「そう、リアスとロイが迷惑をかけてなくて安心したわ」
「いえ、そんな、リアスお姉様のおかげで私はここにいられるのです」
「ロイ様にも、コカビエルの一件で助けていただきましたから」
アーシアと朱乃が
俺もいつもの通りに座ってはいるんだが、横のリアスの表情が相変わらず固い。
今この場には兵藤家にお世話になっている全員が揃っている。兵藤夫妻は外出中ではあるがな。
「リアスは少々わがままですから、眷族の皆さんにご迷惑をおかけしているのではないかと心配だったのです」
「そんなことはありませんわ。リアスは私たちの中心になって、皆の面倒をよく見ているのですよ」
朱乃が満面の笑みでフォローを入れる。朱乃とリアスと付き合いはそれなりに長いようで、多分俺と入れ替わりじゃないだろうか。
「良いお友達、良い後輩に恵まれて、リアスは幸せ者ね」
義姉さんが微笑む。義姉さんが本当に嬉しいときに見せる笑顔なのを俺は見逃さなかった。
俺は横で微笑していると、義姉さんが俺にも視線を向ける。
「ロイもあまり迷惑をかけていないようで安心です。あなたはどこか抜けていますから」
「抜けているって、あんまり自覚はないですけどね」
俺は苦笑しながら頬をかく。こっちに来てからはあんまり迷惑をかけていないとは思うから、大丈夫だろう。
俺はなんて事を思ったが、義姉さんは視線を少し厳しくした。
「ロイ、聞きましたよ?あなた、タバコを吸っているそうですね?」
「え?ああ、はい。潜入任務に出てしばらくした頃から……」
「タバコは体に悪いのよ?任務も終わったのだから、もっと体を大事にしなさい」
「善処します」
俺は小さく溜め息を吐く。ロスヴァイセだけでなく、義姉さんからも注意されてしまった。これは、本格的に禁煙するべきか………。
義姉さんはそれを聞いて少し不満げであるが頷くと、その厳しい視線をリアスに向ける。
「リアスは………あとは殿方かしらね」
その発言をした瞬間、室内の空気が様変わりする。先ほどまで和んでいたものが、一気に張り詰めたものになったのだ。
「ま、まさか………そういうことなのですか………?」
先ほどまで微笑んでいたアーシアの表情が緊迫したものになり、
「……そうよね、グレイフィア様が正式にここへいらっしゃるということはそういうことも含まれるわよね」
朱乃の笑みがプレッシャー滲ませ始め、
「………いつか来るとは思ってましたが」
基本的に無表情の小猫の表情も険しいものへと変わる。
ゼノヴィア、イリナ、一誠だけはわかっていないようで疑問符を浮かべている。
ロスヴァイセがいれば何かコメントすると思うが、あいつは買い物に行っている。あいつもこれから兵藤家にお世話になるのだ。
リアスが顔を真っ赤にしながら義姉さんに言う。
「お義姉様!その件でここへいらしたのですか?そ、それは自然に事を進めるということで私にすべてを任せてくださると思っていましたのに!」
「あら、リアス。私もお
義姉さんの淡々とした口調にリアスも強くは出られない様子だ。義姉さんを下手に怒らせたくないと思っているのだろう。
破談になった身の上話ってのは少し聞いたな。確か、フェニックス家の三男━━ライザー・フェニックスとの婚約を破談にさせたそうだ。一誠が式場に殴り込んで。
俺は特に気にしていないが、これはなかなか大きな事件であり、周囲からも『グレモリーのわがまま姫が婚約を破談させた』と陰口を叩かれているそうだ。
考えてみれば、俺とヴィンセントが義理の兄弟になっていたかもしれないのか。……それはそれで嫌だな。あいつとは、親友として付き合っていきたい。
俺は一人そんなことを考えていたのだが、義姉さんの言葉で意識を前に戻す。
「悪魔はただでさえ、出生率が危ぶまれています。特に名家の血を絶やすわけにはいかないのです。いずれ、あなたたちにも次世代の子の親になってもらいたい。お
義姉さんは真剣な顔で俺とリアスに言ってきた。俺としては時間の問題なのだが、細かくは話さないでおこう。
義姉さんは表情を緩和させて苦笑する。
「と言っても、私もあの一件に関わっているものね。あなたを助けてしまった。それ以前に━━私とあの人もなんだかんだで自由な恋愛をしてしまったのだから。当時、立場で言えば、あなた以上に複雑だったわ」
「あの時は大変でしたね………」
俺は懐かしむように漏らす。義姉さんを追ってきた連中を殺害して、義姉さんに殺気向けられて、ヴィンセントに絡まれて、まあ、最後のひとつは楽しかったけどな。
「ロイには迷惑をかけましたね」
「当時の任務は亡命支援とかが多かったですから、大丈夫でしたよ」
俺と義姉さんが二人で話していると、朱乃が反応した。
「ロイ様も関わっていたのですか!?では、劇に登場するあの方は━━━」
