俺━━ロイはホテルの学園本部に指定された部屋でまったりしていた。アザゼルは妖怪たちに話をつけに行っているため、俺がここを任されたのだ。
それにしても、
「………平和だな」
あくびの後に本音が漏れてしまったが、本当に平和だ。生徒たちからの緊急の連絡もなく、本部にいる俺は退屈でたまらない。まあ、横には同じくロスヴァイセがいるわけだから、
「ロイ先生、気を緩めてはいけません!いつ何が起こるかわからないのですから、常に警戒しておいてください!」
「警戒って、敵が攻めてくるわけじゃないんだから、そこまで固くなくてもいいだろ?なあ、先生?」
「気を引き締めておくことは大事ですよ」
ロスヴァイセとは別の教師にふったが、真面目に返されてしまった。まあ、気を緩め過ぎか。
俺は一度大きく伸びをすると、ケータイが鳴る。すぐに見てみるとアザゼルからのメッセージだった。
『話はついた。イッセーたちと合流してくれ。向こうの姫様が謝りたいそうだ』
とだけ書いてある。どうやら、どうにかなったようだ。
同じくメッセージを見ていたロスヴァイセと頷きあうと、俺は横の先生に声をかける。
「仕事のようです。行ってきます」
「私も同行します。ロイ先生だけでは不安ですから」
「わかりました。こちらは任せてください」
先生の返事を受けながら俺とロスヴァイセは本部を出る。そしてロスヴァイセに確認した。
「この時間だと、一誠の班は銀閣寺か金閣寺だったな。どっちに行く?」
「金閣寺に先回りしましょう。入れ違えたら大変です」
「だな」
こうして、俺とロスヴァイセは二人で金閣寺を目指すことになった。道中のバスで妙に視線を感じたが、気にすることでもないか。若干ロスヴァイセの顔が赤かった気もしたがな。
金閣寺に到着。俺とロスヴァイセは一誠たちを探して走り出すが、ある異変に気づく。
「観光客全員が寝てやがるな。妖怪側から何かしたのか?」
「わかりませんが、急ぎましょう!」
走ること数分、俺とロスヴァイセの視線の先には一触即発の雰囲気の一誠たちと狐の妖怪━━
俺は両者の間に割り込むようにして駆け込み、一誠たちに言った。
「おまえら、ストップだ」
「ロイ先生!どうしてここに?」
驚く一誠に俺は返す。
「誤解が解けた。向こうの姫様が謝りたいそうだ」
アザゼルからのメッセージをそのまま伝える。一誠たちは少し困惑しながらも構えを解いてくれた。
俺も息を吐き、妖狐の女性に目を向けた。俺の視線を受けた妖狐の女性は前に出ると深く頭を下げる。
「私は九尾の君に仕える狐の
疑問符を浮かべる一誠たち。おそらく、どこに行くのか訊きたいのだろう。その疑問を口にする前に妖狐の女性が言う。
「我ら京の妖怪が住む━━裏の都です。魔王様と堕天使の総督殿も先にそちらにいらっしゃっております」
俺たちが足を踏み入れたのは、冥界とも違う雰囲気の場所だった。
江戸時代を思わせる建物が
金閣寺近くの人気のない場所に設置されていた鳥居を
ここに住む妖怪たちが俺たちに好奇の視線を向けてきている。それを感じながらも俺たちは姫様がいるという場所を目指して足を進める。通りにある
「うきゃきゃきゃ」
「…………」
「すんません」
提灯に目と口をつけたような妖怪が絡んできたが、睨んで黙らせる。いちいち相手にしていたらキリがない。
今のやり取りを見ていた妖狐の女性が謝ってくる。
「すみません。ここの妖怪たちはイタズラ好きで……。害をなす者はいないと思いますが………」
「まあ、妖怪の世界だからな。ああいうのもいるもんだろ」
俺が返すと一誠が訊く。
「ここって、やっぱり妖怪の世界なんですか?」
その問いに妖狐の女性が答える。
「はい、ここは京都に住む妖怪が身を置く場所です。悪魔の方々がレーティングゲームで使うフィールド空間に近い方法で作り出したものだと思ってください。私たちはうらやましい街、裏京都などと呼んでおります。むろん、表の京都に住む妖怪もおりますが」
裏京都か。冥界程ではないにしろ、ここもそれなりに広そうだな。
妖狐の女性から説明を受けながら歩くこと数分。俺たちは家屋の立ち並ぶ場所を抜け、小さな川を挟んで林に入る。そこをさらに進むと巨大な赤い鳥居が現れた。
その奥にはデカイ屋敷、古さと威厳を感じさせる佇まいを感じる。
━━━っと、鳥居の先にアザゼルとセラがいるな。セラは相変わらず着物姿だ。気に入ったのかもしれないな。
「お、来たか」
「皆、待ってたわよ☆」
妖怪の世界でも二人は変わらないようだ。まあ、それが二人らしいといえばそうなのだが。
それはそれとして、二人に挟まれるように金髪の少女が立っていた。戦国時代の姫が着ているような動きにくいであろう豪華な着物に身を包んでいる。見た感じ、あの子が姫か?
