リトルアーモリー Lust Bullet   作:早坂 将

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今話から戦闘演習が始めると言ったな。あれは嘘だ。


Mission:11

 親の弁当より食った戦闘糧食(エサ)を水で流し込んでシャワーを浴びた後、翌日の演習内容とシナリオが記された紙をみんなで囲んで読み合わせる。

 

「ほぉ、これはこれは」

 

最終日にしてなかなか面白い内容じゃないか。

 

「む……、無理ですよう……!椎名先輩や桐子さんまでいるチームに、か、勝てるわけないじゃないですかぁ……」

 

半泣き状態で鞠亜が声を上げた。

 

「確かに、かなり厳しいわね……」

 

恵那も険しい表情で同意を示す。

 相手にとって不足はないが、ルーキーだらけのこのチームじゃ少々心もとないのは確かだ。

 

「戦闘に絶対はない。作戦と立ち回り次第じゃ、ジャイアントキリングも狙えると思うぞ」

 

「その通り。やってみなければわからないわよ。実際の戦場では何が起こるかわからないんだもの」

 

 俺と愛さんの励ましにもいまいちな反応を見るに、俺らの言葉は届いてはいるが響いてはいないようだ。未世たちにとってはまさしく雲の上の存在と戦うと言っても過言ではないのだろう。

 地図を見ながら侵攻ルートを考えていると近づいてくる集団がある。ん?あいつらは…。

 

 愛さんの『お手柔らかにお願いするわね』から始まるある意味宣戦布告に近いやり取りをする。

てか未世は椎名にも自分の夢を話してるのかよ。無敵か。まぁ、ある意味無敵か。

 

「そっちのお前はどう考えてんだ?こいつの考えってやつ」

 

気づかれないように装備の分析をしていたところで、芙蓉(だったか?)が俺に話を振ってくる。

 

「考えの内容はどうであれ、そのために強くなろうとするのなら、手助けしたり守ってやるのが先輩の務めってものかと」

 

「……望月の野郎もそうだが、聞いてた話とは違って案外まともなんだな…」

 

ポロっと言ってしまった伽鳥先輩に対し『ひどい!』と一番後ろにいたにも関わらず飛び火した望月が声を上げ、表情筋を微塵も動かすことなく椎名が俺を見据える。

 

「そんなすべての実を拾うようなことが本当にできるとでも?」

 

「確かに俺も望月《アイツ》も現実ってやつを散々見せてけられてきたさ」

 

合法非合法問わず、いろんな作戦に従事してきたからな。

でも、可愛がってる後輩を目の前でけなされて黙っているほど、俺は利口じゃねぇ。

 

「それでも、何も考えずに漠然と銃を持つよりは、自分の考えとか夢ってやつを追い求めようとする後輩がいるなら、降りかかる火の粉くらいは払ってやるさ。その先にどんな答えが待っていて、それを受け入れるかどうかは本人次第だがな」

 

「そう…」

 

俺の回答に満足したかは知らないが、俺とは反対に短く答えてもと来た方向に振り替える。

 椎名に続いて帰ろうとする連中の背中にさらに声をかける。

 

「明日の戦いを楽しみにしてるからな。首洗って待っとけよ!」

 

 この言葉に振り返ったのは望月のみ。ほかのチームメイトたちは本気と受け取っていないのか、無反応で帰っていった。

 ふと視線を感じて振り向くと、みんな俺を見てる。なんで?怖。

 

「さすがね。あの椎名さん相手にあそこまで言える人はそうはいないわよ」

 

愛さんがニッコニコしながら拍手してくる。

 

「…不覚にも、少しかっこいいと思ってしまいました」

 

「周紀先輩…!かっこよかったです…!」

 

「えぇ…、突然どうしたんだ一体?」

 

静かな未世に目をやると、嬉恥ずかしという感じの顔で少しモジモジしていた。

 

「…庇っていただいてありがとうございます!…その、とてもうれしかったです…!」

 

「あー、まぁ、でも、まだまだ実力不足なのは間違いないからな。そこは精進しろよ?」

 

 なんか急に気恥ずかしくなってきた。

 

「もちろんです!うん!なんかやる気出てきた気がします!」

 

「……勝ち負けとか関係なく、思いっきりぶつかってみればいい。こっちは失うモノは何もない」

 

