俺━━ロイの初陣から一年ほど経った。
あれから何度も戦場に立ち、何人、何十人という堕天使を斬ってきた。
「はっ!」
「ぎゃっ!?」
また一人、袈裟懸けに体を斬った。そして周りを見回すと、なぜか俺に堕天使が殺到して来ているのがわかった。
まったく、面倒だ………!
手にしていた直刀を大剣に変え、魔力を込めていく。大剣から紅の滅びの魔力がほとばしり、禍々しく光始める。そして、
「おらぁぁぁぁぁっ!」
大上段から一気に降り下ろす!同時に大剣から放たれた滅びが堕天使たちを容赦なく飲み込んでいき、消し飛んでいく。
少しばかり疲れるが、効率はいいな。
そんな事を思いつつ、短く息を吐く。
セラや兄さんは別の戦場らしいからな、今回は助けにいけない。
周りを見れば、割りと悪魔が優勢のように見える。他の戦場はどうなのかはわからないが、最悪ここから増援として向かうことも出来そうだ。
何て事を考えた瞬間、俺の耳元に連絡用の魔方陣が展開された。そこから焦りの色が強い声が聞こえてくる。
『ロイ・グレモリー、聞こえるか!?』
「はい。問題ありません」
『他の区画が劣勢のようだ!至急増援に向かってくれ!』
「わかりました」
なぜ慌てているのかは聞かずに答える。それと同時に連絡用魔方陣が転移用魔方陣に変わり、光が俺を包んでいく。
さて、鬼が出るか蛇が出るか、やるだけやるしかないか。
俺を包んでいた転移の光が弾け、視界が回復する。そして、そこに飛び込んできたのは━━━、
「な、何があった…………?」
クレーターができ、その周囲の森が吹き飛び、焼けている光景だった。この近辺の地形が変わっているほどの戦闘の後だ。
ただの堕天使と悪魔の戦いではそう簡単にはならないであろうほどの爆撃でもされたような被害。悪魔の気配もほとんど感じない………。
俺は目を閉じて周囲の気配を探る。何秒かやってみると、クレーターから少し離れた森から微弱な悪魔のオーラを感じることができた。その近くには強力な堕天使のオーラも感じる。
ここまでの被害を与えた堕天使。ただ者ではないだろうが、一つだけわかったことがある。
「セラ……!」
俺が感じた悪魔のオーラは、俺がよく知るセラのものだった。俺は即座に飛び出し、セラと堕天使のもとに向かう。
━━━━
私、セラフォルーはロイと一緒にいくつかの戦闘を生き抜いていた。今回はロイと離れてしまったけれど、きっと大丈夫………。
戦闘が始まってすぐの私はそう思っていた。けれど、それはすぐに否定された。
「弱い……。噂の『
そう呟きながら数十人の悪魔を数秒で殺害した、ウェーブのかかった黒髪が特徴の堕天使。
初めて見るけれど、私よりは確実に強いことだけは先ほどの戦闘で理解できた。
そして、あの堕天使はロイとの戦いを望んでいる。堕天使たちはロイの事を『
いつもならロイが勝ってくれるからいいけれど、あの堕天使はマズイ………!ロイは強いけれど、あの堕天使にはきっと勝てない。けれど、きっとロイは戦うはず………。私は、ロイを死なせたくない!
私は覚悟を決めて堕天使に魔方陣を展開しながら手を向ける。堕天使は私を見て見下すように言ってきた。
「貴様、手が震えているぞ?」
私はハッとして手の震えを抑えようとする。けれど震えが止まる気配はなく、余計に大きくなってしまったように思えてしまう。
それでも私は堕天使に言った。
「これは武者震いって言うの。知らないのかしら?」
「強がりは破滅を呼ぶぞ」
堕天使はそう言うやいなや、私に光の槍を投げつけてきた!私はとっさにそれを避けたけれど、光の槍は地面に当たり爆発した!
ドオオオォォォォンッ!
「ッ!?」
爆風に耐えながら私は驚愕した。今までの堕天使とは桁違いの威力。地面には大きなクレーターが出来上がり、森の木々を吹き飛ばして火事になっているほど。あんなものが直撃したら━━━!
「ハアァァァァッ!」
私は恐怖を隠すように叫びながら連続で氷の魔力を堕天使に放っていく!けれど、堕天使はその全てを手にした光の槍で、あっさりと切り払われてしまった。
私は舌打ちをしながら弾幕を濃くしていく。堕天使は少しずつ回避をしはじめているけれど、当たる気配はない。
私の攻撃を避けながら堕天使は言った。
「これだから素人は嫌なのだ。相手が誰かもわからずに挑んでくる………」
堕天使は溜め息を吐くと私の視界から消えた!?
気配を探り、とっさに上を見る。視界から消えた堕天使が突きを放とうとしていた!
マズイ、避けられない………!
私はとっさに防御魔方陣を展開してその一撃に耐えようとする!そして、光の槍と防御魔方陣が衝突した!その瞬間に私を凄まじい衝撃が襲いかかった!
「キャァァァァァッ!」
私はそのままクレーターに向けて落下していくと、先ほどの堕天使が先回りするように移動していた。
「ッ!」
私が目を見開くと同時に堕天使の蹴りが私の腹部に炸裂した!
