リトルアーモリー Lust Bullet   作:早坂 将

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気がついたら9000文字超えてました。


Mission:3

夏休みに入った次の日に俺は、同じように内回りを指定された3人と共に、旧市街地へはぐれ討伐任務に来ていた。

前回出現したK9はすべて倒し切ることが出来ず、数頭逃がしてしまったため、そいつらを片付けるのが今回の目的だ。

 

「よーし、到着だー」

 

今回も望月の運転で現地へ到着する。ちなみにジャン負けで決まった。

 

「んー!やっぱ廃墟の街と銃は似合うなぁ!」

 

背伸びして体をほぐしながら出てきたのは、関口一士(せきぐちひとし)。M4をこよなく愛する自他ともに認めるM4キチだ。

背が平均より少し低い事を本人は気にしているが、容姿は整っており、これまでに数人交際経験があるようだが、本性を知られ捨てられるという事を繰り返している。

 

「旧市街地なんて久しぶりに来るけど、前より景色変わった?」

 

あとから降りてきたもう1人が、波瀬翔(なみせしょう)。こいつは入学前に、アメリカのPMCで基礎訓練を積んでいるため、頼りになる奴だ。実家が金持ちという事もあり、自宅には様々な銃が保管されているとかいないとか。羨ましい話である。顔もいい為尚更嫉妬の嵐に晒されるが、人当たりもよく頭も切れる良き戦友である。

 

「俺らが来ない間にドンパチ賑やかにパーリーしただろうからな。そりゃ多少景色は変わるだろ」

 

例えばこの間の件とかな。

 

「まぁ、それもそうか。んじゃ、いこうぜ」

 

波瀬に続き、望月、俺、関口の順番で捜索を開始する。

今日の装備は波瀬、関口が416で、望月が417、俺はMG4という軽機関銃だ。関口の416にはM320というグレネードランチャーが取り付けられている。武学高校としてはごく標準な装備である。服装は、学ランは流石に暑すぎて着ていないが、全員袖を捲った白いシャツに夏用の薄手のズボンといったスタイルだ。

サブアームにはそれぞれUSP45、HK45、VP9、ガバメントを使用していて、全員支給品ではなく、個人購入した物である。

時に静かに、時に話しつつ捜索を続ける事1時間。遂に痕跡を見つけた。

 

「足跡だ」

 

波瀬が指差した所にある、埃をかぶったコンクリの上に、ハッキリとしたK9の足跡がある。

 

「まだ掠れてないから新しいな」

 

俺の見解に異議を唱える者はおらず、ここからは慎重に事を進める。

 

崩れたビルや民家の陰、路地裏や壁がなくなり上から見渡せるようになった2階以上のフロア。油断なく隅々まで捜索ルートを地図通りに進む。

 

「………っ!」

 

片側2車線の道路を挟んだ右側のケーキ屋だった建物の陰で、何かが動いたのを俺は見逃さなかった。

すかさずハンドサインで全員に知らせて、全方位を警戒する。基本群れで動くK9は1匹で動く事は滅多にないため、必ずこの周りにはぐれが潜んでいるはずだ。

ツンツンと背中を関口につつかれる。後ろを振り向くと、ハンドサインで『2匹いた』と伝えてくる。

『了解』を示し、前2人にも同じ事を伝えた。

俺達は、本格的に“縄張り”に足を踏み込んだようだ。

周りの物音と動きに全神経を尖らせる。

何匹逃したか定かでない以上、広い通りで迎撃するの分が悪いため、事前に決めていた地点まで後退する。

K9は1度定めた標的を狩るまで追い続ける習性があるため、ここはその習性を利用してこちらに有利な所まで引きつける作戦だ。もしその前に仕掛けてくるようなら、身近な建物に篭もり応戦する手筈でいる。

途中で仕掛けてくると思っていたが、結局迎撃地点までたどり着いた俺達は素早く布陣を済ませ、銃を構える。

すると、右のコンビニの陰から顔を出し、こちらを窺う犬が1匹。

 

「来るぞっ!」

 

3倍ー9倍のスコープを覗いてその姿を確認した望月は、今度は興奮を抑えた声で伝える。

全員の殺気がヤツらに伝わったのか、1頭が飛び出た瞬間、すかさず望月が胴体を撃ち抜く。

事切れたK9はその場に倒れ伏すが、その後から、別のところで出現し、合流したであろう群れが姿を現した。数は、50はいるだろうか。

 

