「……………」
魂が抜けたようにガックリとしている幸彦。あれから一時間にわたってタンニーンと戦ったため限界を迎えたようだ。
手加減してもらったとはいえ、タンニーン相手に一時間粘ったのだ、将来有望だな。
俺は幸彦をおぶって兄さんたちと洞窟を脱出した。幸彦くんは目を覚まさなかったが、俺たちは冒険を続行、ラスボスの龍王がいるという『龍王の塔』を目指す。
戦闘は魔王二人に任せて、俺は幸彦くんをおぶったまま回避を優先させてもらうかな。二人とも楽しそうだから問題ないだろう。
山を登ること数分。ようやく石造りの塔にたどり着いた。
幸彦は目を覚まさないが、魔王二人の圧倒的な強さで戦闘は楽できている。
雑魚を蹴散らしながら塔を登ることさらに数分。再び開けた場所に出た。これは、また戦闘だろうな。
「よくぞ来た!」
そこで俺たちを出迎えたのは三人の悪魔と一人の天使。
「我らは龍王様に仕える四天王なり!」
などと言って現れたのは、天使の羽を生やしたイリナ、ヴァルキリーの鎧姿のロスヴァイセ、制服姿の小猫、そして、段ボール箱だった。多分だが、段ボール箱の中にはギャスパーが入っているんだろう。
俺がボケッとそんなことを考えていると、イリナがノリノリに名乗ってきた。
「ふふふ!よくぞここまで来たわね!私は四天王の一人、愛と希望の天使イリーナ!」
「私は四天王の一人、魔神ヴァルキリーのロスヴァーです。時給5000円で雇われました」
「……同じく四天王の一人、百獣の女王ヘブンキャットです。ちなみに私たちの役の名前はアザゼル先生がつけました」
「あうあうあうあう…………。ぼ、僕も四天王らしくて、闇夜の吸血鬼段ボール箱です!」
四天王の全員がオカ研のメンバーじゃねぇか!俺もあっちだったらもっと楽できただろうな………。
てか、アザゼルのネーミングセンスはどうにかならないのか?愛と希望の天使って、悪役じゃなくてヒロインとかの二つ名だろ。ギャスパーに限っては段ボール箱だし、ある意味怖いけどな。
「さぁ、勇者よ!龍王様と戦うには我らを倒さないと━━って、あらら、勇者くん気絶しているの?」
張り切っていたイリナが、幸彦を見て首をかしげていた。幸彦くん、まだ目を覚ましてないんだよな。
一旦幸彦をイッセーに預け、魔剣を抜き放つ。
「天使、ヴァルキリー、猫又に吸血鬼。相手に不足はないな」
やる気十分で俺が構えると、四天王が警戒し始める。
「ロイ先生が相手で、最悪の場合は後ろの魔王様の相手をしなければならないのですね。5000円では割りに合いません!」
ロスヴァイセがそう言うが、気にするところそこなの?相変わらず、そこんところは細かいようだ。
『あ、そこも勇者一人にやらせてくれ』
今まで忘れていたように言うアザゼル。そういえば、途中からアナウンスがなかったような……。てか、飽き始めているような声音だったぞ!
しかし、そう言われては仕方ない。プレイヤーである以上、ゲームマスターは絶対だし。
魔剣を鞘に戻し、イッセーに預けた幸彦くんの頬をペチペチと軽く叩く。
「おーい、幸彦ー。ラストダンジョンだぞー。四天王だってさ、おまえの出番だ」
「……………あぅ、………あ、あれ?」
おっ、目を覚ましたか。傷は貯まりに貯まっていた薬草で完治させていたから、そこは問題ないはずだ。スタミナはわからないが。
幸彦はフラフラしながら剣を握り、涙目になりながら四天王に挑んでいった。もちろん、四天王も加減してくれているだろう。てか、加減してくれていないと、幸彦くんが無事じゃ済まない。
「うわーん!異形の者がこんなに強いのばかりだなんて知らなかったっスぅぅぅぅぅっ!」
泣き叫ぶ幸彦くん。異形の者が全員こんな化け物なら、世の中もっと大変なことになっていると思うぞ。
三十分後。
「…………………………」
完全に魂が抜けた様子の幸彦くん。よだれを垂らして、白目を剥いている。今度は頬を叩いても一切反応しない。相当疲弊しているようだ。しばらく休ませてやろう。
あの後、無事に四天王を突破。今は塔の最上階を目指して階段を登っていた。
今さらだが、幸彦の依頼である『デビュー』って、タンニーンの戦う頃には達成していたような気がするが、今さら口にしたらダメか。それに、せっかくここまで来たんだからラスボスの顔を拝んでおきますか。
階段を登ること数分。ようやく最上階に到着。仰々しく飾られた玉座の間にたどり着いた。
玉座に座っていたのは禍々しい鎧を着こんだ……匙!?龍王って匙なのか!?いや、確かにヴリトラは龍王だったはずだけど!
