俺━━ロイはセラに告白してから寝てしまい、今しがた目を覚ましたのだが、
「すぅ…………すぅ………」
なぜか俺の体に覆い被さるように密着して眠るセラの寝顔が俺の目に写った。小さい頃から何度か見ているが、かわいい寝顔だな。
俺がそんな事を思いつつ、セラの頭を撫でると、
「ロイ~」
「?」
寝言で俺の名前を呼んできた。俺が首をかしげるとセラは続きを口にする。
「大好き~」
「………」
不意打ちの言葉で思わず固まる。さっき聞いたとはいえ、なんか恥ずかしいな。
俺は顔を赤くしながら窓の外を見る。冥界特有の紫色の空がどこまでも広がっている。
久しぶりに青い空も見たいもんだな………。
俺はそんな事を思いながら、再び眠りについた。
翌日の朝。
「……………」
「……………」
俺はベッドの上で表情を強張らせ、セラは床で正座をさせられていた。
俺も正座させられそうになったが、体を動かすだけで激痛が走るので保留となった。
で、セラを正座させているのが、
「二人とも、説明を………」
青筋を立てた母さんだ。いつもの激怒モードで俺とセラを交互に睨んできている。
なぜこうなったかは、もうわかる。俺とセラは一晩密着して寝ていたのだ。セラが起きてベッドから降りようとしたらちょうどそこに母さんが入ってきた。
セラが母さんに手振りを交えて話す。
「その、ロイが寂しそうだったので、つい………」
母さんはそれを聞いて俺に視線を向けてくる。ここは話を合わせておくべきだろうか。
俺が口を開こうとすると、母さんが先に言う。
「セラフォルーを庇おうとは思わないことね。怪我が治ったら容赦しないわよ?」
本気モードの母さんを前に、俺はハッキリ言うことにした。
「寝て起きたらセラがベッドに入っていました」
「ちょっと!?ロイ!?」
庇ってくれると思っていたであろうセラは慌てるが、母さんに睨まれて大人しくなる。
何かされるにしても、一応ながら彼女も怪我人なので手加減はしてくれている筈だ。
「そう。セラフォルー、ちょっと来なさい」
「あの、おば様?」
「来なさい………」
「はい……」
母さんに連れられて部屋を後にするセラ。まぁ、出ていけとも言わなかった俺も俺だと思うけどな。
━━━━
「セラフォルー、話はわかるわね?」
「はい、おば様………」
私━━セラフォルーは若干ながらショックを受けていた。まさか、ロイがあっさりと裏切るなんて……。
しょんぼりしている私におば様が言った。
「それです。これからはおば様ではなく『お
「………え?」
私は間抜けな声を出してしまった。あの厳しいおば様が、さっきのことを咎める様子はなく、それよりも、お義母様と呼びなさいと言うなんて!
私が驚いていると、おば………お義母様が言う。
「『え?』ではありません。先程言った通りです」
「わ、わかりました!お義母様!」
私が慌てながらそう言うと、お義母様は笑顔で私の頭を掴んできた。
「あ、あの~?」
「では、早速。娘への教育をしましょうか………」
この感じだと、まだ解放はされないみたい………。
━━━━
あれからそれなりに時が経ち、俺はようやく戦線に復帰。今までと変わらずに堕天使相手に頑張っていたのだが、毎回最終的にこうなる。
「だぁぁぁぁぁッ!」
「はぁぁぁぁぁッ!」
俺と相手の堕天使の得物がぶつかりあい、凄まじい衝撃が戦場を揺らした!その相手とはもちろん、
「『
「くそ、しつけぇな!何回目だ!?」
コカビエルだ。左目に眼帯をつけ、左手に包帯を巻いて戦線に復帰していたようだ。そんな事を言う俺も右目に眼帯をつけてるがな!
俺たちの周辺に展開していた悪魔と堕天使は、俺たちの邪魔にならないように散ってしまっている。
俺はコカビエルとつばぜり合いをしながら言う。
「お互い、結構ボロボロだな!」
「はッ!喋る余裕があるとは、貴様らしいな!」
俺とコカビエルはほぼ同時に後ろに下がり、ほぼ同時に得物を投げつけるが、それが狙ったかのように衝突して爆発が起こる。
俺は息を吐きながら直刀を生成。煙が晴れるとコカビエルも手に光の槍を生成して構えていた。
毎回のようにこうなる。まるで合わせたかのように俺が行くところにはコカビエルが現れ、戦闘になるのだ。
そして、問題はこれだけではない。
「くそ!天使が来たぞッ!」
「「チッ!」」
悪魔か堕天使の誰かの叫びを聞いて、俺とコカビエルは同時に舌打ちをした。
俺が入院している間に天界の『聖書の神』と『天使』がこの戦争に乱入してきたのだ。
天界的には敵をまとめて滅ぼせるからラッキー的なことを考えているに違いない!