「思ったより多いな」

 

と一言つぶやき、皆とは少し離れた崩れた民家の1階でMG4を構えていた俺は、適正位置まで引き付け引き金を引く。

2脚をコンクリ片で固定しているため、ブレが少なく、狙い通りに当たってくれる事に悦びを覚え、銃身の過熱を防ぐため、連射は10発以下に抑える。

俺の発砲を合図に、全員が攻撃を開始すると、ただ真っ直ぐ突っ込んでくることしか能が無いK9は、面白いくらいバタバタ倒れていく。特に関口のグレランは群れに対し絶大な効果を持っていた。

 

「この瞬間を待ってたんだぁ!」

 

マジキチスマイルを浮かべた関口が416の弾切れの合間に、グレネードを放つと、『ポンっ』という気の抜けた音とは裏腹に、この前同様、改良型下瀬火薬を使っているため、40mmという大きさに似合わない派手な爆発を起こす。

 

「うおっ!えっげつねぇ!」

 

関口の隣で416を短連射していた波瀬が、初めて見るその威力に驚きの声をあげた。

 

「俺らはこのグレネードを町中で使ったんやで」

 

狙撃を続ける望月が一言漏らすと、

 

「お前らマジパナイわ!」

 

褒めているのか、呆れているのか、波瀬は半笑いを浮かべながら、リロードを行った。

それぞれの狙いが正確なため、無駄に弾を消費すること無く、体感ではもっと長かったが、実際は1分も経たないうちに片付いてしまった。

残弾を整理してマガジンをリロードし、全ての装備に以上が無いかを確かめてから、残りが出てこない事を確認し、死骸が散らばる所へ全員で向かう。

 

「あれだけ撃ち込んで、生き残ってるヤツがいるもんかね?」

 

望月の疑問は最もだが、最後まで油断はしてはいけない。

 

「後で痛い目見たくなければ、確認は欠かさない事」

 

波瀬が臨時リーダーらしく望月を窘め、丁寧に確認を行ったが、やはり生き残りはおらず、すべて死んでいた。

波瀬がオペレーターに任務遂行と処理班の要請をした後、到着までの間に軽く携行食を口にしていたその時だった。

 

ヴゥーン、ヴゥーン

 

と、常にマナーモードになっている俺のスマホが震えだした。

振動の長さからメールではなく電話と気づき、番号を見るが、全く知らない携帯からの電話だった。

イタズラや間違いの可能性を考慮し、少しそのまま放置するが切れる気配がないため応答する。

 

「はい…、どちら様で?」

 

通話ボタンを押し、警戒しつつ、声のトーンを落として相手の声を待つ。

 

『あ、良かった。繋がりましたね』

 

以外や以外。女の子の声だ。それも柔らかく、かつ聞き取りやすい心地のいい声。きっと可愛い人だ。

だが騙されてはいけない。こういうのは宗教勧誘とか、悪質な詐欺電話と相場が決まっているのだ。

 

「……俺は神も仏も天使も信じてないし、敵に回さない方が身のためだぞ?」

 

さっきよりもドスを効かせた声で警告を放つ。大概はここで切れるが、今回は違った。

 

『えっ?……えっと…、谷岳周紀君の電話で間違い無いですか…?』

 

なぜ俺の名を?どこで漏れた?ていうかこの反応は予想外なんだけど…。

 

「……どちら様で?」

 

ちょっとやな予感を感じつつ、改めて聞く。

 

『私は、八野辺高校3年の西部愛です。今年の夏演習で同じチームになる事になっていますが……、もしかして通達されていませんか…?』

 

八野辺、西部愛、夏演習。あぁ…、これは…。

 

「すいませんでしたっ!!」

 

K9の死骸に囲まれて、少し裏返った声で謝罪した奴は恐らく俺が初めてじゃないかと思う。

驚きのあまり肩をビクつかせこちらを見る波瀬達の視線の先には、必死に先輩に対し謝りまくる俺の姿が映っていたであろう。おい望月、何わろてんねん。後で八つ当たりだぞ。

事情を説明すると、先輩も察してくれたようで、

 

『まぁ、仕方ないわね』

 

と、少し笑いながらさっきの無礼を赦してくれた。前言撤回、天使は電話越しにいた。

 

『じゃあ、私がみんなに連絡するから、みんなの都合が合う日に集まるということで』

 

