話作るの楽しいけどムズイ。
最初のチェックポイントにたどり着いた俺たちは、到着の連絡を本部に届けたのち、小休止に入った。
10分程度しか休ませてやることはできないが、このまま動き続けるよりはだいぶましだ。
チームとか特に関係なく、ある程度固まって座り込んだ1年生の中には、足を気にしている者もいる。おそらく早くもマメか靴擦れでもできたか。
それに気づいた先輩が絆創膏と軟膏を出して手当をしていた。
「ありがとうございます。先輩」
「演習なんだから、助け合わないとね」
他校や他チームとの交流があまりないため、こういう機会は本当に貴重だと思う。
互いにもいい刺激になるし、何より顔見知りが増えることはいいことだ。
「そういえば朝戸ちゃーん、今日の朝あの先輩に告白紛いのことしてなかったー?」
負け戦の話でもしてやろうかと思ってた矢先、隊列の殿を務めるチームの1年生が未世に話しかけたというか、不発弾を掘り起こしてきた。堪忍してくれ。
「へ?…うぇぇ!?あれは別に告白じゃなくて、単純に私たちみたいな銃を持った女の子は恋愛対象になるのかを聞きたかっただけですぅ!」
あの慌て様。完全に天然を発動していただけだったらしい。
だが、この質問で自分がなにをしたか理解したご様子。時すでに遅し。
花の(武装)JKが10人以上も集まればそれはそれは喧しいことで、すっかり恋愛トークに花が咲こうとしている。
「谷岳せんぱーい、どうなんですかー?」
気配と姿を消そうとしていた矢先に見つかってしまった。
はぐらかしたりするのもらしくないし、答えておくか…。
「個人的には、なるかならないかで言ったら恋愛対象にはなるけど…」
『おぉ』と、まじめに答えてくれたのが意外だったようで、いいことを聞いたといった感じの反応だった。
「ちなみに武器を持って歩いてる女の子を怖いと思ったことはありますか?」
今度は未世が聞いてきたが、なぜそんなことを聞く?恵那に軽く睨まれてるがなんかあったのか?
「一度もないな。助けられたこともあるし、そんなこと口が裂けてもいえねぇよ」
旧市街地の一件とかな。
「みんな、そろそろ時間だから、支度しましょう」
静かに会話の行く末を見守っていた愛さんがそう言うと、全員がいそいそと準備を始める。
「ありがとうございます」
「いいのよ。気にしないで」
「正直助かりました。このまま無限に話が続くんじゃないかと思って、どこで切り上げるか考えてたところだったので」
「女の子は共通の話題があるとすぐ仲良くなって話し込んじゃうから、こういうことは任せて」
「了解です。頼らせていただきます」
愛さんと短いやり取りをして隊列と残留物がないか確認して出発する。
行軍中は基本私語厳禁だが、夏の暑さと早くも溜まり始めている疲労を紛らわすためにも、自由にさせることにした。ただし教官がいるところでは静かにする条件で。
その後も第2、第3チェックポイントまで順調に進み、次のポイントで昼食となった。
相変わらず休憩中はいろんな雑談に花を咲かせているが、昼を過ぎてからは口数も減り、しんどさが目に見えるようになってきた。ペースも落ちてきているように感じる。
二番手を歩く恵那に『そのまま進め』と指示をして、隊列の動きを止めることなく、俺は遅れ始めてきた殿チームの様子を見に行く。
「大丈夫そうですか?」
「荷物を持ってあげてるけど、それでもちょっとしんどそうかな」
横目で確認すると、前後の生徒に励まされながらなんとか付いてきている状態のようだ。
件の1年生の隣まで移動して直接声をかける。
「もう半分は過ぎてるから、頑張れ」
「はい…、足引っ張ちゃってすいません…」
泣く一歩手前みたいなか細い声でぽつりと零す。
「足を引っ張ってるなんて思ってないから安心していい。それより、めまいとか、熱中症の症状が出てきたらすぐ言ってくれ」