「
妖狐の女性はそれだけ報告すると、ドロンと炎を出現させて消えてしまった。いわゆる狐火ってやつだな。
九重の呼ばれた姫は一本木前に出ると俺たちに、正確には一誠たちに目を向けて口を開いた。
「私は表と裏の京都に住む妖怪を束ねる者━━
自己紹介をしたあと、深く頭を下げる。
「先日は申し訳なかった。お主たちを事情も知らずに襲ってしまった。どうか、許して欲しい」
それを受けた一誠は困り顔で頬をかいていた。
「ま、いいんじゃないか。せっかくの京都を堪能できれば私はそれでいい」
「そうね。許す心も天使には必要だわ」
「はい。平和が一番です」
ゼノヴィア、イリナ、アーシアが言う。それを受けた一誠は小さく息を吐くと口を開く。
「てな感じらしいんで、俺も別にもういいって。顔をあげてくれよ」
「し、しかし………」
九重は一誠たちが思っている以上に気にしているようだ。一誠はそれを察したのか、片ひざをつき、九重と目線を合わせて言う。
「九重でいいかな?なぁ、九重、お母さんのこと心配ななんだろう?」
「と、当然じゃ」
「なら、あんなふうに間違えて襲撃してしまうこともあるさ。もちろん、それは問題になったり、相手を不快にさせてしまったりしまう。でも、九重は謝った。間違ったと思ったから俺たちに謝ったんだよな?」
「もちろんだとも」
一誠は九重の肩に手を置き笑顔で続ける。
「それなら俺たちは
九重はその言葉を聞くと、顔を真っ赤に染めてもじもじしながらつぶやく。
「……ありがとう」
一誠は頷くと立ち上がる。そんな一誠に言う。
「さすが子供たちの味方だな。扱いに慣れてる」
「確かに、さすがはおっぱいドラゴンだな」
「さすがおっぱいドラゴンだ」
「はい、さすがです!感動しました!」
「見事な子供の味方よね」
「ちょ!?皆で茶化さないでくださいよ!これでも精一杯なんですから!」
頬を赤くしながら照れる一誠にロスヴァイセが言う。
「ちょっと見直しました。教師として鼻が高いです」
少しだけ一誠の評価が上がったようだ。どれだけ低いかはわからないが、百均とかについて語れば上がる気がするがな。とりあえず頑張れ。
「ま、負けていられないわ!こんなところまでおっぱいドラゴンの布教だなんて!『ミラクル☆レヴィアたん』の主演として負けていられないんだから!」
セラが対抗意識を燃やし始めた。俺はいつだってセラの味方だけどな。
俺たちがそんなことを話していると、九重が照れながら言う。
「……咎がある身で悪いのじゃが………どうか!母上を助けるために力を貸してほしい!」
少女の悲痛な叫びが、俺たちの耳に届いた。
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