今日の電話は、夏演習前に紹介がてら集まりましょうという誘いだった。もちろん断る理由はないので快諾した。

 

「すいません。気を使わせてしまって」

 

『いいのいいの。貴方も内回りの演習は初めてでしょうから、いまいち勝手が分からないだろうなぁって思って。私達のチームは1年生が多いから、一緒に頑張りましょうね』

 

あぁ。普段基本的に野郎としか話さないから、同年代の女の子と話すと、戦闘とは違う緊張が走る。

それでも、先輩との会話が苦にならないのは、電話越しでも分かるくらいの母性というか、相手に安心感を与えるその声音にあるのだろう。絶対可愛い人だ。

 

『もしかして、今何か作業中だった?』

 

このまま一旦切れるかと思った電話は、予想に反しまだ続いた。

 

「今旧市街地で任務中です。もう戦闘も報告も終わって、処理班が来るまで待機してます」

 

後ろを振り返り皆の様子を伺うと、一様に俺を見ている。俺が敬語で謝った相手が気になるようだ。後でいろいろ聞かれそうだ。

 

『あら、そうだったの。ごめんね?忙しい時に』

 

申し訳なさそうに謝られてしまった。

 

「いえいえ、お構いなく。何事もなくスムーズに終わってむしろ暇してたくらいですから。むしろ先輩と電話ができて、今日は運がいいと思ってます」

 

努めて明るい声でフォローを入れる。ついでにそれとなく好感度も上げておく。

 

『ふふっ、口がお上手です事。イクシスの規模はどれ位でしたか?』

 

電話越しで微笑んでいる姿を想像して少しニヤけてしまった。冷静に冷静に。

 

「今回はK9が50頭ほど。対策が完璧だったので、大したことなかったですね」

 

公園で猫が群れてたよ的な感覚で今日の戦果を報告したが、返事があるまでに少し時間があった。あれ?なんか変な事言ったっけ?

 

『……何人で行ったの?』

 

「自分含め4人です」

 

『たった4人で、50頭を無傷で?』

 

ん?何かおかしい事があるかな?

 

「えぇ、無傷で」

 

『…是非話を聞きたいわ。次会う時が楽しみね』

 

間が空いて、是非話を聞きたいと。俺、そんな先生キャラじゃないんだけどな。すっごい小さな声で、『予想以上かもしれない』って聞こえてきたけど、俺らそんなに大したことしてないぞ?

話していたら処理班が到着した。クソ、まだ話していたいのに…。

 

「自分もお会いするのが楽しみです。処理班が到着したのでそろそろ切りますね。今年はよろしくお願いします」

 

『えぇ、こちらこそよろしくお願いします。日程は決まり次第連絡するから、待っててね?』

 

最後の『待っててね?』の破壊力はヴォイテクのワンパン並の破壊力だった。ヤバイヤバイ。でも何発でもくらいたいレベル。

 

「了解です。では、失礼します」

 

先輩の『またね』を聞いてから、電話を切った。ヤバイ、今になって堪えてきたニヤケが出てきた。平常心を保つのだ俺よ。

 

「誰から電話だったよ?」

 

望月もニヤニヤしながら聞いてくる。

 

「夏演習でチーム組む先輩からだった。演習前に顔合わせしようってさ」

 

皆の所に戻りながら、別に隠すこともないから正直に伝える。

 

「へー、なんて名前の人?」

 

と、聞いてきたのは波瀬だった。

 

「八野辺高校の西部愛って人。声から察するにすげぇ可愛い人だろうな……って、なんだお前らその顔は」

 

なんか皆表情と空気が変わったんだけど。なんだこれ?

 

「おぃ……、シュウェ………」

 

ユラリとゾンビみたいに望月が近づいてくる。キモい。

 

「シュウキェ……」

 

「谷岳ェ……」

 

望月だけじゃなく、関口と波瀬まで。え、何これ?一体何が始まるんです?

 

「「「死ねぇい!!!」」」

 

「ぬわぁ!あぶねぇ!何しやがる!」

 

あいつら一斉にコンクリ片投げつけてきやがった!

