Extra life01 甥っ子訪日
冥界での『魔獣騒動』と呼ばれるようになったあの戦いから数日。ある休日の早朝、兵藤宅に珍しい客が来ていた。
「お久しぶりです、皆さん。ミリキャス・グレモリーです」
リュックを背負った紅髪の少年、俺の甥っ子であるミリキャスだ。
礼儀正しく会釈して笑顔での訪問だった。
リビングで兵藤夫妻にあいさつを済ませると、そのままVIPルームに移動する。
それにしても、あいさつから立ち振る舞いまで、気品溢れる動きだな。俺があれくらいの頃って、セラとやんちゃして怒られまくっていた気がする。
朱乃がお茶を出し、ミリキャスに訊く。
「はい、紅茶ですわ。お砂糖は?確か、角砂糖二つでしたわよね?」
「はい、いただきます、朱乃
さすがにストレートは飲まないようだ。そこはまたまだ子供だなってことでいいとして、朱乃は「姉様」呼びなんだな。
VIPルームに集まったのはいつものオカ研メンバーだ。別の場所に住む木場とギャスパー(この二人は一緒に住んでいる)もすぐさま駆けつけてくれた。
ミリキャスは俺たちに囲まれながらも緊張した様子もなく、俺とリアスに目配せをしてくる。俺たちが頷いて返すと、ミリキャスが口を開いた。
「今日は見学がしたくて、リアス姉様と眷属の皆さんのもとに来ました」
「見学、ですか?」
問い返すイッセーに、ミリキャスは一歩前に出て笑顔で言う。
「はい!人間界での悪魔のあり方が見たくて参りました!」
リアスが立ち上がり、ミリキャスの後ろに回ると肩に手を置いた。
「と、いうことなのよ。ミリキャスもいずれ眷属を作って人間との契約を取らないといけなくなるわ。そのことはこの子も十分わかっているのだけれど、実際に人間界で暮らす悪魔の姿を見たいと言ってきたのよ。ね、そうよね?」
「はい!冥界でも有名な皆さんの生活を間近で見たいです!」
俺も立ち上がり、ミリキャスの横につく。
「そういうことだ。これから数日、ここで一緒に生活することになる。俺もミリキャスの護衛として行動するから、ついでにおまえらの仕事っぷりを見させてもらうぞ」
「よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
ミリキャスのあいさつに快く返す面々。あっちからしても、拒否する理由もないだろう。それに、俺たちの大事な甥っ子なわけだしな。
その後、改めて眷属の自己紹介をおこない、ミリキャスの見学会が始まったのだった。
「よーし、じゃあ、千本ノックするぞー」
深夜の河川敷。草野球用のグラウンドでゼノヴィアがバットを振るっていた。
「はい、コーチ!」
ゼノヴィアの打ったボールを嬉々としてキャッチしにいくのは野球帽にユニフォーム姿の青年。ゼノヴィアのお得意様だそうだ。
俺とミリキャスはゼノヴィアの仕事風景を見学していた。ミリキャスが誰の見学に行こうか考えていると、ちょうど良くゼノヴィアに依頼が入ったのだ。で、護衛の俺もついてきた。
聞いた限りでは、ゼノヴィアの仕事は全体的に運動系が多いそうだ。時には工事の手伝いまでしているそうだ。
「がんばってくださーい!」
俺とミリキャスの横ではチアガール姿のアーシアが声援を送っていた。あの野球青年は『応援してくれるチアガール』も要求してきたらしいのだ。なので、手が空いていたアーシアがやることになった。
ポンポンを両手に持ち、白い息をあげながら応援していた。もう冬場で冷えてくるというのに、健気だ。
アーシアの普段の仕事はトランプの相手やコスプレ撮影などだそうだ。小猫もそんな感じらしい。
朱乃は会社の社長や奥様などのセレブを相手にした悩み相談などをおこない、木場は働く女性相手に似たようなことを、ギャスパーはパソコンを使っての仕事が多く、ロスヴァイセは主婦に呼ばれることが多く、節約術を教えているそうだ。
リアスへの、正確には上級悪魔への仕事というものはあまりなく、それこそ危険の伴う魔物退治や掘り出し物の解呪などだ。そっち系の仕事への見学はさせるつもりはないが、一応、行ったときのことは視野にはいれている。
そして、イッセーの仕事は……なんと言うべきか、変人からの依頼が多い。ミルたんのようなヒトからの依頼ばかりだそうだ。
「おーし!次は一万本ノックだー!」
「はいぃぃぃぃぃ、コーチィィィィィッ!」
気合いの入ったゼノヴィアは調子を出して無茶ぶりをふっかけたが、野球青年はへばりながらも笑顔でOKしていた。無理させるなよ………?