『あとは頼むぞ』と荷物を持ってる生徒に伝えて先頭に戻る途中、愛さんから『ありがとう』と言われた。これが俺の今の役目ですよ。
幸いにも時間には余裕があるから、次の休憩は時間を長くとろう。
励まされ、時には背中を押されたりしながら進むことおよそ2時間。何とか休憩できる地点までたどり着いた。
「大休止、30分」
え?そんなに長く?って反応されたけど、タイムスケジュール上これ以上早くなると下手したら先を歩く班に追いつてしまう。
「装備を外して一度身軽になれ。プレキャリを着たままだと休まらんぞ」
「はい…」
元気のない返事だが、声を出す余裕があることを確認して我がチームの相手もしてやる。
「調子は?」
「アイスが食べたいです…」
「こんな時にもアイスって…」
未世の戯言に恵那が呆れている。
「少なくとも演習が終わるまでは我慢ね」
軽機関銃を二脚を展開して地面に置いた愛さんが、大粒の汗を拭いながら言う。
「未世、塩飴舐めるだけでも全然違うよ」
「おいしいですねぇ」
事前に渡した塩飴を口に放り込んだ凜と鞠亜。活用しているようで大変よろしい。
「鞠亜、その飴がおいしく感じるということは、脱水症状になりかけてる証拠だ。多少多めに水分を摂れ」
そうは言うがこの場にいる人間で塩飴を不味く感じる奴はいないだろうな。
「お前たちも装備外して休憩しろよ」
そう告げてから少し離れた全体が見える位置に腰を下ろして、俺も装備を外す。
ポーチから乾燥梅のタブレットを取り出して一粒舌に乗せる。
その瞬間、濃厚な梅干しの香りと、その数倍の酸っぱさが口いっぱいに広がった。
水を一口飲んで再度地図を開き現在地点を割り出すと、すでに行軍ルートの三分の二以上まで進んでいることを確認した。
やっぱり予想より早く進んでいたことに、『ペースが速すぎたか』とか、『休憩時間が短すぎたか』とか一人で考えていると、殿チームと中堅チームのリーダーを伴って愛さんが近寄ってきた。
「周紀君、今いい?」
「はい。なんでしょう?」
「後輩たちを気に掛けてくれてありがと。本当に助かったわ」
「本当に。わざわざ列外に来てまで様子を見に来る人なんて今までいなかったし」
「え、あぁ、いや。そんな礼を言われるようなことでは…」
愛さんに無言で促されて一歩進んだリーダーたちに礼言われてしまった。
「さすが外回りで鍛えられてるだけはあるね。体力面も雰囲気にも気を配ってて」
手放しにここまで感謝されることがあまりない身としては少し照れる。
「一緒に行動するからには全体を見ておかないといけませんから。チームを引っ張っていくからにはこれくらいは」
「謙遜しないで。私たちはこの演習も今年で3回目だけど、今まで自分のチームの面倒を見るのが精いっぱいで、そこまでする余裕なかったし」
「噂の武学の生徒がいるって聞いてどうなるかと思ってたけど、頼れるリーダー格でよかったわ」
『今からでもウチに移籍してほしいくらいよ』と、半ば冗談のように語っているが、表情から察するに本音も交じってるようだ。
愛さんもそんな俺を見て、自分のことのように嬉しそうにニコニコしている。
「こうやって隊を率いるのは初めてじゃないのね?」
「はい。戦地では分隊長やってました。…何度か小隊長もやりましたね」
非合法な任務も含めてだけど。
「おぉ。道理で。私たちよりもよっぽど経験豊富なわけだ」
「噂も本当のことなの?」
「一応聞きますがどんな噂ですか?最近尾鰭がついた噂と名前が独り歩きしてるようで…。」
「二人でイクシスの群れを撃退したって話。格闘で何頭か仕留めたって聞いてるけど」
「私のところでは一人でK9の群れを血祭りにあげたって話が広がってるよ」
最初はともかく最後は脚色しすぎだろ!どこのコマンドー大佐だよ!
