴァーリの登場に嬉々として笑む。
「初めまして、悪の神ロキ殿。俺はヴァーリ、ご存知の通り白龍皇だ。━━貴殿を屠りに来た」
ヴァーリの宣戦布告にロキはいっそう強く笑む。
「二天龍を見られて満足した。━━今日は一旦引き下がろう!」
ロキはフェンリルを自身のもとまで下がらせるとマントを翻した。すると、空間が大きく歪み始める。
「この国の神々との会談の日!またお邪魔させてもらおう!オーディン!次こそは━━━」
「格好つけているところ悪いが……」
俺はロキの言葉を遮り、ロキに訊く。
「おまえさん、ブーメランって知ってるか?」
「なに?」
「いや、簡単なもんだ。投げたら、『戻ってくる』んだよ」
「まさかっ!?」
ロキはハッとして振り返るがもう遅い!
ロキにフェンリルの死角から飛んで来たそれは、まっすぐロキの元に向かい。そして、
ズバッ!
「ッ!?」
ロキの右腕を断ち切った!勢いよく戻ってきたそれ━━両剣をキャッチし、その勢いでついた血を飛ばす。
「き、貴様ぁぁぁぁぁッ!!」
「ほらほら、とっとと帰れ。男に二言はないだろう?」
「チッ!オーディンだけではない、貴様も殺す!待っていろよ!」
ロキは忌々しそうに言い捨て、フェンリルに斬れた右腕を回収させると空間の歪みに入っていった。
とにかく、凌げたようだ…………。
俺はホッと息を吐いたが、一誠は失血で気を失ってしまったようだ。
俺たちは慌てながら一誠の介抱をし、ヴァーリたちと地上に降りたのだった。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。