匙こと龍王は、俺たちを視界に捉えると立ち上がって哄笑する。
「ふはははははっ!我こそは暗黒の龍王ヴリトラなり!ふはははははっ!」
あいつ、ノリノリだな。まあ、ロキとか英雄派との戦いに比べれば楽な仕事か。
「勇者たちよ!よくぞ、ここまで来たな!だがしかし、我を倒そうなどと………」
そこまで言うと、匙は改めてこちらのパーティメンバーを確認、俺と魔法使いを見た瞬間に目玉が飛び出るほどに驚いてみせた。
「━━って、ちょっと待ってくださいよ!ロイ先生ならまだわかりますよ!リアス先輩に頼まれたんですよね!なんで、そこにセラフォルー様がいらっしゃるのですか!?」
「いえーい☆サジくん、おひさ~☆今日は魔法使い役で来ているのよん☆」
「ちなみに、そこの遊び人こと戦隊ヒーロー、サタンレッドは兄さん。つまりサーゼクス様だ」
俺が追加情報を伝えると、兄さんもノリノリで匙に指を突きつけた!
「邪悪な龍王め!退治に来たぞ!」
それを聞いた匙は先ほど以上に目が飛び出して仰天する。
「ええええええっ!?そ、それはちょっと!アザゼル先生から聞いていた話と違うというか!違いすぎるというか!無理ゲーじゃん!俺の方が無理ゲーじゃん!」
だよな。俺が匙の立場だったら迷わずに逃げる。だって、セラと兄さん、いつにもなくやる気満々なんだからよ!
「勇者が倒れたいま、私と魔法使い、戦士だけで龍王を倒さなければならない!そうだろう、二人とも!」
「ええ、そうね、サタンレッド!勇者の弔い合戦よ!覚悟なさい、龍王!」
「そういうことだ。龍王、俺たちでおまえを攻略させてもらう!」
俺たちの言葉を聞いて匙は涙目になっていたが、黒い炎と大蛇を出現させて、やけくそになっていた!
「ちくしょぉぉおおおおっ!こうなったらセラフォルー様が止まらないって、俺でもわかるもんよぉっ!それなら玉砕覚悟でとことんやってやる!」
匙はそう叫ぶと、黒炎をほとばしらせて『
「セラ、兄さん。超協力プレーで、クリアしてやろうぜ!」
「ああ!」
「ええ☆」
俺たちは駆け出し、ヴリトラに挑んでいった!
ヴリトラからの黒炎を時には兄さんが滅びの球体で消し飛ばし、時にはセラが凍らせていく。
俺は隙を見つけて斬撃を飛ばすが、匙はしっかりとヴリトラと連携しているのか、うまく避けていく!おかげで塔がボロボロになっていった!
崩れかけた塔の中で暴れる俺たちだったが、ヴリトラが天井を吹き飛ばして上空に飛び立った!
翼を展開して飛ぶのもいいが、ここまで使わずに来たものを使うことに抵抗があるんだよな……。
俺が策を考えていると、セラの持つ氷の魔剣に目がついた。
「セラ、それ貸せ!」
「これね?はい!」
俺は無属性の魔剣を順手で持ち、投げ渡された氷の魔剣を左手で逆手持ちする。
「兄さん、援護頼むぜ!」
「わかった!」
兄さんはヴリトラからの攻撃を相殺していき、ついでに牽制もしてくれていた。
「よっしゃ、行くぜ!」
俺はそう言うと氷の魔剣に魔力を込めて勢いよく振り上げる!
すると、氷の魔剣から放たれたオーラがヴリトラの黒炎を凍りつかせ、同時にヴリトラに続く氷の道を作り出した!それに直撃したヴリトラも拘束されて動けなくなっている!
「これで決める!」
『キメワザ!』
突然アザゼルがそんなことを言ってきたが、構わず勢いよくその氷の道を登っていき、途中でスケートのように滑って加速していく!