「時系列が混ざってますね。旧市街地で追いかけ回されて、追いつかれたので何頭か返り討ちにしましたけど、別に血祭りには上げてません…。国内配置が決まった後の地域巡回中に、相棒と10匹程度のK9を撃破しただけです」
「私たちの常識では二人で10頭も倒すって時点で規格外なんだけど…」
「近接戦で勝ったのも本当なんだ…」
「位置取りと装備の使い方次第で誰でもできますよ。そんなに難しいことじゃありません」
少し引き気味の苦笑いを浮かべる先輩二人。
「普通の人はできないからねそれ。関東最強と名高い椎名さんレベルでしょ」
「ねー。でも谷岳君たちの話を聞くと、私たちが知らないだけで、強い人はたくさんいるんだね」
『やっぱ外回りはレベル高いなー』なんて雑談をしているうちに時間となり、愛さんに促されて二人は戻っていった。
全員が装備を身に着けたことと、体調に異常がないかを確認して出発する。
その後の道のりは至って順調で、時間管制どおりにチェックポイントを通過。
集合地点には規定時間の30分以上前には到着することができた。
ちらほらほかのチームが帰ってくるのを見守っていたが、肩を貸されたり、荷物を持ってもらったり平穏に終えることができたチームは少ないようだ。
「これで行軍訓練を終了する。別れ《わかれ》!」
野営地まで戻ってきたところで今日の訓練の終了が宣言された。はぁ疲れた。
「みんなお疲れ様。銃の手入れが終わったら、今日はすぐに寝ましょうね」
『はーい…』と気だるげな返事を返した未世たちはふらつきながらもテントへと歩いてゆく。
俺も詰襟のホックを外し、シャツをはだけさせて後を追おうと歩き始めたら、となりに愛さんが並んできた。
「今日もありがとう。一緒の分隊長たちも本当に感謝してたわ」
「いいんですよ。流れでペースメーカーやりましたけど、俺も時間配分とかいろいろ考えさせられる一日でした」
「十分配慮してくれてたと思うけど、気になることでもあった?」
「殿チームの1年生が危うく脱落するところでした。もっと早くから全体の様子を見ておけばよかったです」
「あの時分隊長の子も言ってたけど、普通は自分の分隊員で精いっぱいで、そこまで面倒は見切れないものよ。むしろ初対面のあの人数をいきなりまとめ上げる人なんて初めて見たわ」
「そうなんですか?まぁうちの学校は臨時編成で派遣されたりすることがよくあるので、その経験が生きましたね」
「経験か。…経験といえば、“負け戦”について聞いてもいいかしら?」
いつもの優し気な雰囲気を保ったまま、あの後結局誰も聞いてこなかったことを問われる。
「あぁ、“第72次派遣隊”は聞いたことありますよね」
‡ ‡ ‡
周紀君の口からその言葉を聞いたとき、私は思わず立ち止まってしまった。
入学したばかりの1年生ならともかく、2年生以上なら必ず知っている“事件”だ。
陣地構築のために西アジアの某国へと派遣された先遣隊155名の学生と教官配置の自衛官が、突如出現した大型ネストからあふれ出たイクシスの大群の襲撃を受け、殲滅に等しい被害を出した。
救援を呼ぼうにも最悪のタイミングで発生した砂嵐の影響で無線と衛星の電波が遮られ、襲撃を受けていることまでしか伝えられず、通報を受けたアメリカ海兵隊が駆け付けたころには、生存者は27名。五体満足で生還し、まだ戦っている生徒は10人もいないという話だ。
生還した学生は、『文字通りこの世の地獄だった』とだけ零し、口を噤んでしまったという。
この事件が報道されたとき、指定防衛校に通う学生は、自分がそうなるかもしれないと気が気ではなく、私も恐怖に震えた一人でもある。
「あなたが…、生き残りの一人なの…?」
平常心を保とうとしたが、少し声が震えてしまった。
「まぁ、そんなところです」
「…ごめんなさい。…軽々しく聞いていい話じゃなかったわ…。本当にごめんなさい…」
「知りたければ話すといったのは俺ですから、気にしないでください。まぁ未世たちには少し刺激が強すぎるかもしれませんがね」
そうい言いながら歩き始めた彼の数歩後ろを私はついて行く。
テントの近くでは一足先に装備を下ろした未世ちゃんたちが座り込んでいるのが見える。
「せんぱーい!どうしたんですかー!」
疲れているだろうに、無邪気な笑顔で私たちを呼んでいる彼女たちがこのことを聞いたら、どんな反応をするだろうか。
「愛さん、行きますよ」
「…っ!ええ…」
振り向きざまに見えた、彼のはだけたシャツの下。その胸元には、鋭い刃物で切られ、抉られたような傷跡が、一瞬顔を出した。
こんばんは。早坂です。
本当はこんなシリアスな終わりにする予定じゃなかったのに、気が付いたらこんなことに…。どうして…。
外回りの話もぼちぼち進めていこうと思ってます。
一応今回話しに出た72次隊事件までを描く予定です。
次回からはついに最終日の戦闘演習になります。
こちらもオリジナル展開になる予定ですのでお楽しみに!
ではまたーノシ