ゲーム当日。
「すげーよな、本当に島が浮いてんだから」
だいぶ調子が戻った様子の一誠が言う。視線の先には空中都市アグレアス。アジュカ様とその眷属が絶賛調査中の、旧魔王が残した謎の島だ。
それにしても、一誠が大丈夫そうで安心した。独りでだいぶ考え込んでいたようだが、一誠のトラウマを知る朱乃たちがフォローしてくれたそうだ。さっき朱乃たちに礼は言っておいた。
話を戻して今回の会場について。
今回の会場となるアグレアスはアガレス領になっている。最初はグレモリー領にしようって話だったが、バアル領にしろという意見があがり、そのまま泥仕合のような言い合いが続いたらしく、中央管理職的立場のアガレスがどうにか落ち着かせてくれたのだ。
まあ、血を重んじるとかどうとか、そのせいでクーデターが起きたというのに、学ばない奴が多いというか、頭が堅い奴ばっかというか………。
俺は面倒な思考を切り上げて外の景色に目をやる。
俺たちはアグレアスに行けるゴンドラに乗っている。そこからの景色はまさしく絶景であり、一見の価値がある。実際アグレアスから流れ落ちる滝とか、綺麗ではあるがな。
俺が景色を見ていると、アザゼルの言葉が耳に届く。
「おまえらに言っておく。注目されているだけあってテロに狙われる可能性があるが、今回は心配ないと思うぞ」
「何を根拠に言っているんだ?」
俺が訊くと、アザゼルが頬をかく。
「ヴァーリから、個人的に連絡が届いてな」
『━━━っ!』
アザゼルの言葉に驚く一同。ここでヴァーリの名前が出てくるとはな。
俺たちに構わずアザゼルは続ける。
「あの野郎、短くこう伝えてきやがった。『今回のゲームは俺も注目している。邪魔はさせないさ』━━だとさ」
その伝言に俺は頷く。
「なるほどな、いくら曹操でもヴァーリの相手はしたくないだろう。まぁ、万が一来たとしても、俺が止める」
俺の一言にリアスが少し不安げに言う。
「お兄様、今回の試合は………」
「悪いな、リアス。今回は応援もできないかもしれない。だが、俺は信じてるぞ」
俺がそれを伝えると、ゴンドラがアグレアスに到着。そのまま出迎えのリムジンを目指して、スタッフと協力して人混みを掻き分けていく。別れるにしても、ゲーム開始まで七時間ほど、時間を持て余すとかいうレベルじゃない。
そんなわけでしばらくはリアスたちのボディーガード的なことをする。人混みを掻き分けたり、壁になったりだな。
そんなこんなでどうにかリムジンに乗り込む。
「お待ちしておりましたわ」
中にはレイヴェルが待機しており、準備を進めてくれていた。ヴィンセント、おまえの妹すごいぞ。
俺は親友の妹を見てそんなことを思ったが、発進したリムジンの後方に窓越しに目をやる。マスコミの車が追ってきてやがるな。
「おまえら、個別にマネージャーつけた方がいいぞ。一誠とリアスは特にな。今回のゲーム、勝とうが負けようが認知度は上がる。毎度こんなんじゃ、
「確かに、ロイの言うとおりだ。そうだ、レイヴェル。おまえがイッセーのマネージャーになったらどうだ?」
真面目な俺の横でアザゼルがいやらしく笑いながら言った。その瞬間、アザゼルの頭部をハリセンが捉える!
スパン!という気味のいい音と共に、アザゼルは頭を押さえる。
「な、何すんだ、朱乃!」
「うふふ、ちょっとデリケートな時期でもあるので、そういうのは控えてくださいな。ね、部長」
涙目のアザゼルに朱乃は冷静に返し、リアスにウインクした。
「……………」
当のリアスは恥ずかしそうに頬を赤くしながら口を尖らせる。レイヴェルも空気を読んで特にリアクションをしない。
リアスの調子も良さそうだ、一誠との会話は少し固い気がするがな。こっちも朱乃たちがフォローしてくれたそうだ。リアスの『
そんなやり取りをしてあるうちに、リムジンは会場となる巨大なドーム、『アグレアス・ドーム』を目前にしていた。
観光地として知られるアグレアスの中で、特にアーティストの公演を行う場所、それがアグレアス・ドームだ。今回はゲームに使うがな。
俺たちはそのアグレアス・ドームの横にある高層高級ホテルに移動していた。リアスたちはしばらくはここの待機部屋で待機となり、俺もそれぐらいのタイミングで別れる予定だ。
ボーイの先導で待機部屋を目指す俺たち。俺たちが進む通路の向こうから、不穏な雰囲気と肌をピリピリと刺すような冷たいオーラを放つ集団が歩いてきた。
顔が見えないほど深くフードを被り、足元も見えないほど長いローブを着こんだ集団と、その中央にいる司祭服の何か。
一誠たちはその中央の何かを見て絶句していた。それもそうだろう、その何かの顔は骸骨なのだから。
その骸骨の頭にはミトラという司祭が被る帽子が乗っており、手には杖も携えている。
そいつは俺たちを眼前にして足を止め、目玉のない眼孔の奥を光らせる。
《これはこれは、紅髪のグレモリーではないか。そして、堕天使の総督》
魔法か何かで発せられたその声を聞いた俺とアザゼルは、業務的に笑みながら言う。
「これは、地獄の底である冥府に住まう、死を司る神ハーデス殿ではありませんか」
「
そう、この骸骨は冥府の神━━ハーデスだ。嫌なオーラを放ってやがるな。