「かはっ!」
肺の空気を吐き出しながら吹き飛ばされ、森の中に落下する。体中の痛みに耐えながら腹部を押さえて咳き込む。
「ッ!」
同時に胸に激痛が走り、表情を歪める。息が荒くなってまったく落ち着かない………。
骨が何本か折れちゃったかな?
私がそう思うと同時にゆっくりと堕天使が降り立った。
「生きているか。まったくしぶといな」
ウェーブのかかった黒髪を風になびかせながら、堕天使は光の槍を手元に作り出した。
「さて、『
そう言いながら近づいてくる堕天使。私は逃げようとするけれど、まったく体に力が入らない。
ここまで、なのかな?
私が死を覚悟した時、私の脳裏には色々な記憶が蘇ってきた。お父様やお母様と笑ったこと。サーゼクスちゃんに初めて会ったときのこと。………ロイと一緒に笑ったこと。
ロイ……私………。
堕天使が光の槍を私に降り下ろそうとしてくる。
私はその一撃を避けることも、防ぐこともなく、ただ受け入れるように目を閉じた………。
ガキンッ!
激しく金属がぶつかり合うような音が響き、続いて聞き慣れた声が私の耳に聞こえてきた。
「まったく、泣いてる場合かよ……」
その言葉を聞いて、私は目を開いた。私の視界には堕天使の槍を直刀で防ぐ紅髪の青年の後ろ姿が写った。
「すまない、待たせたな!」
私に返しながら堕天使を押し返すロイ。
押し返した勢いで斬りかかるけれど、堕天使はそれを読んでいたように後ろに跳んで避け、距離を取る。その表情は狂喜さえ感じる笑み。
「待っていたぞ!『
「おまえに言ったんじゃねぇよ!」
紅髪の青年━━ロイはそう返しながら堕天使を睨んだ。
━━━━
俺は狂喜的な笑みを浮かべる堕天使を見る。
感じるオーラは今まで会った中でも別格。そして、まとっている雰囲気も狂喜を感じさせるやばい奴。
その堕天使に俺は訊く。
「おまえ、何者だ?」
堕天使はフッと鼻で笑うと皮肉で答えた。
「どうやら、悪魔はまともに若者を育てていないようだな」
今の一言。俺ではなく家族までバカにされたような気がして、俺はさらに強く堕天使を睨む。
「もう一度は訊かない。おまえは、誰だ」
堕天使は狂喜の笑みを浮かべて俺に言った。
「俺はコカビエル。『
「「ッ!?」」
俺とセラは堕天使幹部━━コカビエルの一言で驚愕の表情を浮かべた。
こいつがコカビエル!話には聞いていたが、まさかこんな奴だとは思っていなかった。
俺たちの驚愕をよそに、コカビエルは言う。
「さあ、殺るぞ、『
「………!」
コカビエルの一言と共に高まっていくオーラ。
俺もそれを感じつつ、後ろに倒れているセラに振り向かずに言う。
「セラ、俺がこいつを引き離すからさっさと逃げろ」
「ロイ!?」
セラは驚愕しているが、コカビエルは確実に俺を狙いにくる。ならセラが巻き込まれるリスクを減らしたい。
「大丈夫だ。最悪、刺し違えてでも殺すさ」
俺は少しだけセラの方へ振り向き、安心させるように笑みを浮かべてそう言った。
セラは今にも泣き出しそうな顔をしているが、構わずコカビエルの方へと向き直る。
「話は終わったか?」
「ああ。悪いな、待たせちまって」
「構わんさ。これから楽しくなるのだからな!」
俺はゆっくりと息を吐きながら足を肩幅に開きつつ重心を少し落とし、両手で直刀の柄を握る。そのまま右足をさげて半身に構えると切っ先をコカビエルに向ける。いわゆる霞の構えだ。
「行くぜ?」
「来い!」
俺は飛び出し、勢いのまま突きを放つ!だが、コカビエルは光の槍の槍でそれを受け止めた!
俺は構わずに無理やり押し込んでいく。直刀と槍は激しい火花を散らし、それを見たコカビエルは再び笑った。
「そうだ!その一撃、その速さ!俺が求めていたものだ!」
「うるせぇ!」
俺はそう怒鳴り光の槍を上に弾き、空いた腹に右から水平斬りを放つが、
ガキンッ!
コカビエルが左手に生成した槍で受け止められた!コカビエルは同時に上段から槍を降り下ろしてくる!
俺は素早く左手を開けて逆手持ちになるように直刀を生成、それを受け止め、体の左側に競り合いながらそらす。
右を緩めたら押し負け、左を弱めたら斬られる!だったら!
俺は蹴りを放とうとするが、コカビエルも同じ事を考えたようで、二人の右足の蹴りが同時に相手に炸裂した!
「かっ!」
「くっ!」
二人同時に後ろに転がり、片ひざをつきながら腹部を押さえる。地味にくる一撃、後で効いてきそうだな。
俺は息を吐きながら立ち上がると、コカビエルも同時に立ち上がる。
幹部の名は伊達じゃない、か。
ちらりとセラの方を見る。いつもと違い、不安そうな顔で俺を見てきている。
俺はセラを助けるためにも、文字通り『死ぬ覚悟』を決めてコカビエルを睨んだ。
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