「ロイ先生!『乳神様』って、なんですか!?」
「…………知るかぁぁぁぁぁああああッ!」
戦場には似合わない絶叫が、この戦場で響き渡った。
乳神様だと!?そんなふざけた名前の神なんて聞いたことはないぞ!
俺は困惑しながらもアーシアに叫ぶ!
「アーシア!一誠を回復しろ!これは、致命傷だぞ!?」
「イッセーさん!しっかりしてください!」
アーシアが一誠の頭部に回復の光を飛ばす。その光は優しく一誠の頭を包み込んだ。あれで大丈夫だな。
「違うんです!確かに朱乃さんのおっぱいが自分の乳の精霊だって!」
一誠が真面目な顔で弁明するが、逆にバラキエルが睨み付ける。当のバラキエルは朱乃を庇ってフェンリルの爪に斬られたらしく、アーシアの回復のおかげで大丈夫そうだが、服には血がついている。
そのバラキエルは傷が開くことをお構い無しに一誠を睨む。
「貴様………!うちの娘がそんなわけのわからないものだと言うのか………!」
体に雷光を走らせて完全にぶちギレているようだ。
再び一誠の頭部に回復の光が届く。今度こそ大丈夫の筈だ。
「ですから!本当に聞こえたんです!」
「クソッ!ダメなのか………!一誠、おまえのことは忘れないからな」
俺が悔しがるようにそう言うと、今度はドライグの声が俺たちの耳に届く。
『い、いや、皆聞いてくれ。確かに俺にも乳の精霊の声が聞こえる………。残念だが、こいつは異世界の神の使いを呼び寄せたらしい』
ドライグの言葉に俺たちは絶句する。開いた口が塞がらないとはまさにこのことと言わんばかりの状況だ。
「ダメだ………ドライグまで………」
俺がかろうじて言葉を発っすると、それを聞いた全員が首を縦に振る。
『うおおおおおんっ!どうせおっぱいドラゴンの声なんて誰も信じちゃくれないんだ!俺は悪くないぞ!相棒が、相棒がぁぁぁぁ!』
それを見て泣き叫ぶドライグ。あいつも心労が絶えないようだ。
「はぁ………、どうすんだよこの空気。仕切り直すにしてはもう手遅れだよな………」
溜め息を吐きながらロキとフェンリルを見る。二人もどうするか迷っている様子だ。
今のうちに溜めておくか………。
俺は左手の銃剣を異空間にしまい、右手の銃剣にゆっくりと魔力を込めていく。バレたら速攻で仕掛けてくるんだろうが、今は一誠に注意が向けられているからな。
俺が慣れない作業を行っていると、突然一誠の鎧の宝玉が輝き始め、ミョルニルからは強烈な波動を感じられるようになった!一誠やヴァーリを越えているぞ!?
「覚えのない神格の波動を感じるな。異世界の……乳神?今回の赤龍帝は不思議がいっぱいだな!」
ロキは仕切り直すようにマントを広げ、再び影を拡大させていく。そこからは再び五匹の量産型ミドガルズオルムが出現した!
クソッ!面倒な奴が増えたな!消耗戦とかそんなレベルを越えてきたぞ!
俺が舌打ちをした瞬間、黒い炎が地面から巻き起こり、ロキと子フェンリル、量産型ミドガルズオルムを包み込んだ!
黒い炎、今度はなんだよ!?
「━━━ッ!このオーラ、ヴリトラか!?」
タンニーンが叫ぶ。
ヴリトラってことは、匙か!あいつ、何か大変なことになっているんだが!?
地面に現れた巨大な魔方陣。そこから黒い炎がドラゴンの形となって生み出されてくる。
それを見ていた俺の耳に叫びが届く。
「ロイさん!」
「今度は尻神か!?いい加減にしろよ!」
「違います!あれは匙で、ヴリトラ系の
「な、なるほど。なかなか無茶をするもんだな、グリゴリの連中………」
「俺が匙が暴走しないように話しかけます!ミョルニルを当てるので隙を作ってください!」
「任せろ。一発ぶんなら溜めてある」
俺は右手の銃剣を見る。銃口から滅びのオーラが漏れでて、小さな雷のようになって銃剣を這っている。
「なんだ、この炎は!?動けん!力も吸われているのか!?」
ロキが狼狽えながら黒い炎を振り払おうとしている。子フェンリルも量産型ミドガルズオルムも暴れているが、脱出はかなわないようだ。
俺はロキに銃口を向け、ロスヴァイセに叫ぶ!