 

「フザケンナヤメロバカ!!怪我したらどうする!」

 

「うるせぇ!無知は罪だ!大人しく食らっとけ!」

 

華麗な投擲モーションで、コンクリ片に恨みを込めて投げつけてくる望月。いや、マジであぶねぇって。

 

「ちょっとそこの男子ぃ!遊んでないで手伝いなさいよ!」

 

処理班の護衛の女子生徒に怒られるまで、俺は逃げ続けていた。コンクリ片は1発も食らわなかったが、望月達のせいで、4人仲良く拳骨を食らうハメになった。

後で調べてわかったことだが、八野辺高校の西部愛と言えば、指定防衛校の男子の間で1番人気がある女子生徒らしい。大いに期待しておこう。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

というのが数日前の話。先輩はすぐに全員と連絡を取り、素早く日程を調整してくれたお陰で、案外すんなりと顔合わせの日が決まった。今日はその顔合わせをする日だ。まだ少しタンコブが痛む。あのアマ、思いっきり殴りやがって…。まぁ悪いのは俺らなんだけど…。

 

(えーと、指定された集合場所はここだけどー)

 

電車に揺られること約40分。ポーランドのタクティカルウェアメーカーのワークパンツとポロシャツという服装のせいで、PMCにしか見えない格好になってしまった。服装については、外回り組は服より装備に金を使うため、これが精一杯なのだ。許して欲しい…。

 

(目立つミリタリーハードケースを持ってるって話だったけど、このご時世大体みんな持ってるよなぁ)

 

デコられたハードケースを想像して、そんな馬鹿なと考えながら改札を出た俺は、言葉を失った。

 

(ゴーストバスターズ!?)

 

霊的な札があちこちに貼られたハードケースとそれを囲む美少女達。おかしい。ゴーストバスターズの続編は日本が舞台なのか?あ、でも、札だからどちらかと言えば陰陽師か?

 

「あ!あの人じゃないですか?」

 

紫ショートボブがこちらに気付いたおかげで、視線が俺に集中する。こ、怖っ!

突然紫ショートボブが走り寄ってきたため、俺は思わず気圧されて1歩下がってしまったが、そんな事お構い無しに話しかけてくる。

 

「あの、もしかして谷岳周紀先輩ですか?」

 

あー、やっぱりこいつらなのか。

 

「あぁ、俺が武学高校の谷岳だよ」

 

「やっぱり!私は私立古流高校1年の朝戸未世です!よろしくお願いします!…あとは零葉高校の照安さんだけ何ですけど…」

 

最後の1人がいないと。何気なく後ろを見ると、オドオドとしながらこちら見ている娘が1人。もしかしなくてもあれだろ。

 

「なぁ、彼女じゃないか?」

 

親指で後ろを指してやると、俺の正面にいる朝戸さんが上半身だけ横に倒して後ろを見る。

 

「かもしれないですねぇ。聞いてきます!」

 

俺に近づいてきた時と同じ様に走って零葉の生徒に近づくが、思いっきり怖がらせてる。涙目になって引いてるよ。

話をつけた朝戸さんは零葉の生徒、照安さんの手を引いて、俺の横で、『みんなの所へ行きましょう!』と言い、俺もあとに続く。

 

「谷岳君と照安さんね。私が八野辺高校3年の西部愛です」

 

この声、忘れはしないぜ。御本人が目の前にいるとは、感激だ。

 

「私立武学高校2年の、谷岳周紀です。よろしくお願いします」

 

先輩が自己紹介をしたのを皮切りに、1年生達も自己紹介を始める。

 

「改めまして、私立古流高校1年の朝戸未世です!よろしくお願いします!」

 

「…同じく、白根凛です。よろしくお願いします」

 

「国立朝霞高校1年の豊崎恵那です。よろしくお願いします」

 

「と、都立零葉高校1年の、照安、鞠亜です…。よ、よろしく、お、お願いします……」

 

我らが天使西部先輩に、元気いっぱいな方が朝戸さんで、黒髪クールが白根さん。真面目キャラの豊崎さんと、小動物系の照安さん。OK。覚えた。

 

「簡単な自己紹介はここら辺にして、どこか涼しい所に行きましょう」

 

先輩の提案に反論するやつはいる訳もなく、満場一致で移動を開始する。

近くの喫茶店に入り、改めて詳しい自己紹介をした後、古流高校には豊崎さんの姉(幹部自衛官)が教官として在籍している事が分かったり、照安さんがハーフで、引っ込み思案なせいで、まだ狙撃のパートナーを見つけられないのをフォローしたりと、女の子は話題が繋がりますねー。自己紹介とフォロー以外口開いてないよ俺。