「いいなぁ………。僕もこういう風に眷属のヒトには楽しく仕事をしてほしいです」
ミリキャスはゼノヴィアの仕事を見てそう漏らす。確かに、ゼノヴィアは楽しそうに依頼をこなしている。
「ミリキャスはどんな眷属が欲しいんだ?」
「まだ考え中です。目標はありますけど」
またまだ考え中か。まぁ、まだ先のことだ。ゆっくりと考えていけばいいだろう。
「目標ってのは、やっぱり兄さんの眷属か?」
「はい。リアス姉様の眷属の皆さんも素晴らしいと思いますが、父様の眷属も素晴らしい方々です」
ミリキャスは笑みを浮かべながら返してきた。兄さんの眷属って、マジもんの化物揃いだ。それが目標ってことは、なかなかハードルが高そうだな。
ミリキャスが首をかしげて訊いてくる。
「ロイ兄様は眷属を探さないのですか?」
「うん?まあ、そうだな。今さらって感じがあるし、第一、俺は一人で何かするってことが多かったからな」
「お話は聞いています。母様も助かったと言っていました」
「………俺が必要だったのかはわからないがな」
俺は苦笑しながらも小声で漏らした。
その頃から昔は一人で行動し、一人でどうにかすることのほうが多かった。考えてみれば、転生悪魔制度が始まる前からそうだったんだな。時間の流れってのは早いもんだ。
何て事を思っていると、視界の端に黒いゴスロリ衣装の少女が映る。オーフィスだ。
あいつも暇だってことでついてきたのだ。俺としてはミリキャスと一緒にいさせるってのはどうかと思ったが、オーフィスにも色々と学んで欲しいってことで連れてきた。
オーフィスも兵藤宅に住んでおり、よくイッセーたちの後ろについて回って、やることなすこと真似をするようになった。
時々俺の後ろにもついてくることがあるのだが、別に何かするってわけでもないので一緒に菓子を食ったり、テレビを見たりしている。
オーフィスはグラウンドの隅でアーシアの使い魔━━ラッセー(『
「我、ラッセーを鍛える」
「ガー」
オーフィスの言葉に応えるラッセー。あいつ、将来龍王クラスになるんじゃないか………。
「ま、がんばれ」
「……………」
「ラッセーくんもがんばってくださーい!」
「ガー」
俺を無視してアーシアの応援に反応するラッセー。ドラゴンの子供はどの種族であっても女性には甘い。だが、逆に男嫌いなのだ。無視されて当然だな………。
そんなオーフィスとラッセーをミリキャスは訝しげに見つめていた。
俺は変な詮索をされる前に口を開く。
「あの女の子はタンニーンの親類だそうだ。術で人間に化けて人間界の暮らしを学んでいるんだとさ」
その場凌ぎでしかないが、そう設定させてもらった。タンニーンには悪いが、そうしておけば後が楽なんだ。
「そうだったのですか。僕と同じですね!」
信じてくれたミリキャスの純粋な瞳と笑顔が俺を攻撃してくるが、ここは耐えるしかないッ!
俺が歯を食い縛って何て事を思っていると、ミリキャスが不意に漏らす。
「イッセー兄様、僕のことを『ミリキャス』と呼んでくれるでしょうか………」
「突然だな。ま、後で言ってみたらどうだ?」
ミリキャス的には、リアスを呼び捨てをしているイッセーにも、自分を呼び捨てで呼んで欲しいのだろう。いつまでも「様」付けだと、堅い感じと距離感があるように思えるからな。
俺の返事を受け、ミリキャスは笑顔で返事をした。
「はい!何事も挑戦です!」
「挑戦って言っても、イッセーはすんなり受け入れると思うけどな」
あいつは変態だが気遣いはできる方だ。グレモリー家の次期次期当主としてだけでなく、魔王の息子であるミリキャスの今後を考えれば、気安く接してくれる存在は必要になるとすぐに気づくはずだ。
この子の一生には、必ず政治が絡んでくるのだから………。
「ま、何事も急がず焦らずやればいいさ………」
俺がそう言いながら頭でも撫でてやろうと手を伸ばした瞬間、俺はすぐに手を引っ込めた。
な、なんだ……今、寒気がしたぞ………。誰かに見られているのか?こんな誰も出歩かないような時間に?
周囲を見渡してみるが、誰もいない。夜目が効く悪魔でも見えないってことは、隠れているのか、さっさと逃げたのか……。
ゼノヴィアも何かを感じたようで周囲を見渡し、オーフィスもキョロキョロとしている。アーシアとミリキャス、野球青年の三人は気づいていないようだ。
「あの、どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
ミリキャスの問いに俺はそう返しながら今度こそ頭を撫でてやる。
同時にまた嫌な視線を感じたが、邪悪なものや殺気を感じないのでとりあえず放置する。
「えへへ♪」
くすぐったそうに笑うミリキャス。………俺も子供欲しくなってきたわ。
俺が表情を緩めながらミリキャスを撫でていると、近づいてくる気配がひとつ。怪しいものではない。
「ゼノヴィアーっ!アーシアさん!スポーツ飲料を買ってきたわー!」
気配の主は買い物袋片手に駆けつけたイリナだった。天使なので直接は手伝えないが、差し入れを持ってくるなどして手伝ってくれているとのこと。
「おっ、『自称』天使さまかの差し入れだぞ」
「『自称』じゃないもん!本物だもん!ロイ先生ならわかりますよね!?」
イリナの言葉に、俺は気まずそうに視線をそらす。
本音を言ってしまうと、「私は天使です!」と堂々と言ったり、よくわからない行動をしたりしているため、イリナはあまり天使っぽく見えない。
「ロ、ロイ先生!?な、何か言ってくださいよー!」
「ほら見ろ。ロイ先生だってそう思っているじゃないか」
「うるさいわね!本物ったら本物なのよー!」
俺たちの攻撃に頬を膨らませるイリナ。本当、あの二人は見ていて退屈しないというか、空気が和むというか………。
こうして、不可解な気配を感じながらも、その日のミリキャスの見学会は終わりを告げたのだった。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。