「おまえらも合わせろ!一気にいくぞ!」
『はい!』
俺の叫びに全員が賛同し、攻撃の準備を開始する。
「オーディン様の敵は全部倒します!」
真っ先に仕掛けたのはロスヴァイセだ。一気に魔方陣を展開して魔術攻撃を縦横無尽に放つ!
身動きがとれない子フェンリルと量産型ミドガルズオルムにそれらは容赦なく突き刺さっていき、連続で爆発を発生させていく!
一誠が雷を宿らせたミョルニルを構え、ロキに飛び出していく!ロキはそれを迎撃しようとするが、俺はゆっくりと息を吐き、ロキに銃口を向ける。
「無視は困るな………」
俺はぼそりと呟き、滅びの弾丸を放つ!反動で体が後ろに吹き飛ばされかけるが、足を踏ん張ってそれに耐える!
後ろにスライドしながらも弾丸の行き先を見る。ロキは目を見開きながらこちらに手を向けてオーラを放ってくる!弾丸はまっすぐロキに向かい、腹部に直撃する!
ロキの放ったオーラを、俺は横にきりもみ回転しながら回避したが、俺がいたところで爆発が起こって吹き飛ばされた!
俺は地面を何度か転がったところで無理やり勢いを殺す。ロキの方は撃たれた腹を押さえながら俺を睨むが、大事なことを忘れているな………。
俺は口元を笑ませながらあごである場所をさす。一誠がミョルニルを今にも振り下ろそうとしていた!
ロキは慌てながらも黒い炎を振り払って一気に上昇する。一誠の攻撃を避けれたところで判断したのか、ロキは不敵な笑みを浮かべるが、そこに━━━━。
ビガガガガガカガガガガッ!
特大の雷光が放たれた!そちらを見ると、朱乃とバラキエルが手を取り合っている。一誠が何かしたようだが、うまくいったようだな。
「な……何をした!」
煙を上げながらまだ逃げようとするロキ。
「言った筈だ!無視は困るってな!」
俺は叫びながら指を鳴らす。その瞬間、ロキの腹を貫くように一本の滅びの刃が飛び出しきた!
ロキは血を吐きながら再び落下してくる。追い討ちをかけるように黒い炎が再びロキを拘束する!
一誠はロキに狙いをすまし、一気にミョルニルを振り上げ━━。
「俺式ミョルニルだぁぁぁぁぁぁッ!」
ミョルニルが完璧な軌道でロキの頭部に打ち込まれた!
その瞬間、凄まじい量の雷が発生した!その雷はロキだけでなく、子フェンリルと量産型ミドガルズオルムを巻き込み、採石場全体を照らした…………。
「………終わった、か」
俺はロキたちが動かなくなったことを確認しながらそう漏らした。それにしても━━━。
「ずいぶんボロボロになってしまいましたね………」
「だな」
ロスヴァイセが俺の横に来ながらそんな事を言っていた。ロスヴァイセは先ほどロキに色々と封印を施していたのだが、それはもう済んだようだ。
「やれやれ、ヴァーリチームはどっかに行っちまったし、処理まで手伝えってんだ、面倒くせぇ」
俺は頭をかきながら隠す気もなく愚痴をこぼす。ロスヴァイセはそれを聞いて苦笑していたが、ある場所に目を向けていた。
俺もそちらに目を向けると、一誠がバラキエルに肩を貸しながら何かを話しているようだ。その横にいる朱乃は顔を赤くしているが、何を話しているのやら………。
俺は横目でロスヴァイセを見ると、背中を向けて懐からタバコを取り出す。それをくわえて手早く火を━━━。
「やらせません!」
「はぁ………」
つけようとしたら再び奪われた。俺は溜め息を吐きながら再び周囲を見渡す。視界いっぱいに広がるのはボロボロの採石場だ。
「とりあえず、もと通りにしないといけないんだよな」
「………頑張りましょう!」
ロスヴァイセは励ますようにそう言う。
ならタバコの一本くらい吸わせろ!
その言葉を口に出すことはなく、その代わりに、
「俺は面倒が嫌いなんだがな………」
そう呟いた。ロスヴァイセの苦笑を無視しながら歩みを進める。さっさと終わらせて休ませてもらいますか。
余談だが、この戦後処理は次の日の朝までやることになった。これの大半を引き起こしたヴァーリの野郎はどこに行きやがった!
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。