連絡先を交換してから、さっきから気になってるんだけど、なんか先輩が俺をじっと見つめてきてる。いや勘違いとかじゃなくて。それも少しヤな予感が…。

 

「あの…、先輩?何かお聞きしたいことでも?」

 

いい加減スルー出来なくなった俺は意を決し聞く。

 

「谷岳君の話が聞きたくて」

 

悪戯が成功した子供みたいな笑を浮かべて即答する先輩。俺にそんな笑顔を向けないで…。目を合わせられない…。それにしても俺の話ってもしかして…。

 

「な、なんの話でしょうか…」

 

「それはもちろん、この前の戦闘についてよ?」

 

やっぱり知ってたか。俺は思わずため息とともに顔を手で覆う。

 

「調べたんですか?」

 

「調べたりしなくても、今の貴方はそれくらい有名なのよ?望月君だっけ?彼と一緒にね」

 

知らないところで名前が一人歩きしてて、軽く恐怖を覚える。まぁ、“調べてない”と言っていない以上、多少は調べられてるんだろうな。

1年生達はよく知らないようで、一様に小首を傾げているが、最前線で戦っていた上級学年という事に思い至った白根さんが、その事を言うと、なにかに気付いた顔になり、話を聞くモードになってしまった。

 

「奴は高校で知り合った仲ですが、共に死線を何度もくぐり抜けた相棒ですからね。何かと行動を共にするんですよ」

 

「夏休み前に市街地の歩哨で、10頭以上のK9と、ヴォイテク1頭を2人で撃破した時の話が聞きたいわ」

 

1年生組が驚愕で息を呑むのが見なくても伝わってくる。

ルーキーの彼女らにとって、ごく少数のK9ですら強敵であろうに、ヴォイテクなんて出会ったら死を覚悟する相手だろう。

対する先輩は、目をキラキラさせて俺の言葉を待っている。まったくこの人は…。

 

「あの1件は少々黒歴史なんですが……。特に特別な事はしてませんよ?出現までに時間的余裕があったので、万全の体制で迎撃できた。それだけです。市街地ですから、イクシス側が進めるルートは限られてますし、アイツらの頭はタダの獣ですから。こっちに有利になるように、上手く誘導してやる事が出来れば何頭出てこようが、武器さえあれば撃破出来ます」

 

真剣に話を聞いている1年生達は、途中相槌をうったり、小声で相談をしながら聞いているが、先輩の目は依然変わらない。

 

「じゃあ、旧市街地の戦いはどうなの?」

 

これ以上黒歴史を掘り返すのはやめて下さい…。

 

「あ、あれは……」

 

「乗り物も使わずに単独でK9の群れから生き延びただけでなく、取り囲まれても数頭返り討ちにしたって聞いたわよ?それもナイフで」

 

「ええぇ!?」

 

ついに朝戸さんが驚きの声を上げた。白根さんも『嘘でしょ…?』と小声で呟く。他の2人も似たような反応だ。

 

「……どんな状況でも最後まで戦い抜くのが我々の務めです。諦める事は絶対に許されません。俺はそう教わりましたし、生き残る術も学んで来ました。それを戦場で実践したまでです」

 

「そう…。ごめんね?たくさん聞いてしまって」

 

満足したのか、話を終わらせようとする先輩だが、俺はまだ言うことがある。

 

「ただ、俺が今まで生き残れたのは、無条件で背中を任せられる相棒がいたからですし、救援で駆けつけてくれた他校の学生達のお陰です。戦場では1人では生き残れません。“仲間”という存在の大切さを、俺は去年、最前線の戦場で気付かされました」

 

視線を1年生達に向け、1人1人の目を見る。

朝戸さんの驚いた顔、白根さんと豊崎さんの真剣な顔、照安さんの戸惑う顔、演習とはいえ、チームとなった以上、俺はこいつらに戦闘を教えなければならない。

 

「お前達はまだ入ったばかりで、ようやく銃の扱いになれてきた頃だろう?もう始まってるだろうけど、街の歩哨で敵と交戦することになるかもしれない」

 

この時、朝戸さんと白根さんの表情に変化があったのを、俺は見逃さなかった。この2人は恐らく既に戦闘を経験しているのだろう。その上で、反省点があったと見える。

 

「失敗してもいい。負けても、死ななけりゃそれでいい。重要なことは、“何が悪かったのか”を考える事だ」

 

少し俯いていた朝戸さんと白根さんが顔を上げる。

2人を見ながら、言葉を続ける。

 

「お前達に求められているのは、とにかく学ぶ事だ。同じミスをしないように、失敗から学ぶ。考えても分からなければ、学校の先生でも、先輩にでも聞けばいい。もちろん、俺や西部先輩だっていい。誰かを守りたいとか、何か目標を達成するには、お前達はまず強くなる必要があるという事を忘れるなよ?……長話して悪かったな。以上だ」

 

話を終わらせて先輩を見ると、俺に優しい笑みを向けていた。え、何これ?