「━━ロイ先生が元になっていたんですね」
朱乃に続いて小猫も反応した。そういえば、あの話、劇になっていたな。━━━見たことはないが。
てか、当事者が見ても「だよな」としか思えないんだよな。
義姉さんは気恥ずかしそうにしながら咳払いをひとつして、表情を改める。
「私たちの一件もあるものだから、どうしてもあなたに想いを乗せてしまうの。私はあなたに立派な上級悪魔のレディになって欲しいのよ。次期当主としての自覚を強く持ってもらいたいわ。そのためにいろいろと改善しないといけない部分が多分にあるわね。自分の━━━」
義姉さんはリアスへの説教を始めてしまった。このヒト、こうなると長いのは相変わらずだな。
リアスは言い返す隙を見つけることができずに一方的に説教されている。次期当主として気品を大事にしているとはいえ、リアスもまだまだ子供、怒られるとシュンとしてしまうのだ。ここは昔から変わらないな。
俺は妹の変わらないところを見て苦笑していると、義姉さんが俺に視線を向ける。
「ロイもロイよ。あなたにも都合があるとはいえ、同世代で身を固めていないのはあなたを含めてごく僅かよ?もう少しあの子を大事にしなさい。時々、突然会いたい会いたいと叫ぶのだから」
「あはは、また発作ですか………」
俺は再び苦笑してセラのことを思い出す。小さい頃はしばらく会えないだけで泣き出していたそうだが、それがまた出てきたようだ。
今の話を聞いたリアス以外の面々は首を傾げているが、俺は構わずに続け━━━、
「ロイィィィィィイッ!」
「くべらっ!?」
俺は突如背後から体当たりをくらって前のめりに倒れた!机に頭から突っ込むのって、結構痛いんだぜ?地味に左肩に衝撃が響いて痛いんだが……。
俺は体を起こそうとするが、なんか変な態勢になっているためか全然動けない。
そんな俺の耳に聞き馴染んだ声が届く。
「あはは、まるで昔を見ているようだよ」
「兄さん、見てないで助けてくれ」
俺は声だけで相手を判別して声をかけた。それと、
「セラも退いてくれ。それと、抱きつくなら正面から来てくれ」
「はーい」
俺の背中に張り付いていたヒトにも退いてもらい、俺は姿勢を元に戻す。体を軽く伸ばし、左肩を一回回してみる。問題はなさそうだ。
俺はそれを確認して、今きたのであろう二人に少し怒気を込めながら訊く。
「で、兄さん、セラ。何しに来た」
俺の視線の先には兄さんとセラが並んで立っている。いつの間に入り込んだのか、話に集中しすぎて気がつかなかった。
兄さんは特に気にすることなく、手に持っていた袋から何かを取り出す。
「さて、挨拶は手短にしようか。ごきげんよう、皆。お土産を持ってきたんだ。私がプロデュースしたリアスの写真集、『スイッチ姫と呼ばれた娘~リーアたん成長編~』。幼少の頃から日本のハイスクールに入学するまでの成長記録なのだよ」
と言いながら写真集を配り始める兄さん。俺はそれを受け取って目を通していく。
俺が面倒を見ていた頃から、任務に出た後の中学生の頃など、様々な写真が貼られている。
当のリアスは顔を真っ赤にしながら写真集を回収していた。それはそれとして、
「セラは何で来たんだ?今日は会議があるとか言っていたと思ったんだが?」
「ここから参加するからいいのよ!私は最近不足している
セラは横チョキしながら何てことを言う。こいつ、大丈夫だろうか?
俺は溜め息を吐いて立ち上がり、後ろに誰もいないところに移動する。セラと面と向かいあい、両腕を広げる。
「よっしゃ、ドンとこい!」
「それじゃあ、改めて━━━」
セラはゆっくりと重心を落として足に力を入れていく。そして、
「ロイィィィィィイッ!」
「だっしゃあっ!」
俺に飛びついてきた!俺は今度は踏ん張って衝撃に耐える!無事に耐えると、セラの頭を撫でてやる。
「ロイの臭いロイの臭いロイの臭い━━」
ぼそぼそと何かを言いながら鼻で肺一杯に空気を取り込んでいる。何か、最近会うたびにこれをするんだよな………。
こんなことをしているためか、兄さんと義姉さん、リアス以外の面々が驚愕の表情を浮かべている。
「あー、言ってなかったな。俺はセラの、現レヴィアタンの恋人なんだ」
『え?』
それを知った面々は口をぽかんとさせながらリアスに視線を送る。
リアスは当然と言うように頷き、奥にいた兄さんは義姉さんに頬を引っ張られながらも頷いていた。その義姉さんもしっかりと頷いている。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
この広い家に、衝撃(?)の事実を知った面々の叫びが響き渡った。
本当に、こいつらは元気だな。
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