「はっ!」
その勢いのまま、ヴリトラに突撃し、二刀でバツ字に斬り裂いた!
『グギャァァァアアアアアッ!』
ヴリトラは断末魔を放ちながら塔に落下していき、床を砕きながらさらに下へ落ちていく。
俺も氷の道が砕ける前に素早く塔まで戻り、二人にハイタッチをした。すると、
『ゲームクリアァァァァッ!』
アザゼルの叫びがフィールドに響き渡った!とりあえず、俺たちの勝ちだな。
俺たちが肩の力を抜いた瞬間、塔がガラガラと音をたてながら崩れ始めた。
「少々やり過ぎたか?塔がもたなそうだ」
「そのようだね。二人とも脱出だ!」
「ええ、全員駆け足♪」
「「エイ♪エイ♪オー♪」」
俺と兄さんは、なぜかリズムよくそう返して、走りだした!ま、脱出イベントがあっても面白いか。
二分後。
俺たちは無事に脱出に成功したのだが、そこにいたのは幸彦をおぶったイッセーとほこりまみれのアーシア。そして………、
「「これはどういうことですか?」」
怒りで肩を震わせるソーナと
この二人、いつの間にこのフィールドに?
何てことを思っている俺をよそに、セラと兄さんは怯えだしていた。
「こ、これはだな。アザゼルからゲームの誘いを受けて……」
「そ、そうなのよ、ソーナちゃん!一人の男の子を勇者にしていくっていう大事なお仕事なのよ!」
二人はそう言い訳したが、ソーナと義姉さんがそれに納得するわけもなく。魔王二人は襟首を掴まれて引きづられていった。
「お話は魔王の城で聞きます。仕事を放棄してのゲームだなんて許し難がたいことです」
「お姉様、今日はじっくりと今後について話し合いましょう」
おおう、怖い怖い。
俺が他人事で見ていると、セラと兄さんが言った。
「ロイはなんで怒らないのよ!ロイだって参加してたのにぃぃぃぃっ!」
「確かに!これはあれか!
二人は俺を道連れにしようとしたらしいが、ソーナと義姉さんの返答は………。
「ロイはあくまで、これが仕事です」
「ロイ様はあくまで、これがお仕事です」
だった。まぁ、俺はこれを仕事としてやってたからな。ゲームを楽しんではいないぜ?………多分な。
「「そ、そんな~」」
魔王二人がそう言うと同時に、転移魔方陣が展開され、四人は消えていった。
それに続くようにアザゼルと第三者の声が聞こえてきた。
『こんなところで何をしているのですか、アザゼル!』
『おわっ!シェムハザじゃねぇか!副総督がこんなところに何のようだよ!』
『それはこっちのセリフです!このようなゲームを作っているなんて、私に一切説明がありませんでしたよ!またグリゴリの資金をつぎ込んだのですか!?怪しげなロボットといい、無駄なUFOといい、この謎のゲームといい、あなたはどうしてこんなことばかり!』
どうやら、あっちも問題ありのようだ。てか、内緒でこんなもん作ってたのかよ。
「ゲームオーバー……ってやつかな?」
俺が何てことを言っているとゲームは終了となり、俺は強制転移によってフィールドを後にした。
あとになってわかったことだが、『アザゼルクエスト』はその後も開発が進んでいるそうだ。
しかし、アザゼルは担当から外され、開発は他の幹部が引き継いだそうだ。
因みに、その時アザゼルは、
「俺の夢は、永遠に不滅だぁぁぁぁぁっ!」
と全力で叫んだそうだ。多分だが、あいつは死んでも反省をしないだろう。
そして、兄さんとセラの参加を教えたのはリアスだったそうだ。陰から俺たちのことを見ていたらしく、事情を知るとすぐにソーナと義姉さんに連絡したそうだ。
肝心の依頼人━━幸彦は、軽くトラウマになりそうなことを経験しながらも、これからもこの業界で頑張っていくことを決めたそうだ。彼の十年後が楽しみだな。
「よう、ロイ!今度はハンティングゲーム『ドラゴナイトハンター・G』を製作するんだ!テストプレイヤーになってくれ!」
「へぇ~。それは、面白そうだな………」
アザゼルから聞いた話だと、この時の俺の表情は、見たことがないほど不気味な笑顔だったそうだ。
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