《ファファファ………、言うてくれるものだな、コウモリとカラスめが。最近上で何かとうるさいのでな、視察をとな》
「骸骨ジジイ、ギリシャ側のなかであんただけが勢力間の協定に否定的なようだな」
アザゼルの言葉に、ハーデスは怖いほど冷静に返してくる。
《だとしたらどうする?この年寄りもロキのように
そのやり取りのあと、ハーデスを囲む死神どもが殺気を放ってくるが、
「かわいいもんだな、
俺は反射的に死神どもを睨みながら殺気で返してしまった。いけねぇな、殺気を殺気で返しちまうのは俺の悪い癖だ。
アザゼルが俺の肩に手を置き、俺が殺気を止めたと同時にハーデスに言う。
「オーディンのエロジジイのように
《ファファファ………、カラスとコウモリの群れがうるさいのでな、防音対策をしたくもなる》
まったく、もっと友好的になれっての。最悪こいつと一戦交えるとか、死んでもゴメンだ。今の俺じゃ、どう頑張っても勝てねぇ。
《まあよい。今日は楽しみにさせてもらおうか。せいぜい死なぬようにな。今宵は貴様たちの魂を連れにきたわけではないのでな》
それだけを言い残してハーデスは俺たちの横を通り過ぎていく。
俺がため息を吐くと、アザゼルが語気を強めに言う。
「ロイ、ムカつくのはわかるが少しは抑えろ。面倒は嫌いなんだろ?」
「ああ、悪いな。どうも、あいつらは好きになれん」
「わからなくもねぇがな」
俺たちが話していると、ロスヴァイセが言う。
「魂を掴まれる感覚というのは、まさに今の事を言うのでしょうね。生きた心地がしませんでした」
魂を見透かされるような感覚と言うべきか、なかなか言葉で表すのは難しいが嫌な感覚だ。死を司るだけはある。
「アザゼル先生、ロイ先生、今の骸骨さんは………?」
一誠の問いだ。こいつにはしっかり勉強してもらわないとな。
「さっき言った通り、死を司る冥府の神、ハーデスだ」
俺が言うと、空気から解放されたようにアザゼルは首を鳴らし、一誠に言う。
「あいつ、各神話の主要人の中でもトップクラスの実力者だ。絶対に敵対するなよ?ま、俺の真横に、そいつに面と向かって殺気をとばしたバカがいるがな」
「だから、おまえには謝っただろうが」
横目で俺に言ってきたので適当に返しておく。
「ハーデス自身は悪いやつじゃないんだが、他の神話を毛嫌いしていてな。人間には普通に接する神様だよ。俺たちは嫌いだがな」
「ああ、好きになれん」
俺とアザゼルがハーデスについてどうこう言っていると、
「あっ!オーディン様!」
突然、ロスヴァイセが廊下の奥を指差した。その方向にはオーディンの爺さん。新しいお付きのヴァルキリーを連れている。
オーディンはロスヴァイセを発見すると、「これはマズい!」と叫んでその場から逃げ出した。
ロスヴァイセ素早くヴァルキリーの鎧を身に纏い、オーディンを追って駆け出す!
「ここで会ったが百年目!待てぇぇぇぇぇっ!このクソジジイィィィィィッ!」
行っちまったよ、まったく。
俺はため息を吐き、リアスたちに言う。
「俺が追いかけるから、おまえらは待機部屋に行っとけ。後で追いつく」
「お願いします」
「やれやれ、面倒をかけさせやがって」
俺はロスヴァイセを追って駆け出した。
数分後。
「ロイ先生!離してくださいッ!」
「気持ちはわかるが落ち着け!殴ったってどうにもならねぇだろ!?」
「それもそうですが、殴らないと気がすみません!」
俺はロスヴァイセを羽交い締めにして押さえていた。ロスヴァイセは構わずにじたばた暴れ、オーディンは追い詰められた壁際を背にしながら焦り、新しいお付きのヴァルキリーもどうするか困っている様子だ。
「ぐぬぬぬぬぬっ!」
「暴れるなって!ほら、部屋に行くぞ!リアスたちが待ってる!」
俺は必死にロスヴァイセを押さえるが、地味に『
俺の苦労を知らないオーディンが言う。
「ええい!胸も触らせたこともない生娘ヴァルキリーじゃろうが!」
なぜかロスヴァイセを煽った!なに考えてんだこの爺さん!?
俺が驚いていると、ロスヴァイセが一気におとなしくなり、顔を真っ赤にして俺をチラリと見る。
…………あ。
「そういえば、触っ━━━」
「━━━って、言わないでくださいッ!」
素早く俺を振りほどいたロスヴァイセの拳が迫る!俺はそれをギリギリで避け、体勢を整える。
一連のやり取りを見ていたオーディンが漏らす。
「なんじゃ、つまらんのぉ。もうくっついておったか」
「くっついてねぇ!」
「く、くっついてません!」
俺とロスヴァイセはオーディンに怒鳴るように返す。俺はセラ一筋なんだよ!
俺は息を吐いて、ロスヴァイセに言う。
「とりあえず戻るぞ。リアスたちが待ってる」
「わかりました!次こそは逃がしませんからね!」
ロスヴァイセはそう言い残し、俺に続いて歩きだす。後ろから盛大なため息が聞こえたが、俺たちは無視した。
「ところで、ロイ先生」
「ん?」
「待機部屋は、どこなんですか?」
「…………どこだろうな」
「はぁ!?」
こうして、俺たちは仲よく迷子となり、心配して様子を見に来てくれた木場に連れられて待機部屋にたどり着いた。
そこで少しだけ休ませてもらい、俺は警備につくために部屋を後にしたのだった。
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