 愛さんが未世の負けたくないという意志を再確認すると、意外なことにお通夜ムードに近かった全体の士気が上がっている。こりゃ椎名に一杯食わされたか?『顔と名前を覚えた』ってのはあながち嘘じゃなく、それとなく気に掛けてますってことなのか?そこまで考えているようには見えなかったが…。

愛さんも同じことを考えていたようで、お互い顔も見合わせ、笑みを浮かべた。

 

 

 

   ‡   ‡   ‡      

 

 

 

 (首洗ってまってろか)

 

 帰り際にシュウが投げかけた言葉。

あんなこと言ってくるなんて、ヤツも本気で来るかもな。

 

「わざわざあんなことを言いに行くなんて、らしくありませんわね」

 

「別に」

 

椎名さんの性格的に冷やかしなんてやらないだろうし、純粋に気に掛けているのか、それとも事前偵察のつもりだったのか。

 

「彼女、そんなに気になりまして?」

 

「気にならないといえばウソになる。でも、単に見ていて危なっかしいと思うだけ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 蓮星さんの問い詰めを聞く限りどうらやら前者のようだ。案外人間らしい一面もあるもんだな。

 

「是非、そうであってほしいね。アタシは絶対負けたくねぇんだ、変に手心を加えるような真似をされても困る。アンタもな、後輩に甘そうな伽鳥先輩」

 

「あ?手加減なんかしねぇよ。実力以上の自信なんか持たせたって本人のためにならねぇんだ。全力でやるさ」

 

芙蓉さんを一睨みして叩き潰す宣言しおった。さすがっす。

 

「わかる。ボクもそう思うし、なんかこう、可愛がってる後輩が全力でぶつかってくるって思うと、ちょっと萌える。そういう意味では、椎名さんのさっきの煽りにはすごくイイネをつけたい」

 

と言うものの、周りから同意が得られずむくれる沢城氏

 

「言いたいことはなんとなくわかるような」

 

「変態め」

 

「なんでぇ!?」

 

伽鳥先輩に突っ込まれた。なんか俺だけ扱いがひどくなってない?

 

「それはそうと、最後のアイツが言ったこと。相棒のお前はどう考えてんだ?」

 

「首洗って待っとけってヤツですか?そのまんまの意味だと思いますよ?」

 

「やりずれぇのは間違いねぇんだけど、オレら相手にずいぶん大見え切ったもんだよな。感心したわ」

 

そういって悪い笑みを浮かべる芙蓉さん。

 

「彼が一番のダークホースにして要注意人物ですものね」

 

「シュウが作戦前にあそこまで感情を出すのはあまり見ないので、警戒したほうがいいっすよ。油断したら、本当に首を狩られます」

 

 おそらくみんな、軽い挨拶程度に思っていて、まじめにとらえていなかったのだろうな。

俺が珍しくガチトーンで言うと、チームから笑みが消えた。

 

「実際どうなのでしょうか?彼の実力は。私たちは噂しか聞いていませんけども、間近で見てきたあなたの意見を聞きたいですわ」

 

「……、たとえ最後の一人になったとしても、最後まで生きて戦い抜くように俺たちは教育されてます…」

 

 言葉を選んで答えようと思った矢先、芙蓉さんに遮られた。

 

「お前、今更情報を出し惜しみするような真似はすんなよ?さっきも言ったが、オレは負けたかねぇんだ。この際お前の戦闘経験も含めて全部教えろや」

 

 いつもよりドスの効いた声と射貫くような視線を向けられる。

 

「チームで勝つにはお互いの信頼関係はとても重要ですわ。この中で一番情報がない望月さんの配置を決めるためにもお願いします」

 

 蓮星さんにも懇願されてしまった。

別に隠し通す気はなかったけど、ここまで言われちまうとちょっと後ろめたい気持ちが出てくる。

 

「公式に発表されるまでは、このチーム内での秘密にしていただいても?」

 

柄にもなく敬語が出てきたことで、聞く側にも真剣みが増す。

 視線で同意を受け取って、少しづつ話始める。

 

「…武学には、選抜された学生で構成された部隊があって、俺たちはそこに所属していました」

 

 俺とシュウ、波瀬と関口も所属していた、学徒連合。

 海外の最前線中の最前線へ投入される部隊であり、派遣されていない間は、一般生徒は参加できない過酷な訓練や、外国正規軍と合同で訓練をしたりと、学生の領分を超えた戦闘部隊として機能している集団に所属していたことや、その過程で、キュレーヴが指揮するイクシス拠点をいくつも破壊していることなど、話せる範囲の“合法な”任務内容を話した。