「コカビエル!勝負は預ける!」
俺はそう言って逃げようとするが、
「今回ばかりは逃がさん!」
コカビエルは素早く肉薄してきて光の槍を大上段から振り下ろしてきた!それを直刀で受け止め、再びつばぜり合いになる。
「言った筈だ!今度こそ殺すとな!」
「おまえに構っていたら命が足りねぇっての!」
光の槍を弾き返して腹部に目掛けて右手で握った直刀で突きを放つが、コカビエルは素早く光の槍を戻して直刀の切っ先に当て、軌道をそらす。
軌道がそらされた一撃は空を突くが、俺は左手に直刀を逆手持ちになるように生成して一気に振り抜く!
それをコカビエルは余裕を持って後ろに飛び退くことで回避する。そこに左手の直刀を投げつける!
コカビエルはスウェーをするようにしてそれを避け、俺に笑みを向けてきた。
「貴様の動きはもうわかる。運命に引かれるように何度も出会い、ぶつかりあってきたからな!」
「気持ち悪いこと言いやがって!そういうのは女に言え!」
「女がいたら戦うなと言うのか!?」
「そんな事は言ってねぇだろうが!あー、もう!むかつく!」
そうなのだ。俺とコカビエルは何回も、何十回も戦ってきた。お互いに動きの癖はわかってきた。そのせいで今の訳のわからない会話が出来るほどだ。
そんな俺たちに大量の光の槍が飛んでくる。俺とコカビエルはそれに反応して全て体捌きだけで避けきり、溜め息を吐いた。
俺たちの視界の先には白い羽を生やした男女がたくさん。先ほど発見された天使の一団だろう。
「くそ!」
「チッ!」
俺とコカビエルはそれを見て表情を歪めながら、
「「勝負の邪魔をするなぁぁぁぁっ!」」
同じ事を言いながら同時に天使の一団に突撃していった!
「オラオラオラ!どうしたッ!」
両手に直刀を生成し、独楽のように回転して連続で天使を切り刻んでいき━━━、
「どうした?もっと俺を楽しませろ!」
視界の隅には天使たちを連続で突き殺していくコカビエルが写る。
そんな俺とコカビエルによって開けられた穴に悪魔と堕天使たちが突入して一気に乱戦の様相となった!
俺はコカビエルから視線を外し、近くにいるであろうセラの姿を探していると、視界の先にセラと、ある女性天使の姿が写った。女性天使の方はウェーブのかかったブロンド髪が特徴のように見える。てか、遠くてよくわからんな。
俺が目を凝らしていると、
「見つけたぞ!」
コカビエルが悪魔と天使を蹴散らしながら突撃してしてきた!その勢いのまま突きを放とうとしてきている!
速度的に回避は出来るが、周りからの流れ弾が怖いからな!
俺は即判断を下して、盾を作り出し、衝撃に備える!そして、
ガキィィィンッ!
戦線に響き渡る衝撃音!空中で踏ん張れない俺は勢いよく吹っ飛ばされてセラの方向に…………。
「なぁぁぁぁぁ!?セラァァァァァッ!どけぇぇぇぇぇっ!」
「え?キャッ!」
俺の叫びに反応したセラは素早く飛び退き、俺が体勢を整えようとすると、
ボフ………。
「━━ッ!……?」
何か柔らかいものに頭から突っ込み、それで勢いが殺された。
その何かに視界を塞がれているが、何だこれ?
俺は確かめるように手で探ると、今まで味わったことのない、とても柔らかい感覚を感じた。
何だろう、ずっと触っていたくなる。
「何だこれ?柔け………」
俺が疑問符を浮かべながら顔をあげると、
「………………」
顔を真っ赤にした、先ほどのブロンド髪の天使と目があい、
「キ━━━」
「キ?」
何かを言おうとする女性天使。一応待っていると、
「キャァァァァァァッ!」
女性天使が叫びながら左手を振り上げて━━━、
ベチンッ!
「ッ!?」
全力の平手打ちを食らった!何という重さ、女性とは思えないな!
平手打ちを食らった俺はフラフラと回転するように飛びながらセラの前に流れ着く。セラの顔を見ると、
「……………」
見たことがないほどの不機嫌な顔で、右手を振り上げて━━━、
ベチンッ!
「グベラッ!?」
再びの平手打ちを食らった!くそ!俺が何をした!?