 

「先輩…?」

 

俺が問いかけると、

 

「思ってた通り、貴方がこのチームにいてくれて良かったわ」

 

「え?」

 

と笑顔のまま真っ直ぐに言われ、俺は恥ずかしさと照れが混じりどんな顔をすればいいか分からなかった。

 

「さてっ!難しい話はここで一旦お終い!本題に入りましょう」

 

先輩がパンっと軽く手を叩き、話題を変える。なんか、先輩にいいように動かされた感がする…。

本題とはどうやら、それぞれのポディションの確認と説明、夏演習の内容についてだった。

ちなみに俺は今回新たに作られた『コマンド』というポディションに指定されてる。

『コマンド』は軍事用語として訳せば、『遊撃兵』という意味であり、様々な事態に適応し、対応するオールグラウンダーな役目である。

更に隊長と副隊長を決めるにあたって問題となったのが、このポディションと学年である。

最上級生の先輩は『ガナー』であり、隊長に向いておらず、序列的に2番目の俺は、指示を出して動かすより、自ら動く事が求められる。だがそうなると、残りは経験が皆無と言っていい1年生達になってしまうため、隊長も副隊長も任せられない。

俺が隊長をすればいいと1年生達は言っていたが、外回りの指揮しか知らない俺が隊長をやると、少し過激な指揮になりかねないという事を、先輩は俺のこれまでの戦い方をある程度は知っていたるめ、指揮を任せるより動いてもらった方が上手くいくと理解していたお陰で、指揮官からは外された。

そこで俺が提案したのは、隊長を先輩にやってもらい、副隊長は1年生の誰かにやってもらうという事だ。

先輩には少し苦だが、このバランスの悪い編成を通達した教師陣が悪い。

副隊長である1年生を俺がフォローして経験を積ませるという趣旨を伝えると、他に良い案が思い浮かばなかったため、話し合いの結果、副隊長は朝戸さんに決まった。

 

「まぁ何事も経験だ。フォローはしっかりやってやるから、気楽に行けよ」

 

少し不満顔の朝戸さんであったが、思ったより切り替えが早く、もっと親交を深めたいようで、皆で遊びに行きたいと言い出した。断る理由はないが、美少女5人に男1人ってすげぇ気まずい。

 

「谷岳先輩も来ますよね?」

 

俺に直接聞いてきた朝戸さんは、少し緊張が見られたが、まぁ、必要な事だと割り切って肯定する。

 

「じゃあ、決まりね」

 

先輩の宣言に従い、また数日後集まることを約束しその場はお開きになった。

ルーキーばかり4人も押し付けられて最初は困惑したが、逆に考えれば、4人の今後は俺と先輩の手にかかっていると言っても過言ではなく、かなり重要な役回りを任されたことを自覚した。後輩を育てるのは初めてで、まして女の子なんてやりづらいことこの上ないが、もう演習は始まっていると考え、これも訓練だと思いながら、俺も帰路についた。




どうもー、早坂です。

プロット通りに書いてたら9000文字を超えてしまいました。特に後悔も反省もしていませんが、次からはもう少し短くしたいです。

さて、今更ですが、この作品は小説版を読んでいることを前提に書いていますので、初見だと訳が分からん所があると思います。何が言いたいかというと、超面白いですし、絵も可愛いので原作小説もぜひ読むことをオススメしますってことです。
絵といえば、ふゆの先生がイラストを手がけたラノベを電子書籍で買ったのですが、一気読みしてしまうくらいいいものでした。『僕の学校の暗殺部』、良いですよ。モロR-18な内容を含みますが、“制服×銃”というのが大好物な私にとってどストライクな作品でした。

次回は望月視点から始まる予定です。お楽しみに!

2022.5.22.原作の設定に合わせ一部変更
ではまたーノシ
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