 すべて話し終わった後のメンバーの表情は、みんな苦い顔をしていた。

 

「お前の話が本当なら、やべぇやつらどころの話じゃねぇ。ほぼ国家正規軍と同等の能力があるってことじゃねぇか」

 

聞くんじゃなかったとでも言いたげな反応の芙蓉さん。アンタが話せって言ったんでしょうが。

 

「お前、よくそんな部隊にいて今まで無事でいられたな…」

 

信じられないものを見るかのような視線を向けられ、クソデカいため息が出る。

 

「もちろん毎回無傷で大勝利ってわけじゃありませんでしたよ」

 

「それだけ転戦していれば相当消耗率も激しかったのではありませんか?」

 

「計算する気にもならなかったですが、小隊の半数が死傷するなんてザラでしたね」

 

「…部隊壊滅がザラって……、正気の沙汰とは思えませんわ…」

 

「………狂ってる…」

 

声に怒りを滲ませる蓮星さんと椎名さん。俺もそう思う。

 

「こんな感じで俺もヤツも修羅場はいくつも潜り抜けてきてるから、常識なんてものが通用するとは思わないほうがいいかもなぁ」

 

 他にも何か言いたげな様子だったが、ここまでで話を切り上げる。

 あんまりしゃべりすぎて、余計な事まで言ったらマズイからな。

 この後の作戦会議は隊長を蓮星さんとして、俺と椎名さんを敢えて遊撃に回すか、守るか攻めるかとかを話し合って解散となった。

 俺は攻勢に出たほうが戦いのペースをつかみやすいという理由から、芙蓉さんの意見に同調したら、『さっすが!わかってんな!』と背中をバシバシたたかれた。結構痛かったけど、もしかしたら芙蓉さんなりの気遣いなのかもしれないと思って、少しオーバーにリアクションをしておいた。

コロコロ笑う蓮星さんとケタケタ笑う沢城さん、対照的にまじめな顔で考え込む伽鳥先輩の輪から少し外れたところで、椎名さんは先ほどの怒りはどこへやら、地面の雑草をぼーっと眺めていた。

 

 

 

   ‡   ‡   ‡

 

 

 

 宣戦布告のあと、みんなで輪になり銃をFX弾ようにパーツを組み替える。

 ちなみに今回の演習で俺が持ち込んでいるのは416とVP9だ。二つとも私物だが、武学の標準と言っていい装備である。

 416のパーツ交換を終え、拳銃をバラすところで未世たちに視線を向けると、愛さんと鞠亜もグロックを使ってるようで盛り上がっていた。

 凛と恵那はSIGのようだが、恵那のは時代遅れも甚だしい220だった。いい加減更新しろよ自衛隊。

 

「周紀先輩の拳銃は何ですか?あんまり見たことないような…」

 

「俺のはH&KのVP9だぞ」

 

「最新鋭のストライカー拳銃じゃないですか!」

 

 恵那が食いついてきた。

 

「前にも言ったけどうちの学校はH&Kと提携してるから、こういった装備も優先的に買わせてもらえるんだよ」

 

「え、それ私物なの?」

 

「今日持ってきてる装備は全部私物ですよ」

 

「416もですか…」

 

「おう」

 

 拳銃の時は無反応だった凜が恨めしそうにこちらを見ている。特殊戦科だから、特殊部隊御用達の銃には憧れがあるのかな?

 あまり装備に詳しくなさそうな鞠亜と未世は頭の上に?を浮かべているが、会話の内容から俺の装備がかなり高価なものであることは察しているようだった。

 

「任務で稼いで余裕ができたら装備をちゃんと整えな。形から入るのも結構だが、ある程度実戦を経験してから自分に合った装備を変えことを俺は推奨するかな」

 

 ああでもないこうでもないと装備論争が白熱しそうな気配を感じて、俺の考えを言うと、愛さんも『使い慣れた装備が一番』と付け足してくれた。

 会話をしながらも手は止めずにいた俺と愛さんは早々に組み立てを終えて、手を洗いに行き、戻ってくる頃には、未世たちも終わったようで作戦会議に移る。

 地下鉄構内の見取り図と周辺地図を広げて先ずは状況整理から入った。

 

「ここが三番線ホームね。この場所を任務終了の時点で占拠しているか、敵チームの全滅が私たちの勝利条件よ。制圧の定義は、相手チームより多い人数がホームに生存していること」

 

「見た感じ、侵入ポイントは階段が3か所とエレベーターが1か所か。意外と多いな」

 

「エレベーターはこの時間、電源が入っていないのでルートとしては使えないと思います」

 

「恵那、それは違うぞ。確かにエレベーター自体は動かないが、扉だけは、コツがいるが手動でも開けられるようになってる。災害だとかで停電したときに開けられないと救助できないからな」

 

「そうなんですか?」

 

「それは初耳だったし盲点だわ。使えるかもしれないわね」

 

思案顔の愛さんを見て俺の見立てを説明する。

 

「今回の演習の最終目的は狭いホームの占領だから、相手が無難な作戦をとるとしたら、ホームに至るまでのルートを塞ぐとかして、侵攻ルートを限定して待ち構えてるだろうな。俺ならそうする」

 

「ホームへのルートは三つで、駅への入り口は4か所もあって守りにくいですけど、実は改札は1か所しかありませんよね。あたしならここに陣取るかなって思います」

 

「いいところに目を付けたな。普通なら、そうするだろう」

 

「普通でない作戦をとってきたとしたら、どうなるんです?」

 

「望月と椎名、この二人を遊撃に回して攪乱。隊列が乱れたところで総攻撃を仕掛けて一気に殲滅だ」

 

嫌な想像でもしたのか、『う…』と一年生たちが不安な表情を見せる。

 そして、鞠亜は今思い出したようで、相手のスナイパーにして鞠亜の先輩にあたる沢城さんは恐ろしいほど勘がいいらしい。スナイパーの勘は馬鹿にはできないな。蓮星さんも随分頭の切れる人材のようだし、俺の実力を知る望月もいるから、一筋縄ではいかないだろう。

 

「あー、もー、どこから攻め入っても待ち伏せされて酷い目に遭う未来しか見えなくなってきましたー」

 

考えれば考えるほどドツボってきた未世たち。慣れなきゃそうなるよな。

 

「大丈夫、相手も人間よ。必ず付け入る隙はあるわ」

 

「その通りさ。完璧な作戦なんてありえないんだ。どこかに必ず穴はある」

 

「……想定イクシスなのでは?」

 

「変わりゃしないさ。実際、海外の戦地だと、“キュレーヴ”が指揮する群れを相手にすることなんてザラにあるからな」

 

「イヤすぎますね……、考えたくないです……」

 

「とにかく、警戒するのはいいけど、過度に恐れるのは逆効果よ。まだ時間はあるし、怖がらずじっくりと作戦を練りましょう」

 

 愛さんがまとめてくれたところで、今日のところは一旦お開きとなった。

 はっきり言ってこのチームでは実力不足は否めない。

それでも必死に足掻こうと、一泡吹かせてやろうと頭をひねる後輩たちを見て、先輩としてどうしても勝たせてやりたいと強く思し、勝負をする以上俺も負けたくはない。

 

(一番の懸念事項は、望月と椎名か…)

 

 一人用テントのシュラフの中で、物思いに耽る。

 あの二人の存在は厄介だ。早々に処理しないと、長引けば長引くほどこっちが不利になる。

 

(どうにか分散させて各個撃破に持っていけないだろうか)

 

 一人で作戦を考えている間に、自分でも気づかないうちに意識が睡魔にのまれ、眠りに落ちていた。




こんばんは。仕事の資格(グレード)UP試験に合格したのと、仕事の競技が終わったのでストレスから解放されてハピハピ状態の早坂です。
あまりのストレスからあれだけ拒否していた煙草に手を出してしまい、上司から不良になったと言われてしまいました。
2か月吸ってすべて片付いたら禁煙しようと思っていたのに、わずか4日で禁煙失敗…。どうやったら止められるの…?

さて、今話から戦闘回にしようと思っていたのですが、原作を読み返したらまだ小話があるのに気づき、ちょっとカットするのが難しそうだったので追加しました。
ついでに望月チームのメンバーにも過去話を通じて武学の本性がチラ見えする回となりました。まったく酷い学校だよ武学高校は。

次回からは戦闘回になります。どんな作戦で仕掛けるかお楽しみに!

ではまたーノシ
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