俺が予想外の大ダメージで両方の頬を擦っていると、
『堕ちろぉぉぉぉぉぉぉッ!』
男性堕天使たちの絶叫が響き渡った!俺とセラがあまりの声量に耳を押さえていると、
「ガブリエル様!お気を確かに!」
「落ち着いてください!こういう時は深呼吸です!」
女性天使の何人かが、息を荒くしながら羽を白黒点滅させている先ほどのブロンド髪の女性天使に近づいて必死に落ち着かせようとしていた。
…………って、ガブリエル!?『
俺が先ほどの感覚を思い出すように手を動かすと、俺の真横を光の槍が通りすぎていった。見ると、ガブリエルを囲んでいた女性天使たちが俺を睨んできている。
「あはは………」
俺が愛想笑いを浮かべると、天使からだけでなく堕天使からも光の槍が投げつけられてきた!
「ちょっ!?ま、待て!俺が何をした!?」
俺が困惑しながら逃げ回っていると今度は、
「『
コカビエルが突っ込んできた!それを真正面から受け止める!
「くそッ!俺が何をした!?」
「貴様、わかっていないのか!?」
「何が!?」
つばぜり合いながら話していると、コカビエルが若干の嫉妬を感じさせる声音で言ってきた。
「貴様はガブリエルの『乳を揉んだ』のだ!」
「…………知るかぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺は叫びながらコカビエルを押し返すと、再び光の槍が雨のように降り注いでくる!
俺は避けながら高度を下ろして近くの森に隠れた。
胸に触ったのは謝るが、それで堕天使、天使の両陣営が全力で殺しにくるって何なんだよ!?
「はぁ………はぁ………くそっ!」
「ロイ、大丈夫?」
俺が汗を拭っていると、セラが隠れながら近づいてきて俺の横についた。
「どうにかな。まったく、何で俺がこんな目に………」
俺が溜め息混じりにそう言うと、セラが無言で俺の頬を引っ張ってきた。
「あの~?」
「…………………」
「セラしゃん?」
今、戦闘中だよな?
頬を引っ張られながら俺がそんな事を考え始めていると、
「この辺りだ、探せ!」
『ハッ!』
誰かの号令と応答。俺はセラの手を少し乱暴に振り払って木の影から顔を出すと、
「くそっ!あの野郎どこに隠れた!」
「『
殺気を醸し出す堕天使の一団が!そして、その反対からは、
「この辺りの筈だ!探せ!」
『はいっ!』
怒気を醸し出す女性天使の一団が!クソッ!挟まれてやがる!
俺が焦るなか、セラが落ち着いた様子で言った。
「いいタイミングだわ。同士討ちを狙いましょう」
「………だな」
珍しく冷静なセラに驚きながら俺が頷くと、俺とセラは気配を殺しながら気づかれないように移動する。そして、堕天使と天使の一団が接触した瞬間、
「どうだ、いたか!?」
「いない!あの男、どこに行った!」
なぜか戦わない両者の姿がそこに!なぜだ!?存外仲がいいのか!?
俺が驚いていると、セラが冷静に言った。
「あのヒトたちはロイを殺せればそれでいいみたいね」
「俺は良くないんだが………」
俺がそう呟くと、背後から気配を感じた。ゆっくりと振り向くと、
「シー………」
人差し指を立てて口の前にやる兄さんの姿が。
兄さんは周辺を警戒しながらこちらに近づいてくる。兄さんはそのまま俺の横に隠れ、俺とセラに言う。
「とりあえず、移動しようか。ここは危険だ」
「そうね。ロイが殺されちゃうわ」
「よくわからん理由で死にたくねぇな」
セラと俺の返答に頷くと兄さんはあらぬ方向を指差しながら言った。
「とりあえず、あっちだ。先輩方が陣を張っている」
ああ、なるほど。
俺が納得して頷いていると、セラが首をかしげた。
「ちょっと、どういうこと?」
「この先に待ち伏せているから、俺があいつら引き連れてこいってことだ」
「あー、なるほど」
セラも納得したところで、俺は「よし!」と言って木の影から飛び出して、叫ぶ!
「俺はここだぁぁぁぁぁぁっ!」
『そこかっ!』
天使と堕天使が俺を発見したと同時に走って逃げるが、兄さんとセラは俺とは別方向に逃げていった!?
「ちょっ!?」
「頑張ってくれ!」
「死なないでね!」
手を振りながら離脱していく二人。俺は、
「ふざけんなぁぁぁっ!」
本日何度目かの絶叫をしながら走り、例のポイントに向かった!
その後はは先輩方の頑張りもあってどうにかなったが、この後の戦闘でも天使、堕天使からも狙われ続けたことは